【完結】蟠龍に抱かれて眠れ〜美貌のご落胤に転生?家老に溺愛されてお家騒動に巻き込まれる〜

かじや みの

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3章 血染めの髑髏

9 思いの強さ(右京)

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「いかがした。何も恐れることはない。それがしに、何の用でござるかな」

 顔を上げられず、震える右京を、恐れているとみたのか、久松が声をかけた。
「茶ではなく、酒にいたそう」
 手を叩いて小姓を呼び、酒を持ってくるように言いつけた。

「いえ、お構いなく」
 落ち着け、と自分に言い聞かせて息を吐き、顔をあげた。
 左門によく、お前は思っていることがすぐに顔に出るから気をつけろと言われている。
 今も、久松を睨んでいるという自覚はある。

「ほう。なかなかいい面構えだ」
 ニヤリと意味ありげに笑い、目を細めた。
「左門とはまた違うのだな。兄弟でも似ておらぬ」
「よく言われます」

 用意してあったのか、小姓がすぐに酒器を持ってきた。
「さあ、やってくれ」
 小姓が盃を差し出している。
 仕方なく受け取ると、酒が注がれた。
 久松が、飲め、と手振りで促す。
 一気に干した。
「いい飲みっぷりだ。惚れるなよ」
 小姓が赤くなって俯いた。
 また酒が注がれる。
「右京どのは、外へ飲みに出られることはあるのかな?」
「はい。たまには」
「それは良い。左門は堅物だが、そなたとは気が合いそうだな」
 合わねえよ。
 心の中で毒づく。
「それがしも若い頃は、外で憂さを晴らしていた。だが、国へ戻って人里離れた屋敷に、一人で籠る辛さは、若ければ若いほどこたえるもの。右京どのにはわかってもらえると思うが・・・」
 一人って、小姓を侍らせてたんだろうが。
 それで、景三郎も慰みものにしたのかよ。
 辛ければ、戻ってこればいいだけのことだろう。
 久松の言葉に、いちいち文句をつけている。
 もちろん心の中でだ。
「わかりません」
 棘のある言い方になった。
 久松の顔色をうかがったが、怒ったふうではなかった。
 面白そうに見てくる。
 余計に腹が立ってきた。
 鎮めるために、また酒をあおった。
「なぜ、別邸に籠っておられたのですか」
 聞きたいこととは違うが、ここは耐えられるまではじっくりいかなければならない。

「聞いておらぬのか。吉村どのに」
「詳しくは」
「右京どのはいくつになられた」
「二十一です」
「それでは、前の殿をご存知ではないな」
「光徳院さまのことですか」
「殿は、かぶき者でござった。それがどういう意味かおわかりか」
 久松の目が鋭くなった。
「かぶき者は、御法度です」
「吉村どのが、お家を守るために、かぶき者を取り締まるのは道理だ。致し方のないこと。それはわかる。が、それがしもかぶき者を気取り、江戸では水野どのの神祇組と昵懇じっこんにしておった。取り締まりが厳しくなったからと言って、己の生き方がそうそう変えられるものではない」
「・・・」
 久松の口調が次第に熱を帯びてくる。
「初めは謹慎のつもりであったが、次第に意地になってきた。それがしは、殿の最期に立ち会った。殉死は許されなかったが、その無念さを胸に生きて参った。今の殿には何の恨みもござらぬ。それどころか、それがしを気にかけてくださり、登城しないにもかかわらず、寛大なお心でお許しくださる。此度のことも、その御恩に報いるべく、申し出を受け入れた次第」
 申し出とは、取引のことだろう。
 ご落胤である景三郎の命を取らない代わりに、登城せよという。

 久松がさらりと言い、何か問題があるのかという顔をしている。
 流れるような話し振りに、何も言い返せない。

「久松さまのご登城を、殿もお喜びになられるでしょう」
 当たり障りのないことを言った。

 言いたいのは、そんなことじゃない。
 久松の話には、大事なことが抜け落ちている。
 景三郎のことが一言も出てきていない。
 それは右京が話していないから出さないのか、何か意図があってのことか。

 いや、そもそも、おれのことを、久松がどれほど知っているのかわからない。

 右京は、本題に切り込むことにした。

「久松さまは、片瀬の行方をご存知なのでしょうか」
「それは・・・」
 久松がニヤリと笑った。
「そちらの方がご存知なのではないのか。服部どののところの伊賀者が随分と動き回っているが」
「伊賀者?」
「お父上にでも聞かれたらよかろう。それがしは、関われぬ。それも取り決めでござる」
「・・・」
 無駄足か。
「行方を知ってどうする」
 久松の目が、獲物を狙うような、不気味な色を帯びてくる。
「亡き者にしたいのかな?」
「まさか・・・」
「それとも、よりを戻したいか。・・・ちぎった仲なのであろう?」
「・・・」
 やはり知っていた。
「かわいそうに、そのせいで、吉村を敵に回したくないと、かばって、余計な傷を負っていた」
「・・・」
 胸が痛んだ。
「だが、どう足掻こうが、吉村は敵だ。もう元には戻らない。そう覚悟はできているはずだ」
 久松が、引導を渡すように言った。
「終わりだ。そなたたちはどうあっても結ばれぬ。どれほど思い合っていてもだ」
「・・・」
 右京は、久松を睨みつけたまま、動けなかった。

「ご落胤はこの世に生きられぬ。殺すなら、この久松もあの世へ行こう。もはや景三郎はそれがしのもの。離れていても同じだ。誰にも邪魔はさせぬ」
 右京の刺すような視線を受けても、動じていない。
 それどころか、勝ち誇ったように見下ろしてくる。

 右京は拳を握って耐えた。
 屈するな、と己に言い聞かせる。
「いえ。あの世になどと、連れて行かせませぬ」
「殺すのはそっちだろう、吉村右京」
「殺させはしない。守ってみせる」
「やれるものなら、やってみるがいい」
 久松の笑い声が、低く響いた。

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