【完結】蟠龍に抱かれて眠れ〜美貌のご落胤に転生?家老に溺愛されてお家騒動に巻き込まれる〜

かじや みの

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3章 血染めの髑髏

8 虎穴に入る(右京)

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 旅籠屋に顔を出すと、おあきが慌てて出てきた。
「お話があります。・・・外で」
 小声でそう言うと、右京を押し出した。
 おあきは怒ったような顔をしている。

 近くの春日神社まで歩いた。
 お殿さまが建立した大きな銅の鳥居が目印だ。
 街道の賑やかさも、鳥居の内側までは届かない。

 神様にお参りもせずに、裏手の鎮守の杜の方へ入っていく。
 ここまでくると、人の姿もない。
 おあきは眉根を寄せて、一言も喋らなかった。
「おあき、何かあったのか? まさか・・・」
「そのまさかです」
 堪えきれなくなったのか、顔を覆ってしゃがみ込んだ。
 嗚咽が漏れる。
「どうしてもっと早く来てくださらなかったのですか!」
「景三郎が来たのか」
「・・・」
 おあきは顔を覆ったまま頷いた。

「そうか・・・」
 ときどき詰まりながらも、これまでのことを話してくれた。
 完全にすれ違いになったらしい。
「どこへ行ったか、わからないか」
「わかりません。何も言わずに行ってしまいましたから」
「何かわかったら、また教えてくれ」
 そう言うしかなかったが、おあきが泣き腫らした目で睨んできた。
「片瀬さまはうちの旅籠には、もう二度と来ません! 吉村さまも、もう来ていただかなくて結構ですから」
 二度と、という言葉が胸に突き刺さる。
「ひどすぎます。片瀬さまは何も悪くないのに・・・」
 目の前にいるのが武家でなかったら、叩かれていただろう。
 そんな勢いだ。
 おあきも、ぶつけるところがなくて辛いのだろう。
「うちを助けてくれただけなのに」
 叩いてくれて構わない。
 おれが迷っていたせいで、来るのが遅くなったのだ。
 悪いのはおれだ。
「・・・」
 なんて言葉をかけていいかわからなかった。

 会えたところで、何もできない己に絶望するだけのような気がする。
 かけてやる言葉が見つからない。
 でも・・・。

「おあき、おれはあきらめない。・・・きっと探し出すよ。きっと。見捨てたりしない」
「吉村さま・・・」
「だから、おあきも、泣くな。あきらめるな」
 はっとしたように、涙を拭いたおあきが、頷いた。
「うちも、あきらめません」
「よし」
 おあきは、気を取り直したように、笑顔になると、頭を下げ、戻って行った。



 右京は、城の方へ戻りながら、決意を固める。

 手がかりがまったくないわけではない。
 あの人のところへ行こう。
 戻ってきているはずの、家老、久松式部のところへ。

 久松の屋敷は、吉村と同じく、城の近くに屋敷を賜っている。
 藩主家は、元は久松という苗字だった。
 だから、主家の一族ということだ。

 殿さまが、久松をないがしろにできない理由にもなっている。

 右京は久松に会ったことがない。

 いきなり吉村の部屋住に、会ってくれるかどうかもわからなかったが、他に方法もない。
 ぶつかってやる。
 追い返されるのを覚悟で門を叩いた。


 久松は屋敷にいて、会うという。

 案内された部屋に入り、待っていると、美しく着飾った小姓が茶を運んできた。

「・・・」
 久松は美若衆が好みだという噂があった。
 噂は本当らしい。

 変な想像が頭に浮かんできて、右京を苦しめた。

「くっ・・・」
 拳を握ってこらえる。

 こいつは・・・。

 一生仲良くできないだろうと思った。

「右京どの、お待たせいたした。お会いしたいと思っていた。・・・楽になされよ」

 ゆったりと、堂々たる偉丈夫が現れた。
 右京は、畳に手をつき、顔があげられなかった。

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