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第17章
第2話(1)
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劇場の舞台裏。
楽屋などが並ぶ地下フロアから一旦ロビーに繋がる上層階に移動した群司は、スタッフ専用出入り口のすぐわきにある非常口を抜けて劇場内に踏み入れた。
先程まで座席を埋めていた観客の姿はすでにない。管理室を出るまえにモニターで確認したとおりだった。
坂巻から教えられたとおり、向かって左側の舞台袖にあるという隠し扉を探す。左手の奥を意識して見ていくと、暗幕が下ろされている箇所があり、一枚ずつめくっていった中にそれはあった。周囲の壁と同化した、一見したところ用具入れを思わせる扉。
目立たないよう設置されたドアノブの下には鍵穴があり、試しにそのままノブに手をかけるとしっかりと施錠されていた。
坂巻に手渡された鍵の束を取り出して、ひとつだけ形状の異なるものを差しこむ。穴にきちんと嵌まったそれをまわすと、カチリという音がしてロックが解除された。
あらためてゆっくりとドアノブに手をかけ、中の様子を慎重に窺う。坂巻の説明によれば、本邸の地下につづくという一本の通路が延びていた。
迷っている暇はない。群司は中に踏み入れると、無人の通路を足早に進んだ。
本邸と劇場、ふたつの建物を繋ぐ距離はさして長くない。だが、招待客として地上の連絡通路を使用したときとは異なり、ひどく遠い距離に感じられた。この先にいる如月のことが気掛かりなせいだろう。どうか無事でいてくれと願わずにはいられなかった。
焦る気持ちを抑えながら、それでも可能なかぎり速度を上げて移動する。通路は唐突に終わり、すぐ右手に扉のない空間がひろがった。両サイドに鉄格子が下ろされ、さらにその内部に細かい仕切りが設けられた、動物の飼育小屋か留置所を思わせる場所。
入り口から奥に向かってひとつひとつ確認していくが、どの小部屋も使用されている様子はなくガランとしていた。だがそのとき、部屋の奥でかすかな物音が聞こえた。一番奥のケージ。
緊張を強めて素早く近づいた群司は、中を覗きこむなり息を呑んだ。舞台上にいたときとおなじ、腰に薄布を巻いただけの如月が奥の片隅に蹲っていた。
「琉生さん!」
声を殺しながらも鋭く呼びかけると、ほっそりとした背中がビクリとふるえた。群司は、ケージの扉に取りつけられたプレートの番号を確認すると、鍵束の中からおなじ番号の鍵を見つけ出して開錠した。
「琉生さん! 琉生さん大丈夫ですかっ?」
怯えたように仕切り壁に身を寄せ、縮こまっていた如月は、中に飛びこんできた群司に気づくと顔を歪ませた。
「や、がみ……、な…で、ここ、に……」
「すみません、遅くなって。でも、もう大丈夫ですから。助けに来ました」
傍らに膝をつき、腕を伸ばして自分のほうへ引き寄せると、如月は縋りつくように身を寄せてきた。その躰を、群司はしっかりと抱きしめる。
「もう大丈夫だから、なにも心配しないで」
群司の胸に顔をうずめた如月は、胸もとのシャツを握りしめながら何度も頷いた。
楽屋などが並ぶ地下フロアから一旦ロビーに繋がる上層階に移動した群司は、スタッフ専用出入り口のすぐわきにある非常口を抜けて劇場内に踏み入れた。
先程まで座席を埋めていた観客の姿はすでにない。管理室を出るまえにモニターで確認したとおりだった。
坂巻から教えられたとおり、向かって左側の舞台袖にあるという隠し扉を探す。左手の奥を意識して見ていくと、暗幕が下ろされている箇所があり、一枚ずつめくっていった中にそれはあった。周囲の壁と同化した、一見したところ用具入れを思わせる扉。
目立たないよう設置されたドアノブの下には鍵穴があり、試しにそのままノブに手をかけるとしっかりと施錠されていた。
坂巻に手渡された鍵の束を取り出して、ひとつだけ形状の異なるものを差しこむ。穴にきちんと嵌まったそれをまわすと、カチリという音がしてロックが解除された。
あらためてゆっくりとドアノブに手をかけ、中の様子を慎重に窺う。坂巻の説明によれば、本邸の地下につづくという一本の通路が延びていた。
迷っている暇はない。群司は中に踏み入れると、無人の通路を足早に進んだ。
本邸と劇場、ふたつの建物を繋ぐ距離はさして長くない。だが、招待客として地上の連絡通路を使用したときとは異なり、ひどく遠い距離に感じられた。この先にいる如月のことが気掛かりなせいだろう。どうか無事でいてくれと願わずにはいられなかった。
焦る気持ちを抑えながら、それでも可能なかぎり速度を上げて移動する。通路は唐突に終わり、すぐ右手に扉のない空間がひろがった。両サイドに鉄格子が下ろされ、さらにその内部に細かい仕切りが設けられた、動物の飼育小屋か留置所を思わせる場所。
入り口から奥に向かってひとつひとつ確認していくが、どの小部屋も使用されている様子はなくガランとしていた。だがそのとき、部屋の奥でかすかな物音が聞こえた。一番奥のケージ。
緊張を強めて素早く近づいた群司は、中を覗きこむなり息を呑んだ。舞台上にいたときとおなじ、腰に薄布を巻いただけの如月が奥の片隅に蹲っていた。
「琉生さん!」
声を殺しながらも鋭く呼びかけると、ほっそりとした背中がビクリとふるえた。群司は、ケージの扉に取りつけられたプレートの番号を確認すると、鍵束の中からおなじ番号の鍵を見つけ出して開錠した。
「琉生さん! 琉生さん大丈夫ですかっ?」
怯えたように仕切り壁に身を寄せ、縮こまっていた如月は、中に飛びこんできた群司に気づくと顔を歪ませた。
「や、がみ……、な…で、ここ、に……」
「すみません、遅くなって。でも、もう大丈夫ですから。助けに来ました」
傍らに膝をつき、腕を伸ばして自分のほうへ引き寄せると、如月は縋りつくように身を寄せてきた。その躰を、群司はしっかりと抱きしめる。
「もう大丈夫だから、なにも心配しないで」
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