【完結】蟠龍に抱かれて眠れ〜美貌のご落胤に転生?家老に溺愛されてお家騒動に巻き込まれる〜

かじや みの

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1章 嵐

2 いじめられてるのに愛されてる?わけがわからない関係

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「片瀬、大丈夫か?」

 誰かが、背中をさすってくれている。

「右京さまはひどいことするな」

 うきょうさまとは、あの口づけ男のことか。
 さまって何様だよ。

「おれ、なんで倒れてたの?」
 思い切って訊いてみた。

 やっと声が出せた。
 なんの違和感もなく、自分の声だったことに安心する。

「え? 覚えてないのか?」
「うん・・・」
 気まずかったが、正直に答えた。

「よっぽど強く打ったんだな。右京さまが片瀬の竹刀を叩き落として、面を入れて、突き飛ばしたんだ」

 は?
 めんは頭を打つ剣道の技だ。
 防具なしで打ったということになる。

「面が強烈だったんだな。押されて後ろにばったり倒れたから」
「・・・」

 怖いことを言う。
 頭打ったから休めって言っていたが、自分でやったんじゃないか。
 頭痛の原因がわかった。

 怒りがむくむく湧いてきた。

 と同時に、また吐き気が襲う。

「水・・・飲みたい」

「よし、肩を貸すよ。さあ」

 改めて見ると、優しそうな感じの青年だった。
 やはり丁髷ちょんまげ
 まじまじと見てしまう。

 じーっと見つめていたせいか、その青年の顔が赤くなった。

「あ、ありがとう」

 景司は目を逸らして礼を言い、肩に腕を回した。
 足に力が入らず、ほどんどぶら下がるような格好になった。

 視線を感じる。
 なぜか注目の的だ。

「おい、おれがやる」
 右京も見ていたのだろう。
 床を踏み鳴らすようにして近づき、青年を押し退けた。

 支えを失って、ふらつく景司をとらえて抱き上げる。
 いわゆるお姫様抱っこというやつだ。

「水が飲みたいようだから・・・」
 青年が慌てて弁明した。

「ああ、わかった」
 右京は言いながら、青年を睨んでいる。

 ほんとムカつくやつだな。
 と景司は、抱かれながらも、できる限りの抗議の意味をこめて、下から睨んだ。

 その視線に気がついて、景司の目を見下ろす右京の目が細められた。

「それだ。その目だ。おれが好きなのは・・・。やっと戻ったな」

 は?

 狼狽えた景司を、外の水場まで運んでいく。

 今さらだが、あることに気がついた。

 江戸時代は、武士の嗜みとして、男色が普通だということに。

 おれが対象になってるってことだよね・・・。

 それにしても、乱暴すぎやしないか。

 外にも人がいて、水を飲んだり、汗を拭いたりしている。

 右京が行くと、場所を開けてくれた。

「ほら、飲めよ」

 降ろされた。

 いつでも飲めるように、桶に水が汲んであり、柄杓がおいてある。

 水は、生き返るほどに冷たく、美味かった。
 何度も柄杓で飲んで、顔にもかけた。
 奪われた唇も、水で洗い流した。
 汗でベタつく体も洗いたいくらいだ。

「いい加減に、おれのものになれ。お前がいつまでもごねるから、こういうことになるんだぞ」

「・・・」
 悪びれもせずにいってのけた右京に、自分は穏やかだと自認する景司が、かっとなった。
 ついに堪えきれなくなった。

「おれのせいだって言うのかよ! だからってひどすぎだろ。あんたのおかげで、おれは記憶が飛んで、ここがどこかも、あんたが誰なのかもわからなくなったんだからな!」

 咄嗟に、記憶がなくなったことにし、それを右京のせいにした。

 これは、本来、人にぶつけることではないのかもしれない。
 でも、今はそうするより他に、行き場のない気持ちを吐き出すすべがなかった。

 右京は、驚いた顔になった。
「本当なのか、それは。おれの名前も忘れたのか?」

「名前だけじゃない。顔だって知らないし、自分の名前もわからない。家がどこにあるのかも・・・どうして、ここにいるのかも・・・」

 最後は泣き声になった。
 感情が激して、涙がこぼれ落ちる。

 知る人が誰もいない場所に放り出されたことに、急に孤独を感じて怖くなった。

「すまなかった。謝る」

 景司のただならぬ様子に、態度を変えた右京が素直に言って、また、景司を抱き上げた。

「今日は屋敷に帰れ。おれが送っていってやる」

 何事かと注目する好奇な人の目を避けて、道場を出た。
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