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後日譚・海に浮かぶ月を見る
そのじゅう 迷惑
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宝月祭前は街中に人が集まっているので、岩場の多い街はずれの海岸は人目に付きにくい。
ほんの少し前に太陽も沈みきって、辺りはヒタヒタと迫る夜に染まりつつある。
立ち寄る者はほとんどいないが、観光客がぽつぽつと夜の散歩に訪れることもあり、男三人が岩場にいても不自然に見えなかった。
「それで、てめぇはどうすんだ?」
唐突に尋ねられたダンテは「え?」と驚きの声を上げた。
ローに投げかけられた質問の意図がわからなかったのだ。
戸惑いながら、今日の事を思い返す。
治癒院で仕事をして、いつもより早めの夕刻に上がり、宿に帰った。
待っていたのは、鍵のかかっていない扉と、誰もいないからっぽの部屋と、開け放たれた窓と、揺れるカーテンだけ。
床に散らばるお菓子や投げ捨てられたウィンプルから、即座にロザリンデが攫われたのだと思った。
慌ててティアたちの部屋の扉を叩き、返事がない事で彼女も巻き込まれたと察し、自分でも不思議だが全速力で港に走った。
誰よりも先に知らせるべきだと思った相手は、息を切らしてフラフラで辿り着いたダンテの姿に、なにが起こったか一目で察したらしく「嫁同士が仲良くなったから、二人でサプライズ頑張ってくるわ」と抜け抜けと言い放ち、漁師たちから冷やかしと声援を受けながらその場を後にした。
そのまま肩を抱かれるようにして早足で宿に戻り、途中で合流した魔法師の男と一緒に部屋を調査して、窓から侵入した男二人と扉から入ってきた合計三人の不審者に、女性二人が連れ去られたと断定した。
その後、魔法師の男がロザリンデとミントを模倣した幻影を作り出して五人での外出を装い、宿を出てこの海岸にまでやってきたのである。
すでに女二人の幻影は消えているが、あまりに展開が早すぎてダンテ自身は何が何だかわかっていない。
そのうえお互いに正体を明かしていないので対応も決めかねてモタモタしていると、ジルと名乗った糸目の男は失笑した。
「いや、いきなりそれはないっしょ。そんなことより、おたく、お姫様が誘拐されたってこと、お国に知らせなくていいんっすか?」
お姫様という言い回しで、ダンテはある程度の事情をジルは知っていると察した。
一瞬、視線をチラッと向けたことで、ローは知らなかったのだろうと予想する。
どちらにせよ、ごまかす段階でないのは理解していた。
「あぁ、いえ。私が知らせるまでもなく、ロザリンデ様の居場所は魔道具で、常に国の諜報機関へと報告されています。それでもこの国に来ている人間は少ないので、本格的に動くのは明日以降になると思いますが」
「ずいぶん他人任せっすね。どこのどなたかは存じませんがね、おたく、自分の奥さんっしょ」
あぁいえ、と歯切れ悪くダンテはうつむいた。
確かに素性がわからねば当然の言葉であるし、確証が欲しくて知らないふりを通している気もするが、一緒に攫われたティアの身内なのだから彼らはそれを聞く権利がある。
しばらくダンテは逡巡していたが、結局のところ吐き出して楽になりたい顔で、ポツリと言った。
「私たちの夫婦ごっこに許された時間は二カ月だけです。幼い頃からお仕えしていますが、ロザリンデ様は海洋王国の第一王女殿下ですから、攫われる理由はありすぎてわからない」
6年前に海路を欲した隣国へと政略で嫁ぎ、40歳も離れた王の正妃として過ごし、王の崩御と共に廃妃として母国に返される途中なのである。
もともと海路を盤石のモノにしたら離縁する予定だったので、ロザリンデは避妊薬を常用しているから、世継ぎも存在しない。
