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「今までの関係が変わる瞬間」
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「よっしゃ! この匂いは、今夜はカレーだな!? これでまた頑張れるぜっ!」
キッチンにいる私に向かって嬉しそうにそう言って、私の家の食卓テーブルに腰かけるのは、幼稚園の頃からの幼馴染みの浩平。
“私の家”と言っても、大学卒業と同時に引っ越した、職場近くのワンルームマンションなんだけどね。
浩平とは元々実家もお隣同士だったんだけど、どういう縁あってなのか、就職した職場が近くて、このワンルームマンションでもお隣同士なんだ。
「あ、俺の分のカツ、いつものようにカレーかけといてくれよ! って明里、聞いてっかー?」
「うるさいわね、聞こえてるってば!」
カレー=カツカレーは、浩平にとっては当たり前のこと。
「言われなくたって、もう長い付き合いなんだし、浩平のことはわかってるから」
そして、この浩平が仕事帰りに私のところに夕飯を食べに来るのは、今となっては日常茶飯事だ。
浩平は料理が苦手だから、ほったらかしてたら、万年コンビニ食になるのなんて目に見えてる。
このマンションでも私と浩平がお隣だって知った浩平のお母さんにも、「よかったら、たまには浩平の様子を見てあげてね」って言われたくらいだ。
“たまには”どころか、“毎日”見てるって感じになってるんだけどね。
でも、そんな私も浩平も、もう二十七歳。
「そうは言っても、もう浩平もいい歳なんだから。そろそろ私のところに入り浸ってないで、彼女の一人くらいいないの?」
「いねーから、明里んとこ来てんだろ?」
さも、当たり前のように浩平は答える。
その言葉に、思わずホッとする。
いつまでもこんな日々が続くわけない。
そうは思っていても、実際に、こんな日々がいつまでも続けばいいって思ってるのは、浩平じゃなくて私なんだと思う。
いつからか、幼馴染みの浩平のことが好きになっていたから。
「そういう明里こそ、浮いた話のひとつも聞かねぇけど、どうなんだよ」
そうしているうちに、浩平の声がこちらに届く。
「私の話はいいじゃない。でも、いつまでもこんな生活続けてたら、素敵な出会いも逃しちゃうよ?」
自分で言ってて、チクリと胸が痛む。
浩平には幸せになってほしいけど、私は浩平以外考えられないのに。
浩平が他の女性と、だなんて、考えるだけでも辛いのに。
それなのに、つい自分の気持ちとは裏腹に、そんなことを言ってしまった。
ハァと、浩平の大きなため息が聞こえる。
それと同時に耳に届く、ガタンと椅子から浩平が立ち上がる音。
まさか、怒らせちゃった……?
「俺のことわかったようなこと言ってるけど、明里は俺のことなんてちっともわかってねーよ」
ずんずんとこちらに近づいてくる足音。
顔を鍋からそらして見れば、私のすぐ傍まで浩平が来ていた。
「な、によ。もうすぐできるから、座って待っててよ」
間近に見える、険しい表情。
やっぱり浩平、怒ってる……!
「待ってられっかよ!」
私と鍋の間に割り込むように入ってきた浩平。
「ちょ、危な……っ」
玄関と奥のひと部屋とを繋ぐ狭い廊下の一方の壁に沿うように備えられた、申し訳ない程度の小さなキッチン。
耳元でダンッという音が聞こえたかと思えば、次の瞬間、私は背後の壁に背中をぶつけていた。
「明里は、何もわかってねーよ」
目の前にできた影を見上げると、いつもよりも色っぽい浩平の怒った表情が見える。
あれ? 浩平ってこんなに大人っぽかったっけ?
