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▽9
後日、ふたりで僕の雷管石を神殿に持ち込んだ。
元々、フロードの石は預けられていたのだが、二つの石を視た鑑定士は、僕の石が持ち込まれていたらフロードの石を持ってきただろう、と言った。
神殿を仲介せずに相性のよい相手に出会ってしまうこともあるそうで、そのまま僕たちは互いに石を持ち帰った。
双方の両親の間でも話し合いが持たれて、正式に婚約が決まり、彼からは次の発情期には一緒に過ごしたい、と熱望されている。
暑さも和らいできた頃、定期的に訪れる体調の変化に気づいた。
フロードにどこで過ごそうか、とやんわり相談すると、彼が所有している別荘のうち、程よく市街地に近い立地の建物を提案された。
各地に別荘を持つ大貴族特有の規模感に驚いているうち、父からも滞在の許可が下りている。
彼がこうと決めたときの速度感に我に返った時には、既に別荘でのんびり過ごす日々が始まっていた。
周囲の散策や、持ち込まれた魔術書に目を通していると、一日一日と体調は変化していく。
その日の僕は、朝から妙に果物ばかりを食べたがり、食べた後は熱っぽい身体に動く気にもなれず、寝椅子に転がっていた。
「シュカ。今日は一段と匂いが違うね」
「そう……? かな」
ぱたぱたと服を持ち上げ、体温を下げようと試みる。
頭がぼうっとして、それなのにフロードの匂いだけがやけに鼻につく。僕は彼の顔を見上げ、ごくんと唾を飲んだ。
誰かを狙うような発情期を、僕は過ごしたことがない。
「眠いなら、寝台に運ぼうか?」
「…………眠い、じゃなくて」
ぼうっとするのに、狭い範囲の感覚だけが研ぎ澄まされていた。
説明するのを面倒がって、両手を持ち上げた。背と膝裏に手が回され、そのまま抱え上げられる。
彼は廊下を抜けて宛がわれた寝室へと向かい、僕を広い寝台に下ろす。匂いを閉ざすためか、直ぐに彼は部屋の扉を閉めた。
戻ってくると、ちゅ、と額にキスが落とされる。
「何か食べたいもの、ある?」
「ん……」
彼の首に腕を回し、その唇に吸い付いた。
舌先を絡め、口に含んだ唾液の味を咀嚼して飲み込む。ぺろ、と無意識に唇を舐めると、目の前のアルファは呆気に取られた顔をしていた。
へへ、と照れ笑いを浮かべる。
「発情期みたいなことしたい、かも」
腕を放し、背後に倒れ込むと、僕の視界に縋るように彼も移動する。
両腕が顔の横に置かれ、屈み込んだ顔が近づく。
齧り付くような口づけの間、ぶわりとアルファのにおいが立ち上った。
「……ん、ふ……っぁ、ン…………」
呼吸の間に、ひとつ、ふたつと声が零れる。
身体には他人の体重がのし掛かり、息を吸うたびにアルファの匂いが体内に入ってくる。こんなに含まされたら、熱が上がってしまう。
引き入れたのは僕、留めたのは彼。触れては離れる動きの度に、ぴちゃり、ぴちゃりと水音が立った。
唇が離れると、口寂しく感じてしまう。
「……すこし、待って、ね」
そう言うと、彼は身を起こす。
指先で魔術式を綴り、腹部に手を当てた。
体格差があることが多いアルファとオメガの間で、オメガの体内を守るための魔術。ひっそりと伝え聞いたそれを、自分の身体の中に展開する。
指先から魔力の光を消すまで、彼は物珍しそうに様子を眺めていた。
「シュカの魔術は温かいね」
「そう、かな」
寝台の上で身を起こし、おずおずと自らの服に手を掛ける。
がばっと脱いだ方がいいのか、と首を傾けていると、相手の掌が重なった。
「私が脱がせても嫌じゃない?」
「うん。なんか、どう脱ぐのがいいか分からなくて……困ってた、かも」
フロードの唇がこめかみに触れる。
「あんまり煽ると、悪いことをしちゃいそうだ」
「気を付けてね。僕が呪いを解くのが得意ってことは、呪いを掛ける方法にだって精通してるってことだよ?」
僕の言葉に、ぴたりと彼の手が止まる。あまりにも良い反応に、ふふ、と笑みが零れた。
「うそ、大丈夫だよ。僕、きっと浮気されても泣いて実家に帰るだけだから」
「君は……確かにそんな感じがする。けれど君を泣かせたいわけじゃないし。痛い目を見るのはもう十分だよ」
彼の手は僕の服へと掛かり、ぽつり、ぽつりと釦を外していく。
器用にそうしていく所作からは、慣れを感じさせる。ただ、それが彼にとって良い思い出だったとは言い切れず、言い及ぶのは避けた。
肌が露わになる度、追う視線の熱が上がっていく。部屋を閉め切っている所為か、お互いの匂いは強くなるばかりだ。
「シュカは、いつもこんなに急に匂いが強くなるの?」
脱がされた服が、寝台へと落ちる。素肌に空気が纏わり付くと、そわそわしてしまう。
腕を動かして上半身を隠そうとするのも、フロードの手が掴んで下ろされてしまった。かあ、と頬が熱くなって、視線は彷徨うばかりだ。
「いつもは、一人で過ごす、から。分からないよ……」
「そう。何となく、噛んだら番えそうなほどの匂いだなって。後でやり直す羽目になるかもしれないけど、試してもいい?」
首を噛む時には、番を定めるために相手の男根を躰に挿れる。
頷くということは、体を重ねることを了承する、ということだ。覚悟はあった筈なのに、怯えが湧き上がる。
ゆっくりと顔を縦に動かした。とても、言葉は思いつかなかった。
「ありがとう。これで、私は君以外を求めなくて済むようになるんだね」
ああ、と彼が僕との番関係を求めた理由を、もう一つ思い至った。
番になると、番以外の匂いには極端に鈍感になる。オメガの発情期に巻き込まれた彼が、そのことを望むのは当然だった。
