3 / 17
一 家老の手土産
しおりを挟む
本陣に着き、脇息にどっともたれかかる。
「ああ、疲れたーー」
頭と着物が重すぎて、ぐったりだ。
ここまでの道中、十日ほどになるか、絶対痩せたわ。
ずっと歩き通しの姫さまもお疲れのことだろうと思いきや、
「さあ、姫さま、それほどゆっくりもしておれませぬぞ。ここはもはや敵地ですゆえ」
とニコニコしている。
「その方は元気よのう」
にわか仕込みの姫言葉で、姫さまに応酬する。
「まあ、里の野山よりは疲れますが、これしき、足慣らしにちょうどようございます」
姫さまの体力恐るべし。
「姫さま」
と佐伯さまの呼ぶ声がした。
「いかがした」
襖を開けた佐伯さまは、
「ただいま、伊那代藩ご家老、大森修理さまがお越しでございます」
えっ!早速のお出まし?
言い忘れていたけれど、伊那代藩は、この人で保っていると言われていて、お家にはなくてはならない存在なのだという。
若殿がうつけでも問題ないわけだ。
「わらわは疲れておる」
「よい、お通し申せ」
「はあ?」
姫さまが睨んでいる。
私は大きなため息をついて脇息にもたれかかった。扇で顔を隠す。
さすがに寝そべっていてもいけないので、きちんと座り直す。
舐められないようにお腹に力をいれ、顎を引く。
入ってきた大森修理を見て、意外に若いことに驚いた。
三十をいくらか出ているくらいか、涼やかで上品な顔立ちだ。
若殿の叔父で、前藩主の弟なのだ。
上品さはやはり血なのか。
「姫さまには、ご機嫌麗しゅう。長旅、さぞやお疲れと存じまする」
と平伏した。
「お出迎え、かたじけのう存じまする」
姫さまに教えられた通りに返す。
見つめられている。
まあ、姫さまがどんなお方か気になるだろうけれど・・・。
長い凝視には耐えられない。
思わず、扇で顔を隠した。
「お口に合われるかどうか。我が伊那代で作られた干し柿にございます。どうぞお召し上がりを」
持参したらしい干し柿が、三方にのせられ、置かれた。
「これはこれは、結構なものを」
姫さまが言い、頭を下げている。
「頂戴いたしまする」
手を伸ばしかけた私の目の前で、干し柿が後ろに回された。
「他にも、伊那代の名産品など、珍しいものを取り揃えておりまする。何卒お納めください」
さすが家老だ。
「本日はごゆるりとお休みなされて、明日は我が城にて、若殿ともどもお待ちしたしておりますれば・・・。お目にかかれて嬉しうございました。では、これにて」
と、爽やかに辞した。
長居しないあたりも、できる感たっぷりだ。
「こちらは合格じゃな」
姫さまも同じことを思っている。
置いていった手土産は、織物、工芸品など、どれも女子が好きそうなものばかりである。
「うん、うまい」
さっきの干し柿を頬張っている。
「あ、ずるい!」
「毒味をせねばの」
「それは私の仕事でしょ」
「わかったわかった」
姫さまは私の口に干し柿を放り込んだ。
疲れた体に染み渡る甘みにとろけそうだった。
「ああ、疲れたーー」
頭と着物が重すぎて、ぐったりだ。
ここまでの道中、十日ほどになるか、絶対痩せたわ。
ずっと歩き通しの姫さまもお疲れのことだろうと思いきや、
「さあ、姫さま、それほどゆっくりもしておれませぬぞ。ここはもはや敵地ですゆえ」
とニコニコしている。
「その方は元気よのう」
にわか仕込みの姫言葉で、姫さまに応酬する。
「まあ、里の野山よりは疲れますが、これしき、足慣らしにちょうどようございます」
姫さまの体力恐るべし。
「姫さま」
と佐伯さまの呼ぶ声がした。
「いかがした」
襖を開けた佐伯さまは、
「ただいま、伊那代藩ご家老、大森修理さまがお越しでございます」
えっ!早速のお出まし?
