23 / 55
6.選び出したこたえ
(4)
しおりを挟む
その理由は、次の美也子の言葉で明らかになった。
「そう? 健太郎くんが亡くなった日、千夏、畑中先輩のことで健太郎くんと揉めてたからちょっと心配してたんだよ」
美也子は、あの健太郎が亡くなる直前の私と健太郎の会話を心配していてくれたんだ。
「そうだったら仕返しに畑中先輩と付き合って、ラブラブなところを見せつけてやるって」
「なんだか千夏らしいね。じゃあ何で? 他に好きな人でもできたの?」
「そういうわけじゃないんだけど、ね」
「何それ。最近千夏、付き合い悪いし、やけに独り言も増えたし、ちょっと心配」
純粋に心配そうな目を向ける美也子に、私は何もこたえることができない。
美也子なら、健太郎が私の中にいるんだって話しても、真面目に聞いてくれそうな気がする。
だけど、健太郎のことを他の人に話してはいけないような気がするんだ。何となくだけど誰かに話すと健太郎が私の中から消えていなくなってしまうような、根拠のない不安もあった。
「ごめんごめん。ちょっと今忙しくて。独り言も、きっと疲れてるからなんだと思う」
「そう? また何かあったら言ってね、私たち、親友なんだから」
「ありがとう、美也子……」
美也子のことだから、もう少し食いついてくるかなと思ったけれど、思いの外あっさりと引き下がってくれた。
他に好きな人ができたんだよ、と言えたらどれだけ良かったか。
今の私を見てなのだろう。しつこく聞いてはこなかった美也子に、少なからず罪悪感を感じた。
そのあとは、私の話題から美也子自身の話へと話題は移っていった。
*
「……美也子にも、過去にされちまったな」
「やだ。あんた、また女同士の話を盗み聞きしてたの?」
「嫌でも聞こえるんだってば! そんな人聞きの悪い言い方するなよな?」
昼休み。いつからか私は健太郎と自然に話せるように、人気のない校舎の裏庭で一人でお昼を取るようになっていた。
最近は、空気を読んで誰もいない場所で話しかけてくれるようになった健太郎。
わかってはいるけど、毎回毎回健太郎に全ての会話が筒抜けになるのは慣れない。
「何? やっぱり美也子の気持ちが健太郎から離れて寂しいの?」
私と畑中先輩とのことをひとしきり話したあと、美也子は健太郎のことを過去にすると話していたことを思い出す。
もともと一方的な片思いだったし、亡くなったあとも想い続けるのは、お空にいる健太郎もいい気がしないだろうからと、美也子は言っていた。
実際には健太郎は、お空じゃなくて私の中にいるのだけれど。
「そんなことねーよ。むしろ、その方が助かるっつーか、安心した」
「へぇ、そういうもんなんだ?」
健太郎が美也子のことをどう思っていたのかはわからない。
以前、健太郎に聞いてみたときも、はぐらかされてしまった。
美也子は一方的な片思いだと思い込んでいたみたいだけど、健太郎も美也子のことを好きだったのかもしれない。
何だかそう思うと、胸がモヤモヤと嫌な感情が生まれてくる。
私ったら、一体何にモヤモヤしているんだろう?
「おい、千夏、何怒ってんだよ」
「怒ってないってば! うるさいな、話しかけないで」
「へーへー。これだから気分屋の千夏さんは困りますな」
次第にはイライラしてきた。
一体なんだって言うんだろう?
触らぬ神に祟りなしと言わんばかりに、しばらく健太郎が私に話しかけてくることはなかった。私はお母さんの作ってくれたお弁当を黙々と食べて昼休みを終えた。
「そう? 健太郎くんが亡くなった日、千夏、畑中先輩のことで健太郎くんと揉めてたからちょっと心配してたんだよ」
美也子は、あの健太郎が亡くなる直前の私と健太郎の会話を心配していてくれたんだ。
「そうだったら仕返しに畑中先輩と付き合って、ラブラブなところを見せつけてやるって」
「なんだか千夏らしいね。じゃあ何で? 他に好きな人でもできたの?」
「そういうわけじゃないんだけど、ね」
「何それ。最近千夏、付き合い悪いし、やけに独り言も増えたし、ちょっと心配」
純粋に心配そうな目を向ける美也子に、私は何もこたえることができない。
美也子なら、健太郎が私の中にいるんだって話しても、真面目に聞いてくれそうな気がする。
だけど、健太郎のことを他の人に話してはいけないような気がするんだ。何となくだけど誰かに話すと健太郎が私の中から消えていなくなってしまうような、根拠のない不安もあった。
「ごめんごめん。ちょっと今忙しくて。独り言も、きっと疲れてるからなんだと思う」
「そう? また何かあったら言ってね、私たち、親友なんだから」
「ありがとう、美也子……」
美也子のことだから、もう少し食いついてくるかなと思ったけれど、思いの外あっさりと引き下がってくれた。
他に好きな人ができたんだよ、と言えたらどれだけ良かったか。
今の私を見てなのだろう。しつこく聞いてはこなかった美也子に、少なからず罪悪感を感じた。
そのあとは、私の話題から美也子自身の話へと話題は移っていった。
*
「……美也子にも、過去にされちまったな」
「やだ。あんた、また女同士の話を盗み聞きしてたの?」
「嫌でも聞こえるんだってば! そんな人聞きの悪い言い方するなよな?」
昼休み。いつからか私は健太郎と自然に話せるように、人気のない校舎の裏庭で一人でお昼を取るようになっていた。
最近は、空気を読んで誰もいない場所で話しかけてくれるようになった健太郎。
わかってはいるけど、毎回毎回健太郎に全ての会話が筒抜けになるのは慣れない。
「何? やっぱり美也子の気持ちが健太郎から離れて寂しいの?」
私と畑中先輩とのことをひとしきり話したあと、美也子は健太郎のことを過去にすると話していたことを思い出す。
もともと一方的な片思いだったし、亡くなったあとも想い続けるのは、お空にいる健太郎もいい気がしないだろうからと、美也子は言っていた。
実際には健太郎は、お空じゃなくて私の中にいるのだけれど。
「そんなことねーよ。むしろ、その方が助かるっつーか、安心した」
「へぇ、そういうもんなんだ?」
健太郎が美也子のことをどう思っていたのかはわからない。
以前、健太郎に聞いてみたときも、はぐらかされてしまった。
美也子は一方的な片思いだと思い込んでいたみたいだけど、健太郎も美也子のことを好きだったのかもしれない。
何だかそう思うと、胸がモヤモヤと嫌な感情が生まれてくる。
私ったら、一体何にモヤモヤしているんだろう?
「おい、千夏、何怒ってんだよ」
「怒ってないってば! うるさいな、話しかけないで」
「へーへー。これだから気分屋の千夏さんは困りますな」
次第にはイライラしてきた。
一体なんだって言うんだろう?
触らぬ神に祟りなしと言わんばかりに、しばらく健太郎が私に話しかけてくることはなかった。私はお母さんの作ってくれたお弁当を黙々と食べて昼休みを終えた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
痩せたがりの姫言(ひめごと)
エフ=宝泉薫
青春
ヒロインは痩せ姫。
姫自身、あるいは周囲の人たちが密かな本音をつぶやきます。
だから「姫言」と書いてひめごと。
別サイト(カクヨム)で書いている「隠し部屋のシルフィーたち」もテイストが似ているので、混ぜることにしました。
語り手も、語られる対象も、作品ごとに異なります。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる