49 / 83
「英雄のしつけかた」 3章 死神と呼ばれる少年
49. オルランド 2
しおりを挟む
とりあえず、二人そろって台所に向かう。
建物には幾人も男がいた。
想像以上にたくさんの視線が追ってきたけれど、全員が遠巻きにしていた。
誰一人、オルランドにもミレーヌにも声をかけてこなかった。
嫌な視線、とミレーヌは身をすくめるしかない。
怖い顔をしてみせるオルランドはかわいく感じるのに、彼らはただ恐ろしいばかりだった。
よかった、この子がいてくれて。
場違いな感想を抱きながら、ふと目があったオルランドに微笑みかける。
本気で「気持ち悪い」とつぶやかれて、ひどいと口をとがらせるしかなかった。
古い扉を閉じて、ようやく嫌な視線から逃れられた。
当然だが、台所はあまり使われていなかった。
ただ、道具が多いし当たり前に使用できる機能的な造りなので、ミレーヌは喜んでいた。
「わたくしも一緒に食べてもよろしい?」
「好きにしなよ」
止めても無駄だと思っているオルランドの目の前で、ミレーヌは二人分のスープやオムレツを作っていく。
ガラルドの好きなトロトロのオムレツを見て、オルランドは顔をしかめた。
「気持ち悪いソレが本当に食べ物?」
「まぁ! 食べられないモノは作りませんわ」
「とても食べ物とは思えないね」
「まぁ好き嫌いをするなんて、本当にどこまでも子供なのねぇ」
「子供……」
青ざめた顔でつぶやいたオルランドは、ぐうっと言葉を飲み込んだ。
僕は死神だぞ。
のど元までそんなセリフがこみ上げていたが、ひたすら耐える。
反論はさらなる不可解な言葉を生む。
そんなのはまっぴらごめんだった。
だから他には特にコメントもせずに、ミレーヌの様子を気味悪そうに観察していた。
新しく作られたしっかり焼き目のついたふんわりオムレツに、妙な顔をしたぐらいだ。やわらかそうなのにトロトロ感はゼロだ。
本当に二人分あると目だけで確かめている。
あっという間に食事が出来上がる。
「どうぞ」
ミレーヌがうながしても、オルランドは動かなかった。
小さなテーブルに並べた食事には目もくれず、四角い穴にしか見えない窓枠に座ったままだ。
興味がないわけではない。
その視線はずっとミレーヌの動きを追っていた。
だからミレーヌは、ジッとオルランドを見つめた。
「なに?」
「冷めますわよ」
どうぞと再びうながされて、仕方なくと目に見えてわかる表情でイスに座った。
そのままオルランドが動かないので、アラアラとミレーヌは笑ってしまった。
奇怪な眼差しを、目の前のオムレツに向けている。
料理をしているところも見ていたはずなのに、ずいぶんと慎重な性格らしい。
「妙な物は入っていませんわ」
笑いながらミレーヌが横に座って当たり前の顔でいるので「変なの」とオルランドは口に出した。
ミレーヌは先に食べ始めた。
慎重なだけではなく見慣れない物を前にした顔をしているので、おそらく王都流の郷土料理をあまり食べたことがないのだろう。
そう予想して、さらに促した。
「冷めるとおいしくないですわよ」
断る権利はないんだろうなと胸の中でぼやいて、オルランドは抵抗するのをあきらめた。
ツンツンとフォークでつついて中身を確かめながら、ちょっとづつ口にしていく。
その様子は分解とか解剖に似ている気がして、ミレーヌは「かわいい」と笑ってしまった。
コロコロと笑うものだから、オルランドはショックを受けた。
「僕がかわいい?」
ありえない。
僕は死神だぞ?
