ひろいひろわれ こいこわれ ~華燭~

九條 連

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エピローグ

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『ヴィンセント社長もそのへんはおなじで、あちらは欧米の美女たちを飽きるほど見慣れてきてますからね。わたし程度なんて、ものの数にも入らないんじゃないですか? まあ、物心ついたときから鏡の中で、ご自分のあの顔を見てるんですから、まずそこで第一段階のハードルができちゃってると思いますけど』
 あの顔面は反則級ですもんね、とさらに笑いをとる。

『ほんと言うと、父は彼のことを娘婿候補にって考えてたみたいなんですよね。でも当人たちにはその気はまったくなくて、だけど実際に会ってみたらすぐに意気投合して仲良くなってっていう経緯があって』
 だからね、と茉梨花は身を乗り出した。

『気の置けない男友達として、いろいろ恋愛相談にも乗ってもらってたんですよ。男性の立場から意見がもらえるって、すごくありがたかったですし』
『あの熱愛報道は、そういう相談をされていたときのものだったということですか?』
『あれは違います。相談していたんじゃなくて、ずっと相談に乗ってもらってたことがようやく実を結んだっていう報告をしたときのことだったんです』
『といいますと、桂木シェフとのことをご報告された、と?』
『そうです。長年の想いが実って雅弘さんとの婚約が正式に決まったので、そのことをいちばんに伝えたくて会っていたんです』
『あの写真の感じだと、いかにも密会、という印象でしたよね』
『そりゃそうですよ、まだ婚約のことは極秘だったんですから、そのことを報告する相手とだって密会します。あたりまえじゃないですか』

 茉梨花はヒラヒラと手を振った。

『でもね、ずっと相談に乗ってくれてたことだったから、報告したら自分のことみたいにすごく喜んでくれて。それでわたしも、すっかり感極まっちゃったんですよ。ほら、お互いお酒も入っちゃってたでしょ? あたしはあたしですごく幸せで嬉しかったものだから、感情が一気にバ~ッと溢れ出ちゃって。それで思わず抱きついてブッチュウッ!って』

 大きく両手をひろげた茉梨花は、見えないなにかを抱き竦めると、伸び上がりながら口唇くちびるを尖らせた。それからパッと姿勢を正して大袈裟に身を縮める。

『もうね、多方面からものすごく怒られました』
 反省してます、とおどけた様子で首を竦めた。

『キスした直後にはヴィンセント社長本人から飲みすぎだって怒られましたし、スキャンダルが明るみに出るってわかってからは事務所の社長とマネージャーから、報じられたあとは父や兄たちからもお説教されて、さんざんでした。お酒って怖いですよね~』
 そういう問題ではないと後方に控えていた事務所関係者からツッコミが入り、ふたたび笑いが起こる。

『桂木シェフの反応は如何いかがでしたか? おふたりの関係がこじれるということはなかったんでしょうか?』
『そこは大丈夫ですぅ。わたしがどんなに彼のことを好きか、だれよりも本人がよく知ってるので。あ、でも父たちとおなじで、ヴィンセント社長を巻きこんだことだけは注意されちゃいました。まあ、それはそうですよね。いくら一流の起業家として名をせてるといっても、芸能界とは無縁の一般の人なんですから』
 茉梨花は自分の言葉に納得しているように、うんうんと頷く。

『そんなわけで、今回はわたしの責任として、ご報告も兼ねた会見の場を設けさせていただいたという次第です。とはいえ、わたしの婚約者も一般の方ですし、皆さん、くれぐれもお手やわらかにお願いしますね。わたしひとりならともかく、周りの人たちに迷惑がかかるようなことになれば、それなりの対応もしなければならなくなりますから』

 ほんとよかったですぅ!と茉梨花は大仰おおぎょうに言った。

『これで万が一破談、なんてことになってたら、熱愛記事報じてくれた文秋さん、訴えちゃうところでしたぁ。ほんとは婚約発表も結婚も、もう少しお互いの仕事が落ち着いてからでもいいかなって思ってたんですけど、一連の騒動のおかげでこうして早まったので、かえってよかったかなぁって。まさに雨降って地固まる、ですよね』
 無邪気を装ってニッコリしつつも、釘を刺すことを忘れない。


「まったく、言いたい放題だな」

 苦々しい声が背後から聞こえて、振り返ると部屋着姿のヴィンセントが立っていた。
 夕食後、リビングでのんびりくつろいでいたところへ携帯に着信があり、しばらく離席していたのだ。
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