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「英雄のしつけかた」 2章 英雄と呼ばれる男
22. あらどうしましょう 1
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パタッとガラルドがその場に倒れた。
フライパンが後頭部に、見事に命中したのだ。
息を弾ませたままミレーヌは、それでも説教を続けていた。
倒れたフリまでして最低だと、心底から憤慨していた。
「調子に乗るんじゃ……」
あら何か変だわ?
不審に思いながら首を傾げる。
興奮して叫んだせいか息がはずんでいるので、大きく深呼吸した。
起き上がる気配がないどころか、ガラルドは身じろぎ一つしない。
雇われ人から説教を受けるのが嫌で倒れたフリをしていると思っていたが、本当に動かなくなってしまった。
「あの、ええ?」
恐る恐るミレーヌは、ガラルドを靴先でツンツンとつついてみた。
手で触るのはなんとなく嫌だった。
ピクリとも動かない。
見事に気を失っているようだった。
パンツだけでうつ伏せに倒れている図はあまりにシュールだ。
確かめた現実に、ミレーヌは混乱する。
うそ、どうして?
まさか、当たるとは思わなかった。
いやいや、そんなことよりも。
これはいったいどうしたのだろう?
戦場でも日常の暗殺者にも、一度も倒されたことのない世界最強の剣豪のはずなのに。
「あらあら」
いつのまにかサリが側に来ていた。
ガラルドの頭を調べている。
「滅多にお目にかかれない大きなタンコブだよ。しばらく起きないだろうねぇ」
薬師に保証されてしまい、ミレーヌは蒼白になってしまった。
「この方、剣豪でしょう? フライパンぐらいよけてくださらないと!」
まさか、こんなことになるとは!
雇い主を勢いでやっつけてしまった。
いまだかつてない大失態である。
「どなたかいらして!」
焦りながら助けを呼んでみたら、何やらバカ笑いしながら全員が二階から降りてきた。外回りから帰ってきた者もなぜか合流していたので、総勢10人がそろって実に楽しそうだ。
「まぁ、皆さまどうして二階に? 先ほどまで食堂にいたのでは?」
ミレーヌの不思議そうな顔に、プッとそれぞれ吹き出して横を向いた。
「ちょっと打ち合わせで二階に」
震える声だったがなんとか答える。
必死で大爆笑しないように全員が堪えていた。
そう、ミレーヌが何かに似ているのに思い出せなくて悩んでいたけれど。
アライグマだ。
コロコロしたところや、セッセと家事をする仕草が、愛くるしくてそっくりである。
本人に言う勇気はさすがにないが、はまりすぎている。
なにより私生活では困った面の多いガラルドを、恐れもせずぶちのめすとはおかしすぎた。
ガラルドが優勢だと想像していたが、まさかミレーヌの大勝利に終わるとは。
予想外の愉快な展開だった。
口には出さないけれど、ざまぁみろと内心では思っている。
ひどく焦っているミレーヌはそんなことに気がつかない。
「大変なんです!」
「平気だよ、頑丈だから」
「二階にいても、実にいい音が聞こえた」
「いついかなる時も油断するなと、こいつ自身がえらそうに言ってるから、いい勉強だろうよ」
「それにこの兄さんは、まともな説教を誰にもされたことがないからね」
「大したもんだ。古い血も持たない普通のお嬢さんなのに! ロングワンピースで、英雄思考のスットコドッコイをぶちのめして説教をしているんだから、実にすばらしい!」
剣で刺しても死なないと笑って、サガンがヒョイと肩にガラルドを担いだ。
全員が好き勝手なことを口々に言いながら、クックッと肩を揺らして笑っている。
よくやってくれたとばかりに、愉快愉快とその顔が言っていた。
ミレーヌは大きな目に涙をためる。
ひどいと思った。
皆の言うこともそれなりにわかるが、自分のしでかした事態の大きさに動揺していた。
怪我をして倒れた人を相手に対してもあんまりな台詞だ。
「笑い事ではありませんのよ!」
「いや、どんどんやってくれよ。だいたい、この野郎は何を言っても聞かない。なにしろ、世界最強の男だから」
そう、唯一の押さえになっていた前奥義継承者が亡くなってから奔放すぎる。
大きな問題は起こさないものの、常識外れの行動が多くて悩まされていたのだ。
フライパンが後頭部に、見事に命中したのだ。
息を弾ませたままミレーヌは、それでも説教を続けていた。
倒れたフリまでして最低だと、心底から憤慨していた。
「調子に乗るんじゃ……」
あら何か変だわ?
