今日も黒熊日和 ~ 英雄たちの還る場所 ~

真朱マロ

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「英雄のしつけかた」 3章 死神と呼ばれる少年

45. 祈るように 2

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「鈍い子だねぇ、友達だからだよ?」

「友達!」とすっとんきょうな声をガラルドは上げた。
 どこの国の言葉だと思わずもらすぐらい、自分には不似合いだった。

 そんなもの、市井の感情だ。
 下街や商家に相応しい付き合いで、双剣持ちにはまったく似つかわしくないと思っていた。

「ただの部下だぞと」
 ガラルドが驚きすぎた顔でポカンとしているのでサリはコロコロ笑った。
「たとえばあんたが片腕を失くしたとしても、あの子たちは変わらないよ? いいかい? 流派の使徒でなくなったとしても、今と同じ顔で同じことを言うさ」

 まさかと思いながらも、そうかもしれないとそれぞれの顔を思い描いた。
 立場や身分やそういった事に縛られない連中ばかりだ。
 口にすることはないが、実はかなり気にいっている。
 だが自分に対して彼らが抱いている感情が、友にたいするものだったとは。

 言い訳のようになるが、双剣の重みに失念していた。
 継承者らしさを求める者には、とっくに距離を置かれている。
 英雄だの剣豪だの呼ばれるのが十五歳と早すぎて、たくさんの物を知らずに来たらしい。

「ふぅん、他人との付き合いとは実に奥深い物なんだな。あいつら、俺の友人なのか」

 出て行ったデュラン達が聞いたら、やっぱりお前は頭の中身まで熊だったんだなぁと心底から嘆くようなことをつぶやいて、非常に感心している。
 気がつけてよかったじゃないかと、サリはガラルドの頭を子供のようになでてやる。

「これから友人にも仲間にも、おまえさんたちはなっていくんだねぇ」

 すっかり幼児扱いだったが、不思議なばあさんだとガラルドは瞬きをした。
 言葉に力がある。
 見た目だけでなく、中身まで福招きみたいだ。
 慰めるつもりが、慰められてしまった。

 仲間か、とつぶやいた。
 面倒な奴だと小突かれまくった、先ほどの会話も思い返す。

 あれが友人に対する言葉なら納得できる。
 彼らは並外れたガラルドの能力や個性の全てを、丸ごと受け入れていた。
 ガラルド自身より能力を正確に評価している。

 ガラルドは窓の外を見た。
 ならば部下だと使うのではなく、彼らの全てを丸ごと受け入れるのも、たやすい気がした。
 部下だと思えば成果が気になってイライラするのだが、友人や仲間ならばドーンと任せて待つのも苦ではない。

 悪くない考え方だ。
 アハハッと豪快に笑った。

「なら、昼寝でもしておくか。サリも晩飯までは寝ておけ。あいつらもそのぐらいには、何か実になる情報を持って帰ってくるさ」

 とてつもない切り替えの速さで長椅子にゴロンと横になったガラルドに、ずいぶんと極端な子だねぇとサリは笑った。
 最後までその言葉を聞くこともなく素晴らしい寝付きの早さで、ガラルドはグーグーと寝ていた。

 本当に仕方のない子だと笑うしかない。
 通常なら育っている部分がまるで白紙だ。

 だが、豪傑や英雄と呼ばれるのもダテではなく、そこにいるだけで落ち着く。
 その強烈な存在感のおかげで、サリが不安に打ちひしがれたりすることはまったくなかった。

 ひっそりと笑う。
 自分に足りないところもよく知っていて、頭も悪くない。
 短気なところが少々難儀だが、日常ではずいぶんと素直に聞く耳もあった。
 この歳になって、こんなに大きく育った片手落ちの子をしつけるとは思わなかったけれど、長生きしなければと思う。

 仕事では一流でも、肝心の部分が半人前の男。
 だけど情も義もあるガラルドに孫の未来を託せれば、心残りがなくなりそうだった。

 ミレーヌを想った。
 あれだけ口やかましく説教して回れば、きっとガラルドも力の使い方を間違えず、誰からも愛される剣豪になる。

 それだけは確信を持てた。

 自分が亡くなれば、ミレーヌは一人になる。
 おばあちゃんたら勝手なことを言わないで、なんてふくれっ面で文句をもらすだろうけど。
 身内として、二人は相性がいいと思っていた。

 どうか、みんなが無事で帰ってきますように。

 午後の穏やかな陽光に、祈るサリだった。
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