命を助けてもらう代わりにダンジョンのラスボスの奴隷になりました

あいまり

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第4章:土の心臓編

109 危険な優しさ

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 パチパチと乾いた音を立てながら燃える焚火を前に、私はリート達と分かれてから、合流するまでのことを簡潔に話した。
 まぁ、城でリートに説明したことと、大体一緒だ。
 友子ちゃんにずっと一緒にいると約束してしまったことも話そうかと思ったが、やめておいた。
 リートに説明した時は、それを説明したらもう一緒にいられないと思ってしまい話せなかった。
 あの時は彼女への恋心も自覚していなかったし、自分の気持ちの整理すら出来ていなかったから。
 今話さなかったのは、これは私と友子ちゃんの問題だから話しても仕方がないと思ったし、やはりこれは私一人で片を付けるべき問題だと思ったから。

 機会があれば、一度彼女と話をする時間が欲しい。
 まともに話すことすら出来ずに離れることになってしまったし、やっぱり私にとっては大切な友達だから、せめてちゃんと事情を説明する時間は欲しい。
 約束を破ってしまうことへの罪悪感はあるし、このことでまた心配を掛けるのは流石に気が引ける。
 彼女からすれば、魔女リートは敵というイメージが強いだろうし……何より、二人の出会い方が色々と酷かったし……。
 私が責められることは構わないけど、心配を掛けたままなのは嫌だ。

「そういえば、こころの知り合いについて少し気になってることがあるんだけど、良いかしら?」

 ある程度皆と別行動していた時のことを説明し終えた時、リアスがそう言いながら軽く手を挙げた。
 それに視線を向けると、彼女は手を下ろし、口を開いた。

「さっきからこころが何度か言ってる、トモコ……って子は、誰のことなのかしら?」
「あっ、私も気になってた~」

 リアスの問いに、アランがピシッと手を挙げながらそう続けた。
 それに、私は少し驚いた。
 友子ちゃんの名前なんて出したっけ? と少し思ったが、極力名前は伏せていたつもりだったけど、無意識に名前を出していたのだろう。

「えっ……そんな気にするようなこと……?」

 ひとまずそう返してみると、すぐにアランが両手に拳を作りながら「そうだよ~!」と不満そうに言った。

「だって結構人多かったし、誰がどの子なのか覚えてないもん。私がちゃんと顔と名前覚えてるの、ユズちゃんしかいないし」
「いや、アランが気にするのは分かるけど……」

 私はそう言いながら、リアスに視線を向けた。
 アランが気になるのは、なんとなく分かる。
 まだ会ったばかりだから断言できるわけでは無いけど、子供っぽい性格だから好奇心旺盛そうだし、自分の知らないことは知らないと気が済まなさそうだ。
 しかし、リアスがそれよりも先に知りたがったのは、何だか意外だった。
 正直、私のクラスメイトになんて、一番興味無さそうなのに。

「……別に、深い意味は無いわよ。少し気になっただけ」

 すると、リアスはそう言って目を逸らした。
 ……彼女にしては珍しく、何だか歯切れの悪い口調だ。
 そんな風に考えていると、リートが口を開いた。

「トモコというのは、アレじゃろう? 矛を持った水色髪の女であろう?」
「あぁ、うん。そうだけど……なんで知ってるの?」
「なんでも何も、お主を迎えに行った時に来たでは無いか。お主も名前で呼んでおったし」

 リートの言葉に、私は先程の城での一件を思い出す。
 ……そういえば、友子ちゃんが入ってきた時に、確かに名前で呼んだな。
 咄嗟のことだったから、少し記憶から抜けてた。

「……あの子が……」

 リートの説明で顔を思い出したのか、リアスはそう呟きながら目を伏せた。
 すると、アランも思い出したのか、ポンッと手を打って「あぁ~! あの子かぁ!」と言った。

「つーか、お前……そのトモコと会ったって、何も無かったのか?」

 フレアはどこか神妙な面持ちで、リートにそう尋ねた。
 すると、リートはコクッと一度頷き「大丈夫だったぞ」と言った。

「まぁ、あやつが来た後にすぐにこころを連れて出てきたしのぅ。とりあえず何も無かったわい」
「……それなら良かったけど……」
「ねぇ、話が見えてこないんだけど……友子ちゃんがどうかしたの?」

 皆がやけに友子ちゃんを気にしている様子に、私は困惑しながらそう聞いた。
 すると、フレアがガリガリと頭を掻きながら口を開いた。

「いや、大したことではねぇけど……ホラ、そのトモコがリアスの作った壁壊してたろ? だから気になっちまってよ」
「え、友子ちゃんが……?」

 フレアの言葉に、私はつい聞き返す。
 すると、彼女はキョトンとした表情で私を見て、「知らなかったのか」と呟いた。
 いや、知らなかったよ。てっきりアランの攻撃で勝手に壊れたものだとばかり……。

「あぁ~そっか! こころちゃんはあの時落ちてたから見てないんだ!」

 思い出したような口調で言うアランに、私は頬を引きつらせた。
 誰のせいだと思ってるんだ……。

「まぁ、アランの攻撃で多少は脆くなっていたでしょうけど、それでもそう簡単に壊せるものでは無いし……それに、あの子は何だか、危険な感じがするのよね」
「……友子ちゃんが?」
「えぇ。なんていうか、目的の為なら手段を選ばない感じというか……特定の誰かの為なら、他はどうなっても良いと思っていそうというか」

 リアスはそう言いながら、私の目をジッと見つめてくる。
 それに、私は驚いた。
 友子ちゃんが危険、なんて……考えたこともなかった。
 まぁ、私と再会した時に何度も泣き出したりとか、ちょっと不安定な部分はあるけど……。

