【完結】蟠龍に抱かれて眠れ〜美貌のご落胤に転生?家老に溺愛されてお家騒動に巻き込まれる〜

かじや みの

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1章 嵐

3 天守と父

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「お前の名は、片瀬景三郎けいざぶろう

「けいざぶろう・・・?」
 司が違うだけの、似たような名前だった。
 もしかして、ご先祖さまだったりして。

「おれは、吉村右京。親父は筆頭家老、吉村又右衛門だ」

 筆頭家老と言えば、家臣の中でトップの地位だ。
 そりゃあ、さまがつくわ。

 目を見張った景司に、得意げに顎をあげた。

「と言っても、部屋住の次男坊だから、家督は継げないがな」

「そうなんだ。でも、自由でいいじゃない」
 思わず口にした言葉に、右京が驚いたように景司を見た。

 何か悪いこと言ったんだろうか。

 重くなったんだろう。
 右京が景司をおろすと、額に手を当ててきた。

「やっぱり変だぞ。頭打ったせいだろうけど」

「ここは桑名?」
「ああ、そうだ」
「じゃあ、お殿さまは?」
「松平定重さまだ」
「定重公・・・」

 場所はそのままで、時代だけがさかのぼったことがわかる。

 郷土史研究部にいたから、桑名藩の歴史は必須だ。
 殿さまの名前で、年代が特定できる。
 覚えているかどうかは別問題だけど。

 およそ1700年ごろだろうか。
 定重公は、長く藩主をつとめ、わりと初期の方だからまだ覚えていた。
 これがおそらく中期や後期だったらアウトだ。
 スマホで調べるわけにもいかないし、記憶を掘り起こすしかない。

 ああ、スマホないなんて、最悪。

「どうだわかったか?」

 考え込んだ景司の顔を、右京が覗き込む。

 真剣に心配しているような顔に、なぜか胸がきゅっとした。


 右京の肩越しに、あるものが見えるのに気がついた。

 それは・・・!

「あーーっ! あれは!・・・」

 景司は右京の背後を指差した。

 急に大声を出したので、右京がのけぞるように驚いていた。

「なんだ。どうした?」
「天守がある!」

 頭痛も、気分の悪さも一瞬で吹っ飛んだ。

「は? そんなものは毎日見てるさ」
 と右京が、満面の笑顔になった景司を気味悪そうに見ている。

 天守があるということは、1701年よりも前だとはっきりする。
 その年に、焼失してしまったのだ。

 今見えている天守は、上の方しか見えず、正確に何層かわからないが、景司の記憶では、4重6階だ。

「そうかー・・・」

 うっとりと城を見ている景司は、次第に足元が固まってきたのを感じていた。

 自分がいる場所がわかるだけで、安心する。

 ますます気味悪そうに離れて眺めていた右京が、おもむろに景司を抱きしめてきた。
「変になったお前も、いい。・・・うい奴だ」

「やめろよ、見られるだろ、・・・恥ずかしい」
「構うもんか。おれとちぎれ」
「やだ」

 と言いながら、嫌悪感がないことを不思議に思った。

 景司自身は、男子を好きになったこともないし、好きになられたこともないし、そういう世界を考えたこともなかったのだ。

 そうだ、この体は、おれのものじゃない。
 景三郎のものだ。
 この、自分の意識と、体が別のものだという気持ち悪さが確かにある。

 右京を押し退けて、歩こうとした。
 道場で目覚めたばかりの頃よりは、いくらかマシだが、まだふらついた。

「ほら」
 背中を向けて、右京がしゃがんだ。

 連れて行ってもらわないと、家に帰れない。

 あきらめて、その背中におぶさった。



 ここだと、一軒の家の小さな門をくぐって入っていく。

 懐かしいような、でも景司は見たことがない屋敷だった。

「加平次はおるか」
 上りかまちに景司を下ろし、下僕を呼んだ。

 片瀬家は、父の兵衛介と、爺やである下僕の加平次しかいないと聞かされた。

 女手はなく、家のことはすべて加平次がしてきた。
 母親のいない景三郎にとっては、まさに母親代わりだという。

「これはこれは、右京さま」
 髪が真っ白の老人が出てきて頭を下げた。
「景三郎は、道場で頭を打って、時々おかしなことを言うから、休ませてやってくれ」
 と言い置いて、さっさと帰っていった。

 加平次が足だらいを持ってきてくれた。
 景司は裸足のままだった。
「ありがとう」
「若さま、大変でございましたな。おやすみになりますか」
「うん」

 初対面なのに、そんな気がしなかった。

 鏡を見ようと思っていたのだが、屋敷に着いた途端に、安心したのか、強烈な眠気に襲われていた。



 目が覚めたのは、なんと、二日後のことだった。

 起きたら元の世界に戻っていないだろうかという期待は、あえなく破れた。

 景三郎の意識が戻った、ということもない。

 景司はそのまま、江戸時代にとどまっている。

「景三郎、入るぞ」

 障子の外で声がした。

「父、上?」

 緊張で、顔がひきつった。

 景三郎の父親はどんな人なのだろうか。
 そして、変に思われはしないだろうか。

 夜具の上に、きちんと正座した。

 戸が開いて、兵衛介が入ってきた。

 その顔を見て、緊張がみるみる解けた。

「お父さん・・・」
 思わず呟いてしまった。

 景司の父親、将司と同じ顔だったのだ。

「加平次から聞いたが、もう、大事ないか」
「はい。ご心配を・・・」

 涙が頬を伝い落ちた。

 もう今では、気恥ずかしくてとてもできそうもないが、思わず抱きついて泣いてしまった。

 兵衛介は、
「どうした、子供みたいに」
 と優しく背中を撫でてくれている。

 もう大丈夫だと思った。
 この世界で生きていけると確信した瞬間だった。
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