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逃走中?
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ついに、宿の敷地から出ることができた。裏の勝手口というだけあって、宿の表入り口で起きている騒動から距離もあるらしい。夜に不似合いな騒がしい声はまだ聞こえているけど。
「ここから一人で大丈夫か?」
「はい。わざわざありがとうございました」
勝手口の警備が手薄というのは本当で、周囲には誰もいない。
「明かりを持っていくといい。今晩は月も出ていないし」
「それ、勝手に使っちゃっていいんですか?」
「かまわない。そのために置いてある」
勝手口の近くに置いてあったランプを差し出されたので、ありがたくいただく。この人は本当に親切だ。さすがうちの国民。
「これからどうする?」
「そうですねぇ……」
この辺の地理にはあまり詳しくないけど、仕事で何度か来たことがある。私と直接話をして、顔を覚えている人もいるかもしれない。朝になったらさっさと町を出た方がいいだろう。
「とりあえず帰ります」
蛮族が暮らす草原はうちの国の東側。ここから西に向かうと来た道を戻るだけだし、南でいいでしょう。ここから南を目指して移動しよう。
「この先にあるアイザスの宿に泊まるといい。明日の朝一番に町を出る馬車に乗せてくれるはずだ」
「へー」
「それじゃあ気をつけて」
男と別れて夜道を一人で歩く。振り返ると勝手口のところにまだ男がいるような気がして、もらったランプを少し上にあげ「じゃあね」って感じの合図を送った。きっと男には「大丈夫ですよぉ」みたいな間抜けな合図に見えただろう。
「親切な人だと思ったのに」
あの男、親切な振りしてなにか企んでいる可能性大。
「アイザスの宿だけは泊まっちゃダメね」
私はあの男に「帰る」と言ったのだ。馬車に乗ってどこぞへ帰るなんて言ってない。つまり、私が町の娘ではないって気づいてたってことよね。人口三百人の町の住人全てを把握している男なんて、怪しすぎる。
「……ん? でも、三百人なら覚えようと思えば……」
一学年三百人、小学校から大学までエスカレーター式で、就職後もずっと同じメンバーだとしたら、三百人全員の顔を覚えることもできるかもしれない。……謎だわ。
「人の親切を疑いすぎるのもよくないかな」
実際あの男性のおかげで宿の外に出られたのは事実。感謝しつつ、おすすめの宿は遠慮しておくことにしよう。
明かりの灯っている店が密集している地域を目指して歩くと、王女様効果で町は夜だというのに大人から子供まで元気に騒いでいた。まるで夏祭りのように。
「すみません。この辺りでいい宿を知りませんか?」
「おや、一人かい? それならアイザスの宿がいいよ」
「ありがとうございます」
子連れの夫婦や、店番している女性に聞いて回っても、皆アイザスの宿をおススメしてくる。
逆に女一人で泊まると危ないのが町ハズレにいくつかある格安の宿。部屋のカギがあってないようなものらしく、盗難などの事件が多発してると。宿の外から侵入してくる泥棒もいて、宿泊客だけが容疑者じゃないというから驚きだ。
「うーん」
王女が町一番の宿を貸し切ってしまったせいで、この町の宿泊客はアイザスの宿に集中しているらしい。もう夜だし、部屋は余ってないかもしれないと忠告されてしまった。
「すみません。一部屋あいてますか?」
結局、アイザスの宿に来てしまった。
誰に聞いても女一人旅ならアイザスの宿一択だった……。
悩んでいるうちに捜索隊らしき男たちがちらほら目につくようになったので、覚悟を決めるしかなかったってのもあるけど。
「申し訳ありません。本日個室は満室です」
「え、満室!?」
「すみません。大部屋での宿泊ならまだ数人の余裕はありますけど」
「じゃあ、そこでお願いします」
「かしこまりました」
気合入れてやってきたっていうのに、結局盗難の危険がある大部屋に泊まることになった。
貴重品の取り扱いは十分に気を付けるようにと受付で念を押され、盗難等の被害があっても店に責任はないという書類にサインまでさせられてしまった。
「こちらがディディ様のベッドです。周囲のベッドには物を置いたりしないでください」
「はい」
部屋の中にはすでに客が三人いて、全員が就寝中だった。
案内してくれた店員が部屋を出ていくのとほぼ同時に、私も靴だけ脱いでベッドに横になる。
ナップザックは肩紐を腕に通してお腹の上に抱き上げる感じで守っておく。中に入っているお金が地味に圧迫して苦しかったけど、横を向けば多少楽になった。
今日は濃い一日だった。
メロディアからもじってディディなんて名乗ったけど、大丈夫かな?
