婚約者はメイドに一目惚れしたようです~悪役になる決意をしたら幼馴染に異変アリ~

たんぽぽ

文字の大きさ
3 / 18

幼馴染

しおりを挟む
『君に恋をしてから私は愚かになったと思う。闇夜に輝く月を見て君を想い、届かぬ距離だと諦めながら手を伸ばし、掴んでしまえば手放せないとわかっていても手に入れようと必死に悪あがきをしている』

 主人公の足元に跪き自身の秘めた恋心を打ち明ける男性の言葉に、以前読んだ時には感動があったと思います。けれど今はただ、愚かなのは自分のせいであって主人公のせいにするなど男の風上にも置けないと、妙なところが鼻についてしまってこの先を楽しく読むことは難しそうです。

「もういいわ」

 読みかけの本を閉じてテーブルの上に置くと、下げてしまって構わないのか? という視線が向けられたので軽く頷きます。すると本はわたくしの視界から消えて棚に戻っていきました。

 この本に出てくる主人公たちの恋路を邪魔する意地悪な女性は失敗してしまったけど、わたくしは大切な家族のためにも、ロイエン様には恋を諦めて現実を見てもらう必要があります。

 その第一歩として問題のメイドには実家に帰ってもらいたいのだけど、そうすると今度はどこでどんな噂が流れるか……。今のロイエン様は男爵家だろうが関係なく押しかけてしまいそうな、無駄な情熱を持っていそうで怖いのです。

 明日はクリスティナ様とお会いできるから、その時には少しだけ誰にも言えない愚痴を聞いて頂きましょう。

 現王妃様の第一子であり、王の第二子にして第一王女でもあるクリスティナ様。
 生まれつき心臓が悪く、最近では外を出歩くことすら難しくなってきたご様子で、月に一度わたくしを自身の離宮に招くのをとても楽しみにしてくださっています。

 わたくし自身も、幼き頃は姉のように慕っていたクリスティナ様とお会いできるのは楽しみではあるけれど、ここ数年は背徳感が芽生えてしまいそうになる時があって困っているのも事実。

 八歳の頃に出会った二つ年上のクリスティナ様。
 日に当たらない生活をしているせいか白く美しい素肌の持ち主だった王女殿下は、今はもう記憶の中にだけ。
 少しいたずら好きで、よくわたくしをからかっていた幻の王女殿下は、今や人に見られてはならない立派な成人男性へと変貌を遂げてしまわれた。

 秘密を知る者はごく少数。その身を守るのは王の盾であり矛でもある王家の隠密たち。けっして外に漏れてはいけない王家の極秘事項をわたくしに教えたのは他でもないクリスティナ様。
 けれど何度聞いても本当のお名前を教えてはくださらないひどい人。

 王家の秘密を家族にも黙っている忠誠心の塊のようなわたくしの愚痴、たまには聞いて頂いても罰は当たらないでしょう。

 きっとクリスティナ様が本物の王女殿下であったなら、部屋には侍女や護衛が大勢いてこんな話をできる場所ではなかったのだろうけど、幸か不幸かクリスティナ様はわたくしと会う時には自然体でいたいとかなんとかおっしゃって、全員外にだしてしまうから……。
 
 未婚の男女が同じ部屋に二人きりでいるという、人に知られたらわたくしは風に舞う木の葉のように軽くふしだらな女性だと言われても仕方ない状況なのに、王家の秘密という言葉が全てを包み隠す離宮での出来事。

 わたくしたちの間にあるのは恐れ多くも友情であって、恋情ではない。けれど普通の同性とはどこか違う歪な関係。

 でも不思議なことに、クリスティナ様が男性だと知ってからも、二人きりが嫌だと思ったことはまだ一度もないのです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「帰ったら、結婚しよう」と言った幼馴染みの勇者は、私ではなく王女と結婚するようです

しーしび
恋愛
「結婚しよう」 アリーチェにそう約束したアリーチェの幼馴染みで勇者のルッツ。 しかし、彼は旅の途中、激しい戦闘の中でアリーチェの記憶を失ってしまう。 それでも、アリーチェはルッツに会いたくて魔王討伐を果たした彼の帰還を祝う席に忍び込むも、そこでは彼と王女の婚約が発表されていた・・・

いつまでも変わらない愛情を与えてもらえるのだと思っていた

奏千歌
恋愛
 [ディエム家の双子姉妹]  どうして、こんな事になってしまったのか。  妻から向けられる愛情を、どうして疎ましいと思ってしまっていたのか。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

今さら遅いと言われる側になったのは、あなたです

有賀冬馬
恋愛
夜会で婚約破棄された私は、すべてを失った――はずだった。 けれど、人生は思いもよらない方向へ転がる。 助けた騎士は、王の右腕。 見下されてきた私の中にある価値を、彼だけが見抜いた。 王城で評価され、居場所を得ていく私。 その頃、私を捨てた元婚約者は、転落の一途をたどる。 「間違いだった」と言われても、もう心は揺れない。 選ばれるのを待つ時代は、終わった。

幼馴染、幼馴染、そんなに彼女のことが大切ですか。――いいでしょう、ならば、婚約破棄をしましょう。~病弱な幼馴染の彼女は、実は……~

銀灰
恋愛
テリシアの婚約者セシルは、病弱だという幼馴染にばかりかまけていた。 自身で稼ぐこともせず、幼馴染を庇護するため、テシリアに金を無心する毎日を送るセシル。 そんな関係に限界を感じ、テリシアはセシルに婚約破棄を突き付けた。 テリシアに見捨てられたセシルは、てっきりその幼馴染と添い遂げると思われたが――。 その幼馴染は、道化のようなとんでもない秘密を抱えていた!? はたして、物語の結末は――?

勇者様がお望みなのはどうやら王女様ではないようです

ララ
恋愛
大好きな幼馴染で恋人のアレン。 彼は5年ほど前に神託によって勇者に選ばれた。 先日、ようやく魔王討伐を終えて帰ってきた。 帰還を祝うパーティーで見た彼は以前よりもさらにかっこよく、魅力的になっていた。 ずっと待ってた。 帰ってくるって言った言葉を信じて。 あの日のプロポーズを信じて。 でも帰ってきた彼からはなんの連絡もない。 それどころか街中勇者と王女の密やかな恋の話で大盛り上がり。 なんで‥‥どうして?

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

処理中です...