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5.健太郎とシンクロ
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その日の放課後。健太郎がカラオケに行きたいと言っていたことから、さっそく学校から徒歩圏内にある街のカラオケ店に来ていた。
たいてい私たちの中学の人は、ここのカラオケ店を利用することが多い。
「うっわ~! 久しぶりだな~! 最後に来たのいつだっけ? 部活のメンバーと来たのが最後だった気がするな」
「健太郎、声でかいって。寝不足の頭に響くから、ちょっとボリュームおさえてよ」
健太郎の要望通り、二時間目以降の授業は全て受けた。
それだけなら当たり前のことだが、今日はいつもと違う難点があった。私が授業中に居眠りしそうになると、健太郎がうるさいのだ。『千夏が寝たら、俺も授業受けられなくなるだろ』って。
健太郎ってこんな優等生キャラだったっけ?
健太郎が勉強ができることは知らなかったが、健太郎だって生きてたときは普通に居眠りしてた記憶がある。
どうして死んでからの方が、真面目に授業を受けたがるのか。そんなの、今まで当たり前のように受けてた授業さえ、今となっては健太郎には特別だということなのだろうけれど。
私にとっては、睡眠不足を助長させる要因でしかなかった。
「寝不足なのは、千夏が昨日、なかなか寝ないからだろ?」
「誰かさんのせいで寝つけなかったの!」
ただでさえ、健太郎が死んでから眠れてなかったというのに、健太郎が私の中に来てからはまた別の意味で眠れてない。
健太郎が私の中に来た初日は、やっぱり内心パニックで落ち着いて寝ようにも眠れなかったし……。
それ以降も、寝ようと思っても、寝つく直前に健太郎が話しかけてくるから、なかなか眠れない。
自分が私の睡眠妨害の原因となっていることに、少しは気づいてほしい。
そこで、健太郎はいつ寝てるのだろうと疑問に思った。
私が起きてるときはほとんど起きているし、寝ている様子だったことがない。
死んだら眠くならないのだろうか。
頭の中でいろいろと今の健太郎について考えを巡らせていると、再び健太郎の興奮気味の声が耳に届く。
「おいおい、何ボケッとしてるんだよ! 早く歌おうぜ」
早く、とカラオケの曲を選ぶためのタッチパネルの機械を取れと、健太郎が急かす。
「はいはい。っていうか、あんた、一体どうやって歌うつもり?」
とりあえず、健太郎にそう問いかけながら『曲名検索』とかかれた画面をタップする。
「どうって聞かれても、話せるってことは歌えるんじゃねぇの?」
話せるとは言っても、健太郎の声は私にしか聞こえてない。
だから、きっと健太郎の声をカラオケ用のマイクが拾うことはないだろう。
マイクに声が入らないならカラオケに来た意味あるのかと、今更ながらに疑問に思う。
だけど、カラオケに来たこと自体は健太郎のリクエストだ。マイクが健太郎の声を拾えないじゃないかと直接言うことはさすがに気が引けて、この部屋に入ったときに無造作に机の上に置いたマイクを見つめる。
まぁ、雰囲気を楽しむことならできなくはないだろう。
「千夏、余計なこと心配しすぎだろ。俺はマイクなんてなくていいから、千夏が代わりにマイク持って歌えよ」
「……えぇ!?」
健太郎に私の考えていることを見抜かれていたということだろうか。それにしても、私が健太郎の選んだ曲を歌うって……。
「そんなの、ムリだから」
「はぁ? 何で?」
「だって、私、健太郎が何歌うとか知らないし」
健太郎とはずっと一緒にいたとは言っても、さすがに年頃の男女だ。中学に上がる前くらいからは健太郎と個人的にどこかに遊びに行くことはなくなった。
だからといって、小学生の頃は一緒に遊ぶと言っても、外を走り回ってたくらいだったし、実は健太郎とカラオケに来るのは今日が初めてだ。
「大丈ー夫だって! 俺の歌う曲って有名なの多いし!」
そういう問題じゃないと思うんだけど……。
私はどちらかというと流行に乗り遅れてる方だから、世間で流行っていても知らない曲の方が圧倒的に多い。
「曲名じゃなくて、歌手名検索にしてよ」
「はいはい」
「はいは一回な。さっきから気になってたけど、なんか千夏の声、ダルそうに聞こえる」
人に指図しておきながら、ダルそうだと文句言ってくるなんて酷い奴だ。
だけど、今の健太郎にこのタッチパネルを操作する術もないので、ひとまずその言葉は飲み込んでおいた。
健太郎に言われるがままに、歌手名検索をかける。
たいてい私たちの中学の人は、ここのカラオケ店を利用することが多い。
「うっわ~! 久しぶりだな~! 最後に来たのいつだっけ? 部活のメンバーと来たのが最後だった気がするな」
「健太郎、声でかいって。寝不足の頭に響くから、ちょっとボリュームおさえてよ」
健太郎の要望通り、二時間目以降の授業は全て受けた。
それだけなら当たり前のことだが、今日はいつもと違う難点があった。私が授業中に居眠りしそうになると、健太郎がうるさいのだ。『千夏が寝たら、俺も授業受けられなくなるだろ』って。
健太郎ってこんな優等生キャラだったっけ?