不審に思いながら首を傾げる。
興奮して叫んだせいか息がはずんでいるので、大きく深呼吸した。
起き上がる気配がないどころか、ガラルドは身じろぎ一つしない。
雇われ人から説教を受けるのが嫌で倒れたフリをしていると思っていたが、本当に動かなくなってしまった。
「あの、ええ?」
恐る恐るミレーヌは、ガラルドを靴先でツンツンとつついてみた。
手で触るのはなんとなく嫌だった。
ピクリとも動かない。
見事に気を失っているようだった。
パンツだけでうつ伏せに倒れている図はあまりにシュールだ。
確かめた現実に、ミレーヌは混乱する。
うそ、どうして?
まさか、当たるとは思わなかった。
いやいや、そんなことよりも。
これはいったいどうしたのだろう?
戦場でも日常の暗殺者にも、一度も倒されたことのない世界最強の剣豪のはずなのに。
「あらあら」
いつのまにかサリが側に来ていた。
ガラルドの頭を調べている。
「滅多にお目にかかれない大きなタンコブだよ。しばらく起きないだろうねぇ」
薬師に保証されてしまい、ミレーヌは蒼白になってしまった。
「この方、剣豪でしょう? フライパンぐらいよけてくださらないと!」
まさか、こんなことになるとは!
雇い主を勢いでやっつけてしまった。
いまだかつてない大失態である。
「どなたかいらして!」
焦りながら助けを呼んでみたら、何やらバカ笑いしながら全員が二階から降りてきた。外回りから帰ってきた者もなぜか合流していたので、総勢10人がそろって実に楽しそうだ。
「まぁ、皆さまどうして二階に? 先ほどまで食堂にいたのでは?」
ミレーヌの不思議そうな顔に、プッとそれぞれ吹き出して横を向いた。
「ちょっと打ち合わせで二階に」
震える声だったがなんとか答える。
必死で大爆笑しないように全員が堪えていた。
そう、ミレーヌが何かに似ているのに思い出せなくて悩んでいたけれど。
アライグマだ。
コロコロしたところや、セッセと家事をする仕草が、愛くるしくてそっくりである。
本人に言う勇気はさすがにないが、はまりすぎている。
なにより私生活では困った面の多いガラルドを、恐れもせずぶちのめすとはおかしすぎた。
ガラルドが優勢だと想像していたが、まさかミレーヌの大勝利に終わるとは。
予想外の愉快な展開だった。
口には出さないけれど、ざまぁみろと内心では思っている。
ひどく焦っているミレーヌはそんなことに気がつかない。
「大変なんです!」
「平気だよ、頑丈だから」
「二階にいても、実にいい音が聞こえた」
「いついかなる時も油断するなと、こいつ自身がえらそうに言ってるから、いい勉強だろうよ」
「それにこの兄さんは、まともな説教を誰にもされたことがないからね」
「大したもんだ。古い血も持たない普通のお嬢さんなのに! ロングワンピースで、英雄思考のスットコドッコイをぶちのめして説教をしているんだから、実にすばらしい!」
剣で刺しても死なないと笑って、サガンがヒョイと肩にガラルドを担いだ。
全員が好き勝手なことを口々に言いながら、クックッと肩を揺らして笑っている。
よくやってくれたとばかりに、愉快愉快とその顔が言っていた。
ミレーヌは大きな目に涙をためる。
ひどいと思った。
皆の言うこともそれなりにわかるが、自分のしでかした事態の大きさに動揺していた。
怪我をして倒れた人を相手に対してもあんまりな台詞だ。
「笑い事ではありませんのよ!」
「いや、どんどんやってくれよ。だいたい、この野郎は何を言っても聞かない。なにしろ、世界最強の男だから」
そう、唯一の押さえになっていた前奥義継承者が亡くなってから奔放すぎる。
大きな問題は起こさないものの、常識外れの行動が多くて悩まされていたのだ。
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