子連れ同心捕物控

かじや みの

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一話 この子誰の子

「文四郎さん、朝餉はまだなんでしょう? 食べていきませんか」

 雪江が、そう声をかけてきた。

 まだ、おきみの話を聞く前だ。

「え、まあ、まだですが・・・」

 おきみが泣いている。
 他人の赤子に乳をやって、自分の子に思いを馳せてしまったのだろう。

 落ち着くまで、朝飯を食べていけということなのだろうか。

 でも、放っておいていいものかどうか。

「おきみさんには、私がついています。うちの人がおりますから、話がてら食べていらっしゃい」
「ありがとうございます」

 そう言われて、肝心のお方を忘れていたことに気がついた。
 駒井さまにまだ挨拶していなかった。

「朝からお邪魔をして、申し訳ございませぬ」
 と、駒井家の居間に顔を出し、当主の駒井淳三郎に頭を下げた。

「挨拶はよい。食っていけ」

 文四郎の膳が用意してあった。

「姉がご迷惑をおかけして・・・」
「よいよい。知らぬ間柄でもあるまい」

 駒井家の子どもたちが、行儀良く座って挨拶した。
「いつの間にか大きくなられましたな」
「十と八つだ」
 上が男の子で、下が女の子だ。
 文四郎がいるからか、二人ともすました顔をしている。

 遠慮なく膳の前に座ると、子どもたちは、もう食べ終えて、膳を自分で下げに行った。
 さすがに躾が行き届いている。

 上役と一緒に食事をするのは、ちょっと気が引けた。

「いただきます」
 朝からご馳走だった。

 家族を持つと、こうなのだろうな、と自分の子供の頃を思い出して、懐かしくなった。

 今の文四郎の朝餉は、ご飯に湯をぶっかけてかき込むだけになっている。
 もしくは、外で食べる。

「赤子をどうする?」
 駒井が訊いてきた。
 文四郎を気の毒がっているのが、表情から読み取れる。

「姉上からの預かりものですから、致し方ありません」
 そう言うしかなかった。

「当家で預かってやってもよいが。女手もあるしな」
「いえ、おきみさんをおいてもらっているだけで、ありがたいと思っております」
 おきみは、駒井家にとってはなんの関わりもない女子なのだ。

 かといって、文四郎が一人で住む朝倉家に、おきみを住まわせるわけにもいかない。
 だから、おきみは駒井家に預かってもらったのだろう。
 赤子も、となるとやはり気が引ける。
 姉も、そう思って、赤子は、文四郎に預けたのだ。

「近頃、赤子に関わる相談事が増えておるようだ。そなたはおきみの赤子を取り戻してやれ。拐かしだとすれば、急いだ方が良いだろう」
「は。わかりました」
 急いで、箸を動かした。

「そなたが独り者ゆえ、何かと不都合だ。嫁を世話してやろう。なるべく早いうちにな」
「はあ・・・」
 話が変な方へ飛んだ。
「それは、お構いなく」
「なぜだ。意中の女子でもおるのか」
「いえ、そういうわけでは・・・」
 苦笑いし、逃げるように居間を出た。


 部屋に戻ると、雪江が赤子を抱き、あやしていた。
「ご馳走さまでした」
「いいえ。お粗末さまでした。そういえば、この子の名前はどうします? 凛さまったら、名前はまだないとおっしゃって、びっくりしました。生まれたばかりでもないのに。・・・明かせない事情があるのだとは思いますが」
 そういえば、手紙にも、名前はないからつけてくれとあった。

「どのくらい、なのですか」
「そうねえ、三月くらいでしょうか」
 おきみも頷いている。

「一番可愛らしい頃よね。ふくふくして。・・・懐かしいわ」
 と、頬ずりした。
 赤子は機嫌よくきゃっきゃ言っている。

 確かに名前がなくては都合が悪い。
「しかし、急に言われましても・・・」
 猫や犬の子のようにはいかない。
 浮かんでこなかった。
「雪江さまがつけてくださいよ」


「男だから・・・大五郎、とか?」

 雪江がぷっと吹き出した。
「適当に言ってます?」
「どうせ、本当の名前ではないのですから、なんでもいいのですよね」
「まあ、文四郎さんったら。怒ってるでしょ」
 そりゃ、怒るだろうと思ったが、黙った。

「それより、話を聞こうか」
「はい」
 おきみが、文四郎に向き直った。
 もう泣き止んで、すっきりした顔になっている。

「子供の父親は誰なんだ?」
「はい」
 と、少しためらうように、間が空いた。

 文四郎は、どこかのお店の若旦那のお手がついたとか、そういう類の話ではないかと思っていた。
 が、
「お旗本の、佐々木外記さまです」
「は?・・・」
 口をあんぐり開けてしまった。
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