「……でも、友子ちゃんに限って、それは無いと思うよ」

 私の言葉に、リアスは目を丸くした。
 すぐに、私は続けた。

「あの子は優しい子だよ。確かに、ちょっと不安定な所はあるけど……危険なんかじゃないよ」

 そう。友子ちゃんは、優しい子だ。
 私なんかと友達になってくれて、私の為に涙を流す程に大切に思ってくれる人だ。
 少し不安定で不器用かもしれないけど、優しい人なんだ。

「……まぁ、今の所はそういうことで良いわ」

 私の言葉に、リアスはそう言って、ヒラヒラと軽く手を振った。
 ……何だか含みのある言い方だな、と、少しムッとしてしまう。

「そういやぁ、トモコの話で思い出したんだけどよ。リートとこころが城の近くで話してた奴は誰なんだ?」

 すると、フレアがそんな風に聞いてきた。
 城の近くで話していた人……ノワールのことか。

「あぁ、あやつはノワールじゃ。ノワール・ビラント」

 リートがそう言った瞬間、三人の中に明らかに緊張が走った。
 突然のピリッとした空気に、私は少し驚いた。
 しかし、すぐにその理由に気付き、小さく「あぁ」と呟いた。

「そっか……皆、リートの記憶があるから……」
「まぁ、それもあるけど……」
「ノワールは俺達の産みの親みたいなものだからな」

 リアスの言葉に続けるように、フレアが言う。
 自分の言葉を遮られたからか、リアスは少し不満そうな表情を浮かべた。
 それを無視して、アランが続けた。

「そうそう! 私達のお母さんだよね~」
「……でも、私達が生まれてからでも、もう三百年くらい経っているでしょう? 普通は生きていないんじゃ……」
「あやつが寿命程度で死ぬはずが無かろう。魔力を使って未だに生きておったわ」

 リアスの言葉に、リートはどこか忌々しそうな口調で言う。
 本当にノワールのことが嫌いなんだな……いや、当たり前か。
 私が知っているだけでも、ノワールはリートを封印した張本人みたいだし……他にも、色々と因縁がありそうだし。

「でもよ、ンな三百年も生きて、周りは何とも思わねぇのか?」
「見た所、普段は声を変えたりローブを着たりして正体を隠しているようじゃったからのう。変装で上手く誤魔化しておるのじゃろう」
「ンな上手くいくもんかねぇ」

 リートの予想に、フレアは頬杖をつきながらそう呟いた。
 まぁ、種明かしされてみれば中々にあっけないものではあるが、実際かなり上手くいっていると思う。
 見た目の怪しさは拭えないが、いっそあの恰好を宮廷魔術師としての正装としてしまえば、仕方がないとある程度は許容される。
 あとは声を変えれば、別人を装うことは可能だ。
 実際、私はノワールのことをずっと、クライン・ラビリウスという男性だと思っていたわけだし。
 ローブで体型と顔が隠れるから、彼女の性別については声で判別するしか無く、名前も名乗られたものを信じるしかない。
 まだノワールの名前や顔を知っている人間がいた頃ならまだしも、今となってはそんな人はリート達くらいなもので、仮に性別が知られたところで誤魔化し様はある。
 そして、どうやらリートも同じことを考えたようで、似たような感じのことを話していた。
 話を聞いたリアスは、感心した様子で「なるほどねぇ」と呟いた。

「我が創造主ながら、中々に狡猾というか何と言うか……」
「何言ってんだ。悪知恵が働くところなんか、お前にソックリじゃねぇか」
「まぁ、誰かさんみたいに脳味噌まで筋肉で出来ていそうな馬鹿に生まれるよりはマシよね」
「あ゛ぁ゛ッ!? テメェ喧嘩売ってンのか!?」
「別に誰も貴方のこととは言ってないじゃない」
「喧嘩するなら他所でやれ。妾はもう疲れた」

 最早日常風景と化しかけている二人の争いを前に、リートはそう言いながら伸びをした。
 ……そういえば、城でも疲れたって言ってたっけ。
 ホント、私のせいで色々と迷惑をかけてしまったな。

「そういえば、明日からはどこに向かうの? ……私のせいで、順路が変わっちゃったよね?」

 なんとなく気になり、そんな風に聞いてみる。
 すると、リートは私の顔を見上げ、すぐに「いや」と答えた。

「別にそうでもないぞ。とりあえず、ここから東に向かって、海を渡ってライジック大陸のデンティという国を目指すぞ」
「そこに四個目の心臓が……」

 私の言葉を遮るように、バゴォッ! と鈍い破裂音がした。
 視線を向けてみると、そこではヌンチャクを振り下ろした体勢のフレアと、薙刀を構えてそれに対峙するリアスの姿があった。
 よく見ると、フレアがヌンチャクを振り下ろしたと思われる場所は地面が抉れ、直径一メートルくらいのクレーターが出来ていた。

「え、ちょっと何やってんの……?」
「お前はホントに癇に障ることしか言わねぇなッ!」
「あら? 私は事実を言ったまでじゃない」
「テメェ……!」

 怒るフレアに対し、リアスは飄々とした態度でそれに応じる。
 ちょっと目を離した隙にこの二人は……!

「おぉ~! 良いぞ~もっとやれ~!」

 そして、アランはそれを見て楽しそうに笑いながらそれを囃し立てている。
 見てるなら止めてくれ、と一瞬思ったが、アランの性格を考えると参戦しないだけまだマシかもしれない。

「全く……こころ、止めて来い」

 呆れた様子で言うリートに、私は「はいはい」と答えながら立ち上がる。
 こうして、今日も夜は更けていく。
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