今日も黒熊日和 ~ 英雄たちの還る場所 ~

真朱マロ

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「英雄のしつけかた」 エピローグ

78. 還る場所 3

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 次いで、オルランドの今後の扱いも報告する。
 今はガラルドの財布の名目で現場にも出して、成人したら副隊長に格上げする話もサクサクと提案され、それはいいと喜んだ。

 確かに魔物を集める手際も見事で、頭の使い方も無駄がないし回転も早くてこいつは拾い物だと、あっという間に絶好調に変わった。
 フフン♪ と笑って腕を組む。

「なんだ、ずいぶんと使える小僧だな。金が足りなくなったら、小僧に工面させればいいしな。この先は金にも困らん」
「そうそう、いくらでも使えるだろう?」
「ふぅん、実に便利な小僧だ」

 オルランドは蒼白になった。
 ミレーヌよりも、ガラルドは苦手な相手になりそうだった。
 長で英雄のくせに周りの言葉にのせられて、ホイホイとうなずく単純さはまずい気がした。
 嫌な方向へとドンドンと話が進んでいる。

 ちなみに。
 便利だとか、金の工面とか、公然と会話に出るのにも理由があった。
 今回の大量の魔物盗伐と野盗の捕獲の報奨金が高額だったおかげで、黒熊隊の今月の赤字補填も完ぺきだったのだ。

 流派として出動するよりも、ギルドの仕事を消化すれば高額の報奨金が手に入る。
 自分たちが事件発生には一切かかわっていない顔をして、討伐の完了を騎士団や警備隊の承認付きで報告できるなど、めったにないことだった。

 もちろん、カッシュ砦を無傷で奪還したので、国王からも多額の礼金が手に入った。
 ガラルドが出ると聞いて内心では保全は諦めていたのに、無傷だったので国王も気前がよかった。

 結果的に。
 ミレーヌの大掃除によって被った被害額を補って余りある大金が、この一晩だけで手に入ったのである。

 懐もすっかり潤って、全員が安堵の表情を浮かべていた。
 これからも赤字になったら、裏から手を回して儲けてくれよ~なんて。
 オルランドを見る目が、期待に満ちているのも当然なのだった。
 当然だが、オルランドだけは蒼白になっていた。

「僕は人間だ。財布なんて冗談じゃない! それに未成年だよ!」
 一生ただ働きで、せこせこお金の工面に走り回るのかと、ザーッと全身から血の気が引いた。
 絶対に嫌だと無駄な抵抗をしてみたが、ガラルド自身に一蹴された。

「俺が財布だと言えばジャスティだって財布だと認める。歳のことなら気にするな」

 国王の前にも引き出す気なのかと、オルランドは顔をひきつらせる。
 高貴な方々は大嫌いだった。
 愛想よく王様と会話をするなどとんでもない。

 それに、流派代表のガラルドに俺の財布だなんて引っ張り出され、外交の場でもずっと付き添うなど非常に迷惑だった。
 だけど既に決定事項のように、将来も安泰で良かったと全員がうなずき合っている。

 安泰だって!

 声にならない悲鳴を上げるしかない。
 立場や役職をくっつけられただけで、一生東流派に縛られるだけなのに。

 飼い殺し。
 それが一番ぴったりくる状況説明だろう。

 遠くからちらっと噂の英雄を見て楽しむだけのつもりが、とんでもないことになってきた。
 厄介な者に手を出したと、いまさらながら後悔しても遅かった。

「よし、小僧! お前が大人になるまで俺が直々に鍛えてやる。まずは遊ぶところから始めればいいんだろう? 道場に行くぞ!」

 ガラルドはすでにやる気満々である。
 鍛えると育てるは天と地ほどの差があったが、大雑把なガラルドは同意義としてとらえていた。

 フンッとオルランドの首輪にある綱を外し、何やら小さく呟いた。
 フンフン♪ と鼻歌交じりでミレーヌの手にある腕輪にも触れる。
 呪具もないのにあっさり外して綱を千切り、ガラルドは腕輪部分を自分の左手に巻いた。

「行ってくる」
 とりあえず言い残して、ガラルドはさっさと扉に向かって進んでいた。
「嫌だ!」と叫んだが、グンッと身体が前に引かれて、オルランドは悲鳴を上げた。
 綱もなにもないのに、ガラルドから一定の距離以上は離れられない。

 それがガラルドの施した呪だとわかった時には、既に道場へと向かっていた。
 足をふんばるが、ズルズルと引きずられている。

「遊べば必ず子供は懐くはずだしな。小僧、俺がたくさん遊んでやるから感謝しろ」
「なんか間違ってるぞ、それ!」
「細かいことは気にするな。男は木刀を振れてようやく半人前だ。真剣を持てば一人前だ」
「僕はもう、剣を持ってるって!」
「一振りより二振りの方が便利に決まっている。遠慮するな。双剣ならば俺に任せておけ」
「少しは聞けよ! 双剣なんて、僕はいらない!」
「遠慮するな、俺が教えたらすぐ覚える」
「遠慮じゃないって言ってるだろっ!」

 噛み合っていないようで、いいリズムで二人は言葉の応酬をしていた。
 どうやら相性がいいらしい。
 仲良しの会話が成立して素晴らしいと、皆が笑顔で手をふった。
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