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「英雄のしつけかた」 2章 英雄と呼ばれる男
38. ガラルドとミレーヌ 1
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武人の考えることはよくわからないけれど奥が深いのねぇと、ミレーヌは頭を悩ませてしまった。
ただ、さっきのことを思い出して唇をかんだ。
「わたくしは、悔しいばかりです。ガラルド様は何も間違ったことはしていませんのに」
公安に関わる者として、当たり前のことをしただけだ。
確かに指一本だけしか使っていないけど。
恐ろしいとか凄まじいとか意味もなく怖がられて、距離を置かれるのは納得がいかない。
悪いことをしている人にしかその力を向けないのに、ひどすぎると涙をためた。
その悔しさをこらえているミレーヌの様子をじっと見て、ガラルドは肩をすくめた。
「ほらみろ、とてつもなく変わっている。だから俺と結婚しろと言ってるのに、本当にわからん奴だな」
鈍いのか懐が深いのか理解できないがそこがいいとぼやくので、ミレーヌは眉根を寄せた。
褒められているはずなのに、ケンカを売られている気になるのはなぜかしら?
「どうしてそこで結婚が出てくるんですの?」
いつも思うのだが、結婚結婚と言う割に説得力がなくて、口説かれている気にすらならない。
なにしろ、これから娼館に行ってくる! などと報告しに来るバカである。
出かけて来る、の一言ですむはずなのに、目的地をミレーヌに告げる神経がわからない。
ムッとしているミレーヌに、ガラルドは目を細めた。
「ああ、そうか。おまえは他にいくらでも探しようがあるからな。俺にはおまえとサリだけだ」
日頃からコロコロとかアライグマとか行き遅れとかひどい表現をする癖に、その気になればどこへでも嫁にいけるとうらやましそうだった。
日常を知っているミレーヌは、つい渋い顔になってしまう。
「まぁ! 花街や上流社会にも華やかで美しい方々が、貴方を待っていらっしゃるんでしょう?」
そう、しょっちゅう東や西の花街に足を運ぶし、娼妓以外の女性の影もたくさん見える。
どこそこの公爵夫人と夜会だとか、麗しい貴族の御令嬢と食事とか、それこそ二日とあけずにホイホイと出かけている。
ちなみに、その場合はほとんど朝帰りだ。
なにをやっているのか、あえて推し量る必要もないだろう。
普通、結婚しろと迫る女にはそういう相手を隠すものなのに、ガラルドは全部あけすけで気持ちがいいほど透明でオープンだった。
会話の内容も聞きたいか? と問われて、けっこうですわと毎回のように答えている。
どこまでスットコドッコイなんだろうと、ミレーヌは呆れていた。
妙な勘繰りは起きないけれど、どうにも派手な女性関係が見えすぎる。
結婚しろと迫られても、今ひとつ信用に欠ける要因の一つである。
「わかってないな。待ってるのは剣豪や英雄で、俺ではないさ。あいつらは名誉と金を欲しがり、俺は情報が欲しい。ただの取引だぞ」
おぞましい、とガラルドはもらした。
理解がまったくできなかったので、ミレーヌは渋い顔になるしかなかった。
「あくまで仕事だとおっしゃるの?」
「当たり前だろう? 訳のわからん髪形だの服だの褒めなきゃならんし、臭いクリームをぬりたくった奴のどこがいいんだ? 爪までヤスリで削って血色に染めて、あれはなんだ? 気味が悪い。それに比べ、おまえは百倍も可愛くて、清潔で、愛嬌がある」
ぼやきにぼやいていた。
「あいつら相手には俺だってこんな話し方はできんし、面白くもなんともない。な~にが、ごきげんよう、だ。夜会で踊ってくださる? がおねだりだぞ? 俺は双剣持ちだ。チイパッパと踊れるもんか。ふざけおって」
機嫌を取るための会話を考えるだけでも、言葉だけでなく表情でも実にくだらないと語っている。
その数多い美人たちを思い出しただけで、ぞっとしている様子だった。
ガラルドの言葉には妙な説得力があったけれど、ミレーヌは変な基準だと眉根を寄せてしまった。
「わたくしは美人でもありませんし、コロコロしてますわよ?」
「アライグマそっくりだ。よく動いて、面白いだろう? 見ているだけで楽しいじゃないか」
実にいいと機嫌よく言いきったので、はぁ、とミレーヌは大きくため息をついた。
「それで褒めているつもり、ですわよね?」
「当然だ。ああ、あれだ。働き者で気立てがいいなら通じると、サリが保証したな」
同じ意味なのに言い方を変えるのは面倒だ、なんてガラルドが難しい顔をしている。
それがアライグマと同じ意味だとわかる人の方が少ないわよとミレーヌも難しい顔になった。
「おばあちゃんとそんな事を話していますの?」
何を教えているのかしら?
