【完結】蟠龍に抱かれて眠れ〜美貌のご落胤に転生?家老に溺愛されてお家騒動に巻き込まれる〜

かじや みの

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2章 かぶき者

11 屍を越えてゆけ

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 景司は、三人の前に出て、両手を広げた。

「ここから先は行かせられない」

「どうした。怖気付いたか」
「おれたちはもう、止まらねえぜ」
「こんな面白えことはないんだからな」
「楽しめ」

「嫌だ! 死なせたくない!」

 泣き声になった。

「泣いてくれるのか」
「人はいつか死ぬんだぞ」
「野垂れ死と、斬り死にと、どっちがいいんだ」
「どっちも嫌だ」
「まだまだだな」
「おれたちよりも、自分の心配をしろ。真っ先に斬られるのはおめえだろうが」
「かぶき者は、売られた喧嘩は買うもんだ」
「ぐずぐずするな」

 肩をぽんぽんと叩いて、三人はためらうことなく進んでいく。

「生死を共にするとは、こういうことだ」
「どうだ。楽しくなって来ただろう」
「ならない!」

 泣きながら後を追った。
 止められないのが辛い。

 なんで泣けてくるんだろう。
 ほんの数日、拷問のように体を重ねただけなのに。
 なんで・・・。

 なぜか憎めなくなっていた。

 林の中に入っていく。

 落ち葉を踏む音が、やけに響く。

 どこからともなく現れた忍びが、三人を取り囲んだ。

 少し遅れた景司の目の前にも、降ってきたように突然姿を現した。
 刀を抜いてくる。

 うわっ! 本物だよ!
 伊賀の忍者屋敷とは、訳が違うのだ。

 恐ろしさに、思わず下がった。

 景三郎、どうしよう。

 景司は深呼吸して、力を抜いた。

 伊織から預かった刀を抜く。

 景司はなめられているのか、相手は一人だけだが、相良たちには五六人いるだろうか。
 斬り合いは始まっている。
 加勢に行きたい。

 忍びは切り込んで来なかった。
 が、前に出て押してくる。

 その圧に逆らうように、刀を振った。

 受け止められる。
 手に、衝撃が伝わった。
 押し返されるが、斬り込んでは来ない。

 よほど舐められているのか、もてあそばれているのか。

 三人に近づかせないようにしているのか。

 体が熱くなった。
 そうはさせない。
 目が据わる。

 そっちがそのつもりなら・・・。

 猛然と斬り込んだ。
 が、さすがに忍びだった。
 身のこなしが素早く、刃が届かない。
 だが、景三郎だって負けていない。
 一年の間、ならず者相手に喧嘩をしてきたのだ。

 早くしなければ。

 不意に忍びに背を向けて駆け出した。
 知らず知らずのうちに、三人から引き離されている。
 走り出した景三郎を、忍びが追いかけてくる。

 すぐに追いつかれる。
 身体能力は、確実に相手が上だ。

 相手との距離を計算しつつ、振り向きざまに刀を横なぎにした。
 みねを返している。

 跳躍しようとしていたところを、峰打ちが決まった。

 すぐにきびすを返して、走る。

 相良の背後に迫った敵が、斬り込もうとしているのが見えた。
 だが、相良は目の前の敵を相手にするので手一杯のようだった。

「相良、後ろ!」

 間に合わない。
 走る勢いに乗って、刀を投げた。

 こんな芸当ができるのも、景三郎の体だからだ。

 だが、投げた途端に体勢を崩し、つんのめった。
 転ぶ。

 転んだのは、体勢が崩れたせいではなかった。
 右の足首に何かが絡まっている。

 強い力で、足が引っ張られた。
「うわっ!」
 逆さ吊りになった。

 太い木の枝に、ぶら下げられた格好だった。

 刀を投げたことがあだとなり、縄を切ることができない。

 忍びの狙いは、三人なのだ。

 もがけばもがくほどぶらぶらと体が揺れ、縄が食い込む。

 そして、目の前で、凶刃に倒されていく三人の姿を見る羽目になった。



 伊織が駆けつけてきた時には、伊賀者の姿は消え、あたりは静けさを取り戻していた。

 縄を切ってもらい、抱き止められる。

 涙でぐちゃぐちゃになった顔を、伊織の胸に埋めた。

「遅くなってしまい、申し訳ありませぬ。私も林の入り口で足止めされました」
 背中を優しく撫でてくれた。

「なぜ、おれを殺さないんだ」
 頭に血がのぼってぼんやりする。
「おそらく、見せしめでしょう。我が殿と、若さまへの」
「・・・おれと、式部が殺したんだ」

 景司は、ふらふらと立ち上がると、三人に近づいた。

 三人とも、切り傷が数ヶ所あり、血まみれだった。
 開いたままの瞼を閉じてやる。
「なあ、相良、高木、夏目、これが、望んだことなのか・・・。これで、満足なのかよ!」

 涙が溢れて止まらない。

 やるせなさが怒りとなって、身体中を駆け巡る。
 そして強烈な後悔の念。
 なんとしても止めるべきだった。
 本気で殺しに来るとは、正直、思っていなかったのだ。

「こんなの・・・こんなのって・・・」

 相良の、血糊のついた刀を拾うと、屋敷に向かった。


 久松は、書状に目を通していた。
「式部」
 景司は、相良の血刀を久松に突きつけた。
「みんな死んだ。これでお前も満足か」

 久松の目が、眩しそうに細められた。
「戦で死ねるならば、本望。死場所を与えられるは、武士の喜び。ましてや、畳では死ねぬ者たち。さぞや満足であったろう」
「黙れ! お前は、こうなることがわかっていて、おれをここから出したんだな」
「あの者たちに殺されるならば、それだけの器量。よくここまで連れて参られた」
「言うな! こんなの、ただの犬死じゃないか」
「ならば、なぜここへ連れて来たのだ。こうなることは覚悟の上でござろう。武士は死に時を心得ているもの。その死に様を見届ける覚悟もできずにここへ来たと言うのか」
「・・・」

 久松が、刺すような気迫と鋭さで景司を見る。
「堂々と胸を張って、その死に様を見届けよ! あの者たちばかりではない。これから何人も死ぬだろう。そのしかばねを越えていく器量がなければ、死んだ者が浮かばれぬ!」
「黙れ! お前も死にたいのか! そんなに死にたければ、ここで腹を切れ! 見届けて使わす!」
 傲慢な口ぶりで言い放った。

 久松の表情が恍惚となる。
「は。ありがたき幸せ」
 と座り直した。
 帯に差している短刀を抜いて、膝の前に置く。
 着物の前をグッと開き、鍛えられて腹筋の割れた腹を見せた。

 よどみなく動く久松を、呆然と眺めていた。
「では」
 短刀を抜いて、切先を腹に向けた。

 刃を突き立てようとした。
「やめろ! やめてくれ!」
 景司が久松の腕にとりついたとき、その切先は、少し腹に埋まっていた。
「嫌だ。・・・もう、見たくない」
 短刀をもぎ取って捨てた。

「誰も、死んでほしくない・・・」
 さっきまでの怒りが消え去り、力無く項垂れた。
 また涙が頬を伝う。

 久松が、愛おしげに抱きしめてくる。
 もう抗う力は残っていなかった。
「おれは卑怯者だ・・・そんな器量なんてない。かぶき者にはなれない・・・見届けるなんて無理だ・・・」

 ここにいたら、おれはダメになる・・・。

 わかっているのに、久松にしがみついた。


<2章 了>
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