言い忘れていたけれど、伊那代藩は、この人で保っていると言われていて、お家にはなくてはならない存在なのだという。
若殿がうつけでも問題ないわけだ。
「わらわは疲れておる」
「よい、お通し申せ」
「はあ?」
姫さまが睨んでいる。
私は大きなため息をついて脇息にもたれかかった。扇で顔を隠す。
さすがに寝そべっていてもいけないので、きちんと座り直す。
舐められないようにお腹に力をいれ、顎を引く。
入ってきた大森修理を見て、意外に若いことに驚いた。
三十をいくらか出ているくらいか、涼やかで上品な顔立ちだ。
若殿の叔父で、前藩主の弟なのだ。
上品さはやはり血なのか。
「姫さまには、ご機嫌麗しゅう。長旅、さぞやお疲れと存じまする」
と平伏した。
「お出迎え、かたじけのう存じまする」
姫さまに教えられた通りに返す。
見つめられている。
まあ、姫さまがどんなお方か気になるだろうけれど・・・。
長い凝視には耐えられない。
思わず、扇で顔を隠した。
「お口に合われるかどうか。我が伊那代で作られた干し柿にございます。どうぞお召し上がりを」
持参したらしい干し柿が、三方にのせられ、置かれた。
「これはこれは、結構なものを」
姫さまが言い、頭を下げている。
「頂戴いたしまする」
手を伸ばしかけた私の目の前で、干し柿が後ろに回された。
「他にも、伊那代の名産品など、珍しいものを取り揃えておりまする。何卒お納めください」
さすが家老だ。
「本日はごゆるりとお休みなされて、明日は我が城にて、若殿ともどもお待ちしたしておりますれば・・・。お目にかかれて嬉しうございました。では、これにて」
と、爽やかに辞した。
長居しないあたりも、できる感たっぷりだ。
「こちらは合格じゃな」
姫さまも同じことを思っている。
置いていった手土産は、織物、工芸品など、どれも女子が好きそうなものばかりである。
「うん、うまい」
さっきの干し柿を頬張っている。
「あ、ずるい!」
「毒味をせねばの」
「それは私の仕事でしょ」
「わかったわかった」
姫さまは私の口に干し柿を放り込んだ。
疲れた体に染み渡る甘みにとろけそうだった。
10
あなたにおすすめの小説
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
めぐみ
歴史・時代
お民は江戸は町外れ徳平店(とくべいだな)に夫源治と二人暮らし。
源治はお民より年下で、お民は再婚である。前の亭主との間には一人息子がいたが、川に落ちて夭折してしまった。その後、どれだけ望んでも、子どもは授からなかった。
長屋暮らしは慎ましいものだが、お民は夫に愛されて、女としても満ち足りた日々を過ごしている。
そんなある日、徳平店が近々、取り壊されるという話が持ちあがる。徳平店の土地をもっているのは大身旗本の石澤嘉門(いしざわかもん)だ。その嘉門、実はお民をふとしたことから見初め、お民を期間限定の側室として差し出すなら、長屋取り壊しの話も考え直しても良いという。
明らかにお民を手に入れんがための策略、しかし、お民は長屋に住む皆のことを考えて、殿様の取引に応じるのだった。
〝行くな!〟と懸命に止める夫に哀しく微笑み、〝約束の1年が過ぎたから、きっとお前さんの元に帰ってくるよ〟と残して―。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
焔と華 ―信長と帰蝶の恋―
幸
歴史・時代
うつけと呼ばれた男――織田信長。
政略の華とされた女――帰蝶(濃姫)。
冷えた政略結婚から始まったふたりの関係は、やがて本物の愛へと変わっていく。
戦乱の世を駆け抜けた「焔」と「華」の、儚くも燃え上がる恋の物語。
※全編チャットGPTにて生成しています
加筆修正しています
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)
三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。
佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。
幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。
ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。
又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。
海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。
一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。
事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。
果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。
シロの鼻が真実を追い詰める!
別サイトで発表した作品のR15版です。
妻が通う邸の中に
月山 歩
恋愛
最近妻の様子がおかしい。昼間一人で出掛けているようだ。二人に子供はできなかったけれども、妻と愛し合っていると思っている。僕は妻を誰にも奪われたくない。だから僕は、妻の向かう先を調べることににした。
【完結】限界離婚
仲 奈華 (nakanaka)
ミステリー
もう限界だ。
「離婚してください」
丸田広一は妻にそう告げた。妻は激怒し、言い争いになる。広一は頭に鈍器で殴られたような衝撃を受け床に倒れ伏せた。振り返るとそこには妻がいた。広一はそのまま意識を失った。
丸田広一の息子の嫁、鈴奈はもう耐える事ができなかった。体調を崩し病院へ行く。医師に告げられた言葉にショックを受け、夫に連絡しようとするが、SNSが既読にならず、電話も繋がらない。もう諦め離婚届だけを置いて実家に帰った。
丸田広一の妻、京香は手足の違和感を感じていた。自分が家族から嫌われている事は知っている。高齢な姑、離婚を仄めかす夫、可愛くない嫁、誰かが私を害そうとしている気がする。渡されていた離婚届に署名をして役所に提出した。もう私は自由の身だ。あの人の所へ向かった。
広一の母、文は途方にくれた。大事な物が無くなっていく。今日は通帳が無くなった。いくら探しても見つからない。まさかとは思うが最近様子が可笑しいあの女が盗んだのかもしれない。衰えた体を動かして、家の中を探し回った。
出張からかえってきた広一の息子、良は家につき愕然とした。信じていた安心できる場所がガラガラと崩れ落ちる。後始末に追われ、いなくなった妻の元へ向かう。妻に頭を下げて別れたくないと懇願した。
平和だった丸田家に襲い掛かる不幸。どんどん倒れる家族。
信じていた家族の形が崩れていく。
倒されたのは誰のせい?
倒れた達磨は再び起き上がる。
丸田家の危機と、それを克服するまでの物語。
丸田 広一…65歳。定年退職したばかり。
丸田 京香…66歳。半年前に退職した。
丸田 良…38歳。営業職。出張が多い。
丸田 鈴奈…33歳。
丸田 勇太…3歳。
丸田 文…82歳。専業主婦。
麗奈…広一が定期的に会っている女。
※7月13日初回完結
※7月14日深夜 忘れたはずの思い~エピローグまでを加筆修正して投稿しました。話数も増やしています。
※7月15日【裏】登場人物紹介追記しました。
2026年1月ジャンルを大衆文学→ミステリーに変更しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる