25個のスイーツのあとで

かじや みの

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11−3 宣戦布告と誕生日ケーキ

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 行きかけて、止まった。

(逃げるの? 美香)

 自分の声が聞こえた。

 美香の思いは何も伝わっていない。

 メールは京一郎に届いていないのだ。

(ちゃんと伝えるべきでは?)

 もう、会うこともなくなるのだから。

 美香は、振り返って、西野を見た。

 京一郎も、その場にとどまって美香を見ている。
 かける言葉を探すように、少し、無言の時間が流れた。

「私・・・浅倉京一郎という人が、どんな人なのか知りません。だから、西野さんが、本当のあなただと思おうとしていました。今の今まで。・・・でも、違った。どんな京一郎さんも、京一郎さんなわけで、周りがどうこうするものじゃない。あんな報道がされて、勝手にストレス溜まってるだろうなって思ったり、辛い思いしてるのかなって思ったり、余計なことでした。メールが返ってこなくて、よかったです。永瀬さんに感謝ですね。あの・・・余計なことだとは思いますが、婚約者がいらっしゃるなら、大事にしてあげてください。永瀬さんにも言いましたけど、どうかお幸せに。・・・あれ? 私、何言ってるんだろう・・・」
 言いたいのは、そんなことじゃないのに。
「あはは・・」
 笑って誤魔化す。
 アルコールが入っているせいと、京一郎を目の前にして、いつになくハイになっている。

 京一郎も、つられて笑ったが、すぐに呆れ顔で、ため息をついた。
「僕に興味を持ってくれたのかと思ったら、また突き放すのですか」
「ごめんなさい。・・・あの、そんなつもりじゃ」
 また、とはどういうことだろう。
 美香には心当たりがまったくない。

「怒られるだろうと覚悟していましたが、あなたという人は・・・。訂正したい箇所がいくつかありますので、ゆっくり話しましょうか」
 と、さっそく歩き出した。

「ちょっと、永瀬さんが待ってますよ。お料理だって・・・」
 予約されているのだから、時間通りに行かないとお店も困るだろう。

 京一郎は、ポケットからスマホを取り出すと、歩きながら電話をかけた。

 美香は、ついて行っていいものか迷い、立ち止まる。
 明日もきっちり仕事だ。
 自由な人たちと一緒にはならない。

 そっと後退りして、背を向けようとしたが、振り返った京一郎に見つかってしまい、戻ってくる。

「急な用事ができたからと、レストランにも、優美にも断りを入れておいたから」
「でも・・・」
「今夜は逃しませんよ」
「・・・」

 腕を取られ、甘いマスクでそう言われて、ときめかない女がいるのだろうか。
 この後の予定まで変更してくれたのだ。

 エレベーターに乗り込み、もう最後なのだからと自分に言い聞かせた。

 最後に本当のことを聞いておこう。


 3月に偶然再開した時の、あの部屋と同じ部屋だった。

「うわあ」

 はしゃいで夜景を眺める自分は、半年前と、何も変わっていない。

 足元がふわふわして、まるで宇宙に浮かんでいるような感じも同じ。

「ルームサービスを頼みましたので、もう少し待ってください。何か飲みますか?」

 フロントに電話をかけていた京一郎が、美香に声をかけた。

「さっきシャンパンをご馳走になったので、これ以上は。これ以上飲んだら、長居してしまいそうで」
「泊まっていけばいい」
「え?」
「ここから出勤したらいい」
「なんて、贅沢。一生の思い出にします」
 動揺を抑えて、笑いながら言った。

「不思議な人だ。あくまでも僕とは関わりたくないのですね」
「だって、婚約者のいる人と、こうしていることさえ、本来はいけないでしょう? 恋人でもない女の人をやたらと部屋に連れ込んではダメですよ」

 今日の美香は、饒舌だった。

「勘違いされちゃいますから」
「勘違いしない人にしか、声をかけませんよ」
「勘違いしない人がいるんですかね」
「いませんか」
「いません」
「ふっ」
 言い切った美香がおかしかったのか、笑い出した。

「笑い事じゃありません。永瀬さんに叱られますよ」
「・・・」
 京一郎が真顔になって、黙った。

「誰が婚約者だと言ったのです?」
「違うのですか?」
「本当に、あなたという人は、人を疑わないのですね。そこが美香さんのいいところなのでしょう」

 チャイムが鳴った。
 運ばれてきたのは、ハンバーガーとサラダとスープだ。

「美味しそう~~」

 おそらく、ラウンジで出されているものだろう。

「フランス料理より、断然こっちです」
「ワインより、ビールですか」
「はい。もちろん。あ、今は飲みませんけど」

 美香がそう言ったのに、冷蔵庫からビールを出して、グラスに注いでくれる。
 美香は、ただ座っているだけでよかった。

 こんな贅沢、ばちが当たってしまう。

 乾杯、とグラスを合わせて、食事が始まった。

「さっきの話ですが、婚約者というのは嘘ですよ。約束をした覚えはありません」
「・・・」

 澄ました顔で、京一郎は言った。

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