伊予むすび屋の思い出ごはん

美和優希

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3.恋する特製カレーオムライス

3ー18

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 特製カレーオムライスを食べたあと、清美さんと史也さんは揃って厨房にいた私たちにお礼を言いに来た。

 史也さんに自分の気持ちを話して、念願のカレーオムライスを一緒に食べることができた清美さんは、穏やかな光に包まれながら笑顔で消えていった。

 残された史也さんはというと、まだすぐに静さんと付き合うまでには気持ちは切り替えられないものの、前向きに検討していくことを静さんに伝えたらしい。

 今朝、むすび屋を去る前に、再度一人でお礼を言いに来た史也さんにそう聞かされた。 

 史也さんも一歩前進してくれて、安心したというのが正直な気持ちだ。


 今はすでに団体客をお見送りして、一気に静けさを取り戻したむすび屋の食堂で、私は晃さんと向かい合う形で、昨日清美さんたちが食べていた特製カレーオムライスを食べている。


「本当に、良かったです……うっうっ」

「おまえなぁ、食うか泣くかどっちかにしろよ。汚い」

 汚いはさすがに失礼じゃないですかね。

 確かにものすごく涙腺が緩んでいる自覚はあるし、食べながら泣くのは良くないと思うけれど、さすがに“汚い”はないと思うのだが……。

 かといって私自身、自分の泣き顔が特別綺麗とも思っていないので、ひとまずそこは反論せずに飲み込んだ。


「……だって、本当に良かったなと思って」

 奇跡的に想いを伝え合うことができた清美さんと史也さん。最後の瞬間までお互いを想い合う姿に感動して、私はボロ泣きしてしまったのだ。

 愛し合う二人のお別れの場面を目の当たりにして、晃さんは何も感じなかったのだろうか。


「そうやな。死んだあとも一途に想い続けられる人に出会えることも、過去をありのままに受け入れてくれる人に出会えることも、そうそうないけん。史也さんには、強く生きていってほしいよな」

 晃さんの真意を確認する間もなく、拓也さんが私の隣に特製カレーオムライスの乗ったお盆を持ってウンウンとうなずきながらやって来る。

 そんな拓也さんの目元には、涙がきらりと光っていた。


「おまえもかよ、拓也」

「俺が涙もろいん、おまえはよく知っとるやろ?」

「いや、初耳だが」

「ケイちゃーん、冷徹晃がいじめてくるんやけど……」


 二人が仲良く言い合っているのを見ながら、私は拓也さんの言う通りだなと思った。

 清美さんと史也さんのように、どちらかが亡くなったあとも、ずっと想い続けられるような相手。

 そして静さんのように、弱い部分もひっくるめて全てを受け入れてくれる相手。

 この世界には何億もの人間がいるけれど、なかなかそういった人に出会えるのは難しい。


 私にも、いつかそんな人が現れるのだろうか────。



 スプーンですくったオムライスを口に含むと、濃厚なデミグラスソースと玉子のとろけるような感触とともに、カレーピラフのスパイスが弾ける。


「美味しい……!」


 ────むすび屋に来る前の自分なら、そんな未来はあり得ないって否定していた。

 だけど、今は不思議なくらい前向きに、希望を抱いている自分がいた。
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