添い遂げない。でも死ぬまで共に。

江多之折(エタノール)

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本編

6.情緒も何もない場所で、誓う(ヴィルヘルム視点)

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ランスロットは相変わらず忙しい。
公務だけでなく剣や弓の鍛練、座学にダンス練習など全てに手を抜かずに生きている。

俺はそんなランスロットに認めさせる為、護衛と称して四六時中くっついて歩いた。

「私は子供じゃないが…」
「まともに寝てなかった奴の言う事は聞けねーな」

流石に寝室にまで付いてくるのは嫌がったが、侍従からベッドを一切使っていない生活を年単位で続けていると聞いては許せるはずもなく。

「……ヴィル、お前もちゃんと睡眠はとらなければ」

隣に寝ろとスペースを空けるランスロットは、やはり弟に甘い。
俺はそれを最大限利用して距離を縮めにかかった。


そうして数ヶ月、戦後処理の書類に苦戦したり逃げようとする俺を見てランスロットが自分の執務室に俺専用の机を用意したり
俺が付き纏う事に慣れてきて、悪態をつく事も増えてきた。

その悪態すら、気を許してくれたと感動する程に嬉しかった。








「私は、革命を起こす為の準備を進めている」


ランスロットと二人きりの寝室で、内緒の話をしたいと持ち掛けられた俺は
ランスロットの頭を自分の二の腕に乗せて、至近距離で話を聞いていた。
真面目な話をするには相応しくない状態だが、誰にも聞かれたくないんだろうと押し通した。

「親父を殺すのか」
「そうだ。そして、私は王になる」

間近にある碧い瞳は、揺らがない決意を訴えるような力があった。

「父は、第二妃派の貴族を集めて二度目の戦争を目論んでいる。隣国への侵略戦争だ」
「……その革命は、すぐに起こすのか」
「いや。まだ準備段階だ。まだ私側に立つ貴族の力が足りていない。あちらも思うように武器などの物資が集まらないから、しばらくかかるはずだ」
「…流通を操作したか」

今は互いを妨害し合う事で時間稼ぎをしているとランスロットは語った。


「…で、俺に全て話す気になった理由は教えるのか」

 
──話の内容がこんなに物騒でなければ良かったのに。
長い睫毛が宝石の瞳に蓋をする。これを話すことさえ悩んだはずだ。
互いに無言のまま、しばらく静寂のみが残った。
いつもの癖で色々考えているのだろう。兄は未来の王理想を体現する為に生きているから、自分を表面に出すのが下手だ。

やがてゆっくりと瞼が持ち上がり、透き通った碧い宝石のような瞳が真っ直ぐに俺の目を見つめた。

「巻き込まれて、ほしい」
「……違うだろ。ここで言い方間違えるなら、俺は止めるぞ」
「……共に、戦ってほしい」


失ったままの表情から、申し訳ないという気持ちが伝わってくる。
俺がその言葉をどれだけ待ち望んでいたか、ランスロットは知る事はないだろう。

どれだけ手を血で染めようと、どれだけ努力しようと、これまで得られなかったその言葉は、ランスロットが目指す王冠と同じくらい価値のあるものだと。


「ヴィル」


俺の唇がランスロットの額に当たっていることは分かっている。
でも、とにかく抱き締めたくなったから引き寄せた。
嬉しくて涙を堪える自分の顔を、見られたくなかった。
引き寄せた自分より随分と細い身体を壊さないように、でもガッシリと拘束するように抱き締めた。
兄弟を逸脱した距離間を、生まれつき教育と公務に明け暮れて、自分というものを全て削いで生きた兄は気付いていない。

「俺は、お前の剣だ」
「…それは、とても強いな」
「俺の人生は、とっくにお前のものだ」

声が少し震えてしまったから、悟られてしまったのだろう。
ランスロットの手が俺の背中をそっと撫でた。

「私の人生は、国のものだ。これは死ぬまで変わらない。…それでも、私に捧げるのか」
「当たり前だろ。俺だって王族だ。…でも、お前のものだ。一生、お前の剣だ。」
「…」

また何か考え込んでいるのか、ランスロットの頭が俺に擦り寄って撫でるだけでなく明確に抱き着いている。

「申し訳なく思ったら、ヴィルは怒るのだろう」
「怒る。二度と口を聞かなくなるかもしれねぇ」

──そんな事は出来そうにもないが。

しかし弟愛が強いランスロットには大打撃を与えたらしく、「困るな」と俺の胸の中でもごもごと呟いている。

「ヴィルが居ないと、二度と安心して眠れなくなる」
「………ほんっとにタチが悪い…」
 
純粋に暗殺者や不埒者が襲って来なくなった今の環境を言っているのだろうが、俺には下心もあるのを知らない兄は呑気すぎる。

(まぁ、寝る時くらいは人形じゃないランスロットになってほしいのも本心だからな)

話した事で心の重りが少し軽くなって、眠くなってきたらしい兄の背中を緩く叩いた。

「……困ったな」
「あ?二度と口聞かないってのは嘘だ。真に受けんなよ」
「いいや」

もう一度、俺の胸にぐりぐりと額を擦り付けて意識がギリギリ保てている兄はゆったりと口を開いた。

「思いの外、この体勢は落ち着く。…私の剣か…」

噛み締めるように俺を剣だと呟いて、密着したままランスロットは眠りについた。
俺もだが、ランスロットは物心ついた頃には既に一人で眠っていたから、人との触れ合いに慣れていない。
普段は何も言わないが、添い寝もかなり気に入っているから体裁として最初に拒否をするが、この通りだ。
常に多忙を極めるランスロットだ。寝れる限り寝た方がいいに決まってる。

「………クソが」

常に無表情で王太子としての型にはまった生き方しか出来ない兄が、どうしようもなく可愛く感じるのは何故なのか。
俺の胸元で寝息を立てる兄が恨めしい。成人した兄弟の距離じゃないと気付いてくれ。…いや、気付いたら離れてしまうか。

「ランスの、剣…」

聞こえていないはずなのに、抱き着いている腕がギュッと力を入れてきた。
喜んでくれてなによりだが…俺は反対に、眠れなくなってしまった。
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