いつの間にか私を追い越して、今では見上げないと見えない、浩平の顔。広い肩幅。
壁に付いてない方の浩平の手が、私の頬に触れる。
私は、反射的にその手をつかんでいた。
──手だって、こんなに大きい。
昔は、私と大して変わらなかったのにね。
確かに浩平の言う通り、私は自分が思っている以上に、浩平のことを知らなかったのかもしれない。
キッチンにいる私に向かって嬉しそうにそう言って、私の家の食卓テーブルに腰かけるのは、幼稚園の頃からの幼馴染みの浩平。
“私の家”と言っても、大学卒業と同時に引っ越した、職場近くのワンルームマンションなんだけどね。
浩平とは元々実家もお隣同士だったんだけど、どういう縁あってなのか、就職した職場が近くて、このワンルームマンションでもお隣同士なんだ。
「あ、俺の分のカツ、いつものようにカレーかけといてくれよ! って明里、聞いてっかー?」
「うるさいわね、聞こえてるってば!」
カレー=カツカレーは、浩平にとっては当たり前のこと。
「言われなくたって、もう長い付き合いなんだし、浩平のことはわかってるから」
そして、この浩平が仕事帰りに私のところに夕飯を食べに来るのは、今となっては日常茶飯事だ。
浩平は料理が苦手だから、ほったらかしてたら、万年コンビニ食になるのなんて目に見えてる。
このマンションでも私と浩平がお隣だって知った浩平のお母さんにも、「よかったら、たまには浩平の様子を見てあげてね」って言われたくらいだ。
“たまには”どころか、“毎日”見てるって感じになってるんだけどね。
でも、そんな私も浩平も、もう二十七歳。
「そうは言っても、もう浩平もいい歳なんだから。そろそろ私のところに入り浸ってないで、彼女の一人くらいいないの?」
「いねーから、明里んとこ来てんだろ?」
さも、当たり前のように浩平は答える。
その言葉に、思わずホッとする。
いつまでもこんな日々が続くわけない。
そうは思っていても、実際に、こんな日々がいつまでも続けばいいって思ってるのは、浩平じゃなくて私なんだと思う。
いつからか、幼馴染みの浩平のことが好きになっていたから。
「そういう明里こそ、浮いた話のひとつも聞かねぇけど、どうなんだよ」
そうしているうちに、浩平の声がこちらに届く。
「私の話はいいじゃない。でも、いつまでもこんな生活続けてたら、素敵な出会いも逃しちゃうよ?」
自分で言ってて、チクリと胸が痛む。
浩平には幸せになってほしいけど、私は浩平以外考えられないのに。
浩平が他の女性と、だなんて、考えるだけでも辛いのに。
それなのに、つい自分の気持ちとは裏腹に、そんなことを言ってしまった。
ハァと、浩平の大きなため息が聞こえる。
それと同時に耳に届く、ガタンと椅子から浩平が立ち上がる音。
まさか、怒らせちゃった……?
「俺のことわかったようなこと言ってるけど、明里は俺のことなんてちっともわかってねーよ」
ずんずんとこちらに近づいてくる足音。
顔を鍋からそらして見れば、私のすぐ傍まで浩平が来ていた。
「な、によ。もうすぐできるから、座って待っててよ」
間近に見える、険しい表情。
やっぱり浩平、怒ってる……!
「待ってられっかよ!」
私と鍋の間に割り込むように入ってきた浩平。
「ちょ、危な……っ」
玄関と奥のひと部屋とを繋ぐ狭い廊下の一方の壁に沿うように備えられた、申し訳ない程度の小さなキッチン。
耳元でダンッという音が聞こえたかと思えば、次の瞬間、私は背後の壁に背中をぶつけていた。
「明里は、何もわかってねーよ」
目の前にできた影を見上げると、いつもよりも色っぽい浩平の怒った表情が見える。
あれ? 浩平ってこんなに大人っぽかったっけ?
いつの間にか私を追い越して、今では見上げないと見えない、浩平の顔。広い肩幅。
壁に付いてない方の浩平の手が、私の頬に触れる。
私は、反射的にその手をつかんでいた。
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