きみと最初で最後の奇妙な共同生活

美和優希

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6.選び出したこたえ

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 健太郎が私の中に来て、はや十日ほどが経つ。

 相変わらず私の中から出ていく気配のない健太郎。いつまでこの生活が続くのかと不安に思う反面、本来一緒に居られないはずの健太郎とともに過ごせることにホッとしている。
 ここ何日も、学校のある日は授業を受けたあと、私は健太郎とあちこち学校周辺の街を遊び回っている。

 カラオケにもボウリングにも行ったし、ラーメン屋さんやハンバーガー屋さんにも行った。

 健太郎のことだからもっといいところに連れていけって言われるかなと思っていたけれど、思いの外ありふれた身近な場所が多かった。

 まだ中学生の私には、お小遣いにも限りがある。だから実際それで助かっていた。

 それでも外出には出費かつきものだ。最近は小学生の頃からひたすら貯金箱一杯に貯めてた分を少しずつ切り崩している。
 まさかこんな形で自分の貯金癖が役に立つなんて、思ってもいなかった。



 今日は、図書委員の不定期に回ってくる放課後の図書当番の日。

 図書当番は、図書委員の男女二人ペアになって行うものなんだけど、偶然にも今日は畑中先輩とペアになっていた。


 いつもなら心踊る組み合わせなのに、健太郎のせいでイライラというか、余計な心配事でそれどころではなかった。

 うっかり健太郎に話しかける様子を畑中先輩に見られないかとか、健太郎が余計なことを言わないかとか、挙げればキリがない。


「あの、ギザ野郎のどこがいいんだか」


 今だって、これで何回目だろう?

 まだ辛うじて畑中先輩に怪しまれるような行動をせずに済んでいるものの、畑中先輩が何かをする度に、私の中で余計な悪態をついてくるのだ。


「ちょっと健太郎、いちいち悪態つかないでよね」


 今、畑中先輩は図書カウンターで、貸出や返却の人の対応をしている。一方で、私は返却口に溜まっていた本を元あった位置に戻している。

 私の言葉に、健太郎は私には聞き取れないような声でゴニョゴニョと文句を言ってるようだった。そんな健太郎に小さくひとつため息を落とすと、一通り本を戻す作業を終わらせた私はカウンターへと戻った。


「花岡さん、ありがとう。助かったよ」

「い、いえ。お役に立てて、光栄です……!」


 爽やかな笑顔に、後ろの窓から差し込む夕陽の加減に自然なブラウンの髪が輝いて見える。

 そんな見るからに人を惹き付けるような魅力を持った畑中先輩に、思わずきゅんと胸が音を立てた。


「フン、何が光栄だ。いいように使われただけだろうが」


 健太郎の悪態にイラっとしつつも、努めて笑顔を心がける。

 健太郎の声は私にしか聞こえない。ここであからさまにイライラを顔に出せば、確実に畑中先輩に変に思われてしまう。


「じゃあ次は、今度全校生徒に配布予定の図書だよりを二つ折りにしていってくれるかな?」


 図書だよりとは、月一回全校生徒に配られる図書室からのお知らせの書かれたプリントのことだ。


「はい!」


 頭の中で「そのくらい自分でやれよな」と再び悪態つく声が聞こえてきた。


 私は、今まで先輩一人に任せていたカウンター席の隣に座って、今度は図書だよりを一枚ずつ二つ折りにする作業に取りかかる。

 作業をしながらもチラチラと絵になりそうな畑中先輩の姿を見ていると、健太郎に「いちいち見るな、うっとうしい」と怒鳴られた。

 別にいいじゃない。健太郎が勝手に私の中に入り込んでるんだから。

 だけど、さすがに畑中先輩の隣ではその言葉は飲み込んで、私は黙々と作業を続けた。
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