買われた平民娘は公爵様の甘い檻に囚われる

りつ

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19、交わる世界*

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 最初は転びそうになったところを受け止めてもらったのだと思ったが、彼はいつまで経っても(セシリアがことさら長く感じただけかもしれないが)離れようとしなかった。

「クライヴ様、濡れてしまいます……」

 自分と違い彼は服を着ている。

 胸を押してこちらから離れようとするが、頬に手を添えられて顔を上げさせられた。

(あ……)

 彼は怒っているのだと思っていた。だから氷のような冷たい目をしているのだと……。

 でも、間近で見た彼の瞳には熱が宿っていた。怒りではなく、もっとそれ以外の感情が見えて――

「ん……」

 瞳に目を奪われていると、そのまま顔が近づいてきて、口づけされた。

 あまりにも予想外の流れに、唇が離れた後もセシリアは目を真ん丸とさせてクライヴを見つめ続けた。

 彼はそんな彼女に何を思ったのか、啄むような口づけをしながら、何も身につけていない身体を――背中から臀部にかけてするりと撫でてきた。

「こんな格好で……」

 その呟きにかっとなる。

「ですから、いま服を着ますから!」

 もう一度彼の身体を押しやろうとすれば、やはり邪魔されて、きつく抱きすくめられる。

 セシリアは声を上げようとして、下半身に当たる硬い昂りにぎくりと固まった。

(どうして……)

 わからないまま、セシリアはクライヴに首筋の肌を吸われ、肩や胸へと赤い痕を残されていく。彼の頭はどんどん下がっていき、膝までつかせてしまう。

「だめ、クライヴ様、そんなこと、ぁんっ……」

 下から乳房を掬い上げられ、蕾をきゅっと摘まれた。

 彼はさらに舌を伸ばし、肌を舐めてくる。臍の中まで舐めようとするので、セシリアはとっさに髪を掴んで止めようとする。

「やだっ、汚いっ」
「汚くない……水を浴びていたじゃないか。気持ちよさそうに泳いで……」

 一体いつからクライヴは自分を見ていたのだろう。子どものように泳ぐ姿まで見られていたならば、もう終わりだ。

「ごめんなさい、クライヴ様、もう、しませんから、だから、あっ――」

 薄い茂みに彼の鼻先が当たった。息が吹きかけられ、花びらに口づけが落ちてくる。何度も何度も触れて、ゆっくりと綻び始めると、舌先が入ってきて、蜜を啜ろうとする。

「あ、やだ、舐めちゃ、だめ……んっ、んんっ……あっ」

 クライヴの舌はまるで生き物のようにセシリアの愛液を得ようとする。蜜蜂が花の受粉を手伝うように溢れてくる蜜を蕾に運び、ふっくらとするまで何度も優しく突いてくる。

 その熱心な働きに応えるよう蕾は膨らみ、美味しそうに実っていく。

「ふっ、ぁ……あっ、だめっ……そんな、吸われたら、もう……っ、あ、んっ――……」

 赤い実と花芯を何度も往復するように舐められて、セシリアは我慢できず、クライヴの後頭部を押さえつけながら果ててしまった。がくがくと脚が震え、お腹の奥が波打つ。苦しいだろうに彼はされるがまま、溢れる淫水を飲み干していく。

 ようやく絶頂の余韻が収まり、クライヴの頭も離れると、セシリアは力が入らず、そのまま座り込みそうになる。

 クライヴは落ちてくるセシリアの身体を受け止め、そのまま柔らかな茂みの上へ彼女を寝かせた。脚をうんと大きく開かせ、顔を近づけてきたところで、彼女ははっとする。

「だめっ、もう、許して、あっ――」

 クライヴはまた口淫を始め、セシリアを高みに昇らせる。それは二度、三度と続いていき、セシリアは気がおかしくなりそうだった。

「やぁっ、んっ……クライヴさまぁ、許し……っ、もう、いやぁ……」

 呂律の回らない声で、必死にクライヴに懇願する。そのおかげか、ようやく彼はやめてくれた。これでやっと終わる。

 だがその期待は身を起こした彼の顔を見て間違いだと悟る。

「あ……、だめ、いま、きちゃ、ぁ、あぁ、んっ――」

 腕を伸ばして止めようとしたのも虚しく、クライヴのものがずぶずぶと中へ入ってきた。

「ふ、ぅ――……ぁ、熱い……」

 舌先では届かなかった奥は水に浸かっていたせいかまだひんやりとしており、いつもより鮮烈に彼のものを感じてしまう。

 甘い吐息を零しながら身悶えるセシリアの姿は、クライヴにはもっと欲しいと媚びるように映ったのか、逃げないように自分の方へ引き戻し、さらに片脚を上げさせて、奥をねっとりと突いてきた。