彼の腕が僕の腰を抱き、膝を持ち上げるように誘導される。近づいた首筋を、傾いだ顔が捉えた。
「っ…………!」
唇が薄い皮膚に触れ、つい、と辿るように動く。唇で食んで、窄めて吸い上げ、ちりりとした痛みと共に跡を残す。
彼の歯並びの中で、ひときわ目立つ尖った犬歯が、皮膚に食い込んだ。その瞬間、何ともいえない、ぞわぞわとした感覚が駆け上がる。
首の横ですらこれなのだから、項に牙を立てられたらどうなってしまうのだろう。身体を震わせているのは期待だった。
「首、気持ちよさそうだね」
「え……? ァ、うぁ」
ぬるりとした舌が、顎の下を伝う。くすぐったさに身を捩ると、更に感触が別の場所を這った。
唇は鎖骨に触れ、ちゅ、とキスをする。首に触れていた掌が、する、と下に動いた。胸の周囲を揉むように指先を動かし、先端を摘まみ上げる。
「ひぁ……!? え」
上がってしまった声を恥じるように唇を噛むと、くすりと静かに笑い声が立つ。
指先でぴんと弾かれたそこは、つんと立ち上がって存在を主張する。捏ね回されるのに都合のよい形状になった突起を、指の腹が撫で回した。
じわじわと、煽られるような快感が点される。
「ね。あの、くすぐったい、よ……?」
フロードはにっこりと笑い、顔を傾け、もう片方の突起に唇を寄せる。
制止する間もなく、先端は口の中に消えた。舌先が敏感な場所をなぞり、窄まった口が強く吸い上げる。
「あっ。あ…………、や」
柔らかい口内は色の変わったそこを舐めしゃぶり、指先では与えられない感覚に伝わる快感も強くなる。
制止のために回していた腕は、力なく相手の肩に絡むだけだ。
ひ、ひ、と細かく息を吐いて、摘まみ上げる指に唇を噛む。
「フロード……。むね、やだ……」
半泣きで駄々を捏ねると、ようやく唇は離れた。唾液が纏わり付いた唇が、てらてらと光っている。
胸を解放した指先は、持ち上げた胸の中心に添えられる。つう、と伝った指は、腹まで辿り着いた。
「シュカの身体、柔らかいな……」
「貶してる!?」
「褒めてる」
それからも彼は柔らかい感触を楽しむと、腰骨を撫で回した。
性的な場所ではない筈なのに、やわい快感のようなものが走って、咄嗟に口を閉じる。
「下、脱がせるよ?」
こくんと頷き、太ももを持ち上げる。留め具を外した指は、下着ごと服を降ろした。
ふるりと震えた半身が、彼の視線の先に露わになる。
「とても、繊細な造りだね」
「どこのことを言って……! ひぁ!」
太ももを下ろした途端、指先が茂りを掻き分けた。
中で大人しくしていた中心を引き摺り出すと、すりすりと撫でる。その時、何か思い出したように寝台脇の小机へ手を伸ばす。
だが、流石に届かないようで、僕が引き出しを開け、指示された瓶を彼に渡した。
「なに、これ」
「滑りを良くする液体」
彼は中身を手に広げ、体温に馴染ませる。掌全体に広がると、また茂みへと手を突っ込んだ。
今度は、ぬるっとした感触が分身を掴む。中身を絞り落とすように上から下へ、円を描いた指が移動した。
「ひン……! ぁ、あ。……ん、ふぁ。あ」
指先はとろみのある液体を塗り広げるように動き、それから指先を上下して扱く。
焦らすような動きに抗議すると、今度は気持ちいい場所だけを狙われた。ぐちゅぐちゅと草叢を掻き分けながら動く指に、ただ翻弄される。
相手の肩に縋り付き、嬌声を上げた。周囲のにおいは酷いもので、僕だけでなく相手の誘うにおいが混ざって逃げ場を無くしている。
は、は、と息を吐いて、指先の中で形を変える半身を視界の端に見ていた。
「少し、気持ちよくしすぎたかな?」
ぐったりと寄りかかる僕を撫で、彼はそこから手を放した。
液体を失った掌にぬめりを足し、その手が僕の背後に回される。尻たぶを掴んで持ち上げられ、べっとりと濡れた感触が広がった。
「な、ァ…………──っ!」
指は狭間を掻き分け、窪みへと辿り着く。緊張でくっと閉じた輪を、ぬめった指がつんとつついた。
くっと力を込められると、直ぐに侵入を許してしまう。くぷぷ、と指は輪を潜り、体の内側へと入り込んだ。
「…………拡げ、の。……ヤ。────!」
僕の言葉を無視して、指はぐぶぐぶと中へ沈む。内壁を擦り上げ、知らない感触を与えながら、ぴたぴたと触れて探られる。
びく、びく、とただ指が動くたび、小さく震えた。
「さて、何処かなぁ……?」
ゆったりとした声だが、獲物を追い詰めるような昏さがある。
引くことのない指に追い詰められながら、身の内を相手に明け渡す。恐ろしいはずなのに、なぜか僕の半身は形を変え、涎を垂らしていた。
指の大部分が埋め込まれたと思われた時、他の場所とは明らかに違う感覚を与える場所に触れられる。
びく、と身を震わせると、にい、と彼の唇が笑んだ。
「ヒっ────! うぁ、あ……」
はくはくと荒い呼吸を繰り返し、目が痛くなるほど見開く。
知らない、身のうちから突き上げられるような快楽は、自ら慰めるそれとは種類の違うものだ。
この場所を相手のもので突き上げられたら、発情期の間、僕は色狂いになってしまうかもしれない。
怖いはずなのに、ぞくぞくと震える躰は心を完全に裏切ってしまっている。二度、三度と撫で上げられるたび、僕は獣のような濁った声を上げた。
突き入るために拡げられているはずなのに、逃れようとする頭が働かない。その刺激を何度も欲しい、と指先が中を撫で上げるたびに歓喜した。
何度、それが繰り返されただろうか。永遠にも思える拡張が終わると、つぽりと指が引き抜かれる。
肉輪は嬉しげに指先にしゃぶりつき、縁をてらてらと光らせていた。
「じゃあシュカ。これから、挿れるね」
彼は上着を脱ぎ捨てると、下の服も躊躇いなく脱ぎ落とした。
