異世界にお引越し! - 訳あり物件でした -

でもん

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第3章 黒い鎧

23.復活

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 目が覚めると家の玄関で仰向けに寝ていた。
 天井を見上げながら、寝起きの頭で考える。

「あれ、酔っ払って寝てた?昨日、そんな飲んだかな……」

 なんか、随分長い夢を見ていたような……

 と、ドアが虹色に光ってますね。はい、ここは異世界ですね。
 でも、なんでこんな所で寝ているのかな。
 右手だけドアの外に出ていて、その右手が誰かに握られている。

 足だけで体を推し進め、ヒョイっと顔だけ外に出す。
 そこには俺の手を握りしめて俯いてブツブツ何かを言っているリリィの姿があった。

「えーと、リリィさん、何を?」

 リリィが顔をあげた。
 その顔は涙でグシャグシャだった。

「タ、タナカ様ー!!」

 こちらに抱きつこうとしたのか、飛びつこうとして……光のカーテンに跳ね返された。

 ガン!

「いたーい!」

 指を押さえて蹲るリリィ。
 今、両手とも伸ばした指がグキッてなったよね。それ痛いやつだよね。

「ちょっと待ってて」

 よいしょっと身体を起こす。
 すると、上に着ていたポロシャツがズルッと腰に落ちて止まる。

「あれ?」

 よく見るとポロシャツの背中の部分は大きく割れていて、べっとりと血のようなものが付いていた。

「おわっ!」

 そこで気がつく、履いていたチノパンも血だらけだし、玄関には血を引きずった後のようなものが残っている。

「リリィ、これどうなって…」

 上半身裸のまま、小屋に入るとリリィがびっくりして後ろを向いた。

「タ、タナカ様、上に何かを着てください」

 初心なんだなリリィは。
 とりあえず、寝起きだしシャワーでも浴びて着替えてくるかな。

「あ、出来れば私も中に入れてください。いつ、追っ手がここまで来るか解らないので…」
「追っ手?」

 追っ手……その一言から記憶が鮮明になる。
 思い出した!

「リリィ、子供達は、ひとえは?」
「多分、無事だと思います。ひとまず、中へ」

 リリィだけでは入れないので、右腕で腰を抱き、身体を密着させて部屋へ戻る。

 ----------

 上半身が裸のままなので、リビングで待っているようリリィに告げ、とりあえず上だけTシャツを着て、リビングへ戻る。早く、身体を洗いたい。

「それで、あの後、俺は一体どうなった? 妻と子供達は……」

「はい、タナカ様はクベロの部下に背中から斬られて、その場で昏倒しました。その時点で奥様とお子様達は無事だったのですが…ファビオ様の部隊も近づいてきたため、奥様よりタナカ様を担いで、ここまで逃げる様指示を出されました」

 ここに来れば怪我が治るからか……

「私は、その指示を受け、その場を離れてしまったので……皆様がその後、どうなったのか……」

 ひとえが、自分を切りつけた相手を回し蹴りで吹き飛ばした所で、プッツリと記憶が切れている。

「ひとえも背中を斬られていたんじゃ?」
「どうでしょう、見た限りでは大丈夫そうなご様子でした」

 何か対策をしていたのかな? さすがひとえだ……

「そうか、あと、ユイカが炎を出していたが……」
「はい、びっくりしました。ユイカ様は魔法が使えたんですね」

 この世界には魔法使いがいるみたいだね。

「で、その後の状況は解らないか……」
「はい。それで私はタナカ様を担いでここまで戻ってきました。ただ、光のカーテンをくぐる事が出来ないので、タナカ様だけ押し込んで……」

 それであの状況だったのか。

「到着する前にはタナカ様の心臓も止まっていて、もう無理かと……」

 リリィがまた泣き出す。

 俺は死んでたんだ……ちょっとショック。ただ、突然、意識ごと刈り取られていたから、痛みもなかったのは助かった。スライムの攻撃の方がよっぽどきつかったよ。

「リリィ、助けてくれてありがとう。それじゃ、俺は家族を助けに戻るから…」

 ちょっと玄関に戻り、もう一度小屋の中に顔だけ出す。

「「うわっ」」

 黒い鎧を着た男と目が合って、思わずお互い声を上げる。
 慌てて顔を引き戻す。

「どうでした?」
「駄目だ、小屋の中に追っ手が入ってきている」

 くそ、このままじゃ助けに戻るどころか、家の外にも出れない。
 リリィもギリギリだったな。

「リリィ、ファビオっていうのは何者だ? 妻と子供達はこの後、どうなるんだ?」

「ファビオ様は、現王の直系の王族を除けば、一番高位になる王位継承権を持った王子です。救世主様を首都へお連れするのが、私の任務でしたので、ファビオ様も同じ様な任務についているかと……」

