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11−3 宣戦布告と誕生日ケーキ
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行きかけて、止まった。
(逃げるの? 美香)
自分の声が聞こえた。
美香の思いは何も伝わっていない。
メールは京一郎に届いていないのだ。
(ちゃんと伝えるべきでは?)
もう、会うこともなくなるのだから。
美香は、振り返って、西野を見た。
京一郎も、その場にとどまって美香を見ている。
かける言葉を探すように、少し、無言の時間が流れた。
「私・・・浅倉京一郎という人が、どんな人なのか知りません。だから、西野さんが、本当のあなただと思おうとしていました。今の今まで。・・・でも、違った。どんな京一郎さんも、京一郎さんなわけで、周りがどうこうするものじゃない。あんな報道がされて、勝手にストレス溜まってるだろうなって思ったり、辛い思いしてるのかなって思ったり、余計なことでした。メールが返ってこなくて、よかったです。永瀬さんに感謝ですね。あの・・・余計なことだとは思いますが、婚約者がいらっしゃるなら、大事にしてあげてください。永瀬さんにも言いましたけど、どうかお幸せに。・・・あれ? 私、何言ってるんだろう・・・」
言いたいのは、そんなことじゃないのに。
「あはは・・」
笑って誤魔化す。
アルコールが入っているせいと、京一郎を目の前にして、いつになくハイになっている。
京一郎も、つられて笑ったが、すぐに呆れ顔で、ため息をついた。
「僕に興味を持ってくれたのかと思ったら、また突き放すのですか」
「ごめんなさい。・・・あの、そんなつもりじゃ」
また、とはどういうことだろう。
美香には心当たりがまったくない。
「怒られるだろうと覚悟していましたが、あなたという人は・・・。訂正したい箇所がいくつかありますので、ゆっくり話しましょうか」
と、さっそく歩き出した。
「ちょっと、永瀬さんが待ってますよ。お料理だって・・・」
予約されているのだから、時間通りに行かないとお店も困るだろう。
京一郎は、ポケットからスマホを取り出すと、歩きながら電話をかけた。
美香は、ついて行っていいものか迷い、立ち止まる。
明日もきっちり仕事だ。
自由な人たちと一緒にはならない。
そっと後退りして、背を向けようとしたが、振り返った京一郎に見つかってしまい、戻ってくる。
「急な用事ができたからと、レストランにも、優美にも断りを入れておいたから」
「でも・・・」
「今夜は逃しませんよ」
「・・・」
腕を取られ、甘いマスクでそう言われて、ときめかない女がいるのだろうか。
この後の予定まで変更してくれたのだ。
エレベーターに乗り込み、もう最後なのだからと自分に言い聞かせた。
最後に本当のことを聞いておこう。
3月に偶然再開した時の、あの部屋と同じ部屋だった。
「うわあ」
はしゃいで夜景を眺める自分は、半年前と、何も変わっていない。
足元がふわふわして、まるで宇宙に浮かんでいるような感じも同じ。
「ルームサービスを頼みましたので、もう少し待ってください。何か飲みますか?」
フロントに電話をかけていた京一郎が、美香に声をかけた。
「さっきシャンパンをご馳走になったので、これ以上は。これ以上飲んだら、長居してしまいそうで」
「泊まっていけばいい」
「え?」
「ここから出勤したらいい」
「なんて、贅沢。一生の思い出にします」
動揺を抑えて、笑いながら言った。
「不思議な人だ。あくまでも僕とは関わりたくないのですね」
「だって、婚約者のいる人と、こうしていることさえ、本来はいけないでしょう? 恋人でもない女の人をやたらと部屋に連れ込んではダメですよ」
今日の美香は、饒舌だった。
「勘違いされちゃいますから」
「勘違いしない人にしか、声をかけませんよ」
「勘違いしない人がいるんですかね」
「いませんか」
「いません」
「ふっ」
言い切った美香がおかしかったのか、笑い出した。
「笑い事じゃありません。永瀬さんに叱られますよ」
「・・・」
京一郎が真顔になって、黙った。
「誰が婚約者だと言ったのです?」
「違うのですか?」
「本当に、あなたという人は、人を疑わないのですね。そこが美香さんのいいところなのでしょう」
チャイムが鳴った。
運ばれてきたのは、ハンバーガーとサラダとスープだ。
「美味しそう~~」
おそらく、ラウンジで出されているものだろう。
「フランス料理より、断然こっちです」
「ワインより、ビールですか」
「はい。もちろん。あ、今は飲みませんけど」
美香がそう言ったのに、冷蔵庫からビールを出して、グラスに注いでくれる。
美香は、ただ座っているだけでよかった。
こんな贅沢、ばちが当たってしまう。
乾杯、とグラスを合わせて、食事が始まった。
「さっきの話ですが、婚約者というのは嘘ですよ。約束をした覚えはありません」
「・・・」
澄ました顔で、京一郎は言った。
(逃げるの? 美香)
自分の声が聞こえた。
美香の思いは何も伝わっていない。
メールは京一郎に届いていないのだ。
(ちゃんと伝えるべきでは?)
