2 / 7
子爵夫人
しおりを挟む
「折角の機会ですし、アンジェも行きましょう?」
「いいえ。わたくしは遠慮致します」
この家の女主人でわたくしの母の姉である伯母が、自分に来た招待状を手渡してくれましたが詳しく読むこともなくお断りします。
わたくしに懸想しているらしい伯爵子息は、貴族男性が集まる紳士クラブで事あるごとに一目惚れした経緯を語っているようで、格上の相手を射止めたわたくしは一部の女性たちからいらぬ嫉妬をうけ、その他の女性たちからは腫れ物に触るかのように扱われてしまい、元々あまり得意ではなかった社交がとても苦痛に感じられるようになりました。
家にいてもお見合いさせたいお父様が部屋にやってきて面倒ですし、お母様に相談した結果、家から離れた地域にある伯母の家に侍女として働きに出ることにしました。お父様は今頃お母様に事情を聞いて頭を抱えていることでしょう。
「アンジェの気持ちも理解できるけれど、こういう時は別の相手を見つけてしまうのが一番いいの。この主催者のパーティーなら招待されている方も素行が良い方ばかりですし、独身男性の紹介もしていただけるわ。早くしないと噂だけが独り歩きして事実がねじ曲がってしまうわよ?」
伯爵子息とお見合いする気がないことをお母様から聞いている伯母様は、それなら他の方と婚約して噂の鎮静化を目指しなさいと忠告してくれました。
「根も葉もない噂など放っておけばそのうち落ち着くとお母様はおっしゃっていましたけれど?」
「あの子は夢見がちなところがあるから」
ふぅ、とため息を吐いて伯母様は持っていた招待状をテーブルに戻して話を続けます。
「アンジェ、あなたの母親が自分は政略結婚だから娘には恋愛結婚をしてほしい、などと常日頃から言っているのは知っています。ですが状況が変わったのだと理解なさい」
状況が変化したから、わたくしは父から逃げているのですが、伯母様は逃げているだけでは悪化する一方だと言います。
「当主とはいえ男爵位のあなたの父親はどうでもいいのです。問題は貴族間の噂にあるのですから」
「ええ。わたくしが伯爵子息を手玉にとったとか、いい気になっているとか、聞こえるように陰口を言う方が多いのです。こちらは描かれた顔しか知らないというのに、いい迷惑ですわ」
思い出して憂鬱な気分になっていると、伯母様は古参の侍女を呼び寄せ「姪のアンジェも出席すると添えて返事を出してちょうだい」と命じました。
「伯母様!」
「お黙りなさい」
わたくしの抗議の声を遮り、男性も参加する昼のガーデンパーティーへの強制参加を決定した伯母様。
「ようくお聞きリリアンジェ。その陰口が嫉妬からくる作り話だと断言できるのはあなたに近しい者だけです。あなたを知らぬ第三者にはそれが真実だと伝わってしまうのですよ。今はまだあなたが未成年ですからね、その程度の噂で済んでいるのです」
成人まであと半年、このままでは身持ちの悪い女性として社交界で認識され、恋愛どころかお見合い相手まで見つからなくなってしまうと伯母様は語りました。
ー社交界なんて滅んでしまえー
今日はそれだけ書いて、紙をぐしゃぐしゃに丸めてから焼き捨てました。
「いいえ。わたくしは遠慮致します」
この家の女主人でわたくしの母の姉である伯母が、自分に来た招待状を手渡してくれましたが詳しく読むこともなくお断りします。
わたくしに懸想しているらしい伯爵子息は、貴族男性が集まる紳士クラブで事あるごとに一目惚れした経緯を語っているようで、格上の相手を射止めたわたくしは一部の女性たちからいらぬ嫉妬をうけ、その他の女性たちからは腫れ物に触るかのように扱われてしまい、元々あまり得意ではなかった社交がとても苦痛に感じられるようになりました。
家にいてもお見合いさせたいお父様が部屋にやってきて面倒ですし、お母様に相談した結果、家から離れた地域にある伯母の家に侍女として働きに出ることにしました。お父様は今頃お母様に事情を聞いて頭を抱えていることでしょう。
