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結局のところ政略結婚
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「……何を企んでいるんですか?」
心も体も引き気味になってしまうのは仕方ない。アシュラスは私の中で要注意人物だから。
「人聞きの悪い。一人の男として、好ましいと思う女性に想いを告げているだけではありませんか」
楽しそうにくすくすと笑う美形に、気を抜いたらうっとり見とれてぽけーっとアホ面晒してしまいそうになるけど、私は負けない。
「予定通りうちの国には王太子で打診するか、こっそり私を外に逃がしてください」
この国の男と結婚するなら、何を考えてるのかさっぱりわからない目の前の男より、面識のない王太子の方がいい。
「おや、メロディア王女はまだ逃げるおつもりですか? それでは、逃がさないように万全の警備体制を整えなければなりませんね……とりあえず、窓という窓を全て塞いでしまいましょう」
「は?」
「それから、冬の間しか使わない暖炉も封鎖して、使用人通路にも人を配置して、王女には常に騎士を付けておきましょうか?」
いやいやいや。
監禁反対!
「自由を与えると言ったのは嘘ですか!?」
「嘘ではありません。どこへ行くのも王女の自由ですよ」
真顔で「帰る場所はここですが」と続いて、それが自由だと思える人がどれだけいると……。
「よく考えてください。私は貴女の自由を奪う気はありませんが、王太子の妻となると、立場的に自由になる時間などほとんどありません。お友達とのお付き合いも結局は全て公務です。真実ただの友人とのおしゃべりなど、ありえません」
そんなことはない、と言い返したけど、この国ではそうなるのだと言われた。王太子の妻という役職の女性に近づきたいと考えている人間とただの一個人として親密な関係を築きあげたところで、利用されるだけだと。
「それなら、まだ私の方がいいと思いますよ。それなりの地位と権力があって、けれど最高権力者ではないので友人という存在を作ることも可能です」
「……そこまでお友達が欲しいわけじゃないので大丈夫です」
自分を選ばせたいらしいアシュラスの言葉をさえぎって拒否する。どんな計画がアシュラスの頭の中で広がっているのか知らないけど、私は王太子がいい。
「そんなに私が嫌いですか?」
少し前まで笑顔だったはずが、いつの間にかしょんぼりした空気を出し始めた。
お風呂の用意ができたのに、私をお風呂に行かせてくれない。
「答えてください。結婚したくないほど私が嫌いですか」
「えぇ?」
本人に「何考えてるのかわからないから、とりあえずイヤ」とは言いにくい。
答えに困って固まっていると、アシュラスが先に口を開いた。
「違う、とは言ってくださらないのですね。わかりました。では、明日にでも王宮にお連れしましょう。今日はゆっくり休んでください」
キビキビした動きでアシュラスが部屋から出て行ったのと入れ替わりに、この屋敷のメイドが入って来た。そして今日私が泊まる部屋へと案内してくれる。
ゆったりお風呂につかりながら、アシュラスの言動を振り返る。
あれは俗にいうヤンデレじゃないかと思う。ヤンデレに一歩足を踏み込みかけていた気がする。
温かい湯の中で背筋にゾッとしたものが走る。
距離を取ろう。そうしよう。絶対アレとは結婚しない。
「王太子がいい人でありますように!」
突然声にだして祈ったから、湯船の近くにいたメイドが「え?」っと私を見て、声に出した私と客の独り言に反応しちゃったメイドは互いに気まずくなった。
翌日、アシュラスに連れられて王宮にやってきた私は、正式にこの国の客人として扱われることとなった。