もう、会うこともなくなるのだから。
美香は、振り返って、西野を見た。
京一郎も、その場にとどまって美香を見ている。
かける言葉を探すように、少し、無言の時間が流れた。
「私・・・浅倉京一郎という人が、どんな人なのか知りません。だから、西野さんが、本当のあなただと思おうとしていました。今の今まで。・・・でも、違った。どんな京一郎さんも、京一郎さんなわけで、周りがどうこうするものじゃない。あんな報道がされて、勝手にストレス溜まってるだろうなって思ったり、辛い思いしてるのかなって思ったり、余計なことでした。メールが返ってこなくて、よかったです。永瀬さんに感謝ですね。あの・・・余計なことだとは思いますが、婚約者がいらっしゃるなら、大事にしてあげてください。永瀬さんにも言いましたけど、どうかお幸せに。・・・あれ? 私、何言ってるんだろう・・・」
言いたいのは、そんなことじゃないのに。
「あはは・・」
笑って誤魔化す。
アルコールが入っているせいと、京一郎を目の前にして、いつになくハイになっている。
京一郎も、つられて笑ったが、すぐに呆れ顔で、ため息をついた。
「僕に興味を持ってくれたのかと思ったら、また突き放すのですか」
「ごめんなさい。・・・あの、そんなつもりじゃ」
また、とはどういうことだろう。
美香には心当たりがまったくない。
「怒られるだろうと覚悟していましたが、あなたという人は・・・。訂正したい箇所がいくつかありますので、ゆっくり話しましょうか」
と、さっそく歩き出した。
「ちょっと、永瀬さんが待ってますよ。お料理だって・・・」
予約されているのだから、時間通りに行かないとお店も困るだろう。
京一郎は、ポケットからスマホを取り出すと、歩きながら電話をかけた。
美香は、ついて行っていいものか迷い、立ち止まる。
明日もきっちり仕事だ。
自由な人たちと一緒にはならない。
そっと後退りして、背を向けようとしたが、振り返った京一郎に見つかってしまい、戻ってくる。
「急な用事ができたからと、レストランにも、優美にも断りを入れておいたから」
「でも・・・」
「今夜は逃しませんよ」
「・・・」
腕を取られ、甘いマスクでそう言われて、ときめかない女がいるのだろうか。
この後の予定まで変更してくれたのだ。
エレベーターに乗り込み、もう最後なのだからと自分に言い聞かせた。
最後に本当のことを聞いておこう。
3月に偶然再開した時の、あの部屋と同じ部屋だった。
「うわあ」
はしゃいで夜景を眺める自分は、半年前と、何も変わっていない。
足元がふわふわして、まるで宇宙に浮かんでいるような感じも同じ。
「ルームサービスを頼みましたので、もう少し待ってください。何か飲みますか?」
フロントに電話をかけていた京一郎が、美香に声をかけた。
「さっきシャンパンをご馳走になったので、これ以上は。これ以上飲んだら、長居してしまいそうで」
「泊まっていけばいい」
「え?」
「ここから出勤したらいい」
「なんて、贅沢。一生の思い出にします」
動揺を抑えて、笑いながら言った。
「不思議な人だ。あくまでも僕とは関わりたくないのですね」
「だって、婚約者のいる人と、こうしていることさえ、本来はいけないでしょう? 恋人でもない女の人をやたらと部屋に連れ込んではダメですよ」
今日の美香は、饒舌だった。
「勘違いされちゃいますから」
「勘違いしない人にしか、声をかけませんよ」
「勘違いしない人がいるんですかね」
「いませんか」
「いません」
「ふっ」
言い切った美香がおかしかったのか、笑い出した。
「笑い事じゃありません。永瀬さんに叱られますよ」
「・・・」
京一郎が真顔になって、黙った。
「誰が婚約者だと言ったのです?」
「違うのですか?」
「本当に、あなたという人は、人を疑わないのですね。そこが美香さんのいいところなのでしょう」
チャイムが鳴った。
運ばれてきたのは、ハンバーガーとサラダとスープだ。
「美味しそう~~」
おそらく、ラウンジで出されているものだろう。
「フランス料理より、断然こっちです」
「ワインより、ビールですか」
「はい。もちろん。あ、今は飲みませんけど」
美香がそう言ったのに、冷蔵庫からビールを出して、グラスに注いでくれる。
美香は、ただ座っているだけでよかった。
こんな贅沢、ばちが当たってしまう。
乾杯、とグラスを合わせて、食事が始まった。
「さっきの話ですが、婚約者というのは嘘ですよ。約束をした覚えはありません」
「・・・」
澄ました顔で、京一郎は言った。
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