帰国すれば政略の駒として、また別の国益のある相手を見繕って嫁ぐ運命にある人でもあった。
その帰国途中で求めた唯一の我儘が、歪んだ性癖の王を忘却するための、庶民に似た夫婦ごっこだった。
想いを寄せていた姫君から真っすぐに求められ、ダンテも夢を見なかったわけではない。
普通の夫婦みたいに過ごすと言いましたわよね? と夜這いをかけられた時も、抵抗する意志など砂糖菓子よりももろく一瞬で崩れた。
でも、自分たちだけで暮らすならどうなるか、短い宿暮らしの中で思い知った。
着替えひとつ自分で出来ないロザリンデは、かしずく家臣の中でしか生きていけない優美な生き物だった。
朝から晩まで休日なく働いて得た生活は支援があっても粗末なもので、国の支援を厭うロザリンデに応じようとすればすぐに立ち行かなることが目に見えてしまう。
ダンテが何とかしようとあがけばあがくだけ、ロザリンデを一人部屋に残し孤独にした。
ほんの数週間の二人暮らしで身に染みる。
こんなおままごとみたいな時間が許されたのは、ダンテとロザリンデの二人に、身の程を思い知れという国の意向なのだ。
ダンテに用意できた精一杯の贅沢は、ロザリンデの我慢と忍耐に満ちた生活だった。
「想いだけで、人は生きていけません。前の王はゆがんだ男でしたから、ロザリンデ様にはつらい思いをさせながらも、私が仕える事を許されました。でも、次はどうなるか……この宝月祭が最後になるかもしれない」
どちらにせよ誘拐されたことで旅行者の結婚ごっこも終わりだろうと、かみしめるようにダンテは言葉を吐き出した。
うわぁ~という顔で「おもっ!」とジルは口元に手をやり、つまらなそうな顔でローはチッと舌打ちした。どうでもいいと言いたげな顔である。
「で、てめぇはどうすんだ?」
「どう、とは?」
「決まってるだろ。助けに行くのか、行かねぇのか。どっちだ?」
ローは凄むように問いかけ、海の果てへと視線を投げる。
その燃え上がるような赤い瞳は強く輝き、夜闇の先にある何かを貫くように見据えていた。
「ゴチャゴチャめんどくせー事情があっても、惚れてんだろ? 手放すのは勝手だが、手放し方を自分で決めなくていいのか? 勝手に奪われて終わりなんぞ、俺は我慢ならねぇ」
これは強い人の、強い意志を持っているからこそ、言える言葉だ。
そう思いながらも、つられるようにダンテも海上を見た。
「軽率に私が決めたことで、この先、彼の人たちの運命が変わるとわかっていても?」
「運命かよ、すげぇ自信だな。惚れた女がいて、てめぇが抱いた先に、続きがあるだけだろーに。ルーツがどこの誰であろうと、生まれちまえばそいつ自身が勝手に生きるさ」
その言い草に、ダンテは笑った。
どこまで意図しているのかわからないが、グルグル悩んできたことへの回答が含まれて、ローの言葉はシンプルでとても分かりやすかった。
自分自身の行いを最低だと今まで強く自己嫌悪していたのに、なんだかお国事情など含めてどうでもよくなってきた。
「私も行って、いいのでしょうか?」
奪われてばかりの人生だった。
何の力もない、非力で、あきらめ癖のついた、つまらない男なのに。
ただ側にいて、寄り添い、見つめてきた時間だけが、すべてだった。
小さなつぶやきに、ローは息をするように告げる。
「決めるのはてめぇだろ」
ストンと落ちてきたその言葉に、ダンテは両手を握りしめる。
未来はわからなくても、今、行くことを決めていいのだと目の前の男は言う。
「私は、もう一度、ロザリンデ様に伝えたい言葉があります」
そう、この二カ月の夫婦ごっこを受け入れた時と同じように、未来などどうなっても構わないと刹那の幸福を願った時のように。
自分勝手でも、今は決めて良い時なのだ。
「そーかい。気が合ったな」
硬い声だがダンテの意志がにじむ言葉に、チラリと目を向けてローは笑った。
