25個のスイーツのあとで

かじや みの

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11−2 宣戦布告と誕生日ケーキ

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「西園寺っていうから、どこかのご令嬢かと思ったけど、そうでもないようね」

「・・・」

 言葉が発せない美香を嘲笑うかのように、口元に笑みが浮かぶ。

「私は、永瀬優美。華道家よ」

 美香の前に、名刺を差し出した。

「全国のホテルを飛び回って花を活けてるわ」
「・・・」
「ロビーやブライダル、ホテルって意外と需要があるのよ。京一郎とは、仕事中にもよく出会うの。・・・あなた、どういうつもり? 何が目的なの? あなたも京一郎が欲しいんでしょうけど。京一郎の好みってことはないでしょうから、どうせあなたの一方通行なんでしょう? 完全に名前負けね。こんなパッとしないぽっちゃりさん、愛されると思って?」

 優美は言いたいことを言って大きく微笑んだ。

「せいぜいメールを送るしかできないようだから、たいしたことないと思っていたけど、一度見てみたかったのよ。ライバルはちゃんと把握しておきたいじゃない。今のところ強力なのは、マスコミを使って攻勢をかけてきたあの女だけね。完全に財産目当ての強欲な女よ」

 報道された元アイドルのことだろう。

 もう美香との勝負はついたと言わんばかりに肩の力を抜き、息を吐いた。

 ウエイターがドリンクを二人の前に置いていく。
 シュワシュワと泡のたつ、シャンパンだ。

「どうぞ。ここは私の奢りよ。わざわざ呼び立てたのだから。遠慮しなくていいわ。言いたいことがあるならおっしゃって。聞くわ」

 と、勝ち誇ったような優雅な手つきで、グラスを持ち、口をつける。

 張り合うつもりのないない美香は、遠慮なく奢られることにした。
 勝負しに来たわけじゃない。
 ここでお金を払うのが、馬鹿らしいという思いもある。
 恋の鞘当てに付き合うつもりはないのだから。

「あの・・・永瀬さんは、京一郎さんとは、どういう・・・」

 ようやく美香が口を開いた。

 喉ごし爽やかなシャンパンを飲んだら、落ち着いた。

「婚約者よ」
 顎を上げて、優美が言った。
「そのつもりで付き合っているわ」
「そうですか」
 落ち着き払った美香の態度に、優美が形のいい眉をあげる。
 逃げ出すとでも思ったのだろうか。

「今からお二人でお食事ですか」
「ええ、そうよ。あなたの席はないから。おわかりになったら、帰ってもらって結構。もう無駄だから、メールも送らないでくださる?」

 美香は、シャンパンを飲み干した。

「わかりました。帰ります。そういうあなたは、愛されていると思っているのですね。人のメールを勝手に読んで、ガードしなければ得られない愛なんて、薄っぺらだと思いません? 目的? そんなもの、あなたに言う必要があります? 京一郎さんが欲しい? 私は、そんなふうに思ったことは一度もありません。これでも分をわきまえているつもりです。失礼します。私には、関係ありませんので。どうぞ、お幸せに。お二人はお似合いだと思います」

 優美の顔を見る余裕なんてなかった。

 怒り出さなかっただけ、まだ相手も大人だということだ。

 かっとして口をついて出た言葉に、自分でも驚き、居た堪れなくなって立ち上がると、店を出た。

 言いたいことは言えたので、後悔はしていない。
 ただこれ以上は、感情がもちそうになかった。

 苦し紛れの捨て台詞だと思われてかまわない。
 もう、二度と会うことはないのだから。



 ガラス張りの展望フロアまで降りてきた。

 秋分の日を過ぎたあたりから、ぐっと日が短くなって、空が暗く、街の明かりが輝き出している。

 美香は立ち止まって眺め、気持ちを落ち着けようと、深呼吸をなん度もした。

 なんとか泣きもせず、言い返すこともできた。
 るみはきっと、よくやったと褒めてくれる。

 もう、メールするのはやめよう。

 本当に、自分には関係ないのだ。

 西野が、誰と付き合おうが、結婚しようが。

「美香さん?」

 後ろで人の気配がすると思ったら、声をかけられた。

「え?」
 振り返って、声の主を見た。

 見た途端に、涙腺が崩壊してしまう。
「西野さん・・・」
「また会いましたね。ここに来れば、またお会いできるのではないかと思っていたのですが、本当に会えるとは・・・」

「どうして・・・」

 変わらない笑顔を見せる西野が信じられなかった。

「どうしたのです? あなたに涙は似合いませんよ」

 ポケットから取り出したハンカチを差し出した。

 甘い言葉と声が、美香の心に沁みてくる。

 でも、こんなところに突っ立っているわけにはいかない。

「上で、永瀬さんがお待ちですよ。早く行ってあげてください」

 西野が目を見張った。
 おそらく、何があったのか、察しただろう。

 素早く手で涙を拭って背を向けた。
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