28 / 80
〈故郷の歌〉前編
しおりを挟む
僕達は2月1日に土浦海軍航空隊に入隊する前の休暇期間に帰省した。
朝早くに出発し、アパートに戻る前にヒロに誘われて久し振りに播磨屋に寄った。
まず、ヒロがガラっと戸を開けながら元気よく挨拶した。
「ただいま戻りました! 我等、横須賀海兵団での試験に無事合格し、土浦海軍航空隊に配属が決定致しました!」
二人揃って海軍で習った角度で敬礼すると……
「えっ、光ちゃんと源次さん? 嘘でしょ? おかえりなさい! 帰ってくるの、ずっと待ってたのよ?」
暖簾の奥から純子ちゃんが飛び出してきて、浩くんと静子おばさんも駆け寄ってきた。
「弘兄ちゃん達おかえり~」
「おかえりなさい! 二人とも立派になって……」
僕達は浩一おじさんの位牌に手を合わせた後、久し振りに昼食を共にした。
「連絡くれればよかったのに~丁度うちに大した物がなくて……お芋ばかりでごめんなさい」
「気にしなくて大丈夫だよ」
「それで海兵団での生活は、どうだったの?」
「いや~それが大変でな……」
僕達は訓練の内容や道中で起きた事を話し始めたが、修正やバッターの話をそのまますると心配されてしまうので「お仕置きケツが血ダルマ事件」と大げさに称して面白おかしく語った。
二人で「ケツが痛い~ケツが痛い~」と変な歩き方を実演したら、みんな大爆笑で……
僕は久し振りに純子ちゃんの笑った顔が見られて嬉しかった。
「それにしても光ちゃん達が土浦に行くことになるなんて……源次さんにも前に話したけれど、茨城にある神龍寺って土浦にあるのよ? 不思議な御縁だわ」
「ホントね……そうだわ! せっかく久し振りに会えたんだから、純子達三人でどこかに行ってきたら? 浩はお店、手伝ってね」
「え~? やだよ」
「本当に? 私、行きたい所があるの! 源次さんのおうち……光ちゃんは行った事あるけど、私は行ったことないんですもの」
「え、でも埃が溜まってて汚いだろうし……」
「じゃあ、お掃除するわ! それじゃ、二人とも早く案内して?」
「源兄ちゃんのウチなら僕いいや~いってらっしゃ~い」
僕は三人でアパートに向かう途中もドキドキで……着いて中に入ってからも、自分の部屋に女の子がいることが信じられなかった。
「わ~ここが源次さんのお部屋ね。素敵なお部屋~さあ、お掃除するわよ?」
不在中に積もった埃だらけの部屋を、純子ちゃんは本当に一生懸命に掃除してくれて……僕達の10倍の働きで部屋は見違えるようにキレイになった。
「純子ちゃん本当にありがとう! お茶どうぞ、それと海兵団の卒業式で貰った紅白饅頭……アンコは余り入ってないそうだけど、純子ちゃんにあげたくて取って置いたんだ」
「ありがとう源次さん! お饅頭なんて久し振りだわ……いただきます」
そう言うと純子ちゃんは食べながら泣き出してしまった。
「美味しい……こんなに美味しいお饅頭初めて食べたわ……二人が帰ってきてくれて本当に嬉しい」
「大げさやな~それと、すまんな紅白饅頭……俺はその場で食べてしもて」
「いいのよ~その方が光ちゃんらしい! 海兵団での訓練、本当は毎日つらかったんじゃない? 同期に意地悪な人とかいなかった?」
「いいや教官は鬼みたいやったけど、同期はええ奴ばっかやで? それが面白い奴に出会ってな~あの三人で撮った写真見て、源次と純子が恋人かと聞いてきたんや」
「ブフォッ……えっ? ゴホゴホゴホ……な、何を言うのよ」
お茶を飲みながら吹き出してしまった純子ちゃんの顔は耳まで赤くなっていた。
多分むせたからだと思うが……
「そ、そう言えば漫画の感想まだ言ってなかったわよね。ありがとう、本当に感動した……驚いたわ、主人公が私が好きな坂本龍馬に似てるんですもの」
僕達が渡した漫画『未来を生きる君へ』は、坂本龍馬に似た主人公が飛行機に乗って空を飛び、時を超えて様々な困難に立ち向かって人々を苦しみから救う物語だった。
朝早くに出発し、アパートに戻る前にヒロに誘われて久し振りに播磨屋に寄った。
まず、ヒロがガラっと戸を開けながら元気よく挨拶した。
「ただいま戻りました! 我等、横須賀海兵団での試験に無事合格し、土浦海軍航空隊に配属が決定致しました!」
二人揃って海軍で習った角度で敬礼すると……
「えっ、光ちゃんと源次さん? 嘘でしょ? おかえりなさい! 帰ってくるの、ずっと待ってたのよ?」
暖簾の奥から純子ちゃんが飛び出してきて、浩くんと静子おばさんも駆け寄ってきた。
「弘兄ちゃん達おかえり~」
「おかえりなさい! 二人とも立派になって……」
僕達は浩一おじさんの位牌に手を合わせた後、久し振りに昼食を共にした。
「連絡くれればよかったのに~丁度うちに大した物がなくて……お芋ばかりでごめんなさい」
「気にしなくて大丈夫だよ」
「それで海兵団での生活は、どうだったの?」
「いや~それが大変でな……」
僕達は訓練の内容や道中で起きた事を話し始めたが、修正やバッターの話をそのまますると心配されてしまうので「お仕置きケツが血ダルマ事件」と大げさに称して面白おかしく語った。
二人で「ケツが痛い~ケツが痛い~」と変な歩き方を実演したら、みんな大爆笑で……