服の下から現れた肉の塊は禍々しく膨らみ、彼の掌で瓶の中身を垂らされると、表面をべっとりと濡らして滴を落とした。
ぼた、ぼた、と寝台を濡らしながら、長大なそれが躙り寄ってくる。
「ほら、後ろ向きになって」
まだ見えているなら覚悟も決まるというのに、どうされても許す、というように項ごと晒せと彼は言う。
ひく、と妙な息の呑み方をして、僕はおずおずと腰を持ち上げた。寝台の上で体勢を変え、尻が見えるように四つん這いになる。
獣になったみたいなその体勢を見られている羞恥に茹で上がり、ぶるぶると腕が震える。そして、背後が見えずに、いつ突き入れられてもおかしくない、というその一瞬は本当に恐怖だった。
大きな身体が覆い被さってくる。シーツの上に影ができると、僕は身を竦ませた。
長い指が腰に掛かった。ぬめる丸いものが尻の肉を持ち上げ、掻き分ける。
谷間を辿られ、いっそう膨らんだ瘤が後腔へと当たる。閉じていた筈の肉輪は、ちゅうちゅうとその丸みに吸い付く。
何度か表面を滑り、お預けの感覚を味わった。
「……こんなに吸い付いて、待ち遠しかった?」
「ひ、あ────! やぁッ」
くぷん、と突っかかっていたはずの亀頭は、あっさりと輪をくぐり抜けてしまった。
反射的にぎゅうぎゅうに締め付け、異物感に圧される。必死で息を整えていると、その間にもずるりと奥に潜り込む。
シーツを掻き、反射的に逃れようとした僕の脚を、相手の脚が寝台に押さえつける。両方の腰が掴まれ、ぐぐ、と更に押し込まれた。
耳の近くで長く息が吐かれた、音がする。
「は、あ。…………い、ひぃ。あ、ぁ。うあ」
眼前にあった、あの肉棒が躰の中を擦っていく。
二度、三度、細切れにしながら、途方もなく思えるほど長く挿入は続いた。
そして、膨らみがその場所をトン、と押し上げる。
「────や。いや」
拒絶ではなく、懇願でしかなかった。その場所に触れられたら、押し上げられたら、圧倒的に価値観が書き換わってしまう。
彼はゆるりと腰を揺らし、僕が嫌がっているそこを先端でいやらしく撫で回した。
「そうだよね。ここ、いやだもんね」
「ん……。うん……!」
会話の間としては異様なほど長い沈黙があった。
耳に届いたのはただ、嗤う声だ。
「────ッ! い、ぁ? ひ……」
どすん、と容赦のない一突きだった。
指しか知らない柔らかい場所を、巨きく、重たい塊が押し上げる。ぶるぶると脚を震わせ、はしたなく体液を零した。
「あ、ひ……。うァ、あ…………」
「……ッ。痛く、……なかった?」
痛みなどない。ただ、途方もない快楽を与える場所を、ぐりぐりと苛められ続けているだけだ。
支えていたはずの上半身が崩れ、シーツの上に肩を押しつける。下半身は更に持ち上がり、秘めていた部分が相手に露わになる。
フロードの指が結合部をなぞり、戯れのように腰が揺らされた。
「ふ、ふ。…………ぁ、ふ。くァ、ア」
僕は自分が魔力の多い体質であったことを、これほど疎んだことはない。
彼の膨らんだ瘤から溢れる薄い液体は、唾液よりも多く魔力を含んでいる。他人の波が自身の波を掻き乱し、波形を塗り替えていく。
ただ、それこそが快楽そのものなのだ。肉体だけですら存分に快くされているのに、魔力さえも揺さぶられる。
彼と相性のよい魔力は、今この場にあっては猛毒だった。
「シュカ。ここもいいけど、もっと奥もね。いいよ」
「…………ぁ。お、く?」
彼は放ってあった瓶を持ち上げると、蓋を外して結合部に中身を垂らした。
キュ、と短く蓋の閉まる音がする。
やがて、彼の砲身はさらに奥へと進み始める。そこから先は、指での感触を知らない場所だ。
耕されることを知らない土地を、ずるずると一気に雄の太さまで拡げていく。おずおずと、腹に手を当てる。
魔術が守っているにも関わらず、押し上げられている感触が分かりそうなほどの質量がそこにあった。
「あ、…………ン、う」
内壁を探られつつ、みちみちと肉を埋められる。
感触を探っていたらしい先端に、何か妙な場所を小突かれる。トン、トン、と何度も押し上げると、数度目の逢瀬で、ぐぷ、と潜り込んだ。
「ね。いいでしょ、ここ」
「う、そ。そこ、な。……ヒィ────!」
先ほど苛め抜かれた場所よりもっと深くにあるその柔らかい場所は、男の欲望をやんわりと受け止める。
亀頭は離れることなく、淫肉に埋もれた。触れている部分から、重たい刺激が上ってくる。
ずりずりと寝台を這っても、ぐっぽりと填まった瘤は抜けない。揺れるたびに刺激が繰り返され、次第に抵抗する気持ちは削がれていった。
尻は持ち上がったまま、上から押しつけた肉棒を受け止めて揺らされる。
「あ、ぁ。いや、…………ほんと、駄目、な。ァ、あ、あ」
「駄目、て……言いつつ。此処、すご……! ちゅう、って吸ってる」
揺らされるだけだった筈の動きが、次第に大きくなっていく。
小刻みだったそれが、次第に大振りの抽送へと変化した。ぐぽん、ぐぽん、と泥濘へと何度も丁寧に填め込む。
「あ゛あ、ぁ───! ヤ、も、できな…………ひ!」
「奥、……魔術を仕込んだ、としても、……っ、ここまで届いたら。もう、当たっちゃうね」
耳に押し込まれる低い声に震え上がって、体内にいる雄を食い締める。
もう奥はだらだらと零れる体液に濡れていて、逃げようもなく染められていた。
腰から手が離れ、身体に別の体重がのし掛かる。
首に手が回され、噛みやすいように僅かに持ち上げられた。結合部はびっちりと埋まりきり、逃げ場のないことを教え込まされる。
「────これでやっと、番だ」
宣言とともに、髪を掻き分けた項に牙が押し込まれた。