正直ヤンデレ一歩手前のアシュラスが何を考えているのかさっぱりわからないけど、一応ここまで連れてきてくれたのでお礼を言っておく。
「今までどうもありがとう」
「いいえ。お役に立てたのなら幸いです」
滞在中の護衛にアシュラスをつけるかと聞かれ、速攻でお断りした結果、アシュラスとはここでお別れ。
この先の部屋は要人用の客室になり、王位継承権5位のアシュラスでも無許可では入れないらしい。
「……私ではだめですか?」
「ごめんなさい」
「そうですか」
朝からにこにこしていたアシュラスが、今日初めてしょんぼり顔を見せた。
「窓から逃げるあなたを見たとき、私なら逃がさないのにって、そう思ったんです」
言ってることは意味不明だけど、本人はしょんぼりモードのまま語り続ける。
「私が護衛する馬車の中にあなたがいると思うと、それだけで胸が高鳴りました。扉を開ければ全身を甘い痺れが巡り、閉めるたびに喜びで心が満たされて……」
うっとり思い出にひたっているらしいけど、その間私は鬱々としてましたよ。
「あなたと共に歩けないとしても、私は全身全霊であなたをお守りする騎士でありたい」
言いたいことだけ言うと、アシュラスはサッと身をひるがえしてきた道を帰って行った。
私の護衛に任命された騎士の顔を見るとドン引きしていたので、アシュラスの感性が一般的な国ではないらしい。そこだけは安心した。
「サテラスへの使者にアシュラス様が立候補していらっしゃいました」
ぼそっとつぶやかれた言葉にビクッと体が震えた。
「別の者に変更してもらいますか?」
こくこくこく、っとしつこいくらいにうなずいたあとで「変更を希望します」と伝えると、騎士もうなずき返してくれた。
その騎士の顔をしっかり見ると、サテラスの宿屋で使用人通路を案内してくれた男だった。
「あら? あなたはアシュラスの部下ではなかったの?」
「部下といえば部下ですが、我々は陛下直属なので」
このまま王太子と顔合わせして問題なければ婚約に進むらしい。
超、弱小国の姫がこんな大国の王太子妃になるなんて前代未聞かもしれない。
でも、まだ、王太子がどういう人かわからないから、不安はある。だって、あのアシュラスと濃い血の関係がある男性だし……。
「ねえ、王太子ってどんな方? 性格とか、好みとか、顔とか」
「え、はあ、とても立派なお方だと……」
「そういうんじゃなくて、ほら、一人の男性としてさぁ」
「そういうのは男の自分ではなく、せめて女性に」
「えぇ~。じゃあ誰か女性連れてきてよ」
「部屋にメイドがいますから」
護衛の騎士から情報を仕入れるのは難しそうなので、メイドと女子トークでもはずませようと思う。
あの時、逃げてよかったなぁと今更ながら自分をほめてあげたい。
蛮族の嫁になるより、こっちの方がずっと楽しいから。
心も体も引き気味になってしまうのは仕方ない。アシュラスは私の中で要注意人物だから。
「人聞きの悪い。一人の男として、好ましいと思う女性に想いを告げているだけではありませんか」
楽しそうにくすくすと笑う美形に、気を抜いたらうっとり見とれてぽけーっとアホ面晒してしまいそうになるけど、私は負けない。
「予定通りうちの国には王太子で打診するか、こっそり私を外に逃がしてください」
この国の男と結婚するなら、何を考えてるのかさっぱりわからない目の前の男より、面識のない王太子の方がいい。
「おや、メロディア王女はまだ逃げるおつもりですか? それでは、逃がさないように万全の警備体制を整えなければなりませんね……とりあえず、窓という窓を全て塞いでしまいましょう」
「は?」
「それから、冬の間しか使わない暖炉も封鎖して、使用人通路にも人を配置して、王女には常に騎士を付けておきましょうか?」
いやいやいや。
監禁反対!
