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「英雄のしつけかた」 3章 死神と呼ばれる少年
48. オルランド 1
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少年は深呼吸をして、息を整えた。
ミレーヌのペースがものすごくのほほんとしているうえに、筋金入りのナチュラルなので頭痛がする。
今すぐ王都に戻してこようかと悩む。
あやうく、誘拐の目的を忘れそうだった。
そんな少年を尻目に、あくまでミレーヌはほのぼのとしていた。
「ねぇ、オルランドは何がお好き? 誘拐犯でもお腹はすきますでしょう? 材料さえあれば人質らしく、多少の我儘はききましてよ」
人質らしく?
声に出すのをぐっと我慢し、口をつぐんだ。
一回の発言に対して、返事として十は奇妙な台詞が返ってくるに違いない。
予感というより、確信があった。
我慢だ、我慢。
泣き叫んで暴れられるより、きっとこれはマシな状況なんだと自分に言い聞かせる。
そんな少年の目の前で。
ミレーヌは食糧らしい袋を漁っていたかと思えば、あら鶏の声がすると壁に耳を当てている。
確かにこの外は鶏小屋だった。
そう言うと「卵料理は調理がすぐですわ」とミレーヌは非常に喜びはじめた。
「お姉さん、本気で台所に行くの?」
「ええ、もちろん。わたくし、オルランドの人質なんでしょう? 一緒にいてくださいな」
ミレーヌはニコニコと笑い返した。
適当に袋の中から見つくろった物を、ポケットに入れてあったバンダナに包む。
「まずは台所で、次は鳥小屋に行きませんこと?」
ミレーヌが楽しそうなので、なんだかなぁと少年はぼやいた。
「なんですの?」
あたりまえに首をかしげているので「何でもないよ」と返して、先に立って歩き出す。
落ち着かない表情でいるのは少年だけだ。
ここが台所と教えられたところで、ミレーヌは少しだけ下ごしらえをした。
たまたま見つけたザルを持って鳥小屋に向かう。
すれ違った男や遠くで見かけた男がジロジロと視線を向けてくるので、ミレーヌは「嫌だわ」とつぶやく。「オルランド」と小さな声で少年を呼ぶと「離れないでくださいね」と頼んだ。
少年は顔をしかめた。
本気でこの女はオルランドで名前を定着させるらしい。
マジかよ? とあきれたものの、嫌だと言ったらうるさいに決まっている。
うるさいのは耐えられないので、とりあえずそのまま流してしまう。
「あの、絶対に近くにいてくださいな。貴方の他は変な方ばかりなんでしょう?」
オドオドしてミレーヌが身を寄せてくるので、う~んとオルランドは頭を悩ませる。
よくわからなくなった。
どこからどう見ても、これはかよわい人質の態度だ。
「人並みに恐いの?」
「当たり前ですわ」
「僕のことは怖くない訳?」
「まぁ! 意地悪なことを言わないで」
文句が返ってきたものだから「大きな誤解があるよ」とぼやいた。
さらったのはオルランドである。
あの辺でジロジロ見ている男たちは、ミレーヌがどこの誰かもまったく知らないのだ。
職業と勤め先を話して助けを求めれば、あんがい厄介な女を連れてきたと大騒ぎするかもしれない。カナルに身柄を戻そうとする輩も出てくるかもしれない。
東流派に自分から絡んでいく強心臓の犯罪者はいない。
そう説明したら、ミレーヌは悩んでしまった。
「まぁ! そう言われてみれば……なぜかしら? オルランドに初めて会ったと思えなくて……」
う~んとしばらく考えながら、せっせと鳥小屋の中にある卵を集めていた。
「どこかで会いました?」
「そんな訳ないだろ?」
あっさり返されて、そうですわよねぇとミレーヌは眉根を寄せる。
確かに見覚えのない顔だ。
誘拐犯、イコール、オルランド。
誰かに騙されたわけでもそそのかされたわけでもなく、自分の意思で率先してミレーヌを誘拐したのはオルランド。
そのぐらいは、理解していたのだけれど。
なぜだか、全く怖くない。
ツンツンとんがってみせるのが、可愛くて仕方ないくらいだ。
おかしいですわ、とミレーヌ自身も首を傾げるしかなかった。
ミレーヌのペースがものすごくのほほんとしているうえに、筋金入りのナチュラルなので頭痛がする。
今すぐ王都に戻してこようかと悩む。
あやうく、誘拐の目的を忘れそうだった。
そんな少年を尻目に、あくまでミレーヌはほのぼのとしていた。
「ねぇ、オルランドは何がお好き? 誘拐犯でもお腹はすきますでしょう? 材料さえあれば人質らしく、多少の我儘はききましてよ」
人質らしく?
