今日も黒熊日和 ~ 英雄たちの還る場所 ~

真朱マロ

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「英雄のしつけかた」 3章 死神と呼ばれる少年

49. オルランド 2

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 とりあえず、二人そろって台所に向かう。
 建物には幾人も男がいた。
 想像以上にたくさんの視線が追ってきたけれど、全員が遠巻きにしていた。
 誰一人、オルランドにもミレーヌにも声をかけてこなかった。

 嫌な視線、とミレーヌは身をすくめるしかない。
 怖い顔をしてみせるオルランドはかわいく感じるのに、彼らはただ恐ろしいばかりだった。

 よかった、この子がいてくれて。

 場違いな感想を抱きながら、ふと目があったオルランドに微笑みかける。
 本気で「気持ち悪い」とつぶやかれて、ひどいと口をとがらせるしかなかった。

 古い扉を閉じて、ようやく嫌な視線から逃れられた。
 当然だが、台所はあまり使われていなかった。
 ただ、道具が多いし当たり前に使用できる機能的な造りなので、ミレーヌは喜んでいた。

「わたくしも一緒に食べてもよろしい?」
「好きにしなよ」

 止めても無駄だと思っているオルランドの目の前で、ミレーヌは二人分のスープやオムレツを作っていく。
 ガラルドの好きなトロトロのオムレツを見て、オルランドは顔をしかめた。

「気持ち悪いソレが本当に食べ物?」
「まぁ! 食べられないモノは作りませんわ」
「とても食べ物とは思えないね」
「まぁ好き嫌いをするなんて、本当にどこまでも子供なのねぇ」
「子供……」
 青ざめた顔でつぶやいたオルランドは、ぐうっと言葉を飲み込んだ。

 僕は死神だぞ。

 のど元までそんなセリフがこみ上げていたが、ひたすら耐える。
 反論はさらなる不可解な言葉を生む。
 そんなのはまっぴらごめんだった。

 だから他には特にコメントもせずに、ミレーヌの様子を気味悪そうに観察していた。
 新しく作られたしっかり焼き目のついたふんわりオムレツに、妙な顔をしたぐらいだ。やわらかそうなのにトロトロ感はゼロだ。
 本当に二人分あると目だけで確かめている。
 あっという間に食事が出来上がる。

「どうぞ」

 ミレーヌがうながしても、オルランドは動かなかった。
 小さなテーブルに並べた食事には目もくれず、四角い穴にしか見えない窓枠に座ったままだ。
 興味がないわけではない。
 その視線はずっとミレーヌの動きを追っていた。
 だからミレーヌは、ジッとオルランドを見つめた。

「なに?」
「冷めますわよ」

 どうぞと再びうながされて、仕方なくと目に見えてわかる表情でイスに座った。
 そのままオルランドが動かないので、アラアラとミレーヌは笑ってしまった。
 奇怪な眼差しを、目の前のオムレツに向けている。
 料理をしているところも見ていたはずなのに、ずいぶんと慎重な性格らしい。

「妙な物は入っていませんわ」
 笑いながらミレーヌが横に座って当たり前の顔でいるので「変なの」とオルランドは口に出した。

 ミレーヌは先に食べ始めた。
 慎重なだけではなく見慣れない物を前にした顔をしているので、おそらく王都流の郷土料理をあまり食べたことがないのだろう。
 そう予想して、さらに促した。

「冷めるとおいしくないですわよ」

 断る権利はないんだろうなと胸の中でぼやいて、オルランドは抵抗するのをあきらめた。
 ツンツンとフォークでつついて中身を確かめながら、ちょっとづつ口にしていく。
 その様子は分解とか解剖に似ている気がして、ミレーヌは「かわいい」と笑ってしまった。
 コロコロと笑うものだから、オルランドはショックを受けた。

「僕がかわいい?」

 ありえない。
 僕は死神だぞ?

 しばらく呆然としていたが、手は解剖を続けていた。
 ひとしきり解剖してとりあえず納得したのか、普通に口に運びだす。
 オルランドが食べる様子をしばらく見つめていたけれど、しばらくして「考えてみたんですけど」とミレーヌは話しかけた。

「黒熊隊の方々に、オルランドは雰囲気が似ていますの……そのせいかも。特にガラルド様かしら? まぁガラルド様に比べたら、オルランドはずいぶんとまともですわよ?」

 彼らは個性的で剣士らしい、特出した古い血を持つ自身を自覚しているのだ。
 ふとした時に見せる、一般人との能力に大きな隔たりがあることを知っている者の顔だ。
 そう、自分を知るが故の独特の空気をまとう。

 フゥンと適当に答えながら、オルランドはつまらなそうな顔をした。
 並外れて古い血が濃いだけだ。
 流派だの偉そうなものを背負う者と一緒にされるのはごめんだった。
 それでも、興味があった。
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