【完結】隠れ刀 花ふぶき

かじや みの

文字の大きさ
29 / 76
2話 花ふぶきの謎

三 天女の刀(三) 

しおりを挟む
「ごめんなさいね。みっともないところをお見せしてしまいました」
 女は手の甲で涙をサッと拭い、気丈に立ち上がった。
「あなたは・・・」
「申し遅れました。新一郎さま、私は立花藤子、波蕗の母でございます。荘次郎さまも、洋三郎さまも、こんなにご立派になられて・・・」
「え?まさか」
「あなたが・・・」
「亡くなられたのではなかったのですね」
 藤子が頷く。
「龍神さまのお導きです。毎日のようにこちらにお参りをしていたのです。どなたかがきっと、花ふぶきの謎を解いてやってくる。それがお殿さまのお子でありますように、と日々祈っておりました。一目でわかりましたよ。お殿さまの面影があって・・・」
「詳しくお話をお聞かせください」
「はい、もちろん。・・・まあまあ、あなたたち、砂だらけじゃないの」
 弟二人を見て笑っている。
 そのはにかんだ笑顔が波蕗に似ていた。
 藤子の話に嘘はないと信じられた。
「はあ・・・」
「お恥ずかしい」
「さあ、こちらへ。私の家にご案内いたします」
 職人の女房の見た目にしては上品な身のこなしで、先に立って歩き出した。


 案内されたのは、町中を抜けていった先の、一軒家だった。
 もうすっかり日が落ちて、あたりは真っ暗になっていた。
 鍛冶屋だった。
 しかも、鍛冶場が大きく働く職人の数も多い。
 日が落ちてもまだ何人か働いていた。
「刀鍛冶の家です」
 藤子が入っていくと、お帰りなさいと声がかかった。
「親方、奥をお借りしますね」
「おう」
 まだ焼き入れ前の刀を小槌で叩いていた親方らしき職人が、目だけ上げて応えた。
 三人は頭を下げて、藤子の後に続いた。

「まずはお風呂ね。ここには内風呂がありますから、ご案内します」
 と、藤子は女中を呼び、テキパキと指図する。
「おかみさんなのですか?」
 女中からおかみと呼ばれていたのを聞いた。
「そうです。お役だけですけど。親方はまだお若くて、奥向きまで仕切れません。私がしゃしゃり出ているのですよ」
「いえ、さすがです」
「急なことで何もありませんけれど、食事の用意もさせます。泊まっていってください。積もる話もありますから」
「かたじけない。お言葉に甘えさせていただきます」
「ありがとうございます」
「助かります」



「まずは何からお話ししましょうか」
 風呂も夕食もご馳走になり、部屋に落ち着いたところで、藤子が入ってきた。
「それとも、お疲れでしょうから、明日にしますか?」
 すっかりくつろいであくびをしている洋三郎を見て、藤子が笑った。
「いえ、朝は朝でお忙しいでしょうから。今からで大丈夫です」
「お構いなく」
 荘次郎が洋三郎を叩いて言った。
「藤子さまは、なぜこちらに?」
 新一郎が、今一番知りたいことを聞いた。
「おふじで結構です。ここでもそう呼ばれていますから。・・・そうよね、気になるわよね。死んだはずの者が、立花家を離れて、なぜここにいるか。・・・それを話せば、全てを話すことになるわ」
 藤子は言葉をきって、考えるように下を向いた。
 そして、顔を上げて三人に笑顔を見せた。
「さすがにお殿さまのお子たちね。はじめに花ふぶきの在処ありかを聞かれたら、話さないつもりでした。・・・順番にお話しいたします」

「お殿さまが囚われて他家へお預けの身になった時、いち早くあなたたちを外へ出したのは私です。その時、それぞれに家宝を持たせました。新一郎さまには、相州伝の刀。荘次郎さまには、重藤の弓矢と、花ふぶきの小柄と笄。洋三郎さまには、花ふぶきの鍔を。弓矢は別にして、花ふぶきを見つける上で重要な物たちを隠すためです。三人の預ける先も私が決めました。もちろん、花ふぶきのことは伏せて。哲斎先生には申し訳なく思っております」
 と、洋三郎に頭を下げた。
 洋三郎は俯いている。
「お藤さまは、江戸の様子を知っておられるのですね」
「品物を納めに、時々江戸へ行きますから。武蔵屋さんにも。・・・あなたたちのことは気にかけていました」
「みんな、お藤さまの差配だったとは・・・」
「勝手なことをいたしました。お許しくださいませ」
 畳に手をつき、深々と頭を下げた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

