【源次物語】最後の特攻隊員〜未来を生きる君へ〜

OURSKY

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〈最高の誕生日〉後編

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「本当にそうよね。実はね……『浜辺の歌』の作曲をした方は先月、亡くなってしまったの……東京音楽学院の教授の方で、その学院は今度、国立音楽学校っていう名前に変わるらしいんだけど…………私、いつかこの学校に入りたい! そこで沢山学んで音楽の先生になりたい! 私、歌に何度も励まされてきたから思いを繋いでいきたいの」

「それは、素敵な夢だ! 応援するよ! 僕も先生の『あした』って歌に励まされてた……船乗りの父さんの帰りを待つ歌だからね」

「あの歌も先生が作った歌だったのね……」

「そういえば『靴が鳴る』って歌、先生が本郷の小学校にいた時の遠足の思い出の歌らしいよ? だから僕達が見たのと同じ景色や同じ空を見て作ったのかもしれないね」

「それって素敵……時代が違っても想いが空で繋がっているみたい……いつか誰かが作る歌の風景の中に私達がいて、私達も歌の一部になっていたら面白いわよね」

「そうだね……」

「源次さん……一緒に来てくれて、本当にありがとう……源次さんと一緒じゃなかったら、私は此処に来る事ができなかった……あとね、私……もう一つ今日したかった事があるの」

「なあに?」

「あのね……私ね…………私……源次さんの事、ずっと……」

「好きだよ、純子ちゃん…………僕は君が、ずっと好きだった…………ずっと言いたかったけど、ずっと言えなかった……」

「源次……さん?」

「ヒロは僕達の幸せを願ってくれたけど、僕達が生きている今はヒロ達が生きたかった未来だから……あいつが旅立ったのは3ヶ月前の15日で、今日は丁度月命日だし言うのはやめようって何度も思った……でもね、思い出したんだ」

「浩くんが僕にくれた『お姉ちゃんをお願い』っていう最後の言葉を……ヒロの『純子のこと頼んだ』って言葉と紫のタスキを……二人の思いを繋いでこれからは僕が、浩くんみたいに純子ちゃんを守って、ヒロみたいな冗談言って純子ちゃんを毎日笑わせたいって思ったんだ」

「嬉しい……本当に夢みたい。だって駅で言おうとしたら行っちゃうし、基地でも言えなくてずっと苦しかったから……今日の源次さんの誕生日に勇気を出して言おうと思って」

「光ちゃんが知らせてくれた手紙に書いてあったの……最愛の思いを伝えるなら、この言葉が一番いいからって……その言葉を今日言おうと思ってたんだけど、あのね源次さん」
 
「私……源次さんを…………愛…………ごめんなさい、恥ずかしくてやっぱり言えない……けどいつか言えるように頑張る!」

「僕も君の夢が応援できるように頑張るよ! 今はお金がナイチンゲールだけど……」

「ブッ何それ~アハハその言葉、久し振りに聞いたわ~」

「あいつが言ってたの思い出して……」

「ねえ、源次さん? お願いがあるの……これからは源次さんの事、『源ちゃん』って呼んでいいかな?」

「いいよ……じゃあ……僕も『純子』って呼んでいい?」

「もう呼んでるじゃない」

「いつ?」

「……秘密~」

 純子ちゃんはそう言うと、僕の頬に口づけをした。

 恥ずかしがって真っ赤になっている姿があまりに可愛くて……
 僕は思わず抱き寄せて、僕達は初めての口づけをした。

 1943年4月1日に合併され、父さんが乗っていた戦艦と同じ『大和』町になった、この場所で……

 戦後で物が無くてお腹も空いてたけど……今日は最高の誕生日になった。

「戦争で日本はほぼ何も無くなっちゃったけど、ここは浩くんも好きになってくれた軍艦『大和』と同じ名前の場所だし、いい町になるよ」

「そうね……」

「浩くんが元々好きだった『長門』も2ヶ月前の9月15日に米軍に接収されて日本籍から除籍されたけど……関東大震災の時に中々出ない命令を待たずに人を助けようと行動を起こして駆けつけた『長門』の人たちの誇りは消えないよ! 『大和』も『長門』もすごい船なんだ!」

「フフッなんだか源次さん、浩ちゃんみたいね。私、気付いたの……二人とも源次さんの中にちゃんといる! だからね? 此処で言いたい事があるんだ」

「なあに?」

「源ちゃ~ん! 改めて誕生日、おめでとう~」

「浩ちゃ~ん、6月6日過ぎちゃったけど……誕生日おめでとう~私の弟に生まれてきてくれて……ありがとう~」

「そして光ちゃ~ん、11月1日過ぎちゃったけど……誕生日、おめでと……本当に……ありがと……七夕に……会えてよかった」

 僕は泣き崩れた純子ちゃんを後ろから抱き締めながら決意した。
 純子の今度の誕生日に、絶対プロポーズしよう……
 そして僕達の思い出が残せるよう、分厚い日記帳をプレゼントしようと……
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