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*第1章*
気づいた恋心(3)
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*
余程二人の関係の変化を目の当たりにしたことが堪えたのか、そのあとのことはよく覚えていない。気づいたら次の日の朝を迎えていた。
土曜日のため、日が高く昇ってから起きてきた私を見て、お母さんに昨日帰ってきてから私は泥のように眠っていたんだと言われて心配された。
何とか自分の気持ちが落ち着いた昼下がり、私の悩みの種の真理恵が遊びに来た。
「真理恵、和人と付き合い始めたの?」
さすがに頬にキスしてた場面を見たとは言えなかったけれど、胸がモヤモヤしたままなのは変わらなくて、思わずそう聞いていた。
「え!? 何でわかったの!?」
私の部屋に置いていた真理恵自身のCDを物色していた本人は、驚いたように肩を震わせる。
彼女の反応そのものに、昨日見たものは見間違いでも何でもなかったんだと告げられているようだった。
「え、っと。何となく? っていうか、付き合うことになったなら、一言いってくれたってよかったじゃん」
和人のことが好きだと打ち明けられて、私なりに今日まで気を使って生きてきたと言うのに、何も報告がないのも辛かった。
一言そうだと聞いていたら、二人のキスシーンを見てしまったところでこんなに思い悩まなかったかもしれない。
「ごめんごめん。付き合い始めたの、昨日なんだ。昨日報告しても良かったんだけど、変に舞い上がってたくせにそんな現実が信じられなくて言えなくて……」
そういうものなのかな。
幸せそうに、照れくさそうに笑う真理恵の姿に、祝福の気持ちを抱くかわりに何故だか胸が痛んだ。
「最初はさ、四人の関係が壊れたら嫌だって思って、この気持ちは黙っておくつもりだったの。だけど、未夢にカミングアウトしてからかな、どんどん自分の気持ちが膨れ上がって抑えがきかなくなって、思いきって告白したんだ」
「そうだったんだ……」
もし私だったら、たとえそうだとしても、みんなとの関係が壊れてしまうくらいなら自分の気持ちは我慢し続けると思うのに、真理恵は違ったんだ。そんな風に思ってしまう私は、性格が悪いのだろうか。
それとも、私が今まで恋をしたことがないから、真理恵の気持ちを理解できていないというのだろうか。
親友の幸せを一緒になって喜ぶべきだとわかっているのに、心から喜べない自分のことが嫌だった。
だけど、自分の中に渦巻く負の感情を悟られたくなくて、私は何とか笑みを張りつけて口を開く。
「よかったね。おめでとう」
「ありがとう」
真理恵はそんな私に対して、本当に幸せそうに笑った。
付き合い始めたっていうことは、和人も真理恵のことが好きだったということだ。
和人は、いつから真理恵のことが好きだったんだろう?
ずっと私たち四人一緒だと思っていたのに、いつから二人だけ、お互いを特別視するようになっていたのだろう?
優しい和人、たくましい腕、大きな手を思い返して、チクリと胸が痛む。
『ミユは俺の花嫁になるって決まってんだから!』
まだ幼い和人はそんな風に言っていた。それを信じていた訳じゃないけれど、やっぱり大きくなって変わってしまったということだ。これももう十年以上前の話だもんね。
頭の中に途端にこれまでの和人との思い出がよみがえって、胸がきゅっと切なくなる。
大好きで大切な二人なのに、心から祝福できないのは、何でなのだろう……?
少しずつ膨らんでいく嫌な感情は、意識していないと切なさと苦しさがぐるぐると渦巻いて、胸が張り裂けそうだ。
思わず涙が溢れそうになるのを何とか堪えて、私は声が震えないように口を開いた。
「そういえば真理恵は、いつ和人のことが好きだって気づいたの?」
いつから、私たちの歯車は噛み合わなくなってきていたのだろう。
真理恵が和人を好きになったせいにしたくないけれど、そう思わずにいられない。
「いつからだろう? 意識し始めたのは、高校に入学してからかな」
「そうなんだ、きっかけとかってあるの?」
「そうね、きっかけってほどではないんだけど、あることで和人に助けてもらったことがあるのよ。そのときからかな。気づいたら和人のことばかり考えてたり、独り占めしたいって思ったり、ドキドキしたり切なく苦しくなったりするようになって、ああ私恋してるんだなってわかったの」
「そっかぁ」
気づいたら和人のことばかり考えたり、和人のことでドキドキしたり、切なく、苦しくなったり……。
そこまで考えて、あれ、と思う。
だって、それこそ正に今の私の状態だったのだから。
「あ、でも、和人とも話して決めたんだけど、変に私たちに遠慮しないで、今まで通りでいいからね。私も和人も四人で過ごす時間は大好きだし、未夢も健も大切な存在には変わりないから」
「……ありがとう」
できるなら気づきたくなかった。違うと思い込みたかった。
ずっと、真理恵に気持ちを告げられたから和人のことを意識してしまってるんだと思ってたけど、そうじゃない。
私は、和人のことが好きだったんだ──。
今までそばにいすぎて、気づかなかった。
初めてだから、自分で自分の気持ちがわからなかった。
まさか、こんな形で気づかされることになるなんて思わなかった。
もし真理恵がカミングアウトしてくれたとき、私も和人を好きだって気づいてたらどうだったんだろう? だなんて考えてしまう。
でも例えそうだったとしても、あまり変わらないだろう。
好きだと気づいたところで、私はきっと真理恵の気持ちを優先させただろうから。
真理恵にも、和人にも幸せになってほしいもん。
これでよかったんだよ、きっと。
またみんなと今まで通り過ごそうって、真理恵も言ってくれてるし、大丈夫。
きっと時間が経てば、この想いも消えてなくなるだろう。
私の初恋は、気づいた瞬間に失恋して終わった。
余程二人の関係の変化を目の当たりにしたことが堪えたのか、そのあとのことはよく覚えていない。気づいたら次の日の朝を迎えていた。
土曜日のため、日が高く昇ってから起きてきた私を見て、お母さんに昨日帰ってきてから私は泥のように眠っていたんだと言われて心配された。
何とか自分の気持ちが落ち着いた昼下がり、私の悩みの種の真理恵が遊びに来た。
「真理恵、和人と付き合い始めたの?」
さすがに頬にキスしてた場面を見たとは言えなかったけれど、胸がモヤモヤしたままなのは変わらなくて、思わずそう聞いていた。
「え!? 何でわかったの!?」
私の部屋に置いていた真理恵自身のCDを物色していた本人は、驚いたように肩を震わせる。
彼女の反応そのものに、昨日見たものは見間違いでも何でもなかったんだと告げられているようだった。
「え、っと。何となく? っていうか、付き合うことになったなら、一言いってくれたってよかったじゃん」
和人のことが好きだと打ち明けられて、私なりに今日まで気を使って生きてきたと言うのに、何も報告がないのも辛かった。
一言そうだと聞いていたら、二人のキスシーンを見てしまったところでこんなに思い悩まなかったかもしれない。
「ごめんごめん。付き合い始めたの、昨日なんだ。昨日報告しても良かったんだけど、変に舞い上がってたくせにそんな現実が信じられなくて言えなくて……」
そういうものなのかな。
幸せそうに、照れくさそうに笑う真理恵の姿に、祝福の気持ちを抱くかわりに何故だか胸が痛んだ。
「最初はさ、四人の関係が壊れたら嫌だって思って、この気持ちは黙っておくつもりだったの。だけど、未夢にカミングアウトしてからかな、どんどん自分の気持ちが膨れ上がって抑えがきかなくなって、思いきって告白したんだ」
「そうだったんだ……」
もし私だったら、たとえそうだとしても、みんなとの関係が壊れてしまうくらいなら自分の気持ちは我慢し続けると思うのに、真理恵は違ったんだ。そんな風に思ってしまう私は、性格が悪いのだろうか。
それとも、私が今まで恋をしたことがないから、真理恵の気持ちを理解できていないというのだろうか。
親友の幸せを一緒になって喜ぶべきだとわかっているのに、心から喜べない自分のことが嫌だった。
だけど、自分の中に渦巻く負の感情を悟られたくなくて、私は何とか笑みを張りつけて口を開く。
「よかったね。おめでとう」
「ありがとう」
真理恵はそんな私に対して、本当に幸せそうに笑った。
付き合い始めたっていうことは、和人も真理恵のことが好きだったということだ。
和人は、いつから真理恵のことが好きだったんだろう?
