今日も黒熊日和 ~ 英雄たちの還る場所 ~

真朱マロ

文字の大きさ
44 / 83
「英雄のしつけかた」 3章 死神と呼ばれる少年

44. 祈るように 1

しおりを挟む
 ガラルドは一人で詰所の中をウロウロしていたが、ふと思い出したように母屋に行った。
 大事なことを忘れるところだった。

 玄関ホールで不安そうにサリが窓の外を見ているので、俺に付き合えと言って揺りイスとセットでサリを詰所に連れ込んだ。
 驚くなよと前置きし、ミレーヌが消えたことを説明して、すまんと謝った。

 サリは聡いし仕事にからむ相談も普通に日常からしていたので、細かな憶測も伝える。
 今までのように商家の家政婦ではないのだ。
 ガラルドの日常に近い特殊な立場の娘だから誘拐のようなちょっかいを出されたのだろうと、淡々と説明する。

 買い物カゴを残したことを思えば、まだミレーヌに危害はくわえられていないはずだった。
 さらうぐらいだから、しばらく殺めない。
 だが、他に痕跡を残していない。
 捜してみろと宣戦布告のようなものだ。
 厄介な相手なのは間違いなかった。

 それが東流派の精鋭軍を作ることを危惧した輩なのか。
 ガラルドの隊の能力を見るためなのか。
 剣豪個人に興味を持って誘っているのか。
 情報が集まってからでないと判断できない。
 他国の間者なら国際問題に発展するぞと思いながらも、ガラルドはサリの手を取った。

「サリ、心配をかけるが必ず探す」
「あの子はきっと大丈夫。あんたはいつものように、ドーンとかまえておいで。いい子たちじゃないか。あんたにできないことは、信じて任せることだよ。私と一緒に待ちましょうねぇ」
 話の間はジッとガラルドを見ていたが、その頭をヨシヨシとサリはなでた。

「心配しなくてもいいんだよ? あんたは動けなくても、皆が探し出してくれるさ」

 相変わらず耳ではなく心の声を聞いてるばあさんだと、ガラルドはポリポリと頭をかいた。
 どんなに顔を作っても無駄だ。
 ソワソワと浮足立っているのがバレバレだ。
 それに誰も信用していないことまで見抜かれていた。

 個々の腕を信頼してはいても、集団での行動はこれから作り上げていくしかない。
 いくら同じ流派の剣士で自分の隊を作ると言っても、集まったばかりで付き合いも短い。
 ガラルドを先頭に個性豊かな連中ばかりなので、本当にこの先は大丈夫か? と疑問を抱いていた。

 能力的にただ一人だけ突出したせいもある。
 彼らが奥義継承者を慕い敬う半分ほども、自分は彼らを信用していない。
 どうせお前らも奥義継承者が欲しいだけだろうと、ちょっと歪んだ考え方をしていた。
 それだけ奥義継承者は希少な存在なのだ。

 ガラルドが誰にも相談せず気ままに行動してしまうのは、そういった背景があるとサリはとっくに気付いていた。

「バカな子だよ。そんなつまらない理由で、あんたみたいな面倒で手のかかる子に付き合うもんかい。みんな、一人でやってける子ばかりなんだからねぇ」

 ペチペチと頬を叩かれて「そうなのか?」とガラルドはイスに座って寄り掛かった。
 まぁ確かに。
 敬われたり持ち上げられたりするのは、公式の場だけだ。

 思い返し、ついついムッとする。
 常日頃、バカにされたりどつかれたりすることがほとんどで、命令を出そうにも自分で判断をして今のように彼らは走り回っている。

 留守番の指示を出されるなんて、立場が逆転して本当にふざけた話だ。

 前の奥義継承者への扱いとまったく違う。
 先代はサリとそう変わらないジジイだったし、自分はそれこそ若造と呼ばれる歳なのでその差だけだと思っていたが、根底から違うらしい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ
ファンタジー
 僕は十年程闘病の末、あの世に。  そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?  幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。   ※画像はAI作成しました。 ※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...