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12.知ってる訪問者
しおりを挟む「ルミエル。今日も用事があるから留守番を頼めるか?」
「はーい。リトルくんとお散歩してます。」
「門の外に出ないように。知らない人が来たら近くの使用人を呼んで、木登りは俺の身長の高さまで…」
「わかってます!」
僕の旦那様はかなりの心配性である。もうすぐ休暇が終わって毎日ひとりで留守番することになるのに…
「……はぁ。行きたくない」
「僕もお仕事出来たらいいんですけど…」
「働きたいのか?」
「はい。僕もフィニスを養って毎日楽しく過ごしてほしいです」
何か、教会出身の既婚者に良い職はないだろうか。教会出身と言っても祈りすらまともにやらないし、掃除くらいしか…
このお屋敷を賄うには掃除だけじゃ食べさせていけない。世知辛い。
「俺の妻はなんて頼もしいんだ……」
…感動して天を仰いでるけど、時間は大丈夫なのかな。
リトルくん、旦那様を見送るのも妻の大切なお仕事だからちょっと座って待っててね。
「フィニス、挨拶のチューをしないといつまでも出られないです。」
「それはいけない。是非ともお願いする」
いつもフィニスから昼夜問わずキスしてくるけど、行ってらっしゃいのキスが欲しいと言われてから見送る時は僕からキスすることになった。
フィニスの顔を両手で挟んで引き寄せ、チュッチュッと唇を吸う。舌を入れたらフィニスがヒートアップして止まらなくなるからやらない。
「…行ってらっしゃい。愛してます。」
キスは、誓いだからね。旦那様を信じてるし、死ぬまで愛すのです。
「ッ…行きたくない!今すぐ可愛い妻を抱かせてくれ!」
「いつも抱っこしてるじゃないですか…」
最近のフィニスの口癖は「抱きたい」だ。僕を抱っこしてる最中にもよく呟いている。
何か幻覚でも見て認知が歪んでないか密かに心配してるけど、セバスさんや周りのメイドさん達の反応を見る限り大丈夫そう。
「旦那様、お時間ですのでそれくらいに」
「クッ……ルミエル、用事が終わったら猛ダッシュで帰る」
「安全第一で帰ってきて下さいね」
引きずられるように屋敷を出て行ったフィニスを見送り、僕はリトルくんを抱いて散歩をする事にした。
「…うん?なんだか門のあたりが騒がしいね、リトルくん。」
屋敷を守るようにグルッと高い塀が建てられているから、いくつかある門からしか屋敷には入って来れない。フィニスが雇ってる兵士さん達が交代で門番してるはずだけど…
──なんだか胸がざわざわする。こういう予感がする時、案外当たるんだ。
「リトルくん、ちょっと隠れて待っててね」
汚れたら可哀想だから庭木の上にリトルくんをそっと置いて、騒がしい方へと向かった。
「奥様!?ここは危険ですので屋敷に…」
「む。」
兵士さんが焦って僕に駆け寄ってきたけど、門の外で騒いでいる人達を見て色々と察した。
「あれ、僕に来た訪問者ですよね」
「……奥様、旦那様の許可がない者は通せない決まりとなっております」
なら、僕から行くしかないか。
兵士さん達は僕に触れないようにしてるの、知ってるもんね。門の外には出ちゃいけないけど内側から話し掛ける分には問題ない。ふふん。僕は悪知恵が働くんだ。
門の外で怒りの表情を浮かべてる神官が五人いる。見覚えのある人しか居ない。
「お久しぶりです、大聖堂からはるばる…」
「ルミエル!!貴様、恩を仇で返すとはどういう事だ!!」
「……仇?」
結婚してから教会とは何も関わってないけど、何かしたっけと首を傾げたらイライラしたような顔で僕に近寄ろうとした神官が兵士さんに捕まえられた。
「チッ…今すぐに大聖堂に帰還せよ。すぐに結婚は破棄される。余計な事をした罰から逃れられると思うな」
「え、僕、僕はなにもしてな…」
「口答えをするか孤児が」
結婚は破棄?大聖堂に帰還?僕、本当に何もしてないのに。
でも、こうなった時は僕の意見はなんの意味も成さないこと、知ってる。ずっとそうして生きてきたから。
「早く、こちらに来なさい。」
「……」
久しぶりだなぁ。頭から水を浴びたみたいにじわじわと温度がなくなっていく感じ。
あまり、痛いのはやだな。早く従って、何度も何度も謝るんだ。それが一番軽く済むから。
でも、足が動かない。なんでだろう。
「…僕、結婚やめたくないです」
口応えするのは、一番間違ってること。一番酷い目に遭うし、一番辛い結果を呼び込んだ自分を恨むことになる。
神様は正しく生きろと僕たち神官に教えを与え、試練を与える。間違いを犯せば罰を与え、正しく生きる者には救いを与える。
正しき者が祈りを捧げれば、時に神様はその祈りを受け取り、世界に神子を分け与える。
でもね。ずっと疑問を持ってた。
「……僕、本当に間違っていましたか?」
孤児であることが間違いと言われれば、どうしようもないけれど。
僕の人生は、数多くの罰を受けるほど間違っていたかな。
「…奥様、屋敷にお戻り下さい」
「待て!ルミエル、お前の行動は間違っている。お前の過ちが多くの者を苦しめ、奈落に沈めようとしている。お前が育った孤児院の同胞達も全てだ。」
一体、僕の結婚が何を引き起こしてると言うのだろう。
フィニスの方の事情で子供を産めない妻が必要で、政治とか何もかも疎い僕が選ばれた。僕はフィニスがパフォーマンスをする為の飾りでさえあればいい。
教会側の誤算があるとすれば、僕とフィニスが愛し合っちゃった事…?でも、それが何か問題になるのだろうか。
「なんで僕の結婚が破棄されて大聖堂に戻らなくちゃいけないんですか?」
純粋な疑問だ。結婚させたのに、破棄したい。なんでだろう。
兵士さんが一生懸命僕を屋敷に戻そうと説得してる。騒ぎに庭師やメイドさん達も集まってきてる。
神官達も、たくさんの人に聞かれるのは都合が悪いみたいで理由を言わずに口ごもってる。これじゃ何もわからないね。
「僕、門の外に出ないって旦那様と約束してるんです。だから戻れません。」
「この、孤児が───」
あと、神官達は怒って僕にばかり夢中になってて大丈夫かな。後ろに控えてる馬とか。
間違いを犯したら、罰を与えられるんだよ。この屋敷での正しい人は───
「留守番がちゃんと出来て偉いな。流石は俺の妻だ。」
「はいっ!おかえりなさい、フィニス!」
神官達の後ろで馬に跨がったフィニスに、僕は嬉しい気持ちを隠さないで大きな声で挨拶をした。
「さて、結婚が破棄される理由を、じっくりと、伺おうか。王家が預かっている王族の戸籍捏造の話ではあるまいな?」
そういえば王族だった。
僕、とんでもない人と結婚しちゃってたんだ…って少しだけ後退りしそうになって、フィニスがにっこりと僕を見ていた。
に、逃げないよ!
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