決めるのが遅せぇよ、と軽くからかうような眼差しだった。
「心配ないっす。居場所の座標がわかりしだい飛ぶけど、僕らは女性陣を保護したらそれで終わり。その他の肉体労働は、この人が得意っす」
責任を丸投げする気なのか、綿毛よりも重みのないジルの軽口に、硬い顔で決意を固めていたダンテは思わず笑ってしまった。
確かにダンテは肉体労働が苦手だし、魔法師のジルも見るからに優男である。
細身に見えても長身で鍛え上げられた肉体を持つのは、この三人の中ではローだけだ。戦い慣れているのは、一目でわかる。
誘拐犯がどんな相手なのか予想もつかないが、荒事なのは間違いなく、頼れるのはたった一人でも大丈夫だと思うのが不思議だ。
「御迷惑をおかけします」
「迷惑っつーのは、他人にかけてこそ実になるらしいぜ」
「そうっすよ。この人だって勝手にポイポイ面倒ごとを投げてくるんだから、たまには構わないっしょ。迷惑の実はお互いに大豊作っす」
頭を下げるダンテに「おう」とローは答えたものの、丸投げする気満々のジルがうっとおしかったのか「うっせぇ」とその頭を小突く。
しばらく戯れながらヘラヘラと笑っていたジルだが、ふと気づいたように真顔でローに釘をさす。
「絶対に殺しちゃダメっすよ。どんなに気に入らない相手でも、もし、宝月祭の最中にうっかり殺しちゃったりすると、海神と月女神に呪われるのはティアちゃんっすからね。大事な事だから何度も言うけど、絶対に殺しちゃダメっす」
本当に困った調子で「呪われんの、俺にしてくれねーかな」とつぶやくローと、慌てた調子で「本当に大丈夫っすか?! クズの命でも大事にするっすよ!」と念押しするジルを見ながら、ダンテは海を見た。
ダンテの目には見えないが、この視線の先に待っている人がいるのだ。
今の自分はひとりではなかった。
大切な人を助けたいと願う人たちと、共に居る。
丸い銀月が煌々と輝き、さざめくような白波もキラキラと輝きながら寄せては返していく。
胸の中に沸き立つ不安や焦燥とは裏腹に、美しく静かな夜だった。
ほんの少し前に太陽も沈みきって、辺りはヒタヒタと迫る夜に染まりつつある。
立ち寄る者はほとんどいないが、観光客がぽつぽつと夜の散歩に訪れることもあり、男三人が岩場にいても不自然に見えなかった。
「それで、てめぇはどうすんだ?」
唐突に尋ねられたダンテは「え?」と驚きの声を上げた。
ローに投げかけられた質問の意図がわからなかったのだ。
戸惑いながら、今日の事を思い返す。
治癒院で仕事をして、いつもより早めの夕刻に上がり、宿に帰った。
待っていたのは、鍵のかかっていない扉と、誰もいないからっぽの部屋と、開け放たれた窓と、揺れるカーテンだけ。
床に散らばるお菓子や投げ捨てられたウィンプルから、即座にロザリンデが攫われたのだと思った。
慌ててティアたちの部屋の扉を叩き、返事がない事で彼女も巻き込まれたと察し、自分でも不思議だが全速力で港に走った。
誰よりも先に知らせるべきだと思った相手は、息を切らしてフラフラで辿り着いたダンテの姿に、なにが起こったか一目で察したらしく「嫁同士が仲良くなったから、二人でサプライズ頑張ってくるわ」と抜け抜けと言い放ち、漁師たちから冷やかしと声援を受けながらその場を後にした。
そのまま肩を抱かれるようにして早足で宿に戻り、途中で合流した魔法師の男と一緒に部屋を調査して、窓から侵入した男二人と扉から入ってきた合計三人の不審者に、女性二人が連れ去られたと断定した。
その後、魔法師の男がロザリンデとミントを模倣した幻影を作り出して五人での外出を装い、宿を出てこの海岸にまでやってきたのである。
すでに女二人の幻影は消えているが、あまりに展開が早すぎてダンテ自身は何が何だかわかっていない。
