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「英雄のしつけかた」 エピローグ
77. 還る場所 2
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「大丈夫ですわよ。冬は特に気持ちがよくなりますし、すぐにお湯にもなれますわ」
他にもおしゃれ着を取り寄せなくてはと声が弾んでいるので、オルランドは蒼白になった。
「いいかげんにしてくれよ! こんな服、動きにくいし! ねぇ! それにこの首輪、外せよ。まさか、夜も一緒なんて言わないよな!」
「まぁ! 弟と夢の添い寝♪」
うっとりしているミレーヌに、オルランドは悲鳴を上げた。
「嫌だって言ってるだろ! ちょっとは聞けよ!」
ずっと生きたお人形遊びに付き合わされるなんて、勘弁してほしい。
遊び手ならまだしも、人形役は最低だった。
「僕だって、もう十三歳なんだ。お姉さん、少しは貞操の心配したらどうなの!」
「嫌ですわ、わたくしは襲いませんわよ」
「だから違うって!」
叫んだ後でオルランドは、窓際で揺りイスで揺れているサリを呼んだ。
「ばあちゃん! あんたの孫なんだから、少しは世間の常識を教えてやれよ!」
「ハイハイさっぱりしてよかったねぇ」
「綺麗になった」とのどかに笑われて、そういや耳が悪いんだったとオルランドは肩を落とした。
会話を聞いているようで、聞こえていない。
双剣の使徒からもしものときは手堅く守ってくれるミレーヌだが、ミレーヌから自分を守る術などオルランドには何一つなかった。
嫌だぁ! と頭を抱える姿を、おいでおいでとサリが手招いた。
「ほらほら、髪を乾かさないと風邪をひくよ」
ふいてあげようと笑うので、キッとオルランドは眼差しをとがらせた。
「自分でできるから! 子供扱いしないでくれよ」
プンプンと怒りながら、どうにでもなれとつぶやきつつタオルで自分の頭をかきまわす。
まぁ! とミレーヌが櫛で髪をとかそうとするのを、いらないから! と邪険に断った。
その様子を全員が爆笑して見ていたが、ガラルドだけは睨みつけていた。
「おのれ、小僧。ミレーヌだけでなく、サリにまでちょっかいをかける気だな」
あれこれと世話を焼かれている図が非常に面白くない。
クウッとガラルドが呻いた時、サリが言った。
「おやおや、子供を育ててみるのは、足りない子にはちょうどいいねぇ。この子は欠けた子だから、あんたとは気が合うだろうよ」
はて? とガラルドの顔色が変わった。
サリの言葉は、ここのところ絶対である。
耳を傾けておけば、事態が悪く転がらなくてお得だった。
「ちょうどいいのか? 生意気そうなのに?」
うのみにしているガラルドの顔に、オルランドは悲鳴を上げた。
「いいわけないだろ? よしてくれ!」
これから先、自由が欠片もないだけでなく、ガラルドに振り回される一生なんて嫌すぎる。
財布や時計扱いになるなら関係がギスギスするのも嫌だが、ピッタリ寄りそって四六時中ガラルドと一緒にいるのはもっと嫌だった。
ガラルドに縛り付けられるぐらいなら、ミレーヌにいじられるほうがマシだ。
単純で乗せやすいし、面倒な情勢に巻き込まれることがない。
「僕はお姉さんと一緒でかまわないから!」
まぁ! とミレーヌは喜んだが、当のガラルドはまったく聞いていなかった。
サリはニコニコと笑って、子育てすると辛抱も覚えられるからいいねぇと鷹揚に微笑んで、何やら言い聞かせている。
「ああ、あの子はお前さんに似ているところもあるしねぇ。側に置くにはおあつらえだよ?育てるのはなんでも大変だけど、できるかい?」
ムゥッとガラルドはうなっている。
生意気な小僧でも、しょせんは死神。人としても剣持ちとしても中途半端な育ちなので、子育てには責任があると言われると躊躇する。
「まぁまぁ、サリ殿は子育ての経験者だ。迷ったら聞けよ。どっちにしろ、小僧に流派のことを教えられるのは、奥義継承者のあんただけだ」
「その小僧、見よう見まねで飛燕剣舞、片手で出しやがった。早めに正しい技、教えてやれよ」
「本当か!」
ガラルドは眼をきらめかせた。
「こんな性質の悪い冗談は言わんぞ?」
「そうか。飛燕剣舞ができるなら、話が早い」
育て方次第では、それこそ最終奥義だって覚えるかもしれない。
なにしろ最終奥義は難易度が高すぎて、ここにいる東流派の要たちだって完璧にマスターしていなかった。
後世に技を継承し続けるためには、一子相伝なんて生ぬるいことを言っていられない。
流派の担い手が危機感を持って全力を尽くし挑んでいるのに、二人目が現われない。
現在の奥義継承者はガラルドただ一人だけだった。
ガラルドにもしものことがあれば、最終奥義の継承が途切れてしまうのだ。
だから、ガラルドはコロッと機嫌をよくした。
見込みのある人間は大好きだった。