僕は久し振りに純子ちゃんの笑った顔が見られて嬉しかった。
「それにしても光ちゃん達が土浦に行くことになるなんて……源次さんにも前に話したけれど、茨城にある神龍寺って土浦にあるのよ? 不思議な御縁だわ」
「ホントね……そうだわ! せっかく久し振りに会えたんだから、純子達三人でどこかに行ってきたら? 浩はお店、手伝ってね」
「え~? やだよ」
「本当に? 私、行きたい所があるの! 源次さんのおうち……光ちゃんは行った事あるけど、私は行ったことないんですもの」
「え、でも埃が溜まってて汚いだろうし……」
「じゃあ、お掃除するわ! それじゃ、二人とも早く案内して?」
「源兄ちゃんのウチなら僕いいや~いってらっしゃ~い」
僕は三人でアパートに向かう途中もドキドキで……着いて中に入ってからも、自分の部屋に女の子がいることが信じられなかった。
「わ~ここが源次さんのお部屋ね。素敵なお部屋~さあ、お掃除するわよ?」
不在中に積もった埃だらけの部屋を、純子ちゃんは本当に一生懸命に掃除してくれて……僕達の10倍の働きで部屋は見違えるようにキレイになった。
「純子ちゃん本当にありがとう! お茶どうぞ、それと海兵団の卒業式で貰った紅白饅頭……アンコは余り入ってないそうだけど、純子ちゃんにあげたくて取って置いたんだ」
「ありがとう源次さん! お饅頭なんて久し振りだわ……いただきます」
そう言うと純子ちゃんは食べながら泣き出してしまった。
「美味しい……こんなに美味しいお饅頭初めて食べたわ……二人が帰ってきてくれて本当に嬉しい」
「大げさやな~それと、すまんな紅白饅頭……俺はその場で食べてしもて」
「いいのよ~その方が光ちゃんらしい! 海兵団での訓練、本当は毎日つらかったんじゃない? 同期に意地悪な人とかいなかった?」
「いいや教官は鬼みたいやったけど、同期はええ奴ばっかやで? それが面白い奴に出会ってな~あの三人で撮った写真見て、源次と純子が恋人かと聞いてきたんや」
「ブフォッ……えっ? ゴホゴホゴホ……な、何を言うのよ」
お茶を飲みながら吹き出してしまった純子ちゃんの顔は耳まで赤くなっていた。
多分むせたからだと思うが……
「そ、そう言えば漫画の感想まだ言ってなかったわよね。ありがとう、本当に感動した……驚いたわ、主人公が私が好きな坂本龍馬に似てるんですもの」
僕達が渡した漫画『未来を生きる君へ』は、坂本龍馬に似た主人公が飛行機に乗って空を飛び、時を超えて様々な困難に立ち向かって人々を苦しみから救う物語だった。
2
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語
kazu106
大衆娯楽
勢いを増す、ブレバリーズ女子部と、直美。
率いる沙也加は、自信の夢であった帝プロマット参戦を直美に託し、本格的に動き出す。
一方、不振にあえぐ男子部にあって唯一、気を吐こうとする修平。
己を見つめ直すために、女子部への入部を決意する。
が、そこでは現実を知らされ、苦難の道を歩むことになる。
志桜里らの励ましを受けつつ、ひたすら練習をつづける。
遂に直美の帝プロ参戦が、現実なものとなる。
その壮行試合、沙也加はなんと、直美の相手に修平を選んだのであった。
しかし同時に、ブレバリーズには暗い影もまた、歩み寄って来ていた。
日本国破産?そんなことはない、財政拡大・ICTを駆使して再生プロジェクトだ!
黄昏人
SF
日本国政府の借金は1010兆円あり、GDP550兆円の約2倍でやばいと言いますね。でも所有している金融性の資産(固定資産控除)を除くとその借金は560兆円です。また、日本国の子会社である日銀が460兆円の国債、すなわち日本政府の借金を背負っています。まあ、言ってみれば奥さんに借りているようなもので、その国債の利子は結局日本政府に返ってきます。え、それなら別にやばくないじゃん、と思うでしょう。
でもやっぱりやばいのよね。政府の予算(2018年度)では98兆円の予算のうち収入は64兆円たらずで、34兆円がまた借金なのです。だから、今はあまりやばくないけど、このままいけばドボンになると思うな。
この物語は、このドツボに嵌まったような日本の財政をどうするか、中身のない頭で考えてみたものです。だから、異世界も超能力も出てきませんし、超天才も出現しません。でも、大変にボジティブなものにするつもりですので、楽しんで頂ければ幸いです。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
天竜川で逢いましょう 〜日本史教師が石田三成とか無理なので平和な世界を目指します〜
岩 大志
歴史・時代
ごくありふれた高校教師津久見裕太は、ひょんなことから頭を打ち、気を失う。
けたたましい轟音に気付き目を覚ますと多数の軍旗。
髭もじゃの男に「いよいよですな。」と、言われ混乱する津久見。
戦国時代の大きな分かれ道のド真ん中に転生した津久見はどうするのか!!???
そもそも現代人が生首とか無理なので、平和な世の中を目指そうと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる