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13.早く可愛い妻を吸いたい(フィニス視点)
しおりを挟む可愛い俺の妻に留守番を頼んで、俺は真っ直ぐに王城に向かった。
ズンズンと大きな歩幅で城の中を歩く。
王族である俺を止める者は一人もいない。
国王である伯父上は博愛主義で平和主義だ。争い事を嫌い、豊かな国を育み慈しむ。優しい王様と評価される事もあれば、優しすぎる王様と非難される事もある。
王とは、国の顔だ。この国の在り方は王代に左右される。
優しすぎる豊かな国は周辺諸国からすると甘い蜜を拵えた美しい花に見えるらしく、自国がどれだけ平和を願おうと侵略を狙われる事もある。
──まぁ、甘い蜜を持っていても実態は蜂の巣なんだが。
必要とあらば非情になる事を厭わない。むしろ苛烈に追い詰める伯父上に、相手国は白旗を掲げ、戦争は一年足らずで終わりを迎えた。
その戦争で頑張りすぎて色々株が上がってしまったのが俺だ。いや、結果的に最高の妻を得られたから悪い事にはならなかったが。
「父上、俺は騎士を辞めます。」
そんな伯父上に忠誠を誓っているのか、父は常に伯父上と共に居る。そして伯父上はだいたい執務室に缶詰だ。
執務室の扉を開くなり、俺は堂々と宣言した。
「………反抗期か?」
「成人して何年経ってると思ってるんですか。騎士を辞めて聖職者になります。」
「はぁ?待て。待て待て待て。どうしてそうなった!」
焦る父にはフンと鼻息ひとつであしらった。俺はもう決めたんだ。転職の報告であってお願いに来た訳じゃない。
「…結婚が、そんなに苦痛だったか」
伯父上の執務室だから居て当たり前だが、様子を見ていた伯父上はそっと俺に問い掛けた。苦痛で言えば妻と離れている今が一番苦痛だ。
…いや、行ってらっしゃいのキスは最高に満たされたな。あれは毎秒されたい。行って即戻ってを繰り返したい。反復横跳びで享受し続けたい。
おっと。話を進めねば。
「そうではありません。妻が自分の年齢や生年月日を知らないので強制捜査に乗り出して孤児院と、ついでに大聖堂を調べました。」
「あぁ、それが理由だったのか…」
やはり強制捜査については把握していたようだ。
俺は捜査の結果を記した資料の束を伯父上の執務机に置く。父は真の脳筋だから書類が読めない。だいたいこの親父のせいで俺の印象まで脳筋なんだ。
「……孤児院の経営実態が何も書かれていないな。」
「資料が存在しなかったんです。その日暮らしと言っていい状態で帳簿も無く。直接見た感想としては孤児達の環境は劣悪なので全員保護して別の施設へと移動させました。」
俺の言葉に父も反応する。休暇を返上して愛する妻との時間を犠牲にした俺の努力だ。成果があって当然だが。
真剣に書類を読み込む伯父上に父も覗き込んで口を挟む。
「孤児院の管轄は…教会か。元は国の管轄だったが、いつから独立したんだったか?」
「神子の件で王家と決別した時だ。あれから独立に近い状態になった。今の状態を見ると、教会とは名ばかりだな。」
まぁ、現状については二人でじっくり考えて欲しい。俺は早く帰りたい。
「大聖堂をぶっ壊して、新しく建て直します。そこの管轄は俺に。現存する聖書は燃やし尽くして新たな宗教を掲げる予定です。信仰の対象は俺の妻で。」
「待て。ちょっと待て!流石に俺らの知らない所で話を進めすぎだフィニス!!」
「………心配していたが、仲良くしているんだな」
「そういう問題じゃねえよ!!」
さっさと話を終えて超特急で帰ろうと思っていたが、俺は父と伯父から足止めを食らって結果的に予定よりかなり帰りが遅くなってしまった。
「チッ…頭でっかちが。」
全速力で馬を走らせる。