そのうえお互いに正体を明かしていないので対応も決めかねてモタモタしていると、ジルと名乗った糸目の男は失笑した。
「いや、いきなりそれはないっしょ。そんなことより、おたく、お姫様が誘拐されたってこと、お国に知らせなくていいんっすか?」
お姫様という言い回しで、ダンテはある程度の事情をジルは知っていると察した。
一瞬、視線をチラッと向けたことで、ローは知らなかったのだろうと予想する。
どちらにせよ、ごまかす段階でないのは理解していた。
「あぁ、いえ。私が知らせるまでもなく、ロザリンデ様の居場所は魔道具で、常に国の諜報機関へと報告されています。それでもこの国に来ている人間は少ないので、本格的に動くのは明日以降になると思いますが」
「ずいぶん他人任せっすね。どこのどなたかは存じませんがね、おたく、自分の奥さんっしょ」
あぁいえ、と歯切れ悪くダンテはうつむいた。
確かに素性がわからねば当然の言葉であるし、確証が欲しくて知らないふりを通している気もするが、一緒に攫われたティアの身内なのだから彼らはそれを聞く権利がある。
しばらくダンテは逡巡していたが、結局のところ吐き出して楽になりたい顔で、ポツリと言った。
「私たちの夫婦ごっこに許された時間は二カ月だけです。幼い頃からお仕えしていますが、ロザリンデ様は海洋王国の第一王女殿下ですから、攫われる理由はありすぎてわからない」
6年前に海路を欲した隣国へと政略で嫁ぎ、40歳も離れた王の正妃として過ごし、王の崩御と共に廃妃として母国に返される途中なのである。
もともと海路を盤石のモノにしたら離縁する予定だったので、ロザリンデは避妊薬を常用しているから、世継ぎも存在しない。
帰国すれば政略の駒として、また別の国益のある相手を見繕って嫁ぐ運命にある人でもあった。
その帰国途中で求めた唯一の我儘が、歪んだ性癖の王を忘却するための、庶民に似た夫婦ごっこだった。
想いを寄せていた姫君から真っすぐに求められ、ダンテも夢を見なかったわけではない。
普通の夫婦みたいに過ごすと言いましたわよね? と夜這いをかけられた時も、抵抗する意志など砂糖菓子よりももろく一瞬で崩れた。
でも、自分たちだけで暮らすならどうなるか、短い宿暮らしの中で思い知った。
着替えひとつ自分で出来ないロザリンデは、かしずく家臣の中でしか生きていけない優美な生き物だった。
朝から晩まで休日なく働いて得た生活は支援があっても粗末なもので、国の支援を厭うロザリンデに応じようとすればすぐに立ち行かなることが目に見えてしまう。
ダンテが何とかしようとあがけばあがくだけ、ロザリンデを一人部屋に残し孤独にした。
ほんの数週間の二人暮らしで身に染みる。
こんなおままごとみたいな時間が許されたのは、ダンテとロザリンデの二人に、身の程を思い知れという国の意向なのだ。
ダンテに用意できた精一杯の贅沢は、ロザリンデの我慢と忍耐に満ちた生活だった。
「想いだけで、人は生きていけません。前の王はゆがんだ男でしたから、ロザリンデ様にはつらい思いをさせながらも、私が仕える事を許されました。でも、次はどうなるか……この宝月祭が最後になるかもしれない」
どちらにせよ誘拐されたことで旅行者の結婚ごっこも終わりだろうと、かみしめるようにダンテは言葉を吐き出した。
うわぁ~という顔で「おもっ!」とジルは口元に手をやり、つまらなそうな顔でローはチッと舌打ちした。どうでもいいと言いたげな顔である。
「で、てめぇはどうすんだ?」
「どう、とは?」
「決まってるだろ。助けに行くのか、行かねぇのか。どっちだ?」
ローは凄むように問いかけ、海の果てへと視線を投げる。
その燃え上がるような赤い瞳は強く輝き、夜闇の先にある何かを貫くように見据えていた。