「あ、そこ、やだ、そんな奥、まで……は、ぁん……っく、んっ――ぁ、あっ、あぁっ、ん……っ」

 セシリアが達して、その締めつけにクライヴは苦しそうな顔をするも、動くことはやめなかった。どっと溢れ出した蜜を潤滑油にし、セシリアの弱い場所を容赦なく突いてくる。

「あっ、また、いっちゃ、だめっ……」
「何度でもいくといい」

 セシリアはいやいやと頭を振って、身を捩じる。上半身が横になり、草の葉が胸をちくちくと刺してくる。その刺激すら今のセシリアには感じてしまい、伸びてきたクライヴの指で胸の蕾を弄られると、また目の前が弾け、波に攫われた。

「くっ――」

 クライヴも今度こそ射精したみたいだ。溢れた愛液や精液が肌を伝っていくのがわかる。

 今度こそ終わった。セシリアが安堵で目を瞑ろうとした瞬間、突然腰を掴まれて、身体をうつ伏せにさせられた。尻を高く持ち上げられて――

「あっ――」

 引き抜かれたと思った肉棒がまた入って来る。蜜壁を何度か擦るだけで硬さを取り戻し、セシリアにも熱を与えてやろうと勢いよく行き来して、ぱんぱんっと大きな音を立てて肌をぶつけてくる。

「あっ、あぁっ……」

 腰を打ち付けられ、身体が前へ押しやられる。腕を支えにして踏ん張るも、腰が砕けそうなほどの快感に力が入らない。自分の意図とは関係なく甘い声が出て、辺りに響き渡る。

 クライヴはセシリアに覆い被さってきて、胸と地面の間に手を指し込んでやわやわと乳房を揉んでは蕾を摘まんでくる。泣きじゃくるセシリアのこめかみや頬に口づけし、耳朶を甘噛みして情欲を孕んだ声で囁く。

「はぁ……きみの中は熱くて、蕩けそうだ……」
「ちがっ、や、あ、んっ……」

 逃げたいのに腕の中にがっちりと閉じ込められてクライヴのしたいようにされる。

 じゅぶじゅぶと鳴らされる淫音は今まで薄暗い寝室の中だけで聞いていたのに、今は視界に入る全てものが光り輝いている。夢を見ているような気がして、でも絶え間なく与え続けられる快感が、今自分を支配している彼の存在は決して夢ではないと突き付けてくる。

「あぁ、も、だめ……もっと、あぁっ……んっ、いい、そこっ……」

 やめてほしいのか、もっとしてほしいのか、セシリアは自分でもわからずクライヴの律動に合わせて腰を揺すって、快楽を貪っていた。

「あぁ、いきそうだっ、セシリア、一緒にっ――」
「あっ、はいっ、んっ、あ、あぁっ――」

 番い合った獣のように二人は身体を震わせ、同時に高みに昇った。どくどくと熱い飛沫を最奥へ放たれ、セシリアは達した余韻で小刻みに身体を震わせ続けた。

「セシリア……」

 クライヴが耳に唇を寄せ、まだ整っていない呼吸の合間に名前を呟きながら身体を抱きしめてくる。もはや水で冷えていた身体は汗だくで、熱を孕んでいた。

 互いの乱れた息づかいに鳥の囀りが重なり、心地よい疲労が瞼を重くさせる。しばらくの間どちらも何も言わぬまま触れた肌の温もりを感じ合っていたが、セシリアはやがてゆっくりと身体の向きを変え、クライヴの顔を見た。彼もまた、自分を見つめていた。

「どうして、ここへ来たんだ?」

 先に口を開いたのはクライヴだった。

「……バルコニーから眺めていたらここを見つけて、ちょうど階段もあって……なんだか、すべてが嫌になってしまって、ふと下りて、どこかへ行ってしまおうと思って……誰にも見つからないのがすごく楽しくて、冷たい水が気持ちよさそうで、泳ぎたくなったんです」

