隠密姫

かじや みの

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一 家老の手土産

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 本陣に着き、脇息にどっともたれかかる。
「ああ、疲れたーー」
 頭と着物が重すぎて、ぐったりだ。
 ここまでの道中、十日ほどになるか、絶対痩せたわ。
 ずっと歩き通しの姫さまもお疲れのことだろうと思いきや、
「さあ、姫さま、それほどゆっくりもしておれませぬぞ。ここはもはや敵地ですゆえ」
 とニコニコしている。
「その方は元気よのう」
 にわか仕込みの姫言葉で、姫さまに応酬する。
「まあ、里の野山よりは疲れますが、これしき、足慣らしにちょうどようございます」
 姫さまの体力恐るべし。


「姫さま」
 と佐伯さまの呼ぶ声がした。
「いかがした」
 襖を開けた佐伯さまは、
「ただいま、伊那代藩ご家老、大森修理さまがお越しでございます」
 えっ!早速のお出まし?
 言い忘れていたけれど、伊那代藩は、この人で保っていると言われていて、お家にはなくてはならない存在なのだという。
 若殿がうつけでも問題ないわけだ。
「わらわは疲れておる」
「よい、お通し申せ」
「はあ?」
 姫さまが睨んでいる。
 私は大きなため息をついて脇息にもたれかかった。扇で顔を隠す。


 さすがに寝そべっていてもいけないので、きちんと座り直す。
 舐められないようにお腹に力をいれ、顎を引く。
 入ってきた大森修理を見て、意外に若いことに驚いた。
 三十をいくらか出ているくらいか、涼やかで上品な顔立ちだ。
 若殿の叔父で、前藩主の弟なのだ。
 上品さはやはり血なのか。
「姫さまには、ご機嫌麗しゅう。長旅、さぞやお疲れと存じまする」
 と平伏した。
「お出迎え、かたじけのう存じまする」
 姫さまに教えられた通りに返す。
 見つめられている。
 まあ、姫さまがどんなお方か気になるだろうけれど・・・。
 長い凝視には耐えられない。
 思わず、扇で顔を隠した。
「お口に合われるかどうか。我が伊那代で作られた干し柿にございます。どうぞお召し上がりを」
 持参したらしい干し柿が、三方にのせられ、置かれた。
「これはこれは、結構なものを」
 姫さまが言い、頭を下げている。
「頂戴いたしまする」
 手を伸ばしかけた私の目の前で、干し柿が後ろに回された。
「他にも、伊那代の名産品など、珍しいものを取り揃えておりまする。何卒お納めください」
 さすが家老だ。
「本日はごゆるりとお休みなされて、明日は我が城にて、若殿ともどもお待ちしたしておりますれば・・・。お目にかかれて嬉しうございました。では、これにて」
 と、爽やかに辞した。
 長居しないあたりも、できる感たっぷりだ。
「こちらは合格じゃな」
 姫さまも同じことを思っている。
 置いていった手土産は、織物、工芸品など、どれも女子が好きそうなものばかりである。
「うん、うまい」
 さっきの干し柿を頬張っている。
「あ、ずるい!」
「毒味をせねばの」
「それは私の仕事でしょ」
「わかったわかった」
 姫さまは私の口に干し柿を放り込んだ。
 疲れた体に染み渡る甘みにとろけそうだった。

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