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2話 花ふぶきの謎
一 裏からの招待(三)
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思わぬ話に、汗をかいたようだった。
夜風が妙に心地よかった。
翻弄されている。
完全に向こうの術中にはまっている気がする。
それでも、乗るしかないな。
敵を知らなければ、対処のしようもない。
まだまだわからないことが多すぎた。
父は、こうなることを見越して兄弟をバラバラにして市井に隠したのだろう。
家宝を渡すまいとして・・・。
牧は放り出されたと言ったが、そうではなく、守るために。
花ふぶきはどこに行ったんだろう。
これも、父が考えた一手なのだろうか。
新一郎は、星の見えない空を見上げた。
本当にあるのだろうか。
幻を追いかけているように心許ない。
だが、どちらでもいい気がする。
探したいのはあちらで、おれたちにはどうでもいいことだ。
もはや、なくなった家のことも、どうこうしようという思いもない。
きっと弟たちも同じ思いだろう。
「あの野郎! 殴ってやる! 新兄一人で行かせるんじゃなかった!」
「くっそっ! あいつやっぱり手引きしてやがったんじゃねえか! 許せねえ! 殴らせろ!」
新一郎は、左に荘次郎、右に洋三郎を抱えて押さえ込んでいる。
二人して、牧の屋敷に殴り込むといきり立った。
「今度会ったらただじゃ置かねえからな! ちくしょうめ!」
「兄上は甘すぎるんだよ! なんで殴らなかったんだ!」
仙次親分の店の奥で、三人集まり、牧の屋敷で聞かされた話をしたところだった。
「あらあら、なんの騒ぎ?」
さちが慌てて様子を見に来た。
「殴り込みの相談なの?」
「まあ、そんなところだな」
新一郎が苦笑した。
「その裏の立花の野郎に、殴り込みをかけるのか?」
荘次郎が、今にも乗り込んで行きそうな勢いのまま、反応する。
「よっしゃ! 行こうぜ!」
洋三郎も熱くなったまま、飛び出して行きそうだ。
「落ち着け!」
さちがくすくす笑っている。
「新さんも大変ね」
さちの差し入れの団子とお茶を目の前に、三人の男たちは神妙な顔になっている。
「波蕗の母親が裏立花の家の人だとは知らなかったな」
「父上は知っていて、迎え入れたんだろうか」
「その人は、裏の間者なんじゃないかな」
「そうだな」
「あまりにも手際が良すぎる」
「確かにな」
「内通していたのはその人で間違いないな」
「波蕗はどうなんだろう」
「五歳だったから、こちらのことは何も覚えてないだろう」
「あっちの味方になるということだな」
「そういうことだ」
どんな話になるのかは、行ってみないとわからない。
事前に打ち合わせておくことも別になくて、憶測で話をするしかなかった。
「・・・ねえ、立花家では、ご馳走が出るのかなあ。・・・いってっ!」
「お前はいじ汚ねえな」
「ぶつことないだろ!」
「お前は口で言っても聞かないからな」
「なんだと! 子供じゃあるめえし! 荘兄みたいに毎日ご馳走食ってんじゃねえんだよ! ちょっとぐらい楽しみがあったっていいじゃんか・・・あ!」
「ああっ!」
新一郎が、考え事をしながら黙って団子を口に入れていた。
「さちさん! お団子追加!」
指定の時刻、指定の場所に三人は立っていた。
門を見上げた。
「ずいぶんと悪趣味な野郎だな」
思わず荘次郎が言うのも無理はなかった。
三人が招待されたのは、十年前まで暮らしていた立花家の屋敷だった。
夜風が妙に心地よかった。
翻弄されている。
完全に向こうの術中にはまっている気がする。
それでも、乗るしかないな。
敵を知らなければ、対処のしようもない。
まだまだわからないことが多すぎた。
父は、こうなることを見越して兄弟をバラバラにして市井に隠したのだろう。
家宝を渡すまいとして・・・。
牧は放り出されたと言ったが、そうではなく、守るために。
花ふぶきはどこに行ったんだろう。
これも、父が考えた一手なのだろうか。
新一郎は、星の見えない空を見上げた。
本当にあるのだろうか。
幻を追いかけているように心許ない。
だが、どちらでもいい気がする。
探したいのはあちらで、おれたちにはどうでもいいことだ。
もはや、なくなった家のことも、どうこうしようという思いもない。
きっと弟たちも同じ思いだろう。
「あの野郎! 殴ってやる! 新兄一人で行かせるんじゃなかった!」
「くっそっ! あいつやっぱり手引きしてやがったんじゃねえか! 許せねえ! 殴らせろ!」
新一郎は、左に荘次郎、右に洋三郎を抱えて押さえ込んでいる。
二人して、牧の屋敷に殴り込むといきり立った。
「今度会ったらただじゃ置かねえからな! ちくしょうめ!」
「兄上は甘すぎるんだよ! なんで殴らなかったんだ!」
仙次親分の店の奥で、三人集まり、牧の屋敷で聞かされた話をしたところだった。
「あらあら、なんの騒ぎ?」
さちが慌てて様子を見に来た。
「殴り込みの相談なの?」
「まあ、そんなところだな」
新一郎が苦笑した。
「その裏の立花の野郎に、殴り込みをかけるのか?」
荘次郎が、今にも乗り込んで行きそうな勢いのまま、反応する。
「よっしゃ! 行こうぜ!」
洋三郎も熱くなったまま、飛び出して行きそうだ。
「落ち着け!」
さちがくすくす笑っている。
「新さんも大変ね」
さちの差し入れの団子とお茶を目の前に、三人の男たちは神妙な顔になっている。
「波蕗の母親が裏立花の家の人だとは知らなかったな」
「父上は知っていて、迎え入れたんだろうか」
「その人は、裏の間者なんじゃないかな」
「そうだな」
「あまりにも手際が良すぎる」
「確かにな」
「内通していたのはその人で間違いないな」
「波蕗はどうなんだろう」
「五歳だったから、こちらのことは何も覚えてないだろう」
「あっちの味方になるということだな」
「そういうことだ」
どんな話になるのかは、行ってみないとわからない。
事前に打ち合わせておくことも別になくて、憶測で話をするしかなかった。
「・・・ねえ、立花家では、ご馳走が出るのかなあ。・・・いってっ!」
「お前はいじ汚ねえな」
「ぶつことないだろ!」
「お前は口で言っても聞かないからな」
「なんだと! 子供じゃあるめえし! 荘兄みたいに毎日ご馳走食ってんじゃねえんだよ! ちょっとぐらい楽しみがあったっていいじゃんか・・・あ!」
「ああっ!」
新一郎が、考え事をしながら黙って団子を口に入れていた。
「さちさん! お団子追加!」
指定の時刻、指定の場所に三人は立っていた。
門を見上げた。
「ずいぶんと悪趣味な野郎だな」
思わず荘次郎が言うのも無理はなかった。
三人が招待されたのは、十年前まで暮らしていた立花家の屋敷だった。
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