一度ずるずると引いた腰は、ばつん、と叩き付けられる。のし掛かる体重が、僕の躰ごと寝台に縫い付ける。
子種を溜めこんだ瘤が、膨れる様を幻視する。
「あ。……ひ、い゛────ぁ、ぁあああああぁぁぁあッ!」
びゅう、と躰の奥に、白濁の奔流が叩き付けられる。
目一杯おしこんで、狙いを定めた遂情に、逃げ場はなかった。思う存分、精を呑み込ませられる。
更に中へ押し込むように、軽く往復して、また男根はそこに填まった。
「は、あ…………」
必死で息をして、牙が離れるのを待つ。
焦れるほどの時間をもって、ようやく首から埋まっていた牙が抜かれた。
周囲の匂いは全く変質しており、フロードの匂いだけがよく届く。繋がった場所からびくんびくんと揺れる躰は、彼の快楽を受けるように作り替えられていた。
恋のように、番もまた、一生続く呪いなのかもしれない。
後ろから肉棒が抜かれると、体液を零しながら寝台に倒れ込む。
「…………シュカ。平気?」
「たぶ……。へい、き」
股の間はびっしょりと濡れて、もう感覚がなかった。
倒れ込んだ僕は裏返され、彼と視線を合わせる。こつん、とぶつかった額の先に、見慣れた瞳があった。
太股に、濡れた塊が押しつけられる。何も考えずに視線を向けると、また力を取り戻した彼の半身がそこにある。
「………………」
僕はぱたんと手を寝台に倒し、何度も左右に首を振った。
けれど、発情期に引き摺り込まれたアルファには知ったことではない。僕の足を持ち上げ、平然と開く。
また突き入ろうとする動作に、脚を揺らした。
「ね、僕。少し、休む…………」
「うん。シュカは休んでいて。私はちょっと収まらなそうだから」
ずりずりと雄同士を擦り付けるその動作の、どこに休みがあるのだろう。
いやだ、むり、と泣き言を吐きつつ、僕は寝台に留められ続けるのだった。
発情期が終わった後、婚約してからは婚約者としての仕事も増えてしまったが、フロードの補助もあってなんとかこなしている。
結婚式の日取りも決まり、その日は招待状の作業をしていた。お互いに概ね出席者も決まり、招待状に丁寧に名前を記していく。
途中まで二人とも無言で作業をしていたが、ふと、フロードが卓の数を数える。
「まるまる一卓余ってるけど、ここ、誰か呼ぼうか?」
「一卓、だと、一人とかじゃ困っちゃうよね」
あの人は、この人は、と名前を挙げ、その卓だけがあまりにも決まらない。
いっそ、左右非対称だが減らしてもらうか、という案が出始めた頃、フロードが、ぽん、と掌に拳を置く。
「港町でお世話になった本屋の店主は?」
「確かに恩人だよね。それなら、管理人さんと。あの港町で知り合った……」
二人して同じ人物たちの姿が浮かんだが、あまりにも荒唐無稽でお互いに黙り込む。
だが、取り敢えず挙げてみようか、という空気になった。せーの、で声を揃える。
「西の魔女」
「東の魔術師」
「「…………だよね」」
声に出してはみたものの、あまりにも、あんまりな気もする。だが、本屋の店主が世話になったというのなら、その二人は更に世話になったとも言える人たちだ。
僕たちは絶妙な表情を、お互いに向け合った。
「でも、ほら。東の魔術師も僕があんまり妖精と近づくと良くないから、って。縁があれば、みたいな言い方だったし、断られるよ。きっと」
「まあ、確かに」
フロードはそう言いつつも、招待状の宛名に面白がって二人の名を記す。
『東の魔法使い殿』
『西の魔法使い殿』
出来上がった二通を見て、これ記念にしよう、と愉快そうに笑った。
じゃあ僕も、と新しい招待状に筆を走らせた。
『金髪の付き人殿』
『水妖殿』
フロードは僕の書いた招待状に眉をひそめる。
「水妖って名前なのかな……?」
「ちがうけど。多分、僕たちじゃ発音できないし。これも記念に残しちゃお」
僕が四通の招待状を纏めて束ねると、手のひらにぼっと炎が点った。
魔力で点されたそれは熱くなく、四通の封筒を呑み込んで掻き消える。二人で呆然としていると、目の前の空間が割れた。
中から姿を現したのは、豪勢な美女……西の魔女だ。
「こんにちはァ。ご招待ありがと。『東の』は行くか分かんないけど、あたしはお邪魔するわね」
「…………えぇ……」
僕が引き気味な声を上げると、カツカツと床を叩き、西の魔女は僕に歩み寄る。
両の手が僕の襟首を掴み、持ち上げた。鼻先が触れそうなほど近くに、美しく、強烈な印象を残す顔がある。
「もう、あたしたち。呪って、解き合った仲じゃない? これも縁よ。────祝いの宴に呼んでくれないなんて無礼を働いたら、かーるく死の呪い授けちゃう。あたし、どこぞの魔女のように百年眠るなんて逃げは与えないわよ」
おほほ、と西の魔女は高笑いをし、僕のおでこをぴんと弾いた。
彼女の長い爪の先から、強大な魔力が流れ込んでくる。
「あたしが参加するんだから、良い結婚式になるわ。きっとね」
そう言い残すと、彼女はまた空間を割って去っていった。
フロードはしばらくぽかんとして、ようやく我に返ると、残った招待状に本屋の店主と、別荘の管理人の名を書き始める。
「水妖さん、…………って、なに食べるかな」
「港町のきれいな海水を集めて、置いておこうか」
歴史に名を残す魔術師が二人、人ではない存在がひとり。珍妙な客を招待することになった式は前途多難だが、額に残るのは温かい感触だけだ。
僕はフロードに寄りかかって、手のひらを重ねる。
「僕たちの式、良い結婚式になるんだってさ」
「これほど頼りがいのある呪いもない、……かも?」
二人で肩を寄せ、湧き上がる感情のまま頬を綻ばせる。番の魔力は、今日もここちよく皮膚を伝った。
僕の額に与えられた呪いは、もう解けなくても構わない。
