きみと最初で最後の奇妙な共同生活

美和優希

文字の大きさ
17 / 55
5.健太郎とシンクロ

(1)

しおりを挟む
 その日の放課後。健太郎がカラオケに行きたいと言っていたことから、さっそく学校から徒歩圏内にある街のカラオケ店に来ていた。

 たいてい私たちの中学の人は、ここのカラオケ店を利用することが多い。


「うっわ~! 久しぶりだな~! 最後に来たのいつだっけ? 部活のメンバーと来たのが最後だった気がするな」

「健太郎、声でかいって。寝不足の頭に響くから、ちょっとボリュームおさえてよ」


 健太郎の要望通り、二時間目以降の授業は全て受けた。

 それだけなら当たり前のことだが、今日はいつもと違う難点があった。私が授業中に居眠りしそうになると、健太郎がうるさいのだ。『千夏が寝たら、俺も授業受けられなくなるだろ』って。

 健太郎ってこんな優等生キャラだったっけ?

 健太郎が勉強ができることは知らなかったが、健太郎だって生きてたときは普通に居眠りしてた記憶がある。

 どうして死んでからの方が、真面目に授業を受けたがるのか。そんなの、今まで当たり前のように受けてた授業さえ、今となっては健太郎には特別だということなのだろうけれど。

 私にとっては、睡眠不足を助長させる要因でしかなかった。


「寝不足なのは、千夏が昨日、なかなか寝ないからだろ?」

「誰かさんのせいで寝つけなかったの!」


 ただでさえ、健太郎が死んでから眠れてなかったというのに、健太郎が私の中に来てからはまた別の意味で眠れてない。

 健太郎が私の中に来た初日は、やっぱり内心パニックで落ち着いて寝ようにも眠れなかったし……。

 それ以降も、寝ようと思っても、寝つく直前に健太郎が話しかけてくるから、なかなか眠れない。

 自分が私の睡眠妨害の原因となっていることに、少しは気づいてほしい。

 
 そこで、健太郎はいつ寝てるのだろうと疑問に思った。

 私が起きてるときはほとんど起きているし、寝ている様子だったことがない。

 死んだら眠くならないのだろうか。

 頭の中でいろいろと今の健太郎について考えを巡らせていると、再び健太郎の興奮気味の声が耳に届く。 


「おいおい、何ボケッとしてるんだよ! 早く歌おうぜ」

 早く、とカラオケの曲を選ぶためのタッチパネルの機械を取れと、健太郎が急かす。


「はいはい。っていうか、あんた、一体どうやって歌うつもり?」


 とりあえず、健太郎にそう問いかけながら『曲名検索』とかかれた画面をタップする。


「どうって聞かれても、話せるってことは歌えるんじゃねぇの?」


 話せるとは言っても、健太郎の声は私にしか聞こえてない。

 だから、きっと健太郎の声をカラオケ用のマイクが拾うことはないだろう。

 マイクに声が入らないならカラオケに来た意味あるのかと、今更ながらに疑問に思う。

 だけど、カラオケに来たこと自体は健太郎のリクエストだ。マイクが健太郎の声を拾えないじゃないかと直接言うことはさすがに気が引けて、この部屋に入ったときに無造作に机の上に置いたマイクを見つめる。

 まぁ、雰囲気を楽しむことならできなくはないだろう。


「千夏、余計なこと心配しすぎだろ。俺はマイクなんてなくていいから、千夏が代わりにマイク持って歌えよ」

「……えぇ!?」


 健太郎に私の考えていることを見抜かれていたということだろうか。それにしても、私が健太郎の選んだ曲を歌うって……。


「そんなの、ムリだから」

「はぁ? 何で?」

「だって、私、健太郎が何歌うとか知らないし」


 健太郎とはずっと一緒にいたとは言っても、さすがに年頃の男女だ。中学に上がる前くらいからは健太郎と個人的にどこかに遊びに行くことはなくなった。

 だからといって、小学生の頃は一緒に遊ぶと言っても、外を走り回ってたくらいだったし、実は健太郎とカラオケに来るのは今日が初めてだ。


「大丈ー夫だって! 俺の歌う曲って有名なの多いし!」


 そういう問題じゃないと思うんだけど……。

 私はどちらかというと流行に乗り遅れてる方だから、世間で流行っていても知らない曲の方が圧倒的に多い。


「曲名じゃなくて、歌手名検索にしてよ」

「はいはい」

「はいは一回な。さっきから気になってたけど、なんか千夏の声、ダルそうに聞こえる」


 人に指図しておきながら、ダルそうだと文句言ってくるなんて酷い奴だ。

 だけど、今の健太郎にこのタッチパネルを操作する術もないので、ひとまずその言葉は飲み込んでおいた。

 健太郎に言われるがままに、歌手名検索をかける。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

痩せたがりの姫言(ひめごと)

エフ=宝泉薫
青春
ヒロインは痩せ姫。 姫自身、あるいは周囲の人たちが密かな本音をつぶやきます。 だから「姫言」と書いてひめごと。 別サイト(カクヨム)で書いている「隠し部屋のシルフィーたち」もテイストが似ているので、混ぜることにしました。 語り手も、語られる対象も、作品ごとに異なります。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...