「アンジェの気持ちも理解できるけれど、こういう時は別の相手を見つけてしまうのが一番いいの。この主催者のパーティーなら招待されている方も素行が良い方ばかりですし、独身男性の紹介もしていただけるわ。早くしないと噂だけが独り歩きして事実がねじ曲がってしまうわよ?」
伯爵子息とお見合いする気がないことをお母様から聞いている伯母様は、それなら他の方と婚約して噂の鎮静化を目指しなさいと忠告してくれました。
「根も葉もない噂など放っておけばそのうち落ち着くとお母様はおっしゃっていましたけれど?」
「あの子は夢見がちなところがあるから」
ふぅ、とため息を吐いて伯母様は持っていた招待状をテーブルに戻して話を続けます。
「アンジェ、あなたの母親が自分は政略結婚だから娘には恋愛結婚をしてほしい、などと常日頃から言っているのは知っています。ですが状況が変わったのだと理解なさい」
状況が変化したから、わたくしは父から逃げているのですが、伯母様は逃げているだけでは悪化する一方だと言います。
「当主とはいえ男爵位のあなたの父親はどうでもいいのです。問題は貴族間の噂にあるのですから」
「ええ。わたくしが伯爵子息を手玉にとったとか、いい気になっているとか、聞こえるように陰口を言う方が多いのです。こちらは描かれた顔しか知らないというのに、いい迷惑ですわ」
思い出して憂鬱な気分になっていると、伯母様は古参の侍女を呼び寄せ「姪のアンジェも出席すると添えて返事を出してちょうだい」と命じました。
「伯母様!」
「お黙りなさい」
わたくしの抗議の声を遮り、男性も参加する昼のガーデンパーティーへの強制参加を決定した伯母様。
「ようくお聞きリリアンジェ。その陰口が嫉妬からくる作り話だと断言できるのはあなたに近しい者だけです。あなたを知らぬ第三者にはそれが真実だと伝わってしまうのですよ。今はまだあなたが未成年ですからね、その程度の噂で済んでいるのです」
成人まであと半年、このままでは身持ちの悪い女性として社交界で認識され、恋愛どころかお見合い相手まで見つからなくなってしまうと伯母様は語りました。
ー社交界なんて滅んでしまえー
今日はそれだけ書いて、紙をぐしゃぐしゃに丸めてから焼き捨てました。
13
あなたにおすすめの小説
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
結婚して5年、初めて口を利きました
宮野 楓
恋愛
―――出会って、結婚して5年。一度も口を聞いたことがない。
ミリエルと旦那様であるロイスの政略結婚が他と違う点を挙げよ、と言えばこれに尽きるだろう。
その二人が5年の月日を経て邂逅するとき
呪いを受けて醜くなっても、婚約者は変わらず愛してくれました
しろねこ。
恋愛
婚約者が倒れた。
そんな連絡を受け、ティタンは急いで彼女の元へと向かう。
そこで見たのはあれほどまでに美しかった彼女の変わり果てた姿だ。
全身包帯で覆われ、顔も見えない。
所々見える皮膚は赤や黒といった色をしている。
「なぜこのようなことに…」
愛する人のこのような姿にティタンはただただ悲しむばかりだ。
同名キャラで複数の話を書いています。
作品により立場や地位、性格が多少変わっていますので、アナザーワールド的に読んで頂ければありがたいです。
この作品は少し古く、設定がまだ凝り固まって無い頃のものです。
皆ちょっと性格違いますが、これもこれでいいかなと載せてみます。
短めの話なのですが、重めな愛です。
お楽しみいただければと思います。
小説家になろうさん、カクヨムさんでもアップしてます!
結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。
四季
恋愛
明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる