きみに駆ける

美和優希

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 幸村先輩率いる私たちの高校の陸上部の女子リレーは、二位で念願の地区大会突破を果たした。
 観客席から見るのはまた新鮮で気持ちよかったけど、やっぱり走りたいと思ってしまうのは、私の性分なのだろう。

「関東大会では私の代わりに歩美が走ってよ」

 そんな私に対して、走り終えた加奈は冗談とも本気とも取れる風に言ってくる。

「そんな……っ、さすがにそれは無理だよ」
「何で? 私より歩美の方がタイム上じゃん」
「それは前の話でしょ。今はブランクもあるし……」

 それに、復帰早々そんなことになれば、やっぱり部員の反感を買うと思う。
 一度逃げた身としては、やっぱりそこはけじめとして避けたい。
 加奈はそこまで深く考えていないようで「えー」と口を尖らせている。

「……あれ?」

 そのとき、いつの間にか今までずっと一緒にいたはずの月島くんの姿が、近くに見えないことに気がついた。

「歩美、どうしたの……?」
「ああ、月島くん、どこに行ったのかなって思って……」
「月島くん……?」

 加奈が不思議そうに首をかしげる。

「ほら、私と一緒にいた男子だよ。さっきまで隣にいたのに……」
「……え? 歩美、最初から一人だったじゃん」

 加奈から返された言葉を、すぐには理解できなかった。

「何言ってるの? ずっと私と一緒にいたじゃん」
「何言ってるのって、こっちのセリフだよ。歩美、大丈夫?」

 一体、何が起こっているというのだろう。
 だってそんな、まるで月島くんは最初からそこにはいなかったみたいな言い方、する……?
 少なくとも加奈はそんなタチの悪い嘘をつく人ではない。現に今だって、全く嘘をついている素振りがないのは見てわかる。
 けれど、ここに来たときだって私は加奈の目の前で月島くんと話していたわけだし、加奈が月島くんに気づかなかったとは、とてもじゃないけど考えにくい。

「え……でも、私、ノートを買った帰りに月島くんに会って、月島くんの画材選びに付き合うつもりでいたらここに連れて来られたんだけど……」

 それでも、確かに月島くんはさっきまで私と一緒にいた。
 それは事実なのに、月島くんの存在を認識できてなかった加奈に事の経緯を説明しても、加奈の顔は訝しげな表情になるばかりだった。

「本当に知らない? 月島律くんって言って、同じ学年の絵の上手い男子。ほら、この前、加奈と美術室で話したときにも一緒にいたんだけど」

 さらには、この前美術室で話したときのことを持ちかけても、加奈の反応は変わらなかった。
 そのとき、近くで私たちの話を聞いていたのであろう、同じ一年生の女子の矢倉やぐらさんが「もしかして」と手を叩いた。

「月島律って、芸術科の人じゃない? 美少年って感じの綺麗な人だよね」
「あ、たぶんその人! 見なかった?」

 月島くんを知る人がいたことに安堵する。
 うちの高校は私たちの通う普通科の他に芸術科がある。まさか月島くんが芸術科の生徒だとは知らなかった。
 一気に肩の力が抜けたことで、私が今、相当月島くんのことで不安になっていたことを身をもって感じた。
 だけど矢倉さんも、困ったように表情をかげらせる。

「それが……。芸術科にいる友達から聞いた話なんだけど、月島くんって、入学して一ヶ月くらい経った頃だったかな。結構大きな交通事故に巻き込まれたって……」

 加奈も近くにいた陸上部のメンバーも息を呑んだのがわかった。
 月島くんが、事故……?
 イマイチその話と今さっきまで隣にいた月島くんとが結びつかない。
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