「ゴチャゴチャめんどくせー事情があっても、惚れてんだろ? 手放すのは勝手だが、手放し方を自分で決めなくていいのか? 勝手に奪われて終わりなんぞ、俺は我慢ならねぇ」
これは強い人の、強い意志を持っているからこそ、言える言葉だ。
そう思いながらも、つられるようにダンテも海上を見た。
「軽率に私が決めたことで、この先、彼の人たちの運命が変わるとわかっていても?」
「運命かよ、すげぇ自信だな。惚れた女がいて、てめぇが抱いた先に、続きがあるだけだろーに。ルーツがどこの誰であろうと、生まれちまえばそいつ自身が勝手に生きるさ」
その言い草に、ダンテは笑った。
どこまで意図しているのかわからないが、グルグル悩んできたことへの回答が含まれて、ローの言葉はシンプルでとても分かりやすかった。
自分自身の行いを最低だと今まで強く自己嫌悪していたのに、なんだかお国事情など含めてどうでもよくなってきた。
「私も行って、いいのでしょうか?」
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何の力もない、非力で、あきらめ癖のついた、つまらない男なのに。
ただ側にいて、寄り添い、見つめてきた時間だけが、すべてだった。
小さなつぶやきに、ローは息をするように告げる。
「決めるのはてめぇだろ」
ストンと落ちてきたその言葉に、ダンテは両手を握りしめる。
未来はわからなくても、今、行くことを決めていいのだと目の前の男は言う。
「私は、もう一度、ロザリンデ様に伝えたい言葉があります」
そう、この二カ月の夫婦ごっこを受け入れた時と同じように、未来などどうなっても構わないと刹那の幸福を願った時のように。
自分勝手でも、今は決めて良い時なのだ。
「そーかい。気が合ったな」
硬い声だがダンテの意志がにじむ言葉に、チラリと目を向けてローは笑った。
決めるのが遅せぇよ、と軽くからかうような眼差しだった。
「心配ないっす。居場所の座標がわかりしだい飛ぶけど、僕らは女性陣を保護したらそれで終わり。その他の肉体労働は、この人が得意っす」
責任を丸投げする気なのか、綿毛よりも重みのないジルの軽口に、硬い顔で決意を固めていたダンテは思わず笑ってしまった。
確かにダンテは肉体労働が苦手だし、魔法師のジルも見るからに優男である。
細身に見えても長身で鍛え上げられた肉体を持つのは、この三人の中ではローだけだ。戦い慣れているのは、一目でわかる。
誘拐犯がどんな相手なのか予想もつかないが、荒事なのは間違いなく、頼れるのはたった一人でも大丈夫だと思うのが不思議だ。
「御迷惑をおかけします」
「迷惑っつーのは、他人にかけてこそ実になるらしいぜ」
「そうっすよ。この人だって勝手にポイポイ面倒ごとを投げてくるんだから、たまには構わないっしょ。迷惑の実はお互いに大豊作っす」
頭を下げるダンテに「おう」とローは答えたものの、丸投げする気満々のジルがうっとおしかったのか「うっせぇ」とその頭を小突く。
しばらく戯れながらヘラヘラと笑っていたジルだが、ふと気づいたように真顔でローに釘をさす。
「絶対に殺しちゃダメっすよ。どんなに気に入らない相手でも、もし、宝月祭の最中にうっかり殺しちゃったりすると、海神と月女神に呪われるのはティアちゃんっすからね。大事な事だから何度も言うけど、絶対に殺しちゃダメっす」
本当に困った調子で「呪われんの、俺にしてくれねーかな」とつぶやくローと、慌てた調子で「本当に大丈夫っすか?! クズの命でも大事にするっすよ!」と念押しするジルを見ながら、ダンテは海を見た。
ダンテの目には見えないが、この視線の先に待っている人がいるのだ。
今の自分はひとりではなかった。
大切な人を助けたいと願う人たちと、共に居る。
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