【完結】隠れ刀 花ふぶき

かじや みの

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2話 花ふぶきの謎

三 天女の刀(四) 

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「お手をお上げください。助けられたのはこちらの方なのですから」
 藤子がはっと驚いたように顔を上げた。
「私を恨んでいないのですか?てっきり、恨まれていると思っていました。表を乗っ取った側の者ですから」
「いえ、恨みになど思っておりません。神社でお会いした時に確信しました。お藤さまの涙は本物だと。我らを本気で心配してくださっていた。そして再会を喜んでくださった。本当の親子でもないのに」
 荘次郎と洋三郎も頷いた。

「あのまま屋敷にいたら、殺されていたかもしれません。それがしは浪人のままですが、荘次郎は商人になり、洋三郎は医者になりました。十年前、父がそのように手配してくださったのだと思っておりましたが、よく考えると、そんな刻はなかったでしょうね」
「ええ。お殿さまの指図を仰ぐ暇はありませんでした。とにかく急がなければ、誰がどんな手を使ってくるかわかりませんでしたから」

「ちょっと待ってください。主計どのの話では、立花家の断絶と、花ふぶきは関わりがないということでしたが、違うのですか?」
「主計が、そんなことを・・・弟は何も知らないのです。私が花ふぶきのことを父にうっかり話してしまい、そのせいで一部の方に漏れたようです。もともと表の乗っ取りを画策していた父が、一人でそれを行うには無理があります。助力を仰ぐお偉い方がいるはずです。見返りに立花家の家宝を要求されたのではないかと思われます。あなたたちに持たせた物以外の家宝はすべて父が持っていきました。・・・申し訳ございません。やはり恨まれても仕方がありません」
 と肩を落とした。

「花ふぶきを狙うのは、主計どのだけではないのですね」
 牧が言っていたのを思い出す。
 珍しい刀を欲しがっているのは一人ではない。
 見たいという興味だけではなく、裏で金が動き、政に関わる。

「はっきりどなたとはわかりません。その後私もすぐに屋敷を出ましたので」
「なぜ波蕗と一緒に実家に戻らなかったのですか?」
「帰れなかったのです。帰る気もありませんでしたが、あまりにも表側に肩入れするようになった私を、父も持て余したのでしょう。勘当され、死んだことになりました。波蕗には申し訳ないと思いましたが、父も弟も、波蕗にとっては身内、悪いようにはしないだろうと託しました。江戸にいられなくなった私は、花ふぶきを探そうと思い立ちました」

「刀身はもともとなかったのですね」
「そうです。それが謎でした。お殿さまは知っていたのでしょうが、己で見つけたくて、あえてお聞きしていませんでした。裏の私が聞いてはならないとも思いました。・・・でも、お殿さまの口からは二度と聞けなくなってしまいました。お殿さまに何の罪があるのでしょう。・・・許せません」
 当時を思い出したのか、涙が頬を伝った。

「父を本当に愛していてくださったのですね」
「お殿さまは、父に言われるままに、表に入り込んだ私を、大切にしてくださいました。私の刀剣好きを知ると、面白がって刀を見せてくださり、花ふぶきの話をしてくださったのです。その謂れは、表と裏の絆の証。両家の仲を取り持つ刀なのだと」
「五頭龍と天女」
「そう・・・夫婦のように」
 藤子は堪えきれずに両手で顔を覆った。
「お殿さまは、花ふぶきを私にやろうと仰せになりました。表と裏の絆を深めるために。・・・私が裏の者だとご存知だったのです」
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