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噂と現実

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 先に嫁いでいったお姉様から手紙が届きました。それも、わたくし個人宛のみという不自然さで。今まで両親に向けての手紙の封筒に、わたくし宛ても同封されていたというのに。

「珍しいこと」

 メイドから手紙を受け取り読んでみると、内容は婚約に対する祝いの言葉と最近流れている噂話。

『最近よく聞かれるのだけど、テンプレッテル家のロイエン様が貴女を見初めて侯爵家へ通い詰めていると噂になっていますよ。なんでも貴女を手に入れるために必死にお父様を口説いているのだとか。そういう予定で来春に話を繋げるだなんてわたくしは知らなかったから、適当に誤魔化してしまったわ』

 自身が仲間外れにされていた事に対して、いじけていることをわざわざ読み取りやすく書いてくださるお茶目なお姉様。ですが正直申し上げて、わたくしもそのようなロマンチックな設定は存じ上げません。

「どうなっているのかしら?」
「何かございましたか?」
「いいえ。なんでもないの。少し外してくれる?」
「かしこまりました」

 手紙を読んでの独り言に反応した古参のメイドを部屋から出して、お姉様への手紙の返事をしたためる。けれど一体、どこから訂正したら良いのやら。

「ロイエン様が数日置きに我が家にいらっしゃるのは本当ですけど、そもそも誰がそんな話を手に入れて広めるのかしら。まったく、どこにでも人の目というものがあるのね」

 テンプレッテル家の馬車でいらっしゃることもあれば、単騎で駆けてまでご機嫌伺に来てくださるロイエン様。初めのうちはわたくしも、婚約者として周知できずとも、お互いを知り合い絆を深めあってくださるつもりなのだと信じて、さすが近衛に所属する騎士様だと……そう思っておりましたのに。

「お目当てはメイドです、なんて書いてしまったらお姉様が里帰りしてきそうですわねぇ」

 それもいいかもしれない。
 まだ何も気づいていない両家の親、最近何かあるのではないかと勘付き始めた使用人、そして何も知らずただお茶を運ぶ行儀見習い。

 わたくしだけが振り回されているところにお姉様が嵐を呼んでくだされば……だめね、大問題に発展してしまうわ。

 古参のメイドがいれた美味しいお茶の後で、行儀見習いの新人メイドのお茶を求められることが続けば、その場に何度が居合わせた者たちが不思議に思い、勘繰るのは至極当然のこと。
 問題は、それに気付かないはずがないのに、何度も繰り返すロイエン様。

「恋をしてから愚かになった気がする、そう語っていたのはどの物語だったかしら? もう一度読みたいわ」

 書きかけの手紙を破り捨て、当たり障りのない内容へ書き換えて封をする。お姉様のご機嫌をこれ以上損ねないように、噂が大きく独り歩きをしているだけだと訂正を入れたけれど、次に聞く時はどのような噂話になっているのか、興味もあるけれど少しだけ恐ろしい。

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