他にもおしゃれ着を取り寄せなくてはと声が弾んでいるので、オルランドは蒼白になった。
「いいかげんにしてくれよ! こんな服、動きにくいし! ねぇ! それにこの首輪、外せよ。まさか、夜も一緒なんて言わないよな!」
「まぁ! 弟と夢の添い寝♪」
うっとりしているミレーヌに、オルランドは悲鳴を上げた。
「嫌だって言ってるだろ! ちょっとは聞けよ!」
ずっと生きたお人形遊びに付き合わされるなんて、勘弁してほしい。
遊び手ならまだしも、人形役は最低だった。
「僕だって、もう十三歳なんだ。お姉さん、少しは貞操の心配したらどうなの!」
「嫌ですわ、わたくしは襲いませんわよ」
「だから違うって!」
叫んだ後でオルランドは、窓際で揺りイスで揺れているサリを呼んだ。
「ばあちゃん! あんたの孫なんだから、少しは世間の常識を教えてやれよ!」
「ハイハイさっぱりしてよかったねぇ」
「綺麗になった」とのどかに笑われて、そういや耳が悪いんだったとオルランドは肩を落とした。
会話を聞いているようで、聞こえていない。
双剣の使徒からもしものときは手堅く守ってくれるミレーヌだが、ミレーヌから自分を守る術などオルランドには何一つなかった。
嫌だぁ! と頭を抱える姿を、おいでおいでとサリが手招いた。
「ほらほら、髪を乾かさないと風邪をひくよ」
ふいてあげようと笑うので、キッとオルランドは眼差しをとがらせた。
「自分でできるから! 子供扱いしないでくれよ」
プンプンと怒りながら、どうにでもなれとつぶやきつつタオルで自分の頭をかきまわす。
まぁ! とミレーヌが櫛で髪をとかそうとするのを、いらないから! と邪険に断った。
その様子を全員が爆笑して見ていたが、ガラルドだけは睨みつけていた。
「おのれ、小僧。ミレーヌだけでなく、サリにまでちょっかいをかける気だな」
あれこれと世話を焼かれている図が非常に面白くない。
クウッとガラルドが呻いた時、サリが言った。
「おやおや、子供を育ててみるのは、足りない子にはちょうどいいねぇ。この子は欠けた子だから、あんたとは気が合うだろうよ」
はて? とガラルドの顔色が変わった。
サリの言葉は、ここのところ絶対である。
耳を傾けておけば、事態が悪く転がらなくてお得だった。
「ちょうどいいのか? 生意気そうなのに?」
うのみにしているガラルドの顔に、オルランドは悲鳴を上げた。
「いいわけないだろ? よしてくれ!」
これから先、自由が欠片もないだけでなく、ガラルドに振り回される一生なんて嫌すぎる。
財布や時計扱いになるなら関係がギスギスするのも嫌だが、ピッタリ寄りそって四六時中ガラルドと一緒にいるのはもっと嫌だった。
ガラルドに縛り付けられるぐらいなら、ミレーヌにいじられるほうがマシだ。
単純で乗せやすいし、面倒な情勢に巻き込まれることがない。
「僕はお姉さんと一緒でかまわないから!」
まぁ! とミレーヌは喜んだが、当のガラルドはまったく聞いていなかった。
サリはニコニコと笑って、子育てすると辛抱も覚えられるからいいねぇと鷹揚に微笑んで、何やら言い聞かせている。
「ああ、あの子はお前さんに似ているところもあるしねぇ。側に置くにはおあつらえだよ?育てるのはなんでも大変だけど、できるかい?」
ムゥッとガラルドはうなっている。
生意気な小僧でも、しょせんは死神。人としても剣持ちとしても中途半端な育ちなので、子育てには責任があると言われると躊躇する。
「まぁまぁ、サリ殿は子育ての経験者だ。迷ったら聞けよ。どっちにしろ、小僧に流派のことを教えられるのは、奥義継承者のあんただけだ」
「その小僧、見よう見まねで飛燕剣舞、片手で出しやがった。早めに正しい技、教えてやれよ」
「本当か!」
ガラルドは眼をきらめかせた。
「こんな性質の悪い冗談は言わんぞ?」
「そうか。飛燕剣舞ができるなら、話が早い」
育て方次第では、それこそ最終奥義だって覚えるかもしれない。
なにしろ最終奥義は難易度が高すぎて、ここにいる東流派の要たちだって完璧にマスターしていなかった。
後世に技を継承し続けるためには、一子相伝なんて生ぬるいことを言っていられない。
流派の担い手が危機感を持って全力を尽くし挑んでいるのに、二人目が現われない。
現在の奥義継承者はガラルドただ一人だけだった。
ガラルドにもしものことがあれば、最終奥義の継承が途切れてしまうのだ。
だから、ガラルドはコロッと機嫌をよくした。
見込みのある人間は大好きだった。
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1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
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