声に出すのをぐっと我慢し、口をつぐんだ。
一回の発言に対して、返事として十は奇妙な台詞が返ってくるに違いない。
予感というより、確信があった。
我慢だ、我慢。
泣き叫んで暴れられるより、きっとこれはマシな状況なんだと自分に言い聞かせる。
そんな少年の目の前で。
ミレーヌは食糧らしい袋を漁っていたかと思えば、あら鶏の声がすると壁に耳を当てている。
確かにこの外は鶏小屋だった。
そう言うと「卵料理は調理がすぐですわ」とミレーヌは非常に喜びはじめた。
「お姉さん、本気で台所に行くの?」
「ええ、もちろん。わたくし、オルランドの人質なんでしょう? 一緒にいてくださいな」
ミレーヌはニコニコと笑い返した。
適当に袋の中から見つくろった物を、ポケットに入れてあったバンダナに包む。
「まずは台所で、次は鳥小屋に行きませんこと?」
ミレーヌが楽しそうなので、なんだかなぁと少年はぼやいた。
「なんですの?」
あたりまえに首をかしげているので「何でもないよ」と返して、先に立って歩き出す。
落ち着かない表情でいるのは少年だけだ。
ここが台所と教えられたところで、ミレーヌは少しだけ下ごしらえをした。
たまたま見つけたザルを持って鳥小屋に向かう。
すれ違った男や遠くで見かけた男がジロジロと視線を向けてくるので、ミレーヌは「嫌だわ」とつぶやく。「オルランド」と小さな声で少年を呼ぶと「離れないでくださいね」と頼んだ。
少年は顔をしかめた。
本気でこの女はオルランドで名前を定着させるらしい。
マジかよ? とあきれたものの、嫌だと言ったらうるさいに決まっている。
うるさいのは耐えられないので、とりあえずそのまま流してしまう。
「あの、絶対に近くにいてくださいな。貴方の他は変な方ばかりなんでしょう?」
オドオドしてミレーヌが身を寄せてくるので、う~んとオルランドは頭を悩ませる。
よくわからなくなった。
どこからどう見ても、これはかよわい人質の態度だ。
「人並みに恐いの?」
「当たり前ですわ」
「僕のことは怖くない訳?」
「まぁ! 意地悪なことを言わないで」
文句が返ってきたものだから「大きな誤解があるよ」とぼやいた。
さらったのはオルランドである。
あの辺でジロジロ見ている男たちは、ミレーヌがどこの誰かもまったく知らないのだ。
職業と勤め先を話して助けを求めれば、あんがい厄介な女を連れてきたと大騒ぎするかもしれない。カナルに身柄を戻そうとする輩も出てくるかもしれない。
東流派に自分から絡んでいく強心臓の犯罪者はいない。
そう説明したら、ミレーヌは悩んでしまった。
「まぁ! そう言われてみれば……なぜかしら? オルランドに初めて会ったと思えなくて……」
う~んとしばらく考えながら、せっせと鳥小屋の中にある卵を集めていた。
「どこかで会いました?」
「そんな訳ないだろ?」
あっさり返されて、そうですわよねぇとミレーヌは眉根を寄せる。
確かに見覚えのない顔だ。
誘拐犯、イコール、オルランド。
誰かに騙されたわけでもそそのかされたわけでもなく、自分の意思で率先してミレーヌを誘拐したのはオルランド。
そのぐらいは、理解していたのだけれど。
なぜだか、全く怖くない。
ツンツンとんがってみせるのが、可愛くて仕方ないくらいだ。
おかしいですわ、とミレーヌ自身も首を傾げるしかなかった。
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