 疲れた頭で、あまりよく考えず、独り言のように言葉にしていく。喘ぎ過ぎて声は掠れており、我ながら要領を得ない説明だ。

 けれどクライヴはじっと耳を傾け、最後まで聞き終えると、今度は自分の番だと言うように告げた。

「きみが森の中を駆けて行く姿を見かけた時、ハンスに会いに行っているのかと思った」
「……クライヴ様は、わたしとハンスの仲をまだ疑っているのですね」

 怒る気力はすでになかったので、ただ淡々と事実を口にしたような感じになった。

「そうだ。きみと彼は幼馴染だと聞いて、あの日隣室できみをいかせた私を、きみは許さないと思ったから……こっそり逢っているのではないかと想像した」

 許さないと思った、ということは、彼自身ひどいことをした自覚があるのだ。

 自分のことで想像するクライヴがなんだか少しおかしくて、セシリアは微笑した。

「あの日のクライヴ様は、確かにひどいと思いました」
「……すまなかった」
「どうして、あんなことをしたの?」

 彼はしばし押し黙った。

「公爵家の妻として、わたしが相応しくないと思ったから?」
「相応しくないからといって、あんな真似はしない。相応しくないとも、思っていない」
「じゃあ、どうして?」

 子どものように無邪気に尋ねる。

 クライヴは初めて見る、どこか言い辛そうな顔をして、自身の気持ちを打ち明けた。

「上手く説明できないが……きみたち二人の関係に嫌悪感を覚えた。きみにあの男のことを考えてほしくなかった。罰を与えたい気持ちもあったが……懲らしめるのが目的ではなく、きみに私のことを考えさせるのが一番の望みだった」

 セシリアはクライヴの言葉を頭の中で反芻する。

 そして一つの可能性に行きつくと、花が綻ぶようにはにかんだ。

 クライヴはどうして妻が微笑んだのかわからず、セシリアの頬を撫でながら訊く。

「だって……クライヴ様はやきもちを焼いたのでしょう?」
「やきもち……そんな可愛らしいものではないと思うが……怒っていないのか?」

 セシリアは仰向けの状態からクライヴの方へ身体を向けると、頭を彼の胸に押しつけた。

「ハンスに聞かせるかたちでしたのは……ひどいわ。でも……嫌われていると思っていたから……よかったと思う気持ちもあるの」
「きみは、私が嫌っていると思っていたのか?」

 小さく頷き、それも少し違うかもしれないと思って言い直した。

「嫌っているというより……呆れているかもしれないと思っていたの。だってわたしはどうしたって生粋の貴族とは言えないし、ヨランダ様の方がずっと素敵な女性で、公爵家の妻に相応しいから……」
「私の態度が、きみにそう思わせてしまったのか」
「それは……それも多少はあったかもしれません」

 王太子に初めて会った時、自分にクライヴとの仲は何もなかったと説明するヨランダの会話にクライヴはどこか気分を害しているようだったから。

 セシリアがたどたどしい言葉でそう指摘すれば、ああ……とクライヴはその時のことを思い出したように言った。

「あの時は、王太子とヨランダの二人に呆れたんだ。腹も立ったな。彼らのせいできみは故郷を離れて、努力と苦労を強いられて私の家へ嫁ぐことになったのに、まるでその自覚なく、どこか恩恵を与えてやったという上からな態度できみに接していた。だから、よくそんなふうに振る舞えるな、と」

(そんなこと思っていたんだ……)

 全く気づかなかった。

「誤解させて、すまなかった」
「あ、いえ、そんな……わたしも、勇気を出して、もう少し自分の気持ちをあなたに伝えてみればよかったのです」
「しかし、きみの立場だと難しかっただろう。……他に誰かから、何か言われたんじゃないか?」
「いいえ……わたしがずっと、不安だったのです。本当にわたしでいいのかと、自信がなくて……怖かった」

 口にして、そうなのだと改めて気づかされる。

 平民という身分を一番に気にしていたのは、自分自身だ。

「奥様が……伯爵夫人がおっしゃっていたのです。わたしに一番足りないのは、貴族としての矜持だと……きっとそれが、一番の原因だと思います」

 困ったように微笑んだセシリアをクライヴは抱きしめ、頭を撫でてきた。

「セシリア。きみが私の妻であることはこれから先も変わらない。きみは、よくやってくれている」
「本当?」

 不安そうな声で問えば、本当だと優しい声で肯定される。

「貴族としての矜持はいきなり持てるものじゃない。自然と育てていくものだ。きみはこれから、その道を歩いていくんだ」
「これから……」
「そうだ。だから焦る必要はないし、今のままでいてくれればいいんだ」

 いつになく饒舌な口調のクライヴは、自分を励まそうとしているのだ。

 気づいたセシリアは目を潤ませ、彼に身体を押し付ける。

 くぐもった声でお礼を述べれば、頭や背中を撫でられた。それにまた涙が零れてすすり泣いてしまうが、クライヴは黙って慰め続けてくれた。


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