健太郎が勉強ができることは知らなかったが、健太郎だって生きてたときは普通に居眠りしてた記憶がある。
どうして死んでからの方が、真面目に授業を受けたがるのか。そんなの、今まで当たり前のように受けてた授業さえ、今となっては健太郎には特別だということなのだろうけれど。
私にとっては、睡眠不足を助長させる要因でしかなかった。
「寝不足なのは、千夏が昨日、なかなか寝ないからだろ?」
「誰かさんのせいで寝つけなかったの!」
ただでさえ、健太郎が死んでから眠れてなかったというのに、健太郎が私の中に来てからはまた別の意味で眠れてない。
健太郎が私の中に来た初日は、やっぱり内心パニックで落ち着いて寝ようにも眠れなかったし……。
それ以降も、寝ようと思っても、寝つく直前に健太郎が話しかけてくるから、なかなか眠れない。
自分が私の睡眠妨害の原因となっていることに、少しは気づいてほしい。
そこで、健太郎はいつ寝てるのだろうと疑問に思った。
私が起きてるときはほとんど起きているし、寝ている様子だったことがない。
死んだら眠くならないのだろうか。
頭の中でいろいろと今の健太郎について考えを巡らせていると、再び健太郎の興奮気味の声が耳に届く。
「おいおい、何ボケッとしてるんだよ! 早く歌おうぜ」
早く、とカラオケの曲を選ぶためのタッチパネルの機械を取れと、健太郎が急かす。
「はいはい。っていうか、あんた、一体どうやって歌うつもり?」
とりあえず、健太郎にそう問いかけながら『曲名検索』とかかれた画面をタップする。
「どうって聞かれても、話せるってことは歌えるんじゃねぇの?」
話せるとは言っても、健太郎の声は私にしか聞こえてない。
だから、きっと健太郎の声をカラオケ用のマイクが拾うことはないだろう。
マイクに声が入らないならカラオケに来た意味あるのかと、今更ながらに疑問に思う。
だけど、カラオケに来たこと自体は健太郎のリクエストだ。マイクが健太郎の声を拾えないじゃないかと直接言うことはさすがに気が引けて、この部屋に入ったときに無造作に机の上に置いたマイクを見つめる。
まぁ、雰囲気を楽しむことならできなくはないだろう。
「千夏、余計なこと心配しすぎだろ。俺はマイクなんてなくていいから、千夏が代わりにマイク持って歌えよ」
「……えぇ!?」
健太郎に私の考えていることを見抜かれていたということだろうか。それにしても、私が健太郎の選んだ曲を歌うって……。
「そんなの、ムリだから」
「はぁ? 何で?」
「だって、私、健太郎が何歌うとか知らないし」
健太郎とはずっと一緒にいたとは言っても、さすがに年頃の男女だ。中学に上がる前くらいからは健太郎と個人的にどこかに遊びに行くことはなくなった。
だからといって、小学生の頃は一緒に遊ぶと言っても、外を走り回ってたくらいだったし、実は健太郎とカラオケに来るのは今日が初めてだ。
「大丈ー夫だって! 俺の歌う曲って有名なの多いし!」
そういう問題じゃないと思うんだけど……。
私はどちらかというと流行に乗り遅れてる方だから、世間で流行っていても知らない曲の方が圧倒的に多い。
「曲名じゃなくて、歌手名検索にしてよ」
「はいはい」
「はいは一回な。さっきから気になってたけど、なんか千夏の声、ダルそうに聞こえる」
人に指図しておきながら、ダルそうだと文句言ってくるなんて酷い奴だ。
だけど、今の健太郎にこのタッチパネルを操作する術もないので、ひとまずその言葉は飲み込んでおいた。
健太郎に言われるがままに、歌手名検索をかける。
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