 それであれば、短期的には家族が害されるという事は無いだろう。
 では、とりあえず確実に、安全に自宅の外へ出る手段を考え、家族の救出に向かうしかないか。

「……とりあえず、血を洗い流してくる」

 ----------

 水しか出ないシャワーを浴びながら、状況を整理する。

 状況:
 救世主は首都に連れて行かれる
 リリィは殺されようとする

 関係者:
(1)  聖地から出てきた救世主:  タナカ家の4人

 救世主が何なのかは置いておいて、この世界では俺達家族が救世主のポジションに今のところあるという事だろう。俺が殺されたのは暴発的なもののようだ。

(2) 救世主を迎えに来た王族: リリィ(リリアナ・ヒメノ)

 王族っぽく無いが、クベロ達もリリィが王族というのは認めていたので、これは間違い無いだろう。だが、なぜ王族なのに殺されそうになっていたのか?

(3) もう1人の王族: ファビオ

 王族の仕事は救世主を出迎え、首都に連れ帰る事。
 その役目は、これまでの話からリリィのものなはずだ。なのに、何故こいつがいるんだ? こいつが元凶なのか?

 よし、いずれにせよ、意図を確認するためにも、ファビオと接触するしか無いな。

 まずは、ここを出るための手段を模索し、外にいる奴等を無力化させる。
 その後、村まで行き状況を確認する。
 家族がまだ村にいるなら、救出するために、ファビオとの交渉も考える。
 すでに首都に向かっていれば、追う。

 こんなところか。

 情報……情報?
 そういえば、この世界に召喚した神様は、細かい事は誰か使者を送って説明するって言っていなかったか?

 ----------

 シャワーから出て着替えた。
 玄関に残っていた血の後は、リリィがやってくれたのか、綺麗になっていた。

「リリィ、俺を斬った奴はどうなった?」
「奥様が持っていた武器で倒していました」

 さすが。

「クベロは?」
「動かなくなってましたので、恐らく…」

 ユイカの奴が、それを知って傷ついていないといいのだが……まだ中学生の娘には、この現実は重すぎる。

「クベロは何でリリィの事を殺そうとしていたんだろうな」
「……」

 黙ってしまった。
 やはり解らないか……

「ファビオと面識はこれまであった?」
「いえ、今回、こちらに来るまではお会いした事は無いはずです」
「ここまでの移動中に恨みを買うような事は?」
「移動中も、見かければご挨拶をする程度で、会話らしい会話も……」

 となると、怨恨といった線は消えるか。

「あ、王位継承をファビオと争っていたりする?」

 これが正解なんじゃ……

「いえ、ファビオ様の王位継承権も高位とはいえ、その上には今の王の直系の王子がいますし、私は現在、89位と言う事で、王族と言っても名ばかりの貧乏従士にしか過ぎません」

 残念。お家騒動の線も消えるか。

 とりあえず、ファビオの件は、もっと情報が揃ってからだな。
 次は、神が送ると言っていた使者の件だ。

「今回、迎えに来るに当たって、神様から何か聞いていない?」
「神様ですか?」
「ああ、俺たちをこっちに送り込んだ神様が、着いたら使者を送るって言っていたんだよな」

「ご神託なら受けておりますが」

 よし。

「そこに何か、こっちで暮らすヒントになるような事が、なかったか?」

 リリィが少し躊躇う。

「本当は、首都に到着した後に神官長からお伝えする事になっている事ならありますが……」
「そこにヒントがあるかもしれない、教えてくれ」

 リリィが目を閉じ、しばらく黙った後、一つ頷く。

「解りました。私からはお伝えしないように言われておりましたが、こんな状況ですし……お伝え致します」

 そして、リリィが俺に神託の中身を告げた。

 ----------

 ……よく解らないな。神託を聞いてもピンと来なかった。

 勇者が聖地から来るって事ので迎えに行けってだけか。
 勇者の国から来て世界を助けるから、救世主って事か。

 これだけでは何のヒントにもならない。
 少し期待したんだけどな。

「あ、あとこれは関係ないかもしれませんが、追加で出た神託というのもあります」
「よかった、これだけじゃないんだな」

「でも、意味が全くわからない言葉でしたし、特に関係ないと思いますが……聞きますか?」
「とりあえず、少しでも情報が欲しい」

「わかりました、こんな感じのものです」

 こう言うと、リリィは追加された神託を語りだす。
 そこには意味の無い文字と数字が並んでいた。
 そう、この世界の住人にとっては、何の意味の無い……


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 192.168.210.0/24
 」

「これだけです。ふふ、こんなんじゃ意味が解らないですよね。すみません、お役に立てずに……」
「……」

「タナカ様?」
「……」

「タナカ様、怒っちゃいました?」

「それだーーーーーーー!!!!!!」
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