輿乗(よじょう)の敵 ~ 新史 桶狭間 ~

四谷軒
歴史・時代
【あらすじ】 美濃の戦国大名、斎藤道三の娘・帰蝶(きちょう)は、隣国尾張の織田信長に嫁ぐことになった。信長の父・信秀、信長の傅役(もりやく)・平手政秀など、さまざまな人々と出会い、別れ……やがて信長と帰蝶は尾張の国盗りに成功する。しかし、道三は嫡男の義龍に殺され、義龍は「一色」と称して、織田の敵に回る。一方、三河の方からは、駿河の国主・今川義元が、大軍を率いて尾張へと向かって来ていた……。 【登場人物】 帰蝶(きちょう):美濃の戦国大名、斎藤道三の娘。通称、濃姫(のうひめ)。 織田信長:尾張の戦国大名。父・信秀の跡を継いで、尾張を制した。通称、三郎(さぶろう)。 斎藤道三:下剋上(げこくじょう)により美濃の国主にのし上がった男。俗名、利政。 一色義龍:道三の息子。帰蝶の兄。道三を倒して、美濃の国主になる。幕府から、名門「一色家」を名乗る許しを得る。 今川義元:駿河の戦国大名。名門「今川家」の当主であるが、国盗りによって駿河の国主となり、「海道一の弓取り」の異名を持つ。 斯波義銀(しばよしかね):尾張の国主の家系、名門「斯波家」の当主。ただし、実力はなく、形だけの国主として、信長が「臣従」している。 【参考資料】 「国盗り物語」 司馬遼太郎 新潮社 「地図と読む 現代語訳 信長公記」 太田 牛一 (著) 中川太古 (翻訳)  KADOKAWA 東浦町観光協会ホームページ Wikipedia 【表紙画像】 歌川豊宣, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で

ソラノカケラ    ⦅Shattered Skies⦆

みにみ
歴史・時代
2026年 中華人民共和国が台湾へ軍事侵攻を開始 台湾側は地の利を生かし善戦するも 人海戦術で推してくる中国側に敗走を重ね たった3ヶ月ほどで第2作戦区以外を掌握される 背に腹を変えられなくなった台湾政府は 傭兵を雇うことを決定 世界各地から金を求めて傭兵たちが集まった これは、その中の1人 台湾空軍特務中尉Mr.MAITOKIこと 舞時景都と 台湾空軍特務中士Mr.SASENOこと 佐世野榛名のコンビによる 台湾開放戦を描いた物語である ※エースコンバットみたいな世界観で描いてます()

クロワッサン物語

コダーマ
歴史・時代
 1683年、城塞都市ウィーンはオスマン帝国の大軍に包囲されていた。  第二次ウィーン包囲である。  戦況厳しいウィーンからは皇帝も逃げ出し、市壁の中には守備隊の兵士と市民軍、避難できなかった市民ら一万人弱が立て籠もった。  彼らをまとめ、指揮するウィーン防衛司令官、その名をシュターレンベルクという。  敵の数は三十万。  戦況は絶望的に想えるものの、シュターレンベルクには策があった。  ドナウ河の水運に恵まれたウィーンは、ドナウ艦隊を蔵している。  内陸に位置するオーストリア唯一の海軍だ。  彼らをウィーンの切り札とするのだ。  戦闘には参加させず、外界との唯一の道として、連絡も補給も彼等に依る。  そのうち、ウィーンには厳しい冬が訪れる。  オスマン帝国軍は野営には耐えられまい。  そんなシュターレンベルクの元に届いた報は『ドナウ艦隊の全滅』であった。  もはや、市壁の中にこもって救援を待つしかないウィーンだが、敵軍のシャーヒー砲は、連日、市に降り注いだ。  戦闘、策略、裏切り、絶望──。  シュターレンベルクはウィーンを守り抜けるのか。  第二次ウィーン包囲の二か月間を描いた歴史小説です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

矛先を折る!【完結】

おーぷにんぐ☆あうと
歴史・時代
三国志を題材にしています。劉備玄徳は乱世の中、複数の群雄のもとを上手に渡り歩いていきます。 当然、本人の魅力ありきだと思いますが、それだけではなく事前交渉をまとめる人間がいたはずです。 そう考えて、スポットを当てたのが簡雍でした。 旗揚げ当初からいる簡雍を交渉役として主人公にした物語です。 つたない文章ですが、よろしくお願いいたします。 この小説は『カクヨム』にも投稿しています。

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

処理中です...