織姫道場騒動記

かじや みの

文字の大きさ
4 / 19

しおりを挟む
 織絵が解散を告げても、ほとんどの門弟たちが残っていた。

 みんなどうなるか見たいのだ。

 結城は大人しく座ったまま、稽古を見学していた。

 しばらく放っておかれても、そのままそこにいるということは、次に進む、ということだからだ。

 待てない者は、ここで文字通り放り出される。

「結城どの、お待たせいたしました。ご案内いたします」


 道場と母屋は別棟になっている。

 が、井戸は一つなので、母屋の様子もうかがうことができる。

 稽古が終わって汗を拭くために門弟たちが井戸端に集まる。
 今日は特に多い。
 そして静かだった。
 ヒソヒソと話しながら、風呂場から結城が出てくるのを待った。

 幸いなことに、外の風呂場にも近い。

 織絵と里絵は当然、母屋に入って汗を拭い、着替えている。

 いい匂いがしてきた。
 おたけさんが、夕餉を作っている。

「ええなあ。おたけさんの飯食いてえ」
 誰かが言う。

 おたけは住み込みで働いている。
 家事をしてくれていた老婆が亡くなってから、代わりに手伝いにきてくれている人だ。
 源兵衛とは、もう夫婦みたいなものだった。
 一度嫁していたが、子供ができず離縁されて実家に戻ってきていたところ、源兵衛の話を聞き、お手伝いしたいと申し出てくれたのだ。

 秋も深まってきて、日が落ちるのが早い。
 すでに、外にいる者は、影のようになり、お互いの顔もわからなくなってきていた。

「ちょっと、あなたたち、そこにいるんだったら結城どのをご案内して」

 織絵の声が母屋から聞こえた。

「あの、・・・そこまでしていただかなくとも・・・」

 結城の顔も定かに見えない。
「はいはい、どうぞどうぞ」
 まだ渋っている風呂上がりの結城の背中を押して、みんなが母屋までゾロゾロとついていく。

 そのままみんなで、農家の広い玄関に入っていった。
 道場破りなのに、遠慮しいの結城をつい応援したくなるのか、
「しっかりやれよ」
 と背中を叩く者もいる。
「はあ?」
 相変わらず、己のおかれている状況がさっぱり飲み込めていない結城だった。

 この、道場破りを試す一連の行為は、織絵の婿探しも兼ねていることを、みなは知っている。

 部屋から漏れてくる灯りが届き、結城の姿が浮かび上がった。

「着物まで貸していただき、かたじけのうござる」
 中にいる織絵、源兵衛に頭を下げたその姿は、ボロを纏っていたときとは一皮剥けて、颯爽とした若侍になっていた。

「おおっ・・・」
 門弟たちが驚きの声をあげている。

「まあ、上がれ」
 源兵衛の太い声がした。

「いや、しかし・・・そこまでしていただくいわれは・・・」
 膳が並べられ、料理のいい匂いがしてくる。

 ぐうるるるーー

 結城のお腹が、盛大に鳴った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

月弥総合病院

僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

痩せたがりの姫言(ひめごと)

エフ=宝泉薫
青春
ヒロインは痩せ姫。 姫自身、あるいは周囲の人たちが密かな本音をつぶやきます。 だから「姫言」と書いてひめごと。 別サイト(カクヨム)で書いている「隠し部屋のシルフィーたち」もテイストが似ているので、混ぜることにしました。 語り手も、語られる対象も、作品ごとに異なります。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...