添い遂げない。でも死ぬまで共に。

江多之折(エタノール)

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本編

5.天国かと思った

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眠っていた。
柔らかなベッドに身を沈め、自然と目が開くその時まで。

身体は軽くなって、やけにスッキリしている。
  
「……死んだのか」

ぼんやりした頭が導き出した答えは、これだった。
あの薬を飲んだ後は、しばらく身体が重いはずだ。こんなに体調が良いのはいつぶりか。

毒に侵されようと、刃を向けられようと、生き抜いて、王になる。そのはずだったのに。

───弟達を、この国を守りたかったのに。



「誰がだよ」
「………ヴィルヘルム」

どういう状況だろうか。ヴィルヘルムが不機嫌そうに顔を歪めてこちらを見ている。隣に寝転んでいて…そうか、ここはヴィルヘルムの部屋かとようやく思い出した。 

「普段と違いすぎて勘違いをしていた。眠っていただけだった」
「そうだな。身体の調子は」
「……かつてないほど、良さそうだ」

部屋が明るい。どれほど眠っていたのだろうか。

「服を届けに来た侍従から聞いたが…ランス、いつからベッドを使ってなかったんだ」
「…覚えて、いない」

 誤魔化したのでなく、本当に覚えていない。
睡眠時は暗殺のリスクが高いから、横になって寝ること自体が久しぶりだ。
ここ数年は特に第二妃が勢力を伸ばそうと必死になり、レヴァン侯爵家が筆頭になって警備関係を整えるまで誰が敵かも分からない状態になっていた。

──それよりも、仕事をしなければ。
そう思って身体を起こそうとしたら、ヴィルヘルムに腕を掴まれて阻まれた。

「痣になってるじゃねーか」
「あぁ…あの薬は厄介だ。下手な毒よりタチが悪い」

ずっと不機嫌なヴィルヘルムが掴んだ腕には、手の形がくっきりと残る痣ができていた。薬の効果に耐える為に力を入れていたのだから仕方ない。

そういえば、私は服を身につけていないのだなと気が付いた。あれだけ汗をかいていたのに身体はサラサラしている。
 
「ヴィルが介抱してくれたのか」
「……おう」
「ありがとう。何か飲ませたのだろうか、いつもより体調が良い」

身体の内側に熱がこもったような不快感が完全に消えている。

「いつも、こんな目に遭ってんのか」
「食事を共にする事がないから、普段は自衛できている。それを理解して晩餐会を選んだのだろう」
「……俺が帰ってきたせいか」
「…」

なんて事を言うのだろう。私は心の底から喜んでいるのに。
私が表情に出せないせいで誤解させてしまったか、責任を感じさせてしまったか。
震えのなくなった手を伸ばし、黒髪に金髪の混じる唯一無二の色彩を持つ弟の頭を撫でた。私と違って硬めの髪質をしていて、撫でればキラキラと金髪部分が光るこの髪が愛らしい。

「ヴィルヘルム、よく無事に戻ってくれた。帰ってきて嬉しい。」
「…子供扱いしてんなよ」

別に子供扱いしているつもりはないのだが、そう言われると私の行動は間違えているのかと悩む。
ヴィルヘルムの頭を撫でるのは好きだが、確かに成人している男性の頭を撫でるのはよくないか。
名残惜しいが今後は出来ないなと反省して手を下ろすと、今度はヴィルヘルムの方から私の髪を確かめるように指を通してきた。

「髪、伸びたな」
「私は長い髪の方がいいと侍従達に言われて、好きにさせている」

髪の長さにこだわりはない。…そもそも、こだわりのある事なんてあっただろうか。

「……相変わらず、考え込んでんな」

ヴィルヘルムが呆れたようになにか呟いたが、自分のこだわりが何かあるか気になったので返事を返さずに思考に耽る。
髪、服装、食事、公務…自分を構成するものは全て周りが決めている。私は王太子だから尚更だ。
国が私を生かしている。だから私も国を生かす為に生きている。

「……でも大切なものだけは、自分で決めている」

私が立ち続ける理由。
幼いヴィルヘルムに、初めて自分より弱い存在に出会って、とにかく守りたかった。可愛い弟の悲しむ顔が見たくないと思った。

色んな大人が悪意を向けてくる世界で、何もままならない、可哀想な神子が喚ばれ、消費される世界で
大切な存在を守れる人間になりたかった。誰かを壊す為の人形にはなりたくなかった。


「ヴィルと共に生きることが、こだわりだ。」


勿論、腹違いでもアレクシスとリナリーも大事な弟妹きょうだいだ。
でもきっかけは、やはりヴィルヘルムだ。

「………頭の中で完結させて、脈略のないことを口にすんなよ」

急に自分の事を言われて照れたのか、顔を赤くしたヴィルヘルムがごろんと寝返りを打って背中を向けてしまった。そういえばヴィルヘルムも裸なのだなと気が付く。
戦場では常に鎧を装着していなければならなかったから、その反動だろう。

──本当に、帰ってきてくれて良かった。相変わらず愛らしい弟だ。

「久しぶりに長い睡眠をとって気が緩んでしまった。ヴィル、鍛錬には行かないのか」
「うるせーな、服を着ろよ!」

裸なのはお互い様なのに、悪態をつくヴィルヘルムはその後すぐに侍従を呼んで着替えようとした私に「俺がやる」と甲斐甲斐しく世話を焼いてきた。
頼もしくなったものだ。

次回の参考にしたいのに、薬の効果が早く切れた秘訣は教えてくれず、「二度とこんな目に合わせねーよ」と宣言されて
この日から常にヴィルヘルムが傍に立つようになり、「猛獣を手懐けろ」と父が苦言を呈しに来るようになったりと
私の身の回りが目まぐるしく変化した。


そうして少しずつ、私は健康になり、計画が秘密裏に進み始めた。
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