悪いお姫様は飼っていた犬に飼われる

りつ

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国王殺し

 ロゼリアは国王の言葉に声を上げて笑った。

「まぁ、陛下ったら。わたくしにはそんな大それた度胸も力もございませんわ」
「黙れっ! 貴様だなっ、貴様がレオーネ国と通じ、儂をこんな目に遭わせているのだなっ!」

 こちらの言い分を詳しく聞こうともせず、王は激昂した様子で襲いかかってきた。

 老いて太った身体のくせに怒りが原動力となっているのか、ロゼリアは床へと突き飛ばされ、馬乗りになられた。頬を叩かれ、首を絞められる。ロゼリアも負けじと皮膚に爪を突き立て、嘲笑ってやる。

 ダニーロはそんなロゼリアの反抗にますます怒りを煽られるが、それでよかった。この男にずっと最低最悪な気分を味わわせたかったのだ。

「この売女め! やはり貴様は殺しておくべきだった!」
「ふふ。もう、遅いわ……。今度こそ誰も、お前を、助ける者はいない」

 ぎりっと首に手をかけられ、絞め殺されそうになるが不意に力が弱まった。

 不審に思うロゼリアの顔を無表情で見下ろしていたダニーロは醜悪な笑みで告げた。

「そうだな。では最期にお前を犯してやろう」
「……」
「お前はマヌエラに生き写しだ。あの女は呆気なく死んだが、お前は図々しく生きている。くくっ、そうだ、マヌエラの代わりに儂を慰めればいい」

 実の父親とも思えない悍ましい提案にロゼリアは絶望することなく、悠然とした微笑みで返した。

「どうした。嬉しいのか」
「ええ、とても嬉しいわ。実の父親を殺すのに何の罪悪感も抱かずに済むのだから!」

 首元にかけてあったペンダントの宝石が発光し、国王の目が開かれる。

 この男をレオーネ国の兵たちに引き渡す前に、ロゼリアが地獄に連れて行こう。

 自分の命と共に。

「がっ……」

 ロゼリアは目を見開いた。自分が今まさに手を下そうとするより一瞬早く、ダニーロが呻き声を上げたのだ。口を開き、だばだばと血を吐き出す。

(え――……)

 まだ何もしていない。この男はこんなふうに死ぬのではない。

 一体何が、とロゼリアの視線はダニーロの胸元に向けられる。心臓部分を的確に狙うように剣が貫かれていた。

「が、は……っ」

 剣が引き抜かれていく同時にダニーロの身体も微かに持ち上げられる。彼は未だ自分の身に起こっていることが理解できないまま、光が消えかけていく虚ろな瞳でロゼリアに手を伸ばす。だが触れる前に彼の身体は横に吹き飛んだ。

「ぅ、あ、ああ、ぁっ……」

 何度か転がったあと、仰向けになったダニーロは真っ赤に染まった胸元をかきむしるようにして、ようやく絶命した。口を半開きにし、目をかっと開いたままの死に顔はさぞ悍ましいだろうが、ロゼリアは父の死よりも、目の前の男の方が気になった。

「クラウディオ……」

 ロゼリアの父であり、この国の王を殺したのは、ロゼリアが今まで可愛がってきた飼い犬だった。

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