ずっと私たち四人一緒だと思っていたのに、いつから二人だけ、お互いを特別視するようになっていたのだろう?
優しい和人、たくましい腕、大きな手を思い返して、チクリと胸が痛む。
『ミユは俺の花嫁になるって決まってんだから!』
まだ幼い和人はそんな風に言っていた。それを信じていた訳じゃないけれど、やっぱり大きくなって変わってしまったということだ。これももう十年以上前の話だもんね。
頭の中に途端にこれまでの和人との思い出がよみがえって、胸がきゅっと切なくなる。
大好きで大切な二人なのに、心から祝福できないのは、何でなのだろう……?
少しずつ膨らんでいく嫌な感情は、意識していないと切なさと苦しさがぐるぐると渦巻いて、胸が張り裂けそうだ。
思わず涙が溢れそうになるのを何とか堪えて、私は声が震えないように口を開いた。
「そういえば真理恵は、いつ和人のことが好きだって気づいたの?」
いつから、私たちの歯車は噛み合わなくなってきていたのだろう。
真理恵が和人を好きになったせいにしたくないけれど、そう思わずにいられない。
「いつからだろう? 意識し始めたのは、高校に入学してからかな」
「そうなんだ、きっかけとかってあるの?」
「そうね、きっかけってほどではないんだけど、あることで和人に助けてもらったことがあるのよ。そのときからかな。気づいたら和人のことばかり考えてたり、独り占めしたいって思ったり、ドキドキしたり切なく苦しくなったりするようになって、ああ私恋してるんだなってわかったの」
「そっかぁ」
気づいたら和人のことばかり考えたり、和人のことでドキドキしたり、切なく、苦しくなったり……。
そこまで考えて、あれ、と思う。
だって、それこそ正に今の私の状態だったのだから。
「あ、でも、和人とも話して決めたんだけど、変に私たちに遠慮しないで、今まで通りでいいからね。私も和人も四人で過ごす時間は大好きだし、未夢も健も大切な存在には変わりないから」
「……ありがとう」
できるなら気づきたくなかった。違うと思い込みたかった。
ずっと、真理恵に気持ちを告げられたから和人のことを意識してしまってるんだと思ってたけど、そうじゃない。
私は、和人のことが好きだったんだ──。
今までそばにいすぎて、気づかなかった。
初めてだから、自分で自分の気持ちがわからなかった。
まさか、こんな形で気づかされることになるなんて思わなかった。
もし真理恵がカミングアウトしてくれたとき、私も和人を好きだって気づいてたらどうだったんだろう? だなんて考えてしまう。
でも例えそうだったとしても、あまり変わらないだろう。
好きだと気づいたところで、私はきっと真理恵の気持ちを優先させただろうから。
真理恵にも、和人にも幸せになってほしいもん。
これでよかったんだよ、きっと。
またみんなと今まで通り過ごそうって、真理恵も言ってくれてるし、大丈夫。
きっと時間が経てば、この想いも消えてなくなるだろう。
私の初恋は、気づいた瞬間に失恋して終わった。
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