宗教を丸ごと変える案は通らなかったが、新しい聖書を用意する事で多少の改変は許された。
ルミエル教に出来なかったのは残念だ。
「……なんだ?門の前に人だかりが」
馬のスピードを緩めてゆっくりと進めると、ルミエルが結婚当初に持ち込んだ修道服に似た服装…というか、強制捜査の時に見た人間が複数人騒いでいるのが見えた。
門番はきちんと仕事をして侵入を防いでいるが、どういう訳か罵声の届く場所に可愛い妻が立っているのが気になる。
(あぁ、ルミエルは俺に気付いているな)
感情を読みにくい表情をしているが、瞳の見えない目が穏やかな空気を纏った。
ひたすら罵声を浴びせる神官共にはその変化がわかるまい。
初対面である結婚式を行ったあの日、ルミエルは全てが敵だと言わんばかりの空気を纏っていた。
隠された目の奥には失望か、諦めか。何にも期待していない、光を持たない表情がただ冷たく人生を浪費したがっていた。
──それでいて随分と愛らしい一面を持っていたから惚れた訳だが。
始めは疑い、次第に受け入れ、どんどん穏やかな心を育んだルミエルは俺を見ると心から嬉しそうに笑うようになった。
「なんで僕の結婚が破棄されて大聖堂に戻らなくちゃいけないんですか?」
そしてルミエルの口から出た疑問は、俺を怒らせるのに充分すぎた。
コイツらは俺の愛しの伴侶を奪いに来たと?このまま馬で暴れてやろうか。
しかし俺の妻も簡単には従わない。
「僕、門の外に出ないって旦那様と約束してるんです。だから戻れません。」
「この、孤児が───」
これは後でご褒美をあげねば。何よりも俺との約束を優先したルミエルに。
もういい、と言いたいのか妻も真っ直ぐに俺を見ているし、さっさと終わらせよう。
「──留守番がちゃんと出来て偉いな。流石は俺の妻だ。」
「はいっ!おかえりなさい、フィニス!」
あーーーー吸いたい。満面の笑顔の妻を吸いたい。
離れるのは嫌だがおかえりも良い。俺が帰還するだけで心底幸せそうな顔をする妻。やはりルミエル教を作らせろと文句を言いに……ルミエルと離れたくないから鬼のように手紙を送りまくろう。
今は目の前のゴミを始末せねば。
「さて、結婚が破棄される理由を、じっくりと、伺おうか。王家が預かっている王族の戸籍捏造の話ではあるまいな?」
そもそも王子である俺の妻はこの場で二番目の権力者だが。神に造形された丸く小さく触れるだけで肩を揺らす至高の耳に罵声を浴びせやがって。不敬罪で牢屋にぶち込んでやろうか。
…あ。ルミエル、あの顔は王族だって忘れていたな。
まぁ俺の妻は権力を振りかざしたりしない謙虚で優しい妻…である事は間違いないか。やはりパーフェクト。
でも権力に怯えて逃げるのは許さないぞ~と気持ちを込めて笑顔を向けた。
「ッ…殿下、私共は何もしていないのに大聖堂からの退去命令とはどういう事ですか!」
「そうです!その様な暴挙、神はお許しになりません!」
「急に捜査だと言って教会を荒らした事に民は混乱しています!」
不満をぶつけて話を逸らそう、と。
これまで教会でぬくぬくと私腹を肥やした者共は状況の把握が難しいようだ。
「退去命令ではない。出頭命令だ。国から支給された運営費を好き放題していた自覚はあるだろう。教会は公共の施設だと、長らく忘れていたようだが」
資金だけは国から出ていた記録があるのに、国も教会もどうして互いに干渉しなかったか謎だが。
まぁ見逃していた事を詰めて伯父上を言いくるめられたから過去についてはこれ以上言うまい。
「教会については正式に俺の管轄になったところだからな、好都合だ。───そこの元神官共を連行しろ。」
あぁ、また王城に戻らねばならなくなった。
妻を吸うのはまた後か……
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