後日、ふたりで僕の雷管石を神殿に持ち込んだ。
元々、フロードの石は預けられていたのだが、二つの石を視た鑑定士は、僕の石が持ち込まれていたらフロードの石を持ってきただろう、と言った。
神殿を仲介せずに相性のよい相手に出会ってしまうこともあるそうで、そのまま僕たちは互いに石を持ち帰った。
双方の両親の間でも話し合いが持たれて、正式に婚約が決まり、彼からは次の発情期には一緒に過ごしたい、と熱望されている。
暑さも和らいできた頃、定期的に訪れる体調の変化に気づいた。
フロードにどこで過ごそうか、とやんわり相談すると、彼が所有している別荘のうち、程よく市街地に近い立地の建物を提案された。
各地に別荘を持つ大貴族特有の規模感に驚いているうち、父からも滞在の許可が下りている。
彼がこうと決めたときの速度感に我に返った時には、既に別荘でのんびり過ごす日々が始まっていた。
周囲の散策や、持ち込まれた魔術書に目を通していると、一日一日と体調は変化していく。
その日の僕は、朝から妙に果物ばかりを食べたがり、食べた後は熱っぽい身体に動く気にもなれず、寝椅子に転がっていた。
「シュカ。今日は一段と匂いが違うね」
「そう……? かな」
ぱたぱたと服を持ち上げ、体温を下げようと試みる。
頭がぼうっとして、それなのにフロードの匂いだけがやけに鼻につく。僕は彼の顔を見上げ、ごくんと唾を飲んだ。
誰かを狙うような発情期を、僕は過ごしたことがない。
「眠いなら、寝台に運ぼうか?」
「…………眠い、じゃなくて」
ぼうっとするのに、狭い範囲の感覚だけが研ぎ澄まされていた。
説明するのを面倒がって、両手を持ち上げた。背と膝裏に手が回され、そのまま抱え上げられる。
彼は廊下を抜けて宛がわれた寝室へと向かい、僕を広い寝台に下ろす。匂いを閉ざすためか、直ぐに彼は部屋の扉を閉めた。
戻ってくると、ちゅ、と額にキスが落とされる。
「何か食べたいもの、ある?」
「ん……」
彼の首に腕を回し、その唇に吸い付いた。
舌先を絡め、口に含んだ唾液の味を咀嚼して飲み込む。ぺろ、と無意識に唇を舐めると、目の前のアルファは呆気に取られた顔をしていた。
へへ、と照れ笑いを浮かべる。
「発情期みたいなことしたい、かも」
腕を放し、背後に倒れ込むと、僕の視界に縋るように彼も移動する。
両腕が顔の横に置かれ、屈み込んだ顔が近づく。
齧り付くような口づけの間、ぶわりとアルファのにおいが立ち上った。
「……ん、ふ……っぁ、ン…………」
呼吸の間に、ひとつ、ふたつと声が零れる。
身体には他人の体重がのし掛かり、息を吸うたびにアルファの匂いが体内に入ってくる。こんなに含まされたら、熱が上がってしまう。
引き入れたのは僕、留めたのは彼。触れては離れる動きの度に、ぴちゃり、ぴちゃりと水音が立った。
唇が離れると、口寂しく感じてしまう。
「……すこし、待って、ね」
そう言うと、彼は身を起こす。
指先で魔術式を綴り、腹部に手を当てた。
体格差があることが多いアルファとオメガの間で、オメガの体内を守るための魔術。ひっそりと伝え聞いたそれを、自分の身体の中に展開する。
指先から魔力の光を消すまで、彼は物珍しそうに様子を眺めていた。
「シュカの魔術は温かいね」
「そう、かな」
寝台の上で身を起こし、おずおずと自らの服に手を掛ける。
がばっと脱いだ方がいいのか、と首を傾けていると、相手の掌が重なった。
「私が脱がせても嫌じゃない?」
「うん。なんか、どう脱ぐのがいいか分からなくて……困ってた、かも」
フロードの唇がこめかみに触れる。
「あんまり煽ると、悪いことをしちゃいそうだ」
「気を付けてね。僕が呪いを解くのが得意ってことは、呪いを掛ける方法にだって精通してるってことだよ?」
僕の言葉に、ぴたりと彼の手が止まる。あまりにも良い反応に、ふふ、と笑みが零れた。
「うそ、大丈夫だよ。僕、きっと浮気されても泣いて実家に帰るだけだから」
「君は……確かにそんな感じがする。けれど君を泣かせたいわけじゃないし。痛い目を見るのはもう十分だよ」
彼の手は僕の服へと掛かり、ぽつり、ぽつりと釦を外していく。
器用にそうしていく所作からは、慣れを感じさせる。ただ、それが彼にとって良い思い出だったとは言い切れず、言い及ぶのは避けた。
肌が露わになる度、追う視線の熱が上がっていく。部屋を閉め切っている所為か、お互いの匂いは強くなるばかりだ。
「シュカは、いつもこんなに急に匂いが強くなるの?」
脱がされた服が、寝台へと落ちる。素肌に空気が纏わり付くと、そわそわしてしまう。
腕を動かして上半身を隠そうとするのも、フロードの手が掴んで下ろされてしまった。かあ、と頬が熱くなって、視線は彷徨うばかりだ。
「いつもは、一人で過ごす、から。分からないよ……」
「そう。何となく、噛んだら番えそうなほどの匂いだなって。後でやり直す羽目になるかもしれないけど、試してもいい?」
首を噛む時には、番を定めるために相手の男根を躰に挿れる。
頷くということは、体を重ねることを了承する、ということだ。覚悟はあった筈なのに、怯えが湧き上がる。
ゆっくりと顔を縦に動かした。とても、言葉は思いつかなかった。
「ありがとう。これで、私は君以外を求めなくて済むようになるんだね」
ああ、と彼が僕との番関係を求めた理由を、もう一つ思い至った。
番になると、番以外の匂いには極端に鈍感になる。オメガの発情期に巻き込まれた彼が、そのことを望むのは当然だった。
彼の腕が僕の腰を抱き、膝を持ち上げるように誘導される。近づいた首筋を、傾いだ顔が捉えた。
「っ…………!」