しばらく呆然としていたが、手は解剖を続けていた。
ひとしきり解剖してとりあえず納得したのか、普通に口に運びだす。
オルランドが食べる様子をしばらく見つめていたけれど、しばらくして「考えてみたんですけど」とミレーヌは話しかけた。
「黒熊隊の方々に、オルランドは雰囲気が似ていますの……そのせいかも。特にガラルド様かしら? まぁガラルド様に比べたら、オルランドはずいぶんとまともですわよ?」
彼らは個性的で剣士らしい、特出した古い血を持つ自身を自覚しているのだ。
ふとした時に見せる、一般人との能力に大きな隔たりがあることを知っている者の顔だ。
そう、自分を知るが故の独特の空気をまとう。
フゥンと適当に答えながら、オルランドはつまらなそうな顔をした。
並外れて古い血が濃いだけだ。
流派だの偉そうなものを背負う者と一緒にされるのはごめんだった。
それでも、興味があった。
建物には幾人も男がいた。
想像以上にたくさんの視線が追ってきたけれど、全員が遠巻きにしていた。
誰一人、オルランドにもミレーヌにも声をかけてこなかった。
嫌な視線、とミレーヌは身をすくめるしかない。
怖い顔をしてみせるオルランドはかわいく感じるのに、彼らはただ恐ろしいばかりだった。
よかった、この子がいてくれて。
場違いな感想を抱きながら、ふと目があったオルランドに微笑みかける。
本気で「気持ち悪い」とつぶやかれて、ひどいと口をとがらせるしかなかった。
古い扉を閉じて、ようやく嫌な視線から逃れられた。
当然だが、台所はあまり使われていなかった。
ただ、道具が多いし当たり前に使用できる機能的な造りなので、ミレーヌは喜んでいた。
「わたくしも一緒に食べてもよろしい?」
「好きにしなよ」
止めても無駄だと思っているオルランドの目の前で、ミレーヌは二人分のスープやオムレツを作っていく。
ガラルドの好きなトロトロのオムレツを見て、オルランドは顔をしかめた。
「気持ち悪いソレが本当に食べ物?」
「まぁ! 食べられないモノは作りませんわ」
「とても食べ物とは思えないね」
「まぁ好き嫌いをするなんて、本当にどこまでも子供なのねぇ」
「子供……」
青ざめた顔でつぶやいたオルランドは、ぐうっと言葉を飲み込んだ。
僕は死神だぞ。
のど元までそんなセリフがこみ上げていたが、ひたすら耐える。
反論はさらなる不可解な言葉を生む。
そんなのはまっぴらごめんだった。
だから他には特にコメントもせずに、ミレーヌの様子を気味悪そうに観察していた。
新しく作られたしっかり焼き目のついたふんわりオムレツに、妙な顔をしたぐらいだ。やわらかそうなのにトロトロ感はゼロだ。
本当に二人分あると目だけで確かめている。
あっという間に食事が出来上がる。
「どうぞ」
ミレーヌがうながしても、オルランドは動かなかった。
小さなテーブルに並べた食事には目もくれず、四角い穴にしか見えない窓枠に座ったままだ。
興味がないわけではない。
その視線はずっとミレーヌの動きを追っていた。
だからミレーヌは、ジッとオルランドを見つめた。
「なに?」
「冷めますわよ」
どうぞと再びうながされて、仕方なくと目に見えてわかる表情でイスに座った。
そのままオルランドが動かないので、アラアラとミレーヌは笑ってしまった。
奇怪な眼差しを、目の前のオムレツに向けている。
料理をしているところも見ていたはずなのに、ずいぶんと慎重な性格らしい。
「妙な物は入っていませんわ」
笑いながらミレーヌが横に座って当たり前の顔でいるので「変なの」とオルランドは口に出した。
ミレーヌは先に食べ始めた。
慎重なだけではなく見慣れない物を前にした顔をしているので、おそらく王都流の郷土料理をあまり食べたことがないのだろう。
そう予想して、さらに促した。
「冷めるとおいしくないですわよ」
断る権利はないんだろうなと胸の中でぼやいて、オルランドは抵抗するのをあきらめた。
ツンツンとフォークでつついて中身を確かめながら、ちょっとづつ口にしていく。
その様子は分解とか解剖に似ている気がして、ミレーヌは「かわいい」と笑ってしまった。
コロコロと笑うものだから、オルランドはショックを受けた。
「僕がかわいい?」
ありえない。
僕は死神だぞ?
しばらく呆然としていたが、手は解剖を続けていた。
ひとしきり解剖してとりあえず納得したのか、普通に口に運びだす。
オルランドが食べる様子をしばらく見つめていたけれど、しばらくして「考えてみたんですけど」とミレーヌは話しかけた。
「黒熊隊の方々に、オルランドは雰囲気が似ていますの……そのせいかも。特にガラルド様かしら? まぁガラルド様に比べたら、オルランドはずいぶんとまともですわよ?」
彼らは個性的で剣士らしい、特出した古い血を持つ自身を自覚しているのだ。
ふとした時に見せる、一般人との能力に大きな隔たりがあることを知っている者の顔だ。
そう、自分を知るが故の独特の空気をまとう。
フゥンと適当に答えながら、オルランドはつまらなそうな顔をした。
並外れて古い血が濃いだけだ。
流派だの偉そうなものを背負う者と一緒にされるのはごめんだった。
それでも、興味があった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜
リョウ
ファンタジー
僕は十年程闘病の末、あの世に。
そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?
幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。
※画像はAI作成しました。
※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる