添い遂げない。でも死ぬまで共に。

江多之折(エタノール)

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本編

7.知りたくなかった事

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「狩り、か。陛下は出ないのか」
「体調が優れないとのことで…ランスロット王太子殿下が参加するようにと」
「そうか」


申し訳なさそうに伝言を伝える侍従に了承を伝えて下がらせた。
国王の見え透いた嘘に、それが嘘だと言及出来る者は現在この国には居ない。
…憂鬱な季節になってしまった。

頭の中で予定を思い出し、調整していると目の前の机で書類と睨み合いをしているヴィルヘルムが私の顔をじっと見てきていることに気が付いた。

「なんか不機嫌そうだな。」
「…表情に出ているか」
「んなわけねーだろ。顔はいつものまんまだよ。…なんとなく嫌そうな気がした」

表面に出ていないと言うなら、どこで判断したのだろうか。
最近のヴィルヘルムは察しが良くなって、私の変化にいち早く気が付く。
それに指摘もあながち間違いではない。

「狩りは苦手だ」
「俺より弓は得意だろ?何が苦手になるんだよ」
「……夜、話す」

説明は出来ないが、今ここで話す事ではないなと判断して通常の公務に戻った。
すぐに返事をもらえなかったことで不満に思ったのだろう。ヴィルヘルムの顔がムッとしかめられたので
やはり弟は素直で愛らしいなと、王族として表情を表に出しすぎるとは指摘出来なかった。


そして夜。私の自室にあるベッドでヴィルヘルムは早く教えろと言わんばかりにドサッと寝そべった。

どうしてこうなったのか謎だが、最近はヴィルヘルムの硬い腕を枕にして向き合って寝るのが定番化している。
兄弟にしては近すぎる距離感だが、何を話そうと確実に誰にも聞かれないと言ってヴィルヘルムは譲らなかった。


「で、なんで狩りが嫌なんだ?暗殺か?」
「いや…」

夜に話すとは言ったものの、こんな事を弟に相談していいものか迷った。
しかしヴィルヘルムは頑固だ。聞くまで離さないだろう。

「………尻を、弄られるのが不快に思う」
「……」

枕にしている腕がピクリと跳ねた。私だってこんな話はしたくなかったが、私の意思で被害を受けている訳ではない。
理解出来ないという文字列が浮かんで見えるくらいわかりやすい顔をしたヴィルヘルムが私を凝視している。

「待て。狩りで何が起きてるんだよ」
「王族の狩りは貴族達からのお膳立てだ。持て囃された流れで尻を撫でられることもある」

弓の構え方が気になりますだの、狩りの服を纏う殿下も麗しいだの。
狩り中は狭い獣道をまとまって歩くことがあるから色々と理由をつけて触れられるが、特に尻を弄られるのが一番不快だった。

「第二妃の影響力の強さから、軽んじているのだろうが…」
「……」
「執拗に尻を揉まれ、『相手をしましょうか』とテントに引きずり込まれた時は流石に危機感を覚えてすぐに護衛を呼んで処分した……私が男だと理解していない者も居るようだ」

誰かに対する不満を口にしたのは初めてだが、一度話してしまうとスラスラと出てきてしまい
ヴィルヘルムに不快な思いをさせてないかと心配になったが、目の前の顔は感情を乗せていなかった。

「…すまない。はしたなかった」

勢いに任せて愚痴をこぼしてしまい、恥ずかしいばかりだ。
常に表情が表に出せない私が言うのは筋違いだが、弟の無表情がどうにも寂しく感じて頬を撫でた。

「ヴィル」

兄のこんな情けない話は聞きたくなかったのかもしれない。どうしたらヴィルヘルムがいつもの調子に戻るか思考していると、抱き寄せられて視界がヴィルヘルムの鎖骨のみになった。

「ランス、尻ばかり狙われる理由はわかるか」
「…わからない。」
「女と間違ってるから連れ込まれたんじゃねぇよそれ。男のランスロットを狙われてんだ」
「……?」
「……あのな、夫婦の営み…閨事はわかるよな」


ヴィルヘルムが丁寧に説明してくれた内容は、率直に言って衝撃だった。
数々の教育を受けてきたが、閨事については必要最低限の知識しか学んでこなかったのだと知った。

男なのに、男を狙う。子を孕むためでもない、快楽や愛情表現の一種としての行為。 
戦場ではほとんど男ばかりになるので、昂った時の処理を男同士でする事はよくあるらしく

私は少なからず、ショックを受けていた。


「…知りたく、なかった」
「それは…悪かった。だがな、現に狙われてるなら自衛の為にも知っていた方がいいだろ」
「そうじゃない」

自分が男であることを前提に性欲処理の為に狙われていたというのも衝撃的ではあるが、それよりも説明出来ない感情が沸き起こっていた。

「ランス、どうした」

何も言えなくなった私を、ヴィルヘルムはいつも気にかけてくれる。
私が兄なのに、支えてもらってばかりで情けない。毎日こうして私が眠れるようにと、四六時中護衛をしてもらうことも、有難くて、申し訳ない。 

「…戦いは、昂るのか」
「そりゃ……命のやり取りっつー極限の状態が続くから…」
「そうか」

これは怒りだろうか、慣れない感情が処理出来なくて落ち着かない。
命懸けで戦ってきた戦士達に性処理どうのと文句を言うべきではない。戦場はそれだけ過酷な環境だ。

「ヴィルが誰かと性処理をしたのは、知りたくないと思った」
「は?」

言ってみればスッキリした。そうか、可愛い弟だと思っていたヴィルヘルムの知らない一面を知ったせいか。
愚かな事だ。毎日共に過ごしているからか、共に戦うと、運命共同体のように思ったからか
こんなに醜い独占欲を抱いてしまっていたなどと。

「…寝る」
「ランス、おい、…コイツ……」

不満そうなヴィルヘルムの声は聞こえているが、消化できない感情は早めに遮断するしかない。
目を閉じて、大きな胸板に擦り寄った。
ヴィルヘルムも、いつかは誰かと結婚して子を授かると理解している。私もそうだから。これは王族としての責務だ。

でも今は、この安心感を手放せそうにない。
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