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追憶編
○追憶編③~文化祭~
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「私がキーボード!?」
文化祭の企画募集の締め切りが迫っていたある日、
友人である澪ちゃんが突拍子もないことを言ってきたので思わず教室で叫んでしまった。
「お願い春香……前に音楽室でピアノ弾いてたことあるでしょ?」
両手を合わせてお願いポーズをする友人。
「いいけど……私、下手だよ?」
確かに音楽室のピアノを弾いたことが一度だけあるが……
実は私は優秀賞を受賞したことを、まだ誰にも言っていなかった。
自分から言うのは自慢しているみたいで、なんとなく恥ずかしくて……
ある日のお昼休みに澪ちゃんと音楽室に行った時、急にピアノが弾きたくなって、昔覚えた大好きな作曲家の曲を弾いた後……
家のピアノで初めて作曲した『空を見上げて』をこっそり弾いた。
「何その曲?」と聞かれるかドキドキしたが気付かれなかったことが逆に嬉しかった。
澪ちゃん曰く、中学からの友達三人と軽音楽部を作って文化祭も出ようという話になったが、部の設立には五人必要でメンバーがどうしても一人足りないらしく……
澪ちゃんがボーカル、友達三人がギター、ベース、ドラムをそれぞれ担当しているが、キーボード担当がいないのでピアノが弾ける私はどうか?……ということになったらしい。
私は未来の軽音楽部メンバーとして文化祭に出ることになった。
各自練習し、まだ正式な部にはなっていなくて音楽室は使えないので、初めてスタジオというものに行って音合わせをした日……
後で注意点を振り返るための反省材料にと自分達の演奏を録音したものを聞いてみたが、中々にひどい出来だった。
初めての文化祭ライブで挑戦した曲は2曲でドラマのエンディング曲と流行りのアップテンポな曲。
一生懸命練習し、ようやく形になってきて文化祭当日を迎えたが……
本番に弱い私はガチガチに緊張し、舞台袖で昔のピアノ発表会のことを思い出していた。
何度も練習して直前までは弾けていたのに本番の緊張で指が動かなくなり、挙げ句の果てに途中で止まってしまった悪夢のような発表会……
「どうしよう……絶対間違えちゃうよ……」
ステージに上がる本番直前……固まっている私に気付いた澪ちゃんは、私の背中をポンッと叩き「まあ、楽しんでこ~」と笑った。
ドキドキしながらステージに上がると、思ったよりも落ち着いていて……
(お客さんの顔って意外とよく見えるんだ)と変に冷静な自分がいた。
「……ワン……トゥ……ワン、トゥ、スリー、フォー!!」
それからは無我夢中でよく覚えていない。
ただ練習の時に感じなかった、お客さんが聞いてくれているという喜びを初めて知ったせいだろうか……
今まで弾いてきたどの瞬間よりも楽しくてリズムやハーモニーが心地よくて、ワクワクした。
私は本番で一度も間違えずにキーボードを弾けた。
こんなに楽しく音楽を奏でられたのは初めてだった。
終わった後、舞台袖の暗闇の中で、みんなとハイタッチをしながら私は笑っていた。
「やっぱり……音楽って楽しいね!」
それからは新しい目標が生まれた。
通学電車が一緒の澪ちゃんとの帰り道……
私が「いつか歌を作って……それが色んな人に届くといいなぁ」と呟くと、
「歌……作れるの?」と目を輝かせる澪ちゃん。
「実は……」と以前優秀賞をとって雑誌に載ったことを伝えると、澪ちゃんは自分のことのように喜んでくれた。
「聞かせて聞かせて~」
私は次の日、音楽室のピアノで『空を見上げて』を演奏した。
「前に弾いてたキレイな曲、春香が作ったやつだったんだ~自分で曲が作れるなんてすごいじゃん! もっと聞きたい!! 新曲とかは?」
「……今はないけど頑張ってみるよ。出来たら歌ってくれる?」
誰か聞いてくれる人がいる……楽しみに待っていてくれる人がいる……という喜びは、魔法の呪文みたいにパワーをくれた。
私は文化祭をきっかけに軽音楽部メンバーとも仲良くなり、正式に部として認められた後の活動もとても楽しかった。
「将来はシンガーソングライターになりたい」とあるメンバーは語っていたが、私は歌が下手なので曲を作る方……映画やドラマのBGMなども作る作曲家になりたいと思うようになった。
新しい曲を作ろうという意欲がどんどん湧き、将来作曲家になりたいという夢ができた私は、高校2年の春、ある挑戦をすることを決意した。
文化祭の企画募集の締め切りが迫っていたある日、
友人である澪ちゃんが突拍子もないことを言ってきたので思わず教室で叫んでしまった。
「お願い春香……前に音楽室でピアノ弾いてたことあるでしょ?」
両手を合わせてお願いポーズをする友人。
「いいけど……私、下手だよ?」
確かに音楽室のピアノを弾いたことが一度だけあるが……
実は私は優秀賞を受賞したことを、まだ誰にも言っていなかった。
自分から言うのは自慢しているみたいで、なんとなく恥ずかしくて……
ある日のお昼休みに澪ちゃんと音楽室に行った時、急にピアノが弾きたくなって、昔覚えた大好きな作曲家の曲を弾いた後……
家のピアノで初めて作曲した『空を見上げて』をこっそり弾いた。
「何その曲?」と聞かれるかドキドキしたが気付かれなかったことが逆に嬉しかった。
澪ちゃん曰く、中学からの友達三人と軽音楽部を作って文化祭も出ようという話になったが、部の設立には五人必要でメンバーがどうしても一人足りないらしく……
澪ちゃんがボーカル、友達三人がギター、ベース、ドラムをそれぞれ担当しているが、キーボード担当がいないのでピアノが弾ける私はどうか?……ということになったらしい。
私は未来の軽音楽部メンバーとして文化祭に出ることになった。
各自練習し、まだ正式な部にはなっていなくて音楽室は使えないので、初めてスタジオというものに行って音合わせをした日……
後で注意点を振り返るための反省材料にと自分達の演奏を録音したものを聞いてみたが、中々にひどい出来だった。
初めての文化祭ライブで挑戦した曲は2曲でドラマのエンディング曲と流行りのアップテンポな曲。
一生懸命練習し、ようやく形になってきて文化祭当日を迎えたが……
本番に弱い私はガチガチに緊張し、舞台袖で昔のピアノ発表会のことを思い出していた。
何度も練習して直前までは弾けていたのに本番の緊張で指が動かなくなり、挙げ句の果てに途中で止まってしまった悪夢のような発表会……
「どうしよう……絶対間違えちゃうよ……」
ステージに上がる本番直前……固まっている私に気付いた澪ちゃんは、私の背中をポンッと叩き「まあ、楽しんでこ~」と笑った。
ドキドキしながらステージに上がると、思ったよりも落ち着いていて……
(お客さんの顔って意外とよく見えるんだ)と変に冷静な自分がいた。
「……ワン……トゥ……ワン、トゥ、スリー、フォー!!」
それからは無我夢中でよく覚えていない。
ただ練習の時に感じなかった、お客さんが聞いてくれているという喜びを初めて知ったせいだろうか……
今まで弾いてきたどの瞬間よりも楽しくてリズムやハーモニーが心地よくて、ワクワクした。
私は本番で一度も間違えずにキーボードを弾けた。
こんなに楽しく音楽を奏でられたのは初めてだった。
終わった後、舞台袖の暗闇の中で、みんなとハイタッチをしながら私は笑っていた。
「やっぱり……音楽って楽しいね!」
それからは新しい目標が生まれた。
通学電車が一緒の澪ちゃんとの帰り道……
私が「いつか歌を作って……それが色んな人に届くといいなぁ」と呟くと、
「歌……作れるの?」と目を輝かせる澪ちゃん。
「実は……」と以前優秀賞をとって雑誌に載ったことを伝えると、澪ちゃんは自分のことのように喜んでくれた。
「聞かせて聞かせて~」
私は次の日、音楽室のピアノで『空を見上げて』を演奏した。
「前に弾いてたキレイな曲、春香が作ったやつだったんだ~自分で曲が作れるなんてすごいじゃん! もっと聞きたい!! 新曲とかは?」
「……今はないけど頑張ってみるよ。出来たら歌ってくれる?」
誰か聞いてくれる人がいる……楽しみに待っていてくれる人がいる……という喜びは、魔法の呪文みたいにパワーをくれた。
私は文化祭をきっかけに軽音楽部メンバーとも仲良くなり、正式に部として認められた後の活動もとても楽しかった。
「将来はシンガーソングライターになりたい」とあるメンバーは語っていたが、私は歌が下手なので曲を作る方……映画やドラマのBGMなども作る作曲家になりたいと思うようになった。
新しい曲を作ろうという意欲がどんどん湧き、将来作曲家になりたいという夢ができた私は、高校2年の春、ある挑戦をすることを決意した。
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