【短編集】いろいろな恋、集めました

美和優希

文字の大きさ
7 / 23
「幼なじみとあたしの境界線」

2-4

しおりを挟む
「……ただの幼なじみなんかじゃねーよ」

 視界に映る、先程よりも潤いを増した形の良い唇が、小さく動く。


「っていうか俺、綾那のことただの幼なじみだなんて思ったこと、一度もねーし」

 千尋の言ってることが分からない。

 まさかあたし、千尋に幼なじみとすら思われてなかった……?

 あたしが不安に押し潰されそうになりながら、揺れる千尋の瞳を見上げると、千尋はグッと眉を寄せてあたしに言った。


「だから、綾那が好きだっつってんの! お前のことずっとそういう目で見てきたんだ。いい加減気づけよ!」

「え……、ホント、に……?」

「こんなことで嘘ついて、どうすんだよ」

「だって……」

 はらはらと頬を伝う涙。

 だってあたし、千尋にそんな風に見られてただなんて、全然分からなかったんだもん……。


「……お前も、俺のこと好きなんだよな?」

「……へ?」

「へ? じゃねーよ。さっき綾那が言ってたんじゃん」

 どこか不安げに揺れる千尋の瞳。


「うん……。大好……っ!?」

 あたしが千尋の目を見て“大好き”と言い終える前に、再び壁に押さえつけられて、あたしの唇は千尋のそれに覆われていた。


「……ちょっ、千尋……っ」

 やっと唇を離してくれた千尋。

 そして次の瞬間、あたしは千尋の大きな腕にぎゅうっと抱きしめられた。


「お前、その顔でそのセリフ、反則だから……」

「え……?」

「いくら俺でも、気持ち抑えられなくなりそう……」


 えぇえーっ!?

 千尋ってこんな甘いセリフ言うようなキャラだっけ……?


「でも……、」

 ドキドキうるさい胸の音に、掻き消されそうなくらいに小さく聞こえた千尋の声に顔を上げる。


「これで、もう新庄みたいな奴が綾那に寄る心配は要らねーな」

 間近でニッと綺麗に笑う千尋に、あたしまで思わず笑みがこぼれる。


「これからは、俺が綾那を守るから、覚悟しとけよ?」

「……うん」


 “俺が綾那を守る”

 その言葉を、何度も頭に反芻させていると、一変して不機嫌そうな声が頭上で響く。


「でも、綾那が何度もあいつに抱き着かせてたのが気に入らねぇ。どんだけ俺がイライラしたと思ってんだよ」

「……え?」

 千尋、イライラしてたの?

 あたしが新庄くんに抱き着かれる度に……?


「罰として、キスの刑だ」

 フンと鼻を鳴らして悪魔のように笑う千尋。


「え、え、え……?」

「これからも、俺を怒らせたらこうなるからな?」

 そこまで言い終えると、あたしの口元に近づいた唇は、再びあたしの唇を奪った。

 でも、こんな罰ならいいかもなんて思ってしまうあたしは、きっともう、彼から離れられない。





*幼なじみとあたしの境界線*
 *END*
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

乳首当てゲーム

はこスミレ
恋愛
会社の同僚に、思わず口に出た「乳首当てゲームしたい」という独り言を聞かれた話。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

処理中です...