唇が薄い皮膚に触れ、つい、と辿るように動く。唇で食んで、窄めて吸い上げ、ちりりとした痛みと共に跡を残す。
彼の歯並びの中で、ひときわ目立つ尖った犬歯が、皮膚に食い込んだ。その瞬間、何ともいえない、ぞわぞわとした感覚が駆け上がる。
首の横ですらこれなのだから、項に牙を立てられたらどうなってしまうのだろう。身体を震わせているのは期待だった。
「首、気持ちよさそうだね」
「え……? ァ、うぁ」
ぬるりとした舌が、顎の下を伝う。くすぐったさに身を捩ると、更に感触が別の場所を這った。
唇は鎖骨に触れ、ちゅ、とキスをする。首に触れていた掌が、する、と下に動いた。胸の周囲を揉むように指先を動かし、先端を摘まみ上げる。
「ひぁ……!? え」
上がってしまった声を恥じるように唇を噛むと、くすりと静かに笑い声が立つ。
指先でぴんと弾かれたそこは、つんと立ち上がって存在を主張する。捏ね回されるのに都合のよい形状になった突起を、指の腹が撫で回した。
じわじわと、煽られるような快感が点される。
「ね。あの、くすぐったい、よ……?」
フロードはにっこりと笑い、顔を傾け、もう片方の突起に唇を寄せる。
制止する間もなく、先端は口の中に消えた。舌先が敏感な場所をなぞり、窄まった口が強く吸い上げる。
「あっ。あ…………、や」
柔らかい口内は色の変わったそこを舐めしゃぶり、指先では与えられない感覚に伝わる快感も強くなる。
制止のために回していた腕は、力なく相手の肩に絡むだけだ。
ひ、ひ、と細かく息を吐いて、摘まみ上げる指に唇を噛む。
「フロード……。むね、やだ……」
半泣きで駄々を捏ねると、ようやく唇は離れた。唾液が纏わり付いた唇が、てらてらと光っている。
胸を解放した指先は、持ち上げた胸の中心に添えられる。つう、と伝った指は、腹まで辿り着いた。
「シュカの身体、柔らかいな……」
「貶してる!?」
「褒めてる」
それからも彼は柔らかい感触を楽しむと、腰骨を撫で回した。
性的な場所ではない筈なのに、やわい快感のようなものが走って、咄嗟に口を閉じる。
「下、脱がせるよ?」
こくんと頷き、太ももを持ち上げる。留め具を外した指は、下着ごと服を降ろした。
ふるりと震えた半身が、彼の視線の先に露わになる。
「とても、繊細な造りだね」
「どこのことを言って……! ひぁ!」
太ももを下ろした途端、指先が茂りを掻き分けた。
中で大人しくしていた中心を引き摺り出すと、すりすりと撫でる。その時、何か思い出したように寝台脇の小机へ手を伸ばす。
だが、流石に届かないようで、僕が引き出しを開け、指示された瓶を彼に渡した。
「なに、これ」
「滑りを良くする液体」
彼は中身を手に広げ、体温に馴染ませる。掌全体に広がると、また茂みへと手を突っ込んだ。
今度は、ぬるっとした感触が分身を掴む。中身を絞り落とすように上から下へ、円を描いた指が移動した。
「ひン……! ぁ、あ。……ん、ふぁ。あ」
指先はとろみのある液体を塗り広げるように動き、それから指先を上下して扱く。
焦らすような動きに抗議すると、今度は気持ちいい場所だけを狙われた。ぐちゅぐちゅと草叢を掻き分けながら動く指に、ただ翻弄される。
相手の肩に縋り付き、嬌声を上げた。周囲のにおいは酷いもので、僕だけでなく相手の誘うにおいが混ざって逃げ場を無くしている。
は、は、と息を吐いて、指先の中で形を変える半身を視界の端に見ていた。
「少し、気持ちよくしすぎたかな?」
ぐったりと寄りかかる僕を撫で、彼はそこから手を放した。
液体を失った掌にぬめりを足し、その手が僕の背後に回される。尻たぶを掴んで持ち上げられ、べっとりと濡れた感触が広がった。
「な、ァ…………──っ!」
指は狭間を掻き分け、窪みへと辿り着く。緊張でくっと閉じた輪を、ぬめった指がつんとつついた。
くっと力を込められると、直ぐに侵入を許してしまう。くぷぷ、と指は輪を潜り、体の内側へと入り込んだ。
「…………拡げ、の。……ヤ。────!」
僕の言葉を無視して、指はぐぶぐぶと中へ沈む。内壁を擦り上げ、知らない感触を与えながら、ぴたぴたと触れて探られる。
びく、びく、とただ指が動くたび、小さく震えた。
「さて、何処かなぁ……?」
ゆったりとした声だが、獲物を追い詰めるような昏さがある。
引くことのない指に追い詰められながら、身の内を相手に明け渡す。恐ろしいはずなのに、なぜか僕の半身は形を変え、涎を垂らしていた。
指の大部分が埋め込まれたと思われた時、他の場所とは明らかに違う感覚を与える場所に触れられる。
びく、と身を震わせると、にい、と彼の唇が笑んだ。
「ヒっ────! うぁ、あ……」
はくはくと荒い呼吸を繰り返し、目が痛くなるほど見開く。
知らない、身のうちから突き上げられるような快楽は、自ら慰めるそれとは種類の違うものだ。
この場所を相手のもので突き上げられたら、発情期の間、僕は色狂いになってしまうかもしれない。
怖いはずなのに、ぞくぞくと震える躰は心を完全に裏切ってしまっている。二度、三度と撫で上げられるたび、僕は獣のような濁った声を上げた。
突き入るために拡げられているはずなのに、逃れようとする頭が働かない。その刺激を何度も欲しい、と指先が中を撫で上げるたびに歓喜した。
何度、それが繰り返されただろうか。永遠にも思える拡張が終わると、つぽりと指が引き抜かれる。
肉輪は嬉しげに指先にしゃぶりつき、縁をてらてらと光らせていた。
「じゃあシュカ。これから、挿れるね」
彼は上着を脱ぎ捨てると、下の服も躊躇いなく脱ぎ落とした。
服の下から現れた肉の塊は禍々しく膨らみ、彼の掌で瓶の中身を垂らされると、表面をべっとりと濡らして滴を落とした。
ぼた、ぼた、と寝台を濡らしながら、長大なそれが躙り寄ってくる。
「ほら、後ろ向きになって」
まだ見えているなら覚悟も決まるというのに、どうされても許す、というように項ごと晒せと彼は言う。
ひく、と妙な息の呑み方をして、僕はおずおずと腰を持ち上げた。寝台の上で体勢を変え、尻が見えるように四つん這いになる。
獣になったみたいなその体勢を見られている羞恥に茹で上がり、ぶるぶると腕が震える。そして、背後が見えずに、いつ突き入れられてもおかしくない、というその一瞬は本当に恐怖だった。
大きな身体が覆い被さってくる。シーツの上に影ができると、僕は身を竦ませた。
長い指が腰に掛かった。ぬめる丸いものが尻の肉を持ち上げ、掻き分ける。
谷間を辿られ、いっそう膨らんだ瘤が後腔へと当たる。閉じていた筈の肉輪は、ちゅうちゅうとその丸みに吸い付く。
何度か表面を滑り、お預けの感覚を味わった。
「……こんなに吸い付いて、待ち遠しかった?」
「ひ、あ────! やぁッ」
くぷん、と突っかかっていたはずの亀頭は、あっさりと輪をくぐり抜けてしまった。
反射的にぎゅうぎゅうに締め付け、異物感に圧される。必死で息を整えていると、その間にもずるりと奥に潜り込む。
シーツを掻き、反射的に逃れようとした僕の脚を、相手の脚が寝台に押さえつける。両方の腰が掴まれ、ぐぐ、と更に押し込まれた。
耳の近くで長く息が吐かれた、音がする。
「は、あ。…………い、ひぃ。あ、ぁ。うあ」
眼前にあった、あの肉棒が躰の中を擦っていく。
二度、三度、細切れにしながら、途方もなく思えるほど長く挿入は続いた。
そして、膨らみがその場所をトン、と押し上げる。
「────や。いや」
拒絶ではなく、懇願でしかなかった。その場所に触れられたら、押し上げられたら、圧倒的に価値観が書き換わってしまう。
彼はゆるりと腰を揺らし、僕が嫌がっているそこを先端でいやらしく撫で回した。
「そうだよね。ここ、いやだもんね」
「ん……。うん……!」
会話の間としては異様なほど長い沈黙があった。
耳に届いたのはただ、嗤う声だ。
「────ッ! い、ぁ? ひ……」
どすん、と容赦のない一突きだった。
指しか知らない柔らかい場所を、巨きく、重たい塊が押し上げる。ぶるぶると脚を震わせ、はしたなく体液を零した。
「あ、ひ……。うァ、あ…………」
「……ッ。痛く、……なかった?」
痛みなどない。ただ、途方もない快楽を与える場所を、ぐりぐりと苛められ続けているだけだ。
支えていたはずの上半身が崩れ、シーツの上に肩を押しつける。下半身は更に持ち上がり、秘めていた部分が相手に露わになる。
フロードの指が結合部をなぞり、戯れのように腰が揺らされた。
「ふ、ふ。…………ぁ、ふ。くァ、ア」
僕は自分が魔力の多い体質であったことを、これほど疎んだことはない。
彼の膨らんだ瘤から溢れる薄い液体は、唾液よりも多く魔力を含んでいる。他人の波が自身の波を掻き乱し、波形を塗り替えていく。
ただ、それこそが快楽そのものなのだ。肉体だけですら存分に快くされているのに、魔力さえも揺さぶられる。
彼と相性のよい魔力は、今この場にあっては猛毒だった。
「シュカ。ここもいいけど、もっと奥もね。いいよ」
「…………ぁ。お、く?」
彼は放ってあった瓶を持ち上げると、蓋を外して結合部に中身を垂らした。
キュ、と短く蓋の閉まる音がする。
やがて、彼の砲身はさらに奥へと進み始める。そこから先は、指での感触を知らない場所だ。
耕されることを知らない土地を、ずるずると一気に雄の太さまで拡げていく。おずおずと、腹に手を当てる。
魔術が守っているにも関わらず、押し上げられている感触が分かりそうなほどの質量がそこにあった。
「あ、…………ン、う」
内壁を探られつつ、みちみちと肉を埋められる。
感触を探っていたらしい先端に、何か妙な場所を小突かれる。トン、トン、と何度も押し上げると、数度目の逢瀬で、ぐぷ、と潜り込んだ。
「ね。いいでしょ、ここ」
「う、そ。そこ、な。……ヒィ────!」
先ほど苛め抜かれた場所よりもっと深くにあるその柔らかい場所は、男の欲望をやんわりと受け止める。
亀頭は離れることなく、淫肉に埋もれた。触れている部分から、重たい刺激が上ってくる。
ずりずりと寝台を這っても、ぐっぽりと填まった瘤は抜けない。揺れるたびに刺激が繰り返され、次第に抵抗する気持ちは削がれていった。
尻は持ち上がったまま、上から押しつけた肉棒を受け止めて揺らされる。
「あ、ぁ。いや、…………ほんと、駄目、な。ァ、あ、あ」
「駄目、て……言いつつ。此処、すご……! ちゅう、って吸ってる」
揺らされるだけだった筈の動きが、次第に大きくなっていく。
小刻みだったそれが、次第に大振りの抽送へと変化した。ぐぽん、ぐぽん、と泥濘へと何度も丁寧に填め込む。
「あ゛あ、ぁ───! ヤ、も、できな…………ひ!」
「奥、……魔術を仕込んだ、としても、……っ、ここまで届いたら。もう、当たっちゃうね」
耳に押し込まれる低い声に震え上がって、体内にいる雄を食い締める。
もう奥はだらだらと零れる体液に濡れていて、逃げようもなく染められていた。
腰から手が離れ、身体に別の体重がのし掛かる。
首に手が回され、噛みやすいように僅かに持ち上げられた。結合部はびっちりと埋まりきり、逃げ場のないことを教え込まされる。
「────これでやっと、番だ」
宣言とともに、髪を掻き分けた項に牙が押し込まれた。
一度ずるずると引いた腰は、ばつん、と叩き付けられる。のし掛かる体重が、僕の躰ごと寝台に縫い付ける。
子種を溜めこんだ瘤が、膨れる様を幻視する。