非常に謎だ。
まぁ、デュラン達がしつけと期待していたので、対人方法とか日常会話の常識だろうか?
ただ、さっきのことを思い出して唇をかんだ。
「わたくしは、悔しいばかりです。ガラルド様は何も間違ったことはしていませんのに」
公安に関わる者として、当たり前のことをしただけだ。
確かに指一本だけしか使っていないけど。
恐ろしいとか凄まじいとか意味もなく怖がられて、距離を置かれるのは納得がいかない。
悪いことをしている人にしかその力を向けないのに、ひどすぎると涙をためた。
その悔しさをこらえているミレーヌの様子をじっと見て、ガラルドは肩をすくめた。
「ほらみろ、とてつもなく変わっている。だから俺と結婚しろと言ってるのに、本当にわからん奴だな」
鈍いのか懐が深いのか理解できないがそこがいいとぼやくので、ミレーヌは眉根を寄せた。
褒められているはずなのに、ケンカを売られている気になるのはなぜかしら?
「どうしてそこで結婚が出てくるんですの?」
いつも思うのだが、結婚結婚と言う割に説得力がなくて、口説かれている気にすらならない。
なにしろ、これから娼館に行ってくる! などと報告しに来るバカである。
出かけて来る、の一言ですむはずなのに、目的地をミレーヌに告げる神経がわからない。
ムッとしているミレーヌに、ガラルドは目を細めた。
「ああ、そうか。おまえは他にいくらでも探しようがあるからな。俺にはおまえとサリだけだ」
日頃からコロコロとかアライグマとか行き遅れとかひどい表現をする癖に、その気になればどこへでも嫁にいけるとうらやましそうだった。
日常を知っているミレーヌは、つい渋い顔になってしまう。
「まぁ! 花街や上流社会にも華やかで美しい方々が、貴方を待っていらっしゃるんでしょう?」
そう、しょっちゅう東や西の花街に足を運ぶし、娼妓以外の女性の影もたくさん見える。
どこそこの公爵夫人と夜会だとか、麗しい貴族の御令嬢と食事とか、それこそ二日とあけずにホイホイと出かけている。
ちなみに、その場合はほとんど朝帰りだ。
なにをやっているのか、あえて推し量る必要もないだろう。
普通、結婚しろと迫る女にはそういう相手を隠すものなのに、ガラルドは全部あけすけで気持ちがいいほど透明でオープンだった。
会話の内容も聞きたいか? と問われて、けっこうですわと毎回のように答えている。
どこまでスットコドッコイなんだろうと、ミレーヌは呆れていた。
妙な勘繰りは起きないけれど、どうにも派手な女性関係が見えすぎる。
結婚しろと迫られても、今ひとつ信用に欠ける要因の一つである。
「わかってないな。待ってるのは剣豪や英雄で、俺ではないさ。あいつらは名誉と金を欲しがり、俺は情報が欲しい。ただの取引だぞ」
おぞましい、とガラルドはもらした。
理解がまったくできなかったので、ミレーヌは渋い顔になるしかなかった。
「あくまで仕事だとおっしゃるの?」
「当たり前だろう? 訳のわからん髪形だの服だの褒めなきゃならんし、臭いクリームをぬりたくった奴のどこがいいんだ? 爪までヤスリで削って血色に染めて、あれはなんだ? 気味が悪い。それに比べ、おまえは百倍も可愛くて、清潔で、愛嬌がある」
ぼやきにぼやいていた。
「あいつら相手には俺だってこんな話し方はできんし、面白くもなんともない。な~にが、ごきげんよう、だ。夜会で踊ってくださる? がおねだりだぞ? 俺は双剣持ちだ。チイパッパと踊れるもんか。ふざけおって」
機嫌を取るための会話を考えるだけでも、言葉だけでなく表情でも実にくだらないと語っている。
その数多い美人たちを思い出しただけで、ぞっとしている様子だった。
ガラルドの言葉には妙な説得力があったけれど、ミレーヌは変な基準だと眉根を寄せてしまった。
「わたくしは美人でもありませんし、コロコロしてますわよ?」
「アライグマそっくりだ。よく動いて、面白いだろう? 見ているだけで楽しいじゃないか」
実にいいと機嫌よく言いきったので、はぁ、とミレーヌは大きくため息をついた。
「それで褒めているつもり、ですわよね?」
「当然だ。ああ、あれだ。働き者で気立てがいいなら通じると、サリが保証したな」
同じ意味なのに言い方を変えるのは面倒だ、なんてガラルドが難しい顔をしている。
それがアライグマと同じ意味だとわかる人の方が少ないわよとミレーヌも難しい顔になった。
「おばあちゃんとそんな事を話していますの?」
何を教えているのかしら?
非常に謎だ。
まぁ、デュラン達がしつけと期待していたので、対人方法とか日常会話の常識だろうか?
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