男爵令嬢の贅沢な悩み

たんぽぽ

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子爵夫人

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「折角の機会ですし、アンジェも行きましょう?」
「いいえ。わたくしは遠慮致します」

 この家の女主人でわたくしの母の姉である伯母が、自分に来た招待状を手渡してくれましたが詳しく読むこともなくお断りします。

 わたくしに懸想しているらしい伯爵子息は、貴族男性が集まる紳士クラブで事あるごとに一目惚れした経緯を語っているようで、格上の相手を射止めたわたくしは一部の女性たちからいらぬ嫉妬をうけ、その他の女性たちからは腫れ物に触るかのように扱われてしまい、元々あまり得意ではなかった社交がとても苦痛に感じられるようになりました。

 家にいてもお見合いさせたいお父様が部屋にやってきて面倒ですし、お母様に相談した結果、家から離れた地域にある伯母の家に侍女として働きに出ることにしました。お父様は今頃お母様に事情を聞いて頭を抱えていることでしょう。

「アンジェの気持ちも理解できるけれど、こういう時は別の相手を見つけてしまうのが一番いいの。この主催者のパーティーなら招待されている方も素行が良い方ばかりですし、独身男性の紹介もしていただけるわ。早くしないと噂だけが独り歩きして事実がねじ曲がってしまうわよ?」

 伯爵子息とお見合いする気がないことをお母様から聞いている伯母様は、それなら他の方と婚約して噂の鎮静化を目指しなさいと忠告してくれました。

「根も葉もない噂など放っておけばそのうち落ち着くとお母様はおっしゃっていましたけれど?」
「あの子は夢見がちなところがあるから」

 ふぅ、とため息を吐いて伯母様は持っていた招待状をテーブルに戻して話を続けます。

「アンジェ、あなたの母親が自分は政略結婚だから娘には恋愛結婚をしてほしい、などと常日頃から言っているのは知っています。ですが状況が変わったのだと理解なさい」

 状況が変化したから、わたくしは父から逃げているのですが、伯母様は逃げているだけでは悪化する一方だと言います。

「当主とはいえ男爵位のあなたの父親はどうでもいいのです。問題は貴族間の噂にあるのですから」
「ええ。わたくしが伯爵子息を手玉にとったとか、いい気になっているとか、聞こえるように陰口を言う方が多いのです。こちらは描かれた顔しか知らないというのに、いい迷惑ですわ」

 思い出して憂鬱な気分になっていると、伯母様は古参の侍女を呼び寄せ「姪のアンジェも出席すると添えて返事を出してちょうだい」と命じました。

「伯母様!」
「お黙りなさい」

 わたくしの抗議の声を遮り、男性も参加する昼のガーデンパーティーへの強制参加を決定した伯母様。

「ようくお聞きリリアンジェ。その陰口が嫉妬からくる作り話だと断言できるのはあなたに近しい者だけです。あなたを知らぬ第三者にはそれが真実だと伝わってしまうのですよ。今はまだあなたが未成年ですからね、その程度の噂で済んでいるのです」

 成人まであと半年、このままでは身持ちの悪い女性として社交界で認識され、恋愛どころかお見合い相手まで見つからなくなってしまうと伯母様は語りました。

ー社交界なんて滅んでしまえー
 
 今日はそれだけ書いて、紙をぐしゃぐしゃに丸めてから焼き捨てました。
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