「あ。……ひ、い゛────ぁ、ぁあああああぁぁぁあッ!」
びゅう、と躰の奥に、白濁の奔流が叩き付けられる。
目一杯おしこんで、狙いを定めた遂情に、逃げ場はなかった。思う存分、精を呑み込ませられる。
更に中へ押し込むように、軽く往復して、また男根はそこに填まった。
「は、あ…………」
必死で息をして、牙が離れるのを待つ。
焦れるほどの時間をもって、ようやく首から埋まっていた牙が抜かれた。
周囲の匂いは全く変質しており、フロードの匂いだけがよく届く。繋がった場所からびくんびくんと揺れる躰は、彼の快楽を受けるように作り替えられていた。
恋のように、番もまた、一生続く呪いなのかもしれない。
後ろから肉棒が抜かれると、体液を零しながら寝台に倒れ込む。
「…………シュカ。平気?」
「たぶ……。へい、き」
股の間はびっしょりと濡れて、もう感覚がなかった。
倒れ込んだ僕は裏返され、彼と視線を合わせる。こつん、とぶつかった額の先に、見慣れた瞳があった。
太股に、濡れた塊が押しつけられる。何も考えずに視線を向けると、また力を取り戻した彼の半身がそこにある。
「………………」
僕はぱたんと手を寝台に倒し、何度も左右に首を振った。
けれど、発情期に引き摺り込まれたアルファには知ったことではない。僕の足を持ち上げ、平然と開く。
また突き入ろうとする動作に、脚を揺らした。
「ね、僕。少し、休む…………」
「うん。シュカは休んでいて。私はちょっと収まらなそうだから」
ずりずりと雄同士を擦り付けるその動作の、どこに休みがあるのだろう。
いやだ、むり、と泣き言を吐きつつ、僕は寝台に留められ続けるのだった。
発情期が終わった後、婚約してからは婚約者としての仕事も増えてしまったが、フロードの補助もあってなんとかこなしている。
結婚式の日取りも決まり、その日は招待状の作業をしていた。お互いに概ね出席者も決まり、招待状に丁寧に名前を記していく。
途中まで二人とも無言で作業をしていたが、ふと、フロードが卓の数を数える。
「まるまる一卓余ってるけど、ここ、誰か呼ぼうか?」
「一卓、だと、一人とかじゃ困っちゃうよね」
あの人は、この人は、と名前を挙げ、その卓だけがあまりにも決まらない。
いっそ、左右非対称だが減らしてもらうか、という案が出始めた頃、フロードが、ぽん、と掌に拳を置く。
「港町でお世話になった本屋の店主は?」
「確かに恩人だよね。それなら、管理人さんと。あの港町で知り合った……」
二人して同じ人物たちの姿が浮かんだが、あまりにも荒唐無稽でお互いに黙り込む。
だが、取り敢えず挙げてみようか、という空気になった。せーの、で声を揃える。
「西の魔女」
「東の魔術師」
「「…………だよね」」
声に出してはみたものの、あまりにも、あんまりな気もする。だが、本屋の店主が世話になったというのなら、その二人は更に世話になったとも言える人たちだ。
僕たちは絶妙な表情を、お互いに向け合った。
「でも、ほら。東の魔術師も僕があんまり妖精と近づくと良くないから、って。縁があれば、みたいな言い方だったし、断られるよ。きっと」
「まあ、確かに」
フロードはそう言いつつも、招待状の宛名に面白がって二人の名を記す。
『東の魔法使い殿』
『西の魔法使い殿』
出来上がった二通を見て、これ記念にしよう、と愉快そうに笑った。
じゃあ僕も、と新しい招待状に筆を走らせた。
『金髪の付き人殿』
『水妖殿』
フロードは僕の書いた招待状に眉をひそめる。
「水妖って名前なのかな……?」
「ちがうけど。多分、僕たちじゃ発音できないし。これも記念に残しちゃお」
僕が四通の招待状を纏めて束ねると、手のひらにぼっと炎が点った。
魔力で点されたそれは熱くなく、四通の封筒を呑み込んで掻き消える。二人で呆然としていると、目の前の空間が割れた。
中から姿を現したのは、豪勢な美女……西の魔女だ。
「こんにちはァ。ご招待ありがと。『東の』は行くか分かんないけど、あたしはお邪魔するわね」
「…………えぇ……」
僕が引き気味な声を上げると、カツカツと床を叩き、西の魔女は僕に歩み寄る。
両の手が僕の襟首を掴み、持ち上げた。鼻先が触れそうなほど近くに、美しく、強烈な印象を残す顔がある。
「もう、あたしたち。呪って、解き合った仲じゃない? これも縁よ。────祝いの宴に呼んでくれないなんて無礼を働いたら、かーるく死の呪い授けちゃう。あたし、どこぞの魔女のように百年眠るなんて逃げは与えないわよ」
おほほ、と西の魔女は高笑いをし、僕のおでこをぴんと弾いた。
彼女の長い爪の先から、強大な魔力が流れ込んでくる。
「あたしが参加するんだから、良い結婚式になるわ。きっとね」
そう言い残すと、彼女はまた空間を割って去っていった。
フロードはしばらくぽかんとして、ようやく我に返ると、残った招待状に本屋の店主と、別荘の管理人の名を書き始める。
「水妖さん、…………って、なに食べるかな」
「港町のきれいな海水を集めて、置いておこうか」
歴史に名を残す魔術師が二人、人ではない存在がひとり。珍妙な客を招待することになった式は前途多難だが、額に残るのは温かい感触だけだ。
僕はフロードに寄りかかって、手のひらを重ねる。
「僕たちの式、良い結婚式になるんだってさ」
「これほど頼りがいのある呪いもない、……かも?」
二人で肩を寄せ、湧き上がる感情のまま頬を綻ばせる。番の魔力は、今日もここちよく皮膚を伝った。
僕の額に与えられた呪いは、もう解けなくても構わない。
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