「ここから一人で大丈夫か?」
「はい。わざわざありがとうございました」
勝手口の警備が手薄というのは本当で、周囲には誰もいない。
「明かりを持っていくといい。今晩は月も出ていないし」
「それ、勝手に使っちゃっていいんですか?」
「かまわない。そのために置いてある」
勝手口の近くに置いてあったランプを差し出されたので、ありがたくいただく。この人は本当に親切だ。さすがうちの国民。
「これからどうする?」
「そうですねぇ……」
この辺の地理にはあまり詳しくないけど、仕事で何度か来たことがある。私と直接話をして、顔を覚えている人もいるかもしれない。朝になったらさっさと町を出た方がいいだろう。
「とりあえず帰ります」
蛮族が暮らす草原はうちの国の東側。ここから西に向かうと来た道を戻るだけだし、南でいいでしょう。ここから南を目指して移動しよう。
「この先にあるアイザスの宿に泊まるといい。明日の朝一番に町を出る馬車に乗せてくれるはずだ」
「へー」
「それじゃあ気をつけて」
男と別れて夜道を一人で歩く。振り返ると勝手口のところにまだ男がいるような気がして、もらったランプを少し上にあげ「じゃあね」って感じの合図を送った。きっと男には「大丈夫ですよぉ」みたいな間抜けな合図に見えただろう。
「親切な人だと思ったのに」
あの男、親切な振りしてなにか企んでいる可能性大。
「アイザスの宿だけは泊まっちゃダメね」
私はあの男に「帰る」と言ったのだ。馬車に乗ってどこぞへ帰るなんて言ってない。つまり、私が町の娘ではないって気づいてたってことよね。人口三百人の町の住人全てを把握している男なんて、怪しすぎる。
「……ん? でも、三百人なら覚えようと思えば……」
一学年三百人、小学校から大学までエスカレーター式で、就職後もずっと同じメンバーだとしたら、三百人全員の顔を覚えることもできるかもしれない。……謎だわ。
「人の親切を疑いすぎるのもよくないかな」
実際あの男性のおかげで宿の外に出られたのは事実。感謝しつつ、おすすめの宿は遠慮しておくことにしよう。
明かりの灯っている店が密集している地域を目指して歩くと、王女様効果で町は夜だというのに大人から子供まで元気に騒いでいた。まるで夏祭りのように。
「すみません。この辺りでいい宿を知りませんか?」
「おや、一人かい? それならアイザスの宿がいいよ」
「ありがとうございます」
子連れの夫婦や、店番している女性に聞いて回っても、皆アイザスの宿をおススメしてくる。
逆に女一人で泊まると危ないのが町ハズレにいくつかある格安の宿。部屋のカギがあってないようなものらしく、盗難などの事件が多発してると。宿の外から侵入してくる泥棒もいて、宿泊客だけが容疑者じゃないというから驚きだ。
「うーん」
王女が町一番の宿を貸し切ってしまったせいで、この町の宿泊客はアイザスの宿に集中しているらしい。もう夜だし、部屋は余ってないかもしれないと忠告されてしまった。
「すみません。一部屋あいてますか?」
結局、アイザスの宿に来てしまった。
誰に聞いても女一人旅ならアイザスの宿一択だった……。
悩んでいるうちに捜索隊らしき男たちがちらほら目につくようになったので、覚悟を決めるしかなかったってのもあるけど。
「申し訳ありません。本日個室は満室です」
「え、満室!?」
「すみません。大部屋での宿泊ならまだ数人の余裕はありますけど」
「じゃあ、そこでお願いします」
「かしこまりました」
気合入れてやってきたっていうのに、結局盗難の危険がある大部屋に泊まることになった。
貴重品の取り扱いは十分に気を付けるようにと受付で念を押され、盗難等の被害があっても店に責任はないという書類にサインまでさせられてしまった。
「こちらがディディ様のベッドです。周囲のベッドには物を置いたりしないでください」
「はい」
部屋の中にはすでに客が三人いて、全員が就寝中だった。
案内してくれた店員が部屋を出ていくのとほぼ同時に、私も靴だけ脱いでベッドに横になる。
ナップザックは肩紐を腕に通してお腹の上に抱き上げる感じで守っておく。中に入っているお金が地味に圧迫して苦しかったけど、横を向けば多少楽になった。
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