「自由を与えると言ったのは嘘ですか!?」
「嘘ではありません。どこへ行くのも王女の自由ですよ」
真顔で「帰る場所はここですが」と続いて、それが自由だと思える人がどれだけいると……。
「よく考えてください。私は貴女の自由を奪う気はありませんが、王太子の妻となると、立場的に自由になる時間などほとんどありません。お友達とのお付き合いも結局は全て公務です。真実ただの友人とのおしゃべりなど、ありえません」
そんなことはない、と言い返したけど、この国ではそうなるのだと言われた。王太子の妻という役職の女性に近づきたいと考えている人間とただの一個人として親密な関係を築きあげたところで、利用されるだけだと。
「それなら、まだ私の方がいいと思いますよ。それなりの地位と権力があって、けれど最高権力者ではないので友人という存在を作ることも可能です」
「……そこまでお友達が欲しいわけじゃないので大丈夫です」
自分を選ばせたいらしいアシュラスの言葉をさえぎって拒否する。どんな計画がアシュラスの頭の中で広がっているのか知らないけど、私は王太子がいい。
「そんなに私が嫌いですか?」
少し前まで笑顔だったはずが、いつの間にかしょんぼりした空気を出し始めた。
お風呂の用意ができたのに、私をお風呂に行かせてくれない。
「答えてください。結婚したくないほど私が嫌いですか」
「えぇ?」
本人に「何考えてるのかわからないから、とりあえずイヤ」とは言いにくい。
答えに困って固まっていると、アシュラスが先に口を開いた。
「違う、とは言ってくださらないのですね。わかりました。では、明日にでも王宮にお連れしましょう。今日はゆっくり休んでください」
キビキビした動きでアシュラスが部屋から出て行ったのと入れ替わりに、この屋敷のメイドが入って来た。そして今日私が泊まる部屋へと案内してくれる。
ゆったりお風呂につかりながら、アシュラスの言動を振り返る。
あれは俗にいうヤンデレじゃないかと思う。ヤンデレに一歩足を踏み込みかけていた気がする。
温かい湯の中で背筋にゾッとしたものが走る。
距離を取ろう。そうしよう。絶対アレとは結婚しない。
「王太子がいい人でありますように!」
突然声にだして祈ったから、湯船の近くにいたメイドが「え?」っと私を見て、声に出した私と客の独り言に反応しちゃったメイドは互いに気まずくなった。
翌日、アシュラスに連れられて王宮にやってきた私は、正式にこの国の客人として扱われることとなった。
正直ヤンデレ一歩手前のアシュラスが何を考えているのかさっぱりわからないけど、一応ここまで連れてきてくれたのでお礼を言っておく。
「今までどうもありがとう」
「いいえ。お役に立てたのなら幸いです」
滞在中の護衛にアシュラスをつけるかと聞かれ、速攻でお断りした結果、アシュラスとはここでお別れ。
この先の部屋は要人用の客室になり、王位継承権5位のアシュラスでも無許可では入れないらしい。
「……私ではだめですか?」
「ごめんなさい」
「そうですか」
朝からにこにこしていたアシュラスが、今日初めてしょんぼり顔を見せた。
「窓から逃げるあなたを見たとき、私なら逃がさないのにって、そう思ったんです」
言ってることは意味不明だけど、本人はしょんぼりモードのまま語り続ける。
「私が護衛する馬車の中にあなたがいると思うと、それだけで胸が高鳴りました。扉を開ければ全身を甘い痺れが巡り、閉めるたびに喜びで心が満たされて……」
うっとり思い出にひたっているらしいけど、その間私は鬱々としてましたよ。
「あなたと共に歩けないとしても、私は全身全霊であなたをお守りする騎士でありたい」
言いたいことだけ言うと、アシュラスはサッと身をひるがえしてきた道を帰って行った。
私の護衛に任命された騎士の顔を見るとドン引きしていたので、アシュラスの感性が一般的な国ではないらしい。そこだけは安心した。
「サテラスへの使者にアシュラス様が立候補していらっしゃいました」
ぼそっとつぶやかれた言葉にビクッと体が震えた。
「別の者に変更してもらいますか?」
こくこくこく、っとしつこいくらいにうなずいたあとで「変更を希望します」と伝えると、騎士もうなずき返してくれた。
その騎士の顔をしっかり見ると、サテラスの宿屋で使用人通路を案内してくれた男だった。
「あら? あなたはアシュラスの部下ではなかったの?」
「部下といえば部下ですが、我々は陛下直属なので」
このまま王太子と顔合わせして問題なければ婚約に進むらしい。
超、弱小国の姫がこんな大国の王太子妃になるなんて前代未聞かもしれない。
でも、まだ、王太子がどういう人かわからないから、不安はある。だって、あのアシュラスと濃い血の関係がある男性だし……。
「ねえ、王太子ってどんな方? 性格とか、好みとか、顔とか」
「え、はあ、とても立派なお方だと……」
「そういうんじゃなくて、ほら、一人の男性としてさぁ」
「そういうのは男の自分ではなく、せめて女性に」
「えぇ~。じゃあ誰か女性連れてきてよ」
「部屋にメイドがいますから」
護衛の騎士から情報を仕入れるのは難しそうなので、メイドと女子トークでもはずませようと思う。
あの時、逃げてよかったなぁと今更ながら自分をほめてあげたい。
蛮族の嫁